7つの絆

 

熊本県を中心とする九州地震への連合の対応

地震関連ワークルールQ&A
Q1
今回の地震により組合員が事業所で作業中に怪我をしました。
労災保険給付の適用はありますか。
A1

 作業方法、作業環境、事業場施設の状況等からみて危険環境下にあることにより被災したものと認められる場合には、業務上の災害となります。阪神大震災や東日本大震災に際して発生した災害についても、地震に際して当該災害を被りやすい業務上の事情(危険)があったとして、多くが業務上との認定を受けました。

【解説】

 労災保険は、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」の「業務災害」に適用されます(労働者災害補償保険法第7条)。「業務上」と認定されるには、「業務遂行性」と「業務起因性」の双方が必要です。
 まず、業務遂行性について、このケースでは、組合員が工場で作業中であり、労働者が労働契約に基づく事業主の支配・管理下にありますので、「業務遂行性があるもの」と判断されます。
 問題は「業務起因性」の判断です。「業務起因性」とは、業務または業務行為を含めて労働者が労働関係に基づき事業主の支配・管理下にあること(業務遂行性)に伴う危険が現実化したものと経験則上認められることをいいます。今回の地震では、阪神・淡路大震災や東日本大震災と同様に、通達「熊本県熊本地方を震源とする地震に伴う労災保険給付の請求に係る事務処理について」(平成28年4月15日付基保発0415第1号)が出されています。
 この通達では、[1]被災労働者が、作業方法、作業環境、事業場施設の状況等からみて危険環境下にあることにより被災したものと認められる場合には、業務上の災害として取り扱うこと、[2]業務上外等の判断に当たっては、天災地変による災害については業務起因性等がないとの予断をもって処理することのないよう特に留意すること、とされています。
 なお、労災保険給付を請求する際に「事業主証明」「診療担当者の証明」が必要となりますが、今回の地震においては、請求にあたって事業主や医療機関の証明が受けられなくても請求書は受け付けている旨、厚生労働省のホームページに掲載されています。詳細は各県労働局にお問い合わせください。
労災保険の請求は、事業主や医療機関の証明書がなくても受け付けます(厚生労働省)

【事例】

●事例1 作業現場でブロック塀が倒れたための災害
 ブロック塀に補強のための鉄筋が入っておらず、構造上の脆弱性が認められたので、業務災害と認められる。

●事例2 作業場が倒壊したための災害
 作業場において、建物が倒壊したことにより被災した場合は、当該建物の構造上の脆弱性が認められたので、業務災害と認められる。

●事例3 事務所が土砂崩壊により埋没したための災害
 事務所に隣接する山は、急傾斜の山でその表土は風化によってもろくなっていた等不安定な状況にあり、常に崩壊の危険を有していたことから、このような状況下にあった事務所には土砂崩壊による埋没という危険性が認められたので、業務災害と認められる。

●事例4 バス運転手の落石による災害
 崖下を通過する交通機関は、常に落石等による災害を被る危険を有していることから、業務災害と認められる。

●事例5 工場又は倉庫から屋外へ避難する際の災害や避難の途中車庫内のバイクに衝突した災害
 業務中に事業場施設に危険な事態が生じたため避難したものであり、当該避難行為は業務に付随する行為として、業務災害と認められる。

●事例6 トラック運転手が走行中、高速道路の崩壊により被災した災害
 高速道路の構造上の脆弱性が現実化したものと認められ、危険環境下において被災したものとして、業務災害と認められる。

Q2
工場で操業中に余震があり、組合員が避難する際に怪我をしました。
労災保険給付の適用はありますか。
A2

 労災保険給付の適用が認められる可能性があります。詳細は、各県労働局にお問い合わせください。
 今回のケースでは、業務遂行性(事業主の命令で仕事をしていたこと)があるものと判断され、業務起因性(その仕事の最中に避難したものであること)についても認められる可能性があります。

