「働き方改革」 今どんなギロン[議論]が!?第2回

2018年5月28日

2017年3月、「働き方改革実現会議」は約半年間の議論を経て「働き方改革実行計画」をとりまとめた。実現会議には、労働界からは唯一神津会長が参加し、長時間労働の是正や非正規雇用労働者の処遇改善を強く訴え、時間外労働の上限規制、同一労働同一賃金の法整備などが盛り込まれた。

実行計画は現在、二つのステージで具体化が進められている。一つは「働き方改革関連法案」における法整備。今国会で審議が行われている。もう一つは、産業・職種など、働き方で異なる課題をどのように解決するのか、テーマごとに議論を深めようという検討会議だ。

実行計画で取り上げられたテーマは9項目にわたる。今回は、前編に引き続き「長時間労働の是正」に焦点を当て、今、どんな課題についてどんな議論が行われているのか、後編をお伝えする。

●どんな環境整備が必要か

 

<勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会>

一人ひとりが生き生きと働くために

勤務間インターバル制度とは、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間以上の休息の確保を求める制度。労使合意を受け、「働き方改革実行計画」には、労働時間等設定改善法を改正して事業主へ努力義務を課すこと、および普及促進のための「検討会」設置が盛り込まれた。検討会では、何を論点にどういう議論が行われているのか。参画している情報労連の柴田謙司書記長に聞いた。

 

柴田謙司 情報労連書記長

 

導入企業はわずか2.2%

─検討会のテーマ、論点は?

テーマは、まさに「制度の普及促進」。先進的に制度を導入している企業の労使を含む有識者がメンバーとなっている。

まず、現状では厚生労働省の調査(※)によると、勤務間インターバル制度を導入している企業はわずか2.2%。「今後導入の意向がある」0.4%、「導入の是非は検討する」8.2%。おそらく交代制勤務などで導入の必要がない職場もあるのだろうが、それにしても低い実態にある。そこで、制度の周知・普及に向けて知恵を出し合っていこうというところからスタートした。

これまで4回の会合で、導入企業・労働組合の事例報告、E‌Uの制度や睡眠時間と生産性の関係などについての説明を受け、意見交換を行ってきた。今後は、労使が検討すべき課題を洗い出し、具体的な普及促進策をとりまとめていく予定だ。ちなみに「働き方改革関連法案」の労働時間等設定改善法改正に関する部分は、労働政策審議会で議論がなされた。

 

休息時間の確保というアプローチ

─議論に臨む課題意識とは?

「働き方改革」においては、長時間労働の是正という大きな方向性の中で、時間外労働の上限規制を法に規定するとともに、よりダイレクトに健康確保をはかる観点から勤務間インターバル制度が盛り込まれた。

この制度を導入するには、前提として従業員の労働時間管理が不可欠だ。今回、努力義務規定となることで、事業主が「労働時間管理」の重要性を認識し、従業員の健康確保に取り組む動機づけにつなげたい。

これまで長時間労働是正については、いかに労働時間を削減するかというアプローチが中心だったが、勤務間インターバル制度は、その発想を転換し、「休息・睡眠時間の確保」という観点から改善を進めようという画期的なアプローチ。導入に向けた取り組みを通して、職場のさまざまな課題に気づくきっかけにもなる。

 

組合員の健康を守る対策

─労働組合の役割は?

制度の導入のきっかけは、労働組合からの要求・提案が多い。情報労連では2009年に方針化し、連合でも2013年に方針化した。2018闘争では、293組合が要求し、104組合が回答を得ている。いずれも、これまでの長時間労働是正に向けた労使の取り組みがあり、その積み重ねの上に新たな制度導入が提案されている。

まだ制度を導入していない職場では、法改正で「努力義務」となるこの機会に、「休息時間の確保」という観点から職場を点検し、導入を検討すべきだ。すでに導入した企業では、制度の運用状況や労働時間管理についてチェックし、インターバルを確保できなかったケースを集めて分析し、今後の運用改善に生かしていく取り組みを進めることが重要だ。

時間外労働の上限規制ができれば、それに対応して36協定を見直す必要が出てくる。その時に「繁忙期であっても組合員の健康を守る対策が必要」という観点から勤務間インターバル制度の導入を提起すれば、中小企業の職場でも普及させていくことができるはずだ。

 

 

<職場のパワーバランス防止対策についての検討会>

今こそ、実効性ある防止強化策を

昨年5月に設置された「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」は、10回の会合を経て、3月30日に「報告書」をとりまとめた。防止対策強化のポイントとして連合が求めてきた「事業主に対する措置義務」は優先事項として明記されず、結論は先送りされる形になった。どういう議論があったのか。委員を務めた浜田紀子U‌Aゼンセン日本介護クラフトユニオン特任中央執行委員に聞いた。

 

浜田紀子 UAゼンセン 日本介護クラフトユニオン 特任中央執行委員

 

増え続ける相談

─検討会のテーマ、論点は?

パワハラ防止対策については、2012年に「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」で定義や類型が整理され、提言が示された。それに基づいて一定の対策が講じられている企業もあるが、この間、パワハラに関する労働相談は減るどころか、年々増え続けている。過労死・過労自殺(自死)の背景にパワハラがあると認定される事案もある。

ハラスメントと呼ばれる「いじめ・嫌がらせ」は、相手の尊厳や人格を傷つける許されない行為であり、職場環境を悪化させ、心身の健康や命に関わる深刻な問題だ。企業経営にとっても、職場全体の生産性や意欲の低下、企業イメージの悪化を招き、大きな損失につながる。検討会では、この認識を共有し、①職場のパワハラの定義、②実効性のある職場のパワハラ防止対策を主な論点に議論を行った。

 

まず予防対策の強化を

─課題認識と議論のポイントは?

