こころにほっとタイム with 弘子先生 「どうやって心を守るか」

2020年6月1日

vol.4 どうやって心を守るか

 

矢吹弘子(矢吹女性心身クリニック院長)

 

皆さま、こんにちは。この原稿を書いている今、新型コロナウイルスの問題で全国に緊急事態宣言が発令されています。掲載になる頃どのような状況であるかは予測できませんが、誰もが多大なストレスを抱えていることは間違いないでしょう。命を守ることと経済を守ることが切迫した課題ですが、ここでは心を守ることについて考えたいと思います。

前回、仕事上のストレスが病気に発展することに関して、職業性ストレスモデルでは、仕事のストレス、仕事外のストレス、個人要因、が関わる中、「緩衝要因」がストレスをやわらげるとお話ししたところでした。

ストレスから心と身体を守る緩衝要因には「ストレス対処」と「社会的支援」があります。ストレス対処には、情報収集や助言を求めるなど問題に立ち向かう「問題焦点型対処」と、いわゆるストレス発散や問題の捉え方を変えて気持ちを楽にする「情動焦点型対処」があります。

通常、問題自体に対処できると考えられる場合は、まずは問題焦点型のストレス対処が重要です。一方、問題が圧倒的でコントロールが難しい場合は、情動焦点型の対処が中心になります。新型コロナ問題も、立場・状況ごとの問題焦点型の対処が重要ですが、ここでは情動焦点型対処を中心にお話しします。

ストレスを発散する方法は、誰もが持っているものです。運動や音楽など、いわゆる気晴らしや趣味などです。しかし緊急事態では多くの場合、親しんでいたストレス発散法が使えません。そういう時には今までのやり方に固執せずに、限られた中でできる健康的な方法を模索する必要があります。やけ食いではなく、お酒やタバコに頼るのでもなく。ゲームやスマホを長時間するのでもなく、ましてや人を攻撃するのではなく、です。

今だからこそできることをしようという発想の転換は、問題に立ち向かうことであると同時に、気持ちを持ち直す方法でもあります。問題の捉え方を変えるのは、事実を軽視することとは違います。人間は自分の心を守るために都合の良い考え方をしがちです。「感染拡大は大変だが自分は関係ない」といった受け止め方は心に安心をもたらすかもしれませんが、事実を歪んで受け止めては状況をむしろ悪化させてしまいます。事実を受け止めた上で、今できることを考えるということです。

社会的支援とは、公的な支援はもちろんですが、職場の同僚や上司・家族・友人・近所の人など、身近な人からの情緒的な支援も指します。支え合うということです。あなたの家族は大丈夫ですか? 職場の同僚は? 危機的な状況では誰もが余裕を失いがちです。余裕がないと怒りっぽくなり、人の嫌な側面ばかり見えたりします。そういう時こそ、本当の意味で自分を大事に。イラっときたらまずは深呼吸を。自律神経が整います。免疫力を上げるためにも、こういう時こそちゃんと食べて、できる範囲で体を動かして、睡眠をとりましょう。笑うと免疫力が上がると研究されています。自分をケアできないと人のことを考えられません。難しい状況の人ほどちょっと一息ついて。「心にホットたいむ」を、です。

[2020年4月25日記]

 

矢吹弘子  やぶき・ひろこ

矢吹女性心身クリニック院長

1987年東邦大学医学部卒業。東邦大学心療内科、東海大学精神科国内留学を経て、1995年米国メニンガークリニック留学。総合病院医長を経て1999年心理療法室開設。2009年人間総合科学大学教授、2010年同大学院教授、2016年矢吹女性心身クリニック開設、2017年東邦大学心療内科客員講師。

日本心身医学会専門医・同指導医、日本精神神経学会専門医、日本精神分析学会認定精神療法医、日本医師会認定産業医。

主な著書:『内的対象喪失-見えない悲しみをみつめて-』(新興医学出版社2019)、『心身症臨床のまなざし』(同2014)など。

 

※この記事は、連合が企画・編集する「月刊連合5・6月合併号」をWEB用に再編集したものです。