【解説】

 労災保険の適用及び手続の概要は、A1で説明した通りです。
 まず、業務遂行性について、今回のケースでは労働者が労働契約に基づく事業主の支配・管理下にありますので、「業務遂行性があるもの」と判断されます。
 問題は「業務起因性」の判断です。「業務起因性」とは、業務または業務行為を含めて労働者が労働関係に基づき事業主の支配・管理下にあること(業務遂行性)に伴う危険が現実化したものと経験則上認められることをいいますが、一般的に私的行為、恣意的行為については、業務起因性が認められません。
 しかし、避難する行為は、現場監督者の指示の有無、自治体による警報の有無に拘わらず、「業務遂行中」に生じた危険な事態に対応するため、単なる私的行為又は恣意的行為と異なり合理的な行為、すなわち業務に付随した行為とみなされ、私的行為又は恣意的行為と認められない限り、業務起因性が認められる可能性があります。

Q3
地震で事業場が被災し、休業しました。
賃金・休業手当等の取扱いはどうなるでしょうか。
A3

 休業に至った理由によって、賃金や休業手当の支払義務が発生する場合としない場合があります。例えば工場が地震で損壊して全く操業できないといった不可抗力の場合には、「使用者の責めに帰すべき事由」とはいえないので、会社に、休業手当の支払義務は発生しません。
 ただしこれは労働条件の最低基準を定める労働基準法の取り扱いです。労働協約や就業規則で別途、賃金や休業手当等について定めている場合は取り扱いが異なります。労働組合としては、団体交渉・労使協議で休業手当等の支払を求めることが大切です。
 また、雇用調整助成金の活用も検討してください。
 労働基準法26条では、使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合は、平均賃金の6割以上の休業手当の支払いを使用者に義務付けています。ただし、天災地変などの不可抗力により、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け、休業した場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」には当たらないと考えられます。

【解説】

 民法上の原則では、債権者(使用者)の責に帰すべき事由(「故意、過失または信義則上これと同視すべき場合」)により労働義務を履行できなくなった場合は、労働者は反対給付である賃金全額の請求権を失わないとされています(民法536条2項)。例えば「会社から自宅待機を命じられた」場合は、一般的には債権者(使用者)の判断で労務の受領を拒否している(勤労の意志があるにもかかわらず自宅待機させられている)と解釈できるので、賃金の全額を請求できると考えられます。

<民法第536条2項>
「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の責任を免れたことによって利益を得たときには、これを債権者に償還しなければならない。」

【参考】

雇用調整助成金の活用
 今回の地震を受けて、平成28年熊本地震に伴う経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされ、雇用調整を行わざるを得ない事業主に対して雇用調整助成金の特例措置が講じられています。

  • [1] 支給要件が緩和され、「生産量、販売量、売上高などの事業活動を示す指標の最近3か月間の月平均値が、前年同期に比べ10%以上減少している事業所であること」が「最近1か月間」とされています。
  • [2] 遡及適用が可能とされ、平成28年4月14日以降に提出される初回の休業等実施計画書から適用されます(平成28年7月20日までに提出のあったものについては、事前に届け出られたものとする)。
  • [3] 九州各県内に所在する事業所に限り、休業を実施した場合の助成率が引き上げられます(中小企業:2/3から4/5へ、大企業:1/2から2/3へ)。
  • [4] 新規学卒採用者など、雇用保険被保険者として継続して雇用された期間が6か月未満の労働者も助成対象となります。
  • [5] 過去に雇用調整助成金を受給したことがある事業主であっても、
    • ア)前回の支給対象期間が満了した日から起算して1年を経過していなくても受給できます。
    • イ)受給可能日数の計算において、過去の受給日数に関わらず、今回の特例の対象となった休業等について新たに起算されます。
  • [6] 最近3か月の雇用量が対前年比で増加している場合であっても、雇用調整助成金が受給できます。

