2015春季生活闘争は時代の分水嶺 

2015年3月20日

【東奔西走 古賀伸明会長のフェスティナ・レンテ】
~ゆっくりと、しかし確実に~

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世界的格差拡大に警鐘
ピケティ氏に3つの質問

昨年7月号の「月刊連合」でも紹介した『21世紀の資本』を世に出したフランスの若き経済学者トマ・ピケティ氏と、こんなに早く直接会話ができるとは思いもしなかった。

本国フランスでは2013年8月に出版され、昨年5月、英語版が発行されると米英で著名経済学者らが絶賛し、一大ブームを巻き起こした。昨年5月の時点では、「和訳は早くとも来年(2015年)の春から秋にかけて」とのことであったが、日本でも期待が高まったのであろう。昨年12月に日本語版が出版された。現在までの販売部数は約十数万部、日本でフランスの本がこれほど売れたのは異例のことのようだ。

今年1月下旬に、朝日新聞社と在日フランス大使館主催の「広がる格差と日本のあした」と題するピケティ氏来日シンポジウムに参加した。定員700人に対して7000人の応募があったそうだ。シンポジウムでは私も発言の機会が与えられ、3つの質問をさせてもらった。詳しくはこちらをご覧いただきたい。

ピケティ氏は4日間というあわただしい日本滞在だったが、講演や記者会見、そして学生との対話などを通じて、世界的な格差拡大に大きな警鐘を鳴らした。彼は、「格差の拡大、不平等の拡大が、資本主義の基盤である経済の効率性も民主主義も破壊してしまう。先進各国では世襲社会が復活している。持てるものは財産を相続して代々富み続ける。持たざる者との格差が広がる。その対策は資産を含めた累進課税の強化で所得再分配を行い、富の過度な集中を防ぐべき」と主張している。

彼の主張がそのまま日本にあてはまるわけではないとの意見も含め、日本でもさまざまな議論を呼んでいる。確かに日本の富裕層への所得の偏りは、先進諸国の中では小さいほうである。

しかし、日本の相対的貧困率は16.1%を超え主要先進国で第2位、子どもの貧困率は16.3%と過去最悪を更新した。しかも、貧困が連鎖し再生産されている。これらのことから日本が格差社会の国ではないと言えるだろうか?

「働くことを軸とする安心社会」を標榜する私たちも、他に解を求めていくだけでは済まされない課題である。

ベースとなる月例賃金の継続的引き上げが不可欠

先月2月5日に「2015春季生活闘争 闘争開始宣言2・5中央総決起集会」を開催し、本格的な交渉がスタートした。今春季生活闘争は、10年以上にわたるデフレ経済からの脱却を確実なものとし好循環を回していけるのか、それとも賃金が停滞し物価だけが上がる悪いインフレのもと格差が一層広がっていくのか、まさに時代の分水嶺となる重要な闘いである。

私たちは、「賃上げ」「時短」「政策・制度実現」という3つの柱を掲げ取り組みを展開していくが、どれも働く者の暮らしに直結する課題ばかりである。経済の新たな好循環の実現のためには、月例賃金の継続的かつより一層の引き上げが不可欠である。とりわけ、雇用労働者の7割を占める中小企業で働く仲間や2000万人を超える非正規労働者の賃金の底上げが急務だ。

1月29日、経団連とのトップ懇談会を開催した。経団連は、「経済好循環の2巡目をしっかりと回すため、経済界として一歩前に出た対応を図らなければならない」と言いつつ、各論になると総額人件費管理の徹底、支払能力論など、従前の姿勢を大きく変えていない。また、私たちが掲げる要求を「納得性が高いとは言えない」「賃金とは月例賃金のみを指すのではない」という主張を展開している。

言うまでもなく、生活の将来展望のベースとなるのは月例賃金であり、未組織労働者や最低賃金に波及し社会的な底上げに影響するのも月例賃金である。多くの働く者の月例賃金が改善しなければ、GDPの6割を占める個人消費を動かすことはできず、デフレ脱却は困難である。すべての組合が月例賃金にこだわった要求を行い、粘り強い交渉を通じ、要求の実現に全力を挙げていかなければならない。

さらに今年は、長時間労働を是正しワーク・ライフ・バランス社会に大きく踏み出す年にしたい。労働時間は、賃金とともに労働条件の根幹をなすものであり、労働組合はもっと敏感に、もっと力を入れて取り組む必要がある。長時間労働の是正は、働く者の安全衛生や健康管理の面ではもちろん必要なことであり、すべての職場から過労死を招くような働かせ方を一掃しなければならない。同時に、超少子高齢・人口減少社会の中で、地域や家庭での「共助」に対する役割を一人ひとりが果たしていくために急務な課題である。長時間労働の是正を働き方改革の第一歩に位置づけ、労使での真摯な協議・交渉で具体的な結果を出していくことが求められている。

経済好循環と矛盾する労働者保護ルール改悪

3本目の柱の「政策・制度実現」と密接に関連する第189通常国会が1月26日より開幕した。2月3日に補正予算が成立し、当面の焦点は来年度予算案の審議に移っている。この予算案は、規模こそ過去最大であるが、総じて言えば、広がる格差の是正、雇用と暮らしの将来不安の払しょくなど、私たち働く者・生活者の声に応えているとは言えない。

また、来年度税制改正の案についても、企業の国際競争力を優先する一方で、所得再分配機能の強化など生活者目線に立った暮らしの底上げをはかる観点が欠如している社会・経済の新たな循環、財政健全化、そのいずれにおいても、雇用の安定と暮らしの底上げが大前提であり、そのための予算と政策・制度が求められている。

しかし、いまの安倍政権は、一方で経済の好循環と矛盾することを進めている。その最たるものが、労働者保護ルールの改悪である。労働者派遣法の改悪は、派遣労働者から安定雇用や所得上昇の機会を奪うものだ。そして、2月13日の労働政策審議会報告に盛り込まれた新たな労働時間規制除外制度は、働く者の命と健康、生活を損なうものであり、ワークルールの国際標準にも逆行している。

加えて、公的年金資金の運用についても、労使が積み立てた資金であるにもかかわらず、労使の関与が薄いまま、時の政権の都合で運用しようという動きを見せている。年金資金は、株価対策の道具ではない。質の高い雇用、社会の公正な発展など、中長期の視点に立った運用でなければならない。連合は、労使の意見がしっかり反映できるガバナンス体制を強く求めていく。

これらの課題をはじめ、連合が今国会において重点としている法案について、民主党をはじめ野党との連携を強めていくとともに、「STOP THE 格差社会! 暮らしの底上げ実現」キャンペーンを全国で展開し、世論喚起に全力を挙げていく。

2015春季生活闘争は、組織労働者の賃上げの成果をすべての働く者に波及させ、社会全体の底上げ・底支えを実現するための闘いである。掲げた要求に確信を持ち、私たちが社会から与えられた使命を自覚し、粘り強い交渉を展開することをお互いに誓い合いたい。

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2015年3月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。

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