ストレスチェック制度元年 導入の経緯と今後の課題を解説

2016年10月20日

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メンタルヘルス不調を未然に防ぎ職場環境改善へ

2014年に成立した改正労働安全衛生法には、1)化学物質管理のあり方の見直し、2)ストレスチェック制度の創設、3)受動喫煙防止対策の推進、4)重大な労働災害を繰り返す企業に対する特別安全衛生改善計画制度の導入などが盛り込まれた。このうち、メンタルヘルス対策の前進が期待される「ストレスチェック制度」は、2015年12月1日に施行され、1年以内に1回目の検査を実施することとされている。つまり期限は今年11月30日。ところが、9月時点でまだ実施できていない事業所も少なくないという。

期限内の実施に向けて、あらためてストレスチェック制度とは何か、それを職場でどう活かせばいいのか、制度創設の背景と意義、制度運用の課題を探った。

 

ストレスチェック制度導入の経緯とその背景

改正労働安全衛生法で創設された「ストレスチェック制度」とは、労働者が自分のストレスの状態を知り、自ら対処するためだけのものではない。ストレスが高いと判断された場合は、医師の面接指導を受け、就業上の措置を講じるとともに、一定数以上の集団をその集団ごとに集計・分析して職場全体の環境改善につなげることで、メンタルヘルス不調を未然に防止しようという仕組みだ。

大まかな手順を説明すると、まずは職場の全員を対象に、労働者の心理的負担の程度を把握するための「ストレスチェック」と呼ばれる検査を実施する。ストレスに関する質問票(選択回答)に労働者が記入し、自分のストレスがどんな状態にあるのかを調べる簡単な検査だ。その結果を本人に通知するとともに、10人以上の集団について個人が特定されない状態にしてのデータ集計・分析(集団分析)も行う。医師の面接指導が必要とされた場合は、本人の申出を要件として面接を実施し、医師から仕事の軽減など就業上の措置について意見聴取を行い、必要な措置を講じる。さらに、集団分析の結果は、職場全体のメンタルヘルス対策や、職場環境の改善に役立てることが可能だ。

ストレスチェック制度「元年」

ちなみに、ストレスチェックの実施は事業主に義務づけられたものであり、労働者がストレスチェックを受けることは義務化されていない。医師の面接指導も、本人が希望した場合のみ実施される。また50人未満の事業場では「努力義務」であり、契約期間が1年未満の労働者や労働時間が所定の4分の3未満の短時間労働者は対象外とされている。

 

増えるメンタルヘルス不調による休業者

なぜ、ストレスチェック制度が新設されることになったのか。背景にあるのは、仕事などで強いストレスを感じ、メンタルヘルス不調を訴える労働者が年々増えていることだ。休業者も増加しており、職場復帰支援も含めてメンタルヘルス対策は、どの職場でも大きな課題になっている。

厚生労働省「労働安全衛生調査」(2013年)によると、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1カ月以上休業または退職した労働者がいる事業所の割合は10.0%(2012年調査8.1%)。そのうち、職場復帰した労働者がいる事業所は51.1%だが、全員が復帰した事業所は29.6%に過ぎない。職場復帰に関するルールについては、「明文化されていないが、その都度相談している」が39.8%と最も多く、次いで「ルールはない」が28.5%。

つまり、メンタルヘルス不調の労働者が増えているのに、休職した労働者の職場復帰について明文化されたルールの整備は進んでおらず、退職につながる労働者も少なくないという深刻な現状にある。メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は6割を超えている(60.7%)ものの、中小企業では対策が遅れている実態がある。

また、連合が3年ごとに実施している「安全衛生に関する調査」(2014年)では、過去3年間においてメンタルヘルス不調による休業者が「いる」との回答は7割を超え(70.7%)、前回調査より5ポイントも増加している。さらに休業者のいる事業場では、過去3年間にメンタルヘルス不調による休業から職場復帰後、「再び休業した人がいる」が64.6%、「退職者がいる」は48.8%。メンタルヘルス不調は、休業だけでなく、退職という最悪の形で労働者の職業生活に深刻な影響を及ぼしていることが示された。

 

廃案となった2012年改正案

これまで国もメンタルヘルス対策を講じてこなかったわけではない。1988年の労働安全衛生法改正では、すべての労働者を対象とした総合的な「心とからだの健康づくり運動」であるTHP(トータル・ヘルスプロモーション・プラン)が事業者の努力義務として導入された。2000年には、メンタルヘルス対策に関する初の指針となる「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」が策定され、2004年には「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」などが策定された。こうした流れの中で、メンタルヘルス不調の未然防止策として検討されることとなったのが、今回のストレスチェック制度だ。