 雇用調整助成金制度は、事業主が休業させる労働者に対して支払う賃金や休業手当について、中小企業ではその3分の2、大企業ではその2分の1を助成するものです(上限は日額7,810円)。こうした制度も活用し、労使で雇用の維持と休業時の賃金補償に取り組むことが必要です。
 雇用調整助成金は、経済上の理由により、事業活動が縮小している場合が対象となります。「経済上の理由による事業活動の縮小」は個別に判断されます。取り組みにあたっては、ハローワークで制度の仕組みについて確認し、ご相談下さい。

雇用保険失業給付の特例
 今回の地震では、地震の時点で熊本県内の事業所で勤務していた方について、[1]災害により休業した場合、[2]災害により一時的に離職した場合に雇用保険の失業給付を受給できる特例措置があります。
 雇用保険の失業給付の受給手続き(Q5・A5参照)を参考にしてください。
 ただし、注意が必要なのは、この制度の適用を受けると、それまでの被保険者期間は通算されずにリセットされ、復職した場合には被保険者期間がゼロから始まる点です。
平成28年熊本地震等に伴う雇用保険失業給付の特例措置について(厚生労働省)

派遣中の労働者の休業手当について
 厚生労働省「労働基準法に関するQ&A」の「2 派遣労働者の雇用管理について」をご参照ください。
平成28年熊本地震に伴う労働基準法等に関するQ&A(厚生労働省)

Q4
直接の地震被害を受けていないにもかかわらず、地震を理由に工場が休業になりました。この場合に、賃金や休業手当は支払われますか。
A1

 工場が地震被害を受けていない場合は、原則として、賃金を支払わなければなりません。例外として、使用者が十分な努力をしても、原材料や部品を入手できない場合には、少なくとも休業手当(最低でも賃金の60%)は支払わなければなりません。

【解説】

 民法上の原則では、債権者(使用者)の責に帰すべき事由(「故意、過失または信義則上これと同視すべき場合」)により労働義務を履行できなくなった場合は、労働者は反対給付である賃金全額の請求権を失わないとされています(民法536条2項)。例えば「会社から自宅待機を命じられた」場合は、一般的には債権者(使用者)の判断で労務の受領を拒否している(勤労の意志があるにもかかわらず自宅待機させられている)と解釈できるので、賃金の全額を請求できると考えられます。
 休業手当について労働条件の最低基準を定める労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由により、労働者を休業させた場合、会社はその期間について休業手当(最低でも賃金の60%)を支払う義務があると規定されています。労働基準法の休業手当は、労働者の最低限の生活を保障するという趣旨の規定であり、これを支払わないと使用者は30万円以下の罰金に処せられるとともに、付加金の支払いを命じられることがあります。
 なお、休業に至った理由によっては、賃金や休業手当の支払義務が発生しない場合もあります。工場が、直接の地震被害を受けている場合には、天災という不可抗力にあたるので、休業手当の支払義務も発生しないと解されています。停電、断水、ガス供給停止等により操業が不可能となり休業せざるを得ない場合も、賃金や休業手当の支払義務はないとされています。
 ただしこれは労働条件の最低基準を定める労働基準法の取り扱いです。労働協約や就業規則で別途、賃金や休業手当等について定めている場合は取り扱いが異なります。労働組合としては、団体交渉・労使協議で休業手当等の支払を求めることが大切です。
 また、雇用調整助成金の活用も検討してください。

【参考】
派遣中の労働者の休業手当について
 厚生労働省「労働基準法に関するQ&A」の「2 派遣労働者の雇用管理について」をご参照ください。
平成28年熊本地震に伴う労働基準法等に関するQ&A(厚生労働省)

Q5
地震により、事業が休止となりました。
雇用保険の加入を証明するものがない場合、どうすればよいでしょうか。
A5

 まずはハローワークにご相談ください。今回の地震では、地震の時点で熊本県内の事業所で勤務していた方について、[1]災害により休業した場合、[2]災害により一時的に離職した場合に、雇用保険の失業給付を受給できる特例措置が講じられています。雇用保険の受給手続きに必要な確認書類がない場合でも手続きを行うことができます。

