過労死の根絶を!~労働組合の役割~ その2

2018年11月15日

働き方の改善が「一次予防」のカギ
まず、労働組合のある職場から過労死ゼロの実現を

過労死ゼロへ、職場では何に取り組むべきなのか。労働時間の長さや働き方が、働く人の心身の健康や企業経営に及ぼす影響について、多様な労働者・企業データを用いて分析を行った慶應義塾大学の山本勲教授は「長時間労働、特に不払い残業(サービス残業)の増加が健康悪化の要因になっている。労働組合は率先して働き方の改善に取り組んでほしい」と投げかける。

ー問題提起 長時間労働の影響と労働組合の役割ー

 

山本 勲 (やまもと・いさむ)
慶應義塾大学商学部教授
慶應義塾大学商学部卒業。同大学院商学研究科修士課程、ブラウン大学経済学部大学院博士課程修了。専門は、応用ミクロ経済学、労働経済学。著書に『労働時間の経済分析−超高齢社会の働き方を展望する』(共著、日本経済新聞出版社、第57回日経・経済図書文化賞受賞)、『労働経済学で考える人工知能と雇用』(三菱経済研究所)など。

サービス残業増加がメンタルヘルスの悪化要因に

長時間労働や働き方が、労働者の心身の健康、そして企業の収益率にどんな影響を与えているのか分析したところ、メンタルヘルスの悪化には、長時間労働、特にサービス残業の増加が大きく影響していることがわかった。働き方では、「突発的な業務が生じることが頻繁にある」ことや、「まわりの人が残っていると退社しにくい」という職場風土が悪化要因になっている。さらに、メンタルヘルス不調者が増加している職場では、まわりの人も不調を感じるという回答が増える。休職者が出ると、残された労働者の仕事量が増え不調になる、あるいは職場に共通した何らかの問題が生じている可能性がある。

企業データ分析では、直接的な対策より、フレックスタイムなどのワーク・ライフ・バランス施策を導入している企業のほうが、休職者比率が低かった。ワーク・ライフ・バランス推進組織を設置した企業では生産性の向上がみられる一方、メンタルヘルス休職者が増えている企業は、利益率が顕著に低下していた。

労働時間規制の適用除外による労働時間の増減も検証した。管理監督者、裁量労働者と一般の労働者を比較すると、リーマンショック後の不況期に適用除外者の労働時間が急増していることがわかった。不況期にはどうしても労働者の交渉力が弱くなる。高度プロフェッショナル制度が導入されたが、その適用範囲の拡大は慎重に考えるべきだ。

職場で働き方の改善を進めれば、労働者の心身の健康が確保され、過労死の一次予防となり、企業業績向上にもつながる可能性がおおいにある。

労働組合として恥ずべき状況では

過労死防止対策を進める上で、職場の労働組合は非常に重要な役割を担っている。問題が起きた時、個人の要因だけでなく、職場に共通する要因を洗い出し、それを企業とともに改善していくことこそ、労働組合の役割であり、責任だ。

そして、労働組合の最も重要な役割は、労働者を守ること。だとすれば、これほど長く過労死がなくならない状況は、恥ずべきことだ。その責任を重く受け止め、「過労死を許さない」という姿勢を強く打ち出してほしい。そして「組合にさえ入っていれば過労死はない」という状況をつくることができれば、労働組合の存在意義も高まるはずだ。

もう一つ過労死が起きる職場風土の根底には、過当競争、お客様第一の発想がある。この解決には、経済学的には、不当に価格を安くしないことが最も重要だが、過当競争に走る企業経営に「ノー」と言えるのは、やはり労働組合。労働に適正な価値をつけ、社会全体で過当競争を許さないという取り組みを進めてほしい。

 

ー労働組合の取り組みー

過労死ゼロへ、労働組合は今、どんな問題意識を持ち、どんな取り組みを進めているのか。自動車総連、UAゼンセンの取り組みを紹介する。

自動車総連:「START12」運動で労働時間を個別に把握

 

 

 

中川義明
自動車総連副事務局長
過労死等防止対策推進協議会委員

  自動車総連には、12労連・1100組合が加盟し、組合員数は約78万人。メーカー、車体・部品、販売、輸送、一般の職場があり、多種多様な働き方が存在することから、12労連の枠を超えた業種別部会を設置して働き方の課題についても取り組んでいる。
総労働時間は、近年高止まり傾向にあり、平均2100時間超。車体・部品や輸送部門で時間外労働が多く、特にドライバーの長時間労働は大きな課題だ。また、販売部門では有休取得率が低く、年間平均5日程度。職種も企業規模も異なるため、一律に取り組みを進めることは難しいが、それぞれの職場の実態にしっかり目を向けながら、現在、3つの活動を進めている。