検討は労働政策審議会で行われ、その答申にもとづく「ストレスチェック制度の創設」を盛り込んだ労働安全衛生法改正法案は、2012年の国会に提出された。これは、すべての事業場に実施を義務づける内容だった。ところが、同年11月の衆議院解散で法案は廃案となった。その後、政府の「第12次労働災害防止計画(2013〜2017年度)」などを踏まえ、2014年2月にあらためて法案要綱の諮問・答申が行われた。通例であれば、公労使が合意した労政審の答申内容がそのまま改正法案になる。しかし、法案提出前の与党審査によって、①従業員50人未満の事業場のストレスチェック実施を努力義務とする、②労働者のストレスチェック受診を義務としないなど、法案の一部修正が行われた。これは、「異例の事態」であり、連合は「三者構成の労働政策審議会が答申した内容が尊重されるべきであり、労働政策審議会の軽視や形骸化につながりかねない」との意見表明を行った。その後、改正法案が2014年6月に成立し、翌年12月に施行されたというのが、ストレスチェック制度創設の経緯だ。

 

 

連合の考え方と今後の課題

連合は、ストレスチェック制度創設にどう対応したのか、今後の課題は何かを丸田連合雇用対策局次長に聞いた。

 

「心の健康診断」も義務化を図るべき

―ストレスチェック制度創設にあたっての連合の対応は?

メンタルヘルス対策の強化は、労使にとって共通の課題だ。連合は、「すべての労働者を対象に実施する」ことを最重要視している。そのためには、表の8つのポイントが重要であると考えている。連合の考え方と今後の課題

ところが、2014年に成立した改正労働安全衛生法では、法案提出前の与党審査によって50人未満の事業場での実施が「努力義務」とされ、労働者のストレスチェック受診義務も削除されてしまった。

身体の健康に関する定期健康診断は、事業場規模にかかわらず事業者には実施義務が、労働者には受診義務がある。「心の健康診断」に該当するストレスチェックにおいて、取り扱いに差を設ける合理的な理由はないはずだ。また、労働者保護機能の弱い中小規模の事業場においてこそ、法的規制を設けてストレスチェックの実施を促すべきだと言えるだろう。

この2点については、「すべての労働者を対象に実施する」との視点に立ち、今後の課題として引き続き取り組んでいく。

 

自らメンタルヘルスの状態に気付く大切さ

―ストレスチェック制度を評価する点は?

第1に、メンタルヘルス不調に陥ることを避けるため、まずは労働者が自らの身を守るという観点で、自身のメンタルヘルスの状態について「気付く」手段が導入されたことは重要だ。これは職場の労働安全衛生活動を大きく前進させる契機にもなるだろう。

第2に、プライバシー保護が確保されていることも評価できる。ストレスチェックの結果は、従来の定期健康診断と異なり、労働者の同意なくして事業者には提供されない。メンタルヘルスの状態というプライバシー性の高い情報の取り扱いについて、労働者の側に選択が委ねられている点は大きな前進だと言える。

第3は、不利益取り扱いの禁止が盛り込まれていることだ。労働者が医師による面接指導を申し出たこと、ストレスチェック結果の事業者への提供に同意しないことなどを理由とする不利益取り扱い(解雇、雇い止め、退職勧奨、配置転換、職位変更など)を禁止したことは、プライバシー保護を担保する上で非常に重要なポイントだ。

 

「声なき声」に耳を傾ける

―職場での対応は?

ストレスチェック制度の導入は、メンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)に向けた体制づくりの大きな一歩となる。ただし、これは、あくまでも体系的なメンタルヘルス対策の入口にすぎない。

一次予防段階で防止できなかった場合の二次予防(メンタルヘルス不調の早期発見と適切な対応)、残念ながら休職者を出してしまった場合の三次予防(職場復帰支援)まで見据えた一連の取り組みと、体系的な対策をどう労使でつくっていくのか。むしろ、それぞれの職場では、ストレスチェックのその先こそが、今後の重要な課題となる。

労働組合としては、日頃から組合員の「声なき声」に耳を傾け、組合員から気軽に相談が寄せられる組織づくりに取り組むことが、メンタルヘルス対策を進める上でも重要なカギになるだろう。

 

丸田次長

 

丸田 満
連合雇用対策局次長

 

 

 

後半は、いち早くメンタルヘルス対策の重要性を認識し、2002年からストレスチェックサービスを提供してきた中災防の八牧理事長に制度の意義や進め方について伺った。

 

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2016年10月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。

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