【解説】
雇用保険失業給付の特例措置
  • [1]「激甚災害法の雇用保険の特例措置」(休業する場合の特例措置)が適用され、事業所が災害を受けたことにより休止・廃止したために、休業を余儀なくされ賃金を受けることができない状態にある方について、実際に離職していなくても雇用保険の基本手当を受給できます。
  • [2]「災害救助法の適用地域における雇用保険の特例措置」(一時的に離職する場合の特例措置)が適用され、災害救助法の適用地域にある事業所が災害により事業が休止・廃止したために、一時的に離職を余儀なくされた方について、事業再開後の再雇用が予定されている場合であっても、雇用保険の基本手当を受給できます。

 上記特例措置は雇用保険に6ヶ月以上加入している等の要件を満たす方が対象となります。
 特例措置の利用に当たっては、原則として、事業主から交付される、上記[1]の場合は「休業票」、上記[2]の場合は「離職票」をハローワークに持参することが必要ですが、事業所から「休業票」や「離職票」を受け取れる状態にない場合は、ハローワークで相談に応じています。
 交通の途絶や遠隔地への避難などにより居住地を管轄するハローワークに来所できないときは、来所可能なハローワークで失業給付の受給手続きをすることができます。
 本特別措置制度を利用して、失業給付の支給を受けた方については、休業が終了し、雇用保険被保険者資格を取得しても、当該休業前の雇用保険の被保険者であった期間は通算されませんので、制度利用にあたっては留意が必要です。
 詳細は、厚生労働省ホームページをご参照ください。
平成28年熊本地震等に伴う雇用保険失業給付の特例措置について(厚生労働省)

Q6
雇用保険の失業給付の手続きはどうすればよいでしょうか。
A6

居住地を管轄するハローワーク(職業安定所)で手続きをしてください。

熊本職業安定所 096-371-8609 熊本市(旧植木町、旧富合町、旧城南町を除く)
上益城出張所 096-282-0077 上益城郡、安蘇郡西原村
八代職業安定所 0965-31-8609 八代市、八代郡
菊池職業安定所 0968-24-8609 菊池市、山鹿市、合志市、菊池郡、熊本市のうちの旧植木町
玉名職業安定所 0968-72-8609 玉名市、荒尾市、玉名郡
天草職業安定所 0969-22-8609 天草市、上天草市、天草郡
球磨職業安定所 0966-24-8609 人吉市、球磨郡
宇城職業安定所 0964-32-8609 宇土市、宇城市、下益城郡、熊本市のうち旧富合町、旧城南市
阿蘇職業安定所 0967-22-8609 阿蘇市、安蘇郡(西原村を除く)
水俣職業安定所 0966-62-8609 水俣市、芦北郡
熊本労働局 職業安定部 職業安定課 096-211-1703
総務部 労働保険徴収室 096-211-1702
雇用環境・均等室 096-352-3865

 なお、遠隔地への避難などにより、居住地を管轄するハローワークに来所できないときは、近くのハローワークで失業給付の手続きをすることができます。
 また、今回の地震では特例措置として、雇用保険失業給付を受給している方が、地震等の影響によりハローワークに来所できない場合には、「失業の認定日の変更」ができます。

【参考】

「失業の認定日の変更」について
 雇用保険失業給付を受給している方が、地震等の影響により、指定された失業の認定日にやむを得ず、ハローワークに来所できなかったときは、来所可能な日に失業の認定日を変更することができます(事前の申し出は不要です)。
 失業の認定日にハローワークに来所できなかった方は、来所日の前日までの失業の認定を一括で行います。
 やむを得ない理由があると認められる場合には、求職活動実績は問わないとされています。
 詳細は、厚生労働省ホームページをご参照ください。
平成28年熊本地震に伴う雇用保険失業給付の特例措置について (厚生労働省熊本労働局)