1つめは、総労働時間短縮に向けた12労連による「START12」運動。組合員の時間外労働時間、年休取得実績を個別に把握し、それをもとに単組の目標を設定し、労働時間をテーマとした労使協議を定期的に開催して改善を進めている。

2つめは、36協定については、法定の限度時間である「月45時間・年360時間」を下回る水準で締結し、特別延長時間については、上限を「年間720時間」「単月80時間」に設定し、研究開発職も適用除外としない。ドライバーも、2023年までに、確実に「年間960時間以下」への引き下げをめざす。

3つめが、勤務間の休息時間の確保に向けた取り組み(勤務間インターバル制度の導入)。導入した組合から、効果が出ているとの報告が寄せられており、これはしっかりと進めていきたい。

UAゼンセン:「労働時間の上限規制等」の基準を設定

 

 

 

松井 健
UAゼンセン政策・労働条件局長

  UAゼンセンは、2017年9月時点で、加盟組合数2428、組合員数は170万人、うち短時間組合員が99万人。製造産業部門、流通部門、総合サービス部門がある。私は、労働安全衛生を担当している。加盟組合でも過労死事案が発生している。
年間総実労働時間は、製造産業部門が1900時間半ば、流通、総合サービス部門は2000時間台後半で推移している。ハラスメントに関する組合員調査では、「勤務先で見聞きした」が3割弱、顧客からの迷惑行為については7割が「経験あり」と回答した。これを受けて、現在、悪質クレーム防止への取り組みも進めている。

労働時間短縮については、年間1800時間をめざして取り組んできたが、その目標だけでは過労死等の問題には対応できない。そこで、「健康確保のための労働時間の上限規制等の基準」を設定した。時間外労働は1日3時間、1カ月45時間、1年360時間とし、やむをえず特別条項を結ぶ場合も1カ月80時間未満、週1日の休日は必ず確保し、24時間につき11時間の休息というインターバル制度の考え方を入れた。深夜労働については交替制が原則だが、深夜専業で働く組合員も相当数いる。専業の場合でも、3日勤務したら最低1日は休むという基準を設定した。
勤務間インターバル規制導入については、春の労働条件改善闘争において同業種でまとまって交渉を行い、成果をあげている。

ー連合のスタンスー

過労死ゼロへ 労働組合の果たすべき役割は大きい

 

 

 

村上陽子
連合総合労働局長

  過労死が大きな社会問題となってから久しいものの、認定されているだけでも年間200件前後、つまり約2日に1人が働き過ぎなどで命を失っている。これは、職場が変わっていないということではないか。連合として、まず、そのことを重く受け止めなければならない。今年7月に閣議決定された改正「過労死等の防止のための対策に関する大綱」では「国以外の主体が取り組む重点対策」の中の「労働組合等」の項目についても内容の充実がはかられた。労働時間管理とともに、36協定の適正化やハラスメント防止対策など、過労死等の防止に向けて、職場の労働組合が果たすべき役割は大きい。

新大綱には、数値目標が掲げられているが、それぞれの職場では、単に数字にとらわれることなく、実態を把握し、仕事の進め方の改善などに取り組んでほしい。それが結果につながるはずだ。また、労働組合のない職場で働く人たちに対する法制度の周知も不可欠だ。
11月の過労死等防止啓発月間に向けては、連合としてフォトメッセージの取り組み、チラシなどの器材の作成・配布を行っている。こうした取り組みが職場の意識を変える一つのきっかけにもなる。ぜひいろいろな場面で活用してほしい。

JR連合からのフォトメッセージ

連合高知女性委員会からのフォトメッセージ

Action!36キャンペーン

政府の「働き方改革」では、長時間労働の是正が大きなテーマになり、罰則付き時間外労働上限規制、有給休暇の取得義務化、勤務間インターバル制度の導入推進が実現した。これらは過労死ゼロに向けても重要な対策であり、職場でしっかり進めていかなければならない。一方で、過労死の温床になる新たな労働時間規制の適用除外制度(高度プロフェッショナル制度)については、しっかり歯止めをかけていく必要がある。

連合では、長時間労働是正の具体的取り組みとして、今秋から「Action!36」キャンペーンをスタートさせた。現状では、36協定を締結していない企業が半数近くあるが、そこで残業が一切ないとは思えない。労働基準法36条、そして今回の罰則付き上限規制が導入された目的は、まさに労働者の心身の健康を守り、家族にとっても社会にとっても大きな損失である過労死をなくすということだ。過重労働、長時間労働に依存した企業文化・風土を抜本的に改革し、取引条件の改善、労働時間の把握、健康を第一に考える社会的価値観を創造する。キャンペーンを通じて、そのことを強く発信していきたい。

※この記事は連合が企画・編集する「月刊連合11月号」の記事をWEB用に再編集したものです。