パワハラは、その影響の深刻さを考えれば、まず実効性のある防止対策の強化が必要だという認識をもって議論に臨んだ。具体的には、均等法のセクハラの防止措置義務を参考に、新たに事業主に職場のパワハラ防止措置を義務付け、措置に関する指針を策定していくことを求めた。

報告書には、防止対策として、①行為者の刑事責任・民事責任(刑事罰・不法行為)、②事業主に対する損害賠償請求の根拠の規定(民事効)、③事業主に対する措置義務、④事業主による一定の対応措置をガイドラインで明示、⑤社会機運の醸成の5項目が挙げられた。検討会では、労働側委員に加え他の有識者委員の多くが、すべてのハラスメントに対応できる基本法の制定を求めつつ、まずは措置義務を中心に法制化すべきだと主張した。しかし、使用者側委員は、業務上の指導との線引きが難しい、措置義務は中小企業の負担が大きいと主張した。中小企業における自主的な対策が遅れているからこそ、法律で義務化した上で具体的な支援策を講じるべきだが、結論は先送りされてしまった。

また、一部の消費者や取引先等からの悪質なクレームや著しい迷惑行為で強いストレスを受けるケースが出ていることから、パワハラの範囲を拡大して対応することも求めたが、事業主として防止の取り組みに一定の限界があるとし、さらなる実態把握を行った上で別の場で議論を深める必要があるとの結論に達した。

この報告書を受けて議論の場は労働政策審議会に移り、さらに検討が進められることになっている。

 

職場のイライラ解消を

─労働組合の役割は?

措置義務は先送りされたが、職場でできることはたくさんある。例えば、職場の実態調査を行い、就業規則にパワハラ禁止を規定し、管理職研修を行い、相談窓口をつくり、トップ宣言を発していく。労働組合としても、パワハラは深刻な問題という危機感をもってそうした対策に積極的に関わりたい。また、すでに対策が取られている場合でも、それらがきちんと周知され機能しているか、チェックすることが必要だ。

もう一つ、今回、「働き方改革」における長時間労働是正のための一つのアプローチとして職場のパワハラ防止が取り上げられた。過労や過度なプレッシャーからくるストレスやイライラ、コミュニケーション不足は、パワハラの温床になるからだ。まさにそうした課題に目を向け、働きやすい職場づくりという観点から改善を積み重ねていくことは、労働組合の基本的な役割である。有効なパワハラ防止対策にもなるはずだ。

 

<連合のスタンス>

現場の課題を解きほぐし 解決の糸口を探っていく

「働き方改革」における長時間労働の是正については、検討会などを中心に実態を踏まえた広く深い議論が行われていることがわかった。連合は、こうした検討会の役割をどう考え、参画しているのか。内田厚連合副事務局長に聞いた。

 

内田 厚 連合副事務局長

 

─「働き方改革」に関する検討会の位置づけとは?

4月6日、政府は「働き方改革関連法案」を閣議決定し、国会に提出した。労働法の規制を強化することは労働者が安心し健やかに働くために不可欠であるが、「働き方改革」は法律を整備したから完結というものではない。法改正とともに、現場労使の取り組みをどのように進め、いかに構造的な課題を解決していくかという視点も欠かせない。

とりわけ長時間労働の問題は、人手不足の現状のなか、マネジメントや取引関係・産業構造の問題など、さまざまな要因が複合的に絡み合って引き起こされている。企業の枠組を超えた課題については、例えばトラック中央協議会のように荷主も参画する場で、解決の糸口を探るべく議論を深めていくことが求められる。こうした観点から分野ごとの検討会が開催され、連合からは現場を熟知したメンバーが委員として参画し、議論が進められている。法改正の議論を行う審議会が縦糸だとしたら、検討会はいわば横糸のイメージだ。

 

─検討会の動向はあまり知られていないが…。

せっかくの議論がより多くの人に伝わるように、労働組合としてもこうした検討会で最前線の議論が行われていることを共有・周知することが必要だと考える。

私たちは労働者であると同時に、さまざまなサービスを利用する消費者・生活者という一面も持っている。サービスを提供してくれる人も自分と同じ労働者であるという視点を忘れてはいけない。すべての働く人が安定した労働条件で働くことができなければ、結果的に自分のくらしにも影響してくるのだという意識をもつことが重要だ。

連合としても、さまざまな情報発信を通じて、社会全体に対する意識の醸成をはかっていきたい。

 

─今後どう取り組んでいく?

どのような職種・業種であれ、そして勤め先が大企業や中小企業であれ、長時間労働の是正が必要だ。長時間労働是正に向けた具体的な課題や改善点など、現場の生の声を届けられるのは現場を知る労働組合に他ならない。

連合は、労働組合のない職場で働く人も含め、真に「働く者のための働き方改革」を実現するよう、検討会に参画する委員とも連携しながら取り組みを進めていく。

※こちらの記事は、連合が企画・編集する「月刊連合5月号」の記事WEB用に再編集したものです。