Q7
地震で被災した地域の事業所で働いていた派遣労働者です。
派遣先の事業所が損壊し当分の間、仕事ができなくなりました。
どうすればよいでしょうか。
A7

 派遣元(派遣会社)が営業を続けている場合は、雇用保険の手続きをする前に、別の就業先を確保してもらうようにしてください。

派遣元(派遣会社)と派遣先企業との間に交わされる派遣契約と、派遣元と派遣労働者との間に交わされる労働契約は別の契約であり、派遣契約が解除されたからといって、労働契約が当然終了になるわけではありません。

【解説】

 派遣契約が中途解除された場合、派遣元は派遣先と連携して新たな就職機会を確保することなどが厚生労働省の派遣元指針にも規定されています。したがって、労働者は、派遣元に新たな派遣先を確保するよう請求できます。新たな派遣先が確保できない間は、平均賃金の60%以上にあたる休業手当を支給するよう請求できます。
 仮に新たな派遣先が見つからなくても、もともと派遣先に労働者を派遣することを業とする派遣元が、派遣先を見つけられないことを「やむを得ない事由」として解雇することは原則として認められません。

【参考】

派遣元が派遣労働者を即時に解雇することについて
 厚生労働省「労働基準法に関するQ&A」の「2 派遣労働者の雇用管理について」をご参照ください。
平成28年熊本地震に伴う労働基準法等に関するQ&A(厚生労働省)

Q8
地震により避難所で生活をしている組合員が、自転車で工場へ通勤する途中で交通事故に遭いました。
労災保険給付の適用はありますか。
A8

 今回のケースは、業務に就くために「工場」へ「通勤」する途中の事故であり、往復行為が業務と密接な関連性をもって行われている(就業関連性がある)と判断できます。したがって、労災の通勤災害に該当することになります。

【解説】

 「通勤災害」とは「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」と定義されています(労災保険法第7条1項2号)。また、「通勤」とは、「労働者が、就業に関し、以下に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除く」とされています(労災保険法第7条2項)。

  • [1]住居と就業の場所との間の往復
  • [2]就業の場所から他の就業の場所への移動
  • [3][1]の往復に先行し、又は後続する住居間の移動

 今回の移動は、上記[1]「住居と就業の場所との間の往復」のケースにあてはまります。
 「工場」は、業務を開始し、または終了する「就業の場所」であると理解できます。
 ポイントは避難所が「住居」にあたるかどうか、また避難所からの経路、自転車という手段が「合理的な経路及び方法」にあたるかどうかの2点です。
 「住居」とは、一般的には労働者が現実に居住し、日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点を言います。ただ、「自然現象等の不可抗力的な事情により、一時的に通常の住居以外の場所に宿泊するような場合には、やむを得ない事情で就業のために一時的に居住を移していると認められるので、当該場所を住居と認めてさしつかえない。」(昭48・11・22基発644号)とされており、避難所も、「住居」とみなされます。
 次に「合理的な経路及び方法」ですが、定義は「当該住居と就業の場所との間を往復する場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路および手段」となっていますが、必ずしも1つの経路や方法に限定されるわけではありません。地震前とは異なる経路で、自転車で通勤する場合、地震前に会社に申請している内容とは異なる通勤経路・方法であるものの、利用した経路・方法が一般に考えられるものであれば「合理的な経路及び方法」となります。

Q9
部品メーカーで1年間の有期契約で働いています。「今回の地震の影響で、主要な取引先のうちの1社との取引が難しくなった」という理由で、まだ6ヶ月契約期間が残っているのに、解雇を言い渡されました。
このような解雇は許されるのでしょうか。
A9

 今回のケースは、地震の影響とはいえ、主要な取引先のうちの1社との取引が難しくなるというもので、契約期間が満了するまでの間に労働者を解雇する「やむを得ない事由」があるとまではいえないと考えられます。なお、この場合、解雇は無効となり、解雇後期間が経過してしまった場合は、少なくとも、その期間に支払われるはずだった賃金相当額を使用者は労働者に支払う義務があります。

