欠陥だらけの法案の成立を許すな

2015年6月4日

【古賀伸明会長のフェスティナ・レンテ】323_p02_03_v4.indd

「生涯派遣」「過労死」を助長する欠陥だらけ法案の成立を許してはならない

定期協議で浮き彫りになった日米労働運動に共通する課題

去る5月4日、米国のナショナルセンター・AFL─CIOのリチャード・トラムカ会長が来日した。連合は結成以来、AFL─CIO(アメリカ労働総同盟・産業別組合会議)との定期協議を行っている。今回の定期協議は、日程調整がなかなかつかず、2009年ワシントンD.C.で行って以来6年ぶりとなる。私自身は、事務局長時代の2006年に、スウィーニー会長を日本にお迎えして以来である。

定期協議では、日米両国の持つそれぞれの経済・社会の情勢について報告し合うとともに、ワークルールや労働市場に関する問題、組織化や地域コミュニティとの連携、あるいは貿易・投資の拡大に伴う諸課題について議論した。

また、トラムカ会長は、私も同行して、アメリカ大使館を訪問しケネディ大使との意見交換、JFEスチール東日本製鉄所を視察し同労組および経営側と意見交換、さらには労金協会や民主党と会談した。加えて、約130人が集った「トラムカAFL─CIO会長 おおいに語る!」と題する講演会を開催し、トラムカ会長の講演に続いて会場との意見交換も行った。

AFL─CIOのリチャード・トラムカ会長

正式な会議だけでなく、数日間、トラムカ会長と一緒に過ごす中で、AFL─CIOと連合は、それぞれアメリカと日本という異なる国で労働運動を展開しているが、両組織が直面する課題に大きく共通するものを感じた。

その一つが、労働組合の従来の伝統的な枠組みにとどまるのではなく、どのようにしたら社会的なうねりを創造していくことができるのかという課題である。

AFL─CIOは労働組合に入っていない人を対象とした地域組織「ワーキング・アメリカ」を全米50州に拡大する方針を2013年に確認した。2003年にパイロット・プログラムとしてスタートしたが、現在約350万人の会員数である。トラムカ会長は「労働運動はもはや交渉単位や職場だけでは生き残ることができない」と発信する。すなわち、AFL─CIOと個々の組合員との関係は、産業別組織という階層を経たものになっている。そのような狭い範囲では、もはや労働者全体を見渡すことができないというのがトラムカ会長の先の言葉の真意である。

私たち連合も「すべての働く者を視野に入れた運動」「地域に根ざした顔の見える運動」を展開しているが、AFL─CIOの運動戦略から、まだまだ学ぶことが多い。

 

全国街頭行動、国会行動で改悪法案の問題点を訴え続ける

さて、いよいよ5月12日から国会での労働者派遣法改悪の審議が始まった。
連合は、「この法案を絶対に通すわけにはいかない、断固阻止する」との決意で、5月11日からの週を「労働者保護ルール改悪阻止ウィーク(第1次)」と位置づけ、各種行動を推進した。

連日の主要駅頭などでの街宣行動や院内集会を行うとともに、最終日の15日には、国会前座り込み行動や路上集会、国会傍聴行動、国会議員要請行動に終日取り組んだ。早朝から議員会館前に陣取り、国会へ向けて改悪反対を訴え続けた。全国から働く仲間と退職者連合の皆さん867人が集結。また志を同じくする民主党をはじめとする国会議員の皆さんも多数激励に駆けつけ、連合とともに最後まで闘い抜くと力強く訴えた。もちろん、都内だけでなく、全国で街頭行動などを実施している。

あらためて言うまでもないが、派遣法の改悪法案は派遣期間の制限を実質的に撤廃して「生涯派遣」を生み出そうとするものである。また、派遣で働く皆さんの処遇改善のために不可欠である「均等待遇原則」も盛り込まれていない欠陥法案だ。安定した雇用のもとで人間らしい生活を営めるだけの処遇を得るという当たり前の働き方を実現させるには、このような欠陥だらけの改悪法案の成立を許してはならない。「生涯派遣で低賃金」は断固阻止しなければならない。

また、今回の国会には、長時間労働を助長する労働基準法の改悪法案も提出されている。「過労死」に代表されるように、長時間労働に起因する労働者の健康被害がこれだけ大きな問題になっているにもかかわらず、そうした現実を無視してホワイトカラー・エグゼンプションの仕組みを導入しようとするなど論外である。

今一度、政府から提出されている改悪法案が持っている問題点を再認識するとともに、「われわれの力で改悪阻止を確かなものにする!」との決意を固め合おう。このわれわれの強い気持ちを、これからも行動で示し続けていかねばならない。

労働者保護ルールの改悪を阻止できるかどうかの、まさに正念場を迎えている。引き続き6月8〜12日に「労働者保護ルール改悪阻止ウィーク(第2次)」の各種取り組みを展開するので、ぜひ、総力を結集して引き続き取り組みを行っていただくよう、重ねて要請する。

 核兵器廃絶を求める署名720万筆を国連本部に提出

今年は5年ごとにNPT(核拡散防止条約)の運用状況を検討するためのNPT再検討会議が開催される年である。

2000年は「核保有国による核廃絶への明確な約束」を盛り込んだ最終文書を採択し大きく前進したが、2005年は核保有国と非保有国の意見が対立し、ほとんど成果が得られなかった。前回2010年は、「核兵器のない世界」の達成に向けた直接的な言及や核軍縮に関する2000年再検討会議の「明確な約束」を再確認するとともに、具体的な核軍縮措置につき核保有国が2014年のNPT運用検討会議準備委員会に進捗の報告を要請するなど一定の成果が得られた。

そして、5年後の今年は第二次世界大戦終結から70年という節目の年に当たる。私たち連合は、日本において核兵器廃絶運動に取り組んでいる「原水爆禁止日本国民会議(原水禁)」、並びに「核兵器廃絶・平和建設国民会議(KAKKIN)」とともに、核兵器廃絶の実現をめざした署名活動を昨年4月から展開してきた。

核兵器廃絶

内容は、①2015年NPT再検討会議において2010年合意を再確認し、核兵器廃絶への着実な道筋について合意すること、②核兵器の製造、保有、使用等を全面的に禁止する「核兵器禁止条約」に関する交渉を、本年の2015年NPT再検討会議を契機に開始すること、③2020年までに世界中のあらゆる核兵器の廃絶を実現することなどを求めるもので、ITUC(国際労働組合総連合)も世界の働く仲間に呼び掛けた。

この署名活動では、約720万の署名を集めることができ、署名数は5年前よりも相当数増えている。ご協力いただいた多くの皆さんに誌面をお借りし、心より感謝申し上げる。

この貴重な署名を、再検討会議開催に先立つ4月末に国連本部のヤン・エリアソン副事務総長に手渡し要請行動を行った。世界唯一の被爆国・日本の国民が、核兵器廃絶と世界平和を切望していることを訴え、ぜひとも同会議に出席している各国政府、とりわけ核兵器保有国の政府に思いを伝えていただくよう強く要望した。

事務総長・副事務総長の指導のもとで、今回のNPT再検討会議が成功裏に終了するよう心より祈念する。また、戦後70年を記念して8月に開催される広島、長崎での平和式典には、ぜひともパン・ギムン事務総長の参加を期待したい。

(5月21日記)

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2015年6月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。