2016年3月11日、「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)法」改正案が国会に提出された。内容は、合議制の経営委員会設置などの「ガバナンス体制の強化」と「運用の見直し」だ。
この法改正にどう対応するのか。連合は法案提出に先立ち、2月24日に都内で緊急シンポジウムを開催。被保険者の意思が反映されるガバナンス体制構築に向けて改正法案の修正を求めていくと同時に、運用については「専ら被保険者の利益のために」という観点から国民的な議論を喚起していこうと呼びかけた。
法改正の経過と改正法案のポイント
発端となったのは、アベノミクスが打ち出した2013年の「日本再興戦略」だ。そこに「日本経済への貢献」という観点から「公的・準公的資金の運用等の在り方の検討」が盛り込まれた。
これを受けて、経済再生担当大臣の下に設置された有識者会議が、GPIFについて「国内債券を中心とするポートフォリオの見直し」を提言した。「日本再興戦略 改訂2014」には、ポートフォリオ見直しとあわせてガバナンス体制の強化についても、「法改正も含めた検討を行う」ことが盛り込まれた。
2014年10月31日、GPIFは基本ポートフォリオ(※1)の変更を決定。安全資産とされる国内債券の比率を60%から35%に引き下げる一方、国内外の株式の比率を24%から50%に引き上げ、リスク性資産の割合を大幅に拡大した。本来、基本ポートフォリオは、5年ごとの財政検証に基づき策定されるが、これは、それを待たず前倒しで決定された。奇しくも同日、日銀が「バズーカ第2弾」の追加金融緩和策を発表し、一時的に株価が上昇したことは記憶に新しい。
年金積立金の運用は、「専ら被保険者のために」行い、「安全かつ確実に運用し、市場その他の民間活動に与える影響に留意する」ことを原則としている。連合は、この変更は年金積立金運用への政治介入であり、保険料の拠出者である労使や国民に対する十分な説明を欠いたまま決定されたことを強く批判し、「年金積立金はだれのもの?」と問いかけるキャンペーンをスタートさせた。
株式インハウス運用は先送り
法改正に向けては、2014年11月、社会保障審議会年金部会に「年金積立金の管理運用に係る法人のガバナンスの在り方検討作業班」が設置され、議論がスタートした。しかし、特に運用をめぐる意見の隔たりは大きく、3カ月にわたり審議されたが取りまとめに至らなかった。
年金部会が再開されたのは、昨年12月8日のことだ。事務局から、「ガバナンス体制の強化」(①合議制機関の在り方、②合議制機関と執行機関の関わり方、③厚生労働大臣の責任・役割)と、「運用の在り方」(①株式のインハウス運用(※2)、②オルタナティブ資産への直接投資(※3))についての論点が示された。
理事長の「独任制」を見直し、合議制の「経営委員会」を設置することについては合意が得られたものの、その構成員の選出をめぐっては意見が分かれた。また、株式のインハウス運用については、労使代表の委員が強く反対。2月8日の年金部会の取りまとめ(「GPIF改革に係る議論の整理」)は、それぞれの理由を並べたものの、合議制機関の「経営委員会」を導入する一方で、インハウス運用等は事実上先送りすることが示された。これをベースに、厚生労働省は2月16日、「GPIF改革の方針」を策定し、3月11日に改正法案が国会に提出されたというのが、大まかな経緯だ。
後半は、連合として今回の法改正にどう対応するのか、また「年金積立金はだれのもの?」キャンペーンをどう進めていくのかを平川連合総合政策局長に聞いた。
※1ポートフォリオ
個人や企業が所有する金融資産の組み合わせのこと
※2インハウス運用(自家運用)
年金資産運用を外部の信託銀行や投資顧問会社等に委託せずに年金基金が自ら行うこと
※3オルタナティブ資産への直接投資
「インフラストラク
※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2016年4月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。