【解説】

<労働契約法第17条1項>
「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」

 この「やむを得ない事由」については、厚生労働省から行政解釈が出されており、「法第17条第1項の『やむを得ない事由』があるか否かは、個別具体的な事案に応じて判断されるものであるが、契約期間は労働者及び使用者が合意により決定したものであり、遵守されるべきものであることから、『やむを得ない事由』があると認められる場合は、解雇権濫用法理における『客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である』と認められる場合よりも狭いと解されるものであること」(平成20.1.23 基発0123004号「労働契約法の施行について」)とされています。つまり、有期労働契約の中途解除(解雇)については、期間の定めのない労働契約の場合よりも、解雇の有効性は厳しく判断されます。

【参考】

有期労働契約(期間の定めのある労働契約)の場合の解雇・雇止めについて
 厚生労働省「労働基準法に関するQ&A」の「3 震災に伴う解雇について」をご参照ください。
平成28年熊本地震に伴う労働基準法等に関するQ&A(厚生労働省)

Q10
勤務先の工場が地震で倒壊し、会社も倒産してしまい、退職せざるを得なくなりました。
まだ支払われていない賃金や退職金はどうなるのでしょうか。
A10

 労働者が勤務先に対して有する未払いの賃金などの賃金債権(退職金規程があるときには退職金を含む)は「先取特権」として保護され(民法308条、306条)、倒産手続の中では優先的に保護する規定が定められています。下記の未払い賃金の立替払制度と雇用保険の失業給付の受給手続き(Q6・A6参照)を参考にしてください。

【解説】

未払い賃金立替払制度の活用
 勤務していた会社が倒産し、賃金が支払われないまま退職した場合には、「賃金の支払の確保等に関する法律」(賃確法)に基づき、国から未払い賃金の立替払いを受けられる制度があります。
 立替払いを受けることができるのは、[1]1年以上事業活動を行っていた事業者が倒産した場合で、かつ、[2]労働者が倒産について裁判所への申立て等又は労働基準監督署への認定申請が行われた日の6ヶ月前の日から2年の間に退職した場合です。
 事業者の倒産という要件については、破産、特別清算、民事再生、会社更生の法律上の倒産はもちろんのこと、中小企業については、事業活動が停止し、再開する見込みがなく、賃金支払能力がない状態である場合にも、事実上の倒産として要件を満たすこととなります。この場合には、労働基準監督署長の認定が必要となりますので、労働基準監督署に認定の申請を行って下さい。
 なお、今回の地震を受けて、被災地域における労働者等の事情を踏まえた対応として、申請に必要な書類の簡略化等について、厚生労働省が下記の情報を提供しています。
倒産等による未払賃金の立替払制度について、申請手続きの簡略化を行っています(厚生労働省)

 立替払いの対象となる未払い賃金は、労働者の退職日の6ヶ月前の日から立替払い請求日の前日までに支払期日が到来している定期賃金と退職金です。ボーナスや解雇予告手当、実費弁償としての旅費等は含まれません。また、未払い賃金の総額が2万円未満の場合には対象とはなりません。
 立替払いが受けられる額は、未払い賃金額の8割です。ただし、退職日の年齢が30歳未満の場合には上限88万円、30歳以上45歳未満の場合には上限176万円、45歳以上の場合には上限296万円と上限額が設けられています。
 未払い賃金立替払制度についての手続きの詳細やご相談については、最寄りの労働基準監督署または独立行政法人・労働者健康安全機構にお問い合わせください。
未払賃金の立替払制度の概要(労働者健康安全機構)

Q11
私の勤務している会社は、地震で直接被災していないのですが、「地震の影響で売り上げの減少が見込まれるので解雇する」と言われてしまいました。このような解雇は許されるのでしょうか。
A11

 地震を理由とする解雇についても、地震に乗じた「便乗解雇」は許されません。
 地震に伴う経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされ、雇用調整を行わざるを得ない場合には、雇用調整助成金の活用を検討して下さい。

 労働契約法では、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効であると定められています(労働契約法16条)。

