連合寄付講座全国で開講中!法政大学編

2018年2月19日

若い世代に労働組合や連合の役割を直接伝えたいと、2005年にスタートした連合寄付講座。年々、開設校が広がり、現在は全国19大学で展開中。担当教員は、労働組合による寄付講座に何を期待しているのか、受講生はどう受け止めているのか。


職場はサバイバルの場ではない キーワードは「仲間」や「連帯」

法政大学では、キャリアデザイン学部において、連合寄付講座「働くということと労働組合」を開講している。担当の梅崎修教授は「組合リーダーによる講義は、教育実践として先駆的な取り組み。経営とは別の視点からの、生きた職場経験を伝える労働教育になる」と期待を寄せる。

働く立場からの情報を

─連合寄付講座開設のきっかけは?

10年ほど前に、教育文化協会が若い人向けの労働教育事業として「連合寄付講座」を始めたと聞きました。私は「キャリアデザイン学部」で教えていますが、学生のキャリア教育ということでは、圧倒的に企業のほうが熱心で、学生が経営サイドの話を聞く機会はものすごく多い。それはそれで必要ですが、一つの方向からの情報だけでは、やはり視点が一面的になってしまう。働く人の立場からの情報も学生に届けたいと考えていたので、連合寄付講座の話を聞いて、すごくいいと思ったんです。経営とは別の視点からの、生きた職場経験を伝える貴重な労働教育の機会になると。そして、2013年にようやく開講することができました。

仲間と力を合わせて

─寄付講座を通して学生たちに伝えたいことは?

「キャリア教育」とは、本当は多様なものですが、現状では、企業に求められる能力を身に付けるよう自助努力を促すものがメインになっている。根底にあるのは、厳しい競争社会でいかに生き残るかというサバイバルの発想です。確かに将来不安が広がる今の日本では、そう考えたくなるかもしれない。でも、そんな価値観に縛られて生きるのは、人として不幸です。学生には、「自分さえ良ければ」ではなく、現状を分析し問題を解決する力を身に付け、「誰もが働きやすい職場」にするにはどうすればいいのかと考えられる人になってほしい。

職場とは、けっしてサバイバルの場ではありません。働く人たちが、つながりあって何かを生み出している場です。私は、学生に「職場」をイメージしてもらうキーワードとして、「仲間」という言葉を使っています。「連帯」と言ってもよいのですが、学生にはちょっとイメージしにくいですね。仲間と力を合わせて職場を変え、世の中を変えていくというキャリアパスもあり得ることを伝えたい。それがキャリア教育の根本なのですが、まさに労働組合の活動は、仲間と力を合わせて職場や社会を変えていこうという実践です。組合活動を知ることで、学生たちが、職場や働くということをポジティブにイメージできるようになればと思っています。

「知っているけど遠い存在」

─プログラムで工夫していることは?

連合寄付講座は、学部横断授業にしています。実は今、多くの大学で労働組合や労使関係を学べる科目が減っていて、人的資源管理、労働経済学、労働法などの講義の中で部分的に触れられるだけ。だから、労働組合についてほとんど知識がないか、ステレオタイプ的なイメージしかない学生が多い。「言葉だけは知っているけど遠い存在」なんです。ただ一方で、アルバイトや就活でトラブルを経験したり、「ブラック企業」への不安から、労働問題に関心を持ったりする学生は増えている。連合寄付講座を通して、その距離を縮められればとプログラムを工夫してきました。

労働組合のみなさんが、学生に伝えたいことは、私にはよくわかります。ただ、伝え方を考えないと、今の学生たちには伝わらない。労働組合を身近な存在だと感じてもらうには、やはり「人」がカギになる。そこで、毎回、講師の自己紹介の時間をしっかり取り、「なぜ、労働組合のリーダーになったのか」を個人的な人生史を含めて語ってもらうようお願いしています。

もちろん制度や法律の知識も身に付けてほしいのですが、それよりも、この講座では、職場で日々組合活動をしているのは、どういう人なのかを身近に感じてほしい。組合リーダーって、大変だし苦労が多いけど、一方でほかの仕事にはない充実感もある。だから、その人となりも含めて職場での組合経験が伝われば、学生たちも、「仲間」がいる職場と、そこでの労働組合の機能がぴったり重なり合ってイメージできると思うんです。 質問の時間もできるだけ確保しています。組合リーダーと学生の間には、共通言語になっていない言葉もあるので、ところどころ私が翻訳しています。時には専門的な話になることもあって、おそらく学生にはよくわからない。でも、「労働組合ってすごく細かいことを突っ込んでやっている」ということが伝われば、それでもいい。深く学ぶことのきっかけになります。組合リーダーが積み重ねてきた経験や思いが言葉になってあふれ出てくる。重みのあるその言葉にこそ、学生たちに伝わるものがあるからです。

労働文化の発信を

─これからの課題や連合に期待することは?

講座に携わる中で、あらためて思ったのは、労働組合は、組合員に対してだけでなく、その外側にいる人たちにも自らの活動を語ることを疎かにしてはいけないということです。組合リーダーを支えているのは、損得ではなく、人の役に立ちたいというある種の公共精神。みなさん謙虚なので、自分からあまり多くを語ろうとしない人が多い。でも、自分自身の言葉で日々の活動を語れば、ふだん接点のない学生たちが目を輝かせて聞いてくれる。

普通の人たちが、それぞれの力を出し合って職場を良くしていくプロセスが組合活動の基本です。労働組合には、そういう労働文化というべきものを、もっと発信していくことが求められている。例えば、ドラマ『陸王』(TBS)は、労働組合の話ではありませんが、そこで描かれる、ものづくりへのこだわりや働くことの意味は、まさに労働組合が大事にしてきたものですよね。私は、労働組合の活動家やオルガナイザーのオーラル・ヒストリーを記録していますが、労働運動はたくさんの「物語」を持っている。もっとそれを発信してほしい。小説や映画に仕立ててもいいですよね。働くことについて、ネガティブな情報ばかりが氾濫する世の中で、それは若い人たちを勇気づけるポジティブな情報になるはずです。

組合リーダーのみなさんには、若者たちに語り掛けて得たものを、これからの運動に生かしてくれることを期待しています。

 

梅崎 修(うめざき・おさむ)
法政大学 キャリアデザイン学部教授

大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。経済学博士。専攻は、労働経済学、人事労務管理論。
著書に『仕事マンガ!―52作品から学ぶキャリアデザイン』(ナカニシヤ出版)、『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』(共著、慶應義塾大学出版会)など。山岸章初代連合会長をはじめ、労働組合リーダーのオーラル・ヒストリーも多数作成。

 

■連合寄付講座とは
これから社会に出る若い世代に向けた労働教育事業として開設。労働組合の役割や労働運動の意義について発信するとともに、働く上での課題を理解し、その課題解決力を養うことを目的にプログラムを編成し、大学の正規の授業として実施している。
現在の開講状況は地図参照(運営は教育文化協会もしくは各地方連合会)。

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合2018年1・2月合併号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」についてはこちらをご覧ください。

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