【解説】

 Q11のような場合は、人員削減のための整理解雇であると考えられます。このような整理解雇についても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、権利の濫用として無効になります。整理解雇の場合は、具体的には、[1]人員削減の必要性、[2]解雇回避の努力、[3]解雇対象者の人選基準の合理性、[4]労働組合等との協議や労働者への説明など手続の妥当性の4つの要件(整理解雇の四要件)を満たす必要があります。
 以下、この整理解雇の4要件について、もう少し詳しく説明します。

[1]人員削減の必要性
 まず、人員削減をしなければならない経営上の必要性があるかどうかが問題となります。
 経営状態が悪化し、経費削減の必要性が認められても、それが人員削減によって達成されなければならない程度に達していない場合や、人員削減以外の経費削減によって達成できる程度のものである場合には、人員削減の必要性は否定されます。人員削減の決定をしながら、秘かに新規採用したり、賃上げをするなど矛盾した経営行動がとられた場合には、必要性が否定されます。

[2]解雇回避の努力
 整理解雇は、業績不振・業務縮小などの使用者の事情に基づく事由によるものであり、労働者に責任のない事由によって労働者を失職させるものですから、使用者側が解雇をできるだけ回避する努力を尽くすことが求められます。
 したがって、使用者側が、時間外労働の抑制、労働時間の短縮、他の事業所への配転・出向、一時帰休、希望退職者の募集など、解雇を回避する真摯な努力を行っていないような場合には、人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性が認められるとはいえないと考えられます。

[3]人選基準の合理性
 解雇回避努力を尽くしても人員削減が必要な場合であったとしても、どの労働者を解雇するかについては、客観的に合理的な選定基準を設定し、その基準に基づき公正に選定されなければなりません。

[4]手続の妥当性
 整理解雇は、労働者には帰責事由がないにもかかわらず行われるものなので、使用者は、労働組合や労働者に対し、整理解雇の必要性、規模、時期、方法、人選基準、再就職の支援の内容等について、十分に説明・協議する義務があります。
 労働協約に、整理解雇に関する協議義務条項がないような場合にも、使用者に対しては、労働者の雇用と労働条件が守られるよう、客観的な資料の提示と十分な説明・協議を行うことが必要です。

 解雇や労働の問題で、ご質問やお困りのことがあれば、
「連合なんでも労働相談ダイヤル フリーダイヤル 0120-154-052」にお電話下さい。
 一人でも入れる労働組合の紹介や、労働組合づくりのお手伝いもします。

Q12
地震発生後、勤務している会社の建物にも少しの損壊がありました。3週間の休業の最終日に、会社から電話があり、「賃金を支払えないので、本日付で解雇します」と言われました。解雇予告手当というものがあるようですが、災害の場合は適用されないのでしょうか。
A12

 地震の影響があったからといって、解雇予告や解雇予告手当が自動的に不要になるわけではありません。
 「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」に、労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告や解雇予告手当の支払は不要とされていますが、今回のケースは会社の建物にも少しの損壊があったというものであり、「事業の継続が不可能となった場合」とまでは言えないと考えられます。

【解説】

 労働基準法では、労働者を解雇しようとする場合は、使用者は30日以上前に解雇の予告をするか、予告できない場合は平均賃金30日分以上の解雇予告手当を支払わなくてはならない、と定められています(労働基準法第20条)。
 ただし、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」に、労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告や解雇予告手当の支払は不要とされています。
 この「天災事変その他やむを得ない事由」とは、天災事変のほか、天災事変に準ずる程度の不可抗力によるもので、かつ、突発的な事由を意味し、経営者として必要な措置をとっても通常いかんともし難いような状況にある場合を意味するとされています。また、「事業の継続が不可能になる」とは、事業の全部又は大部分の継続が不可能になった場合を意味するとされています。
 地震の影響とはいえ、会社の建物にも少しの破損があったというものであり、「天災事変のやむを得ない事由」により、「経営者として必要な措置をとっても通常いかんともし難いような状況にある場合」「事業の全部又は大部分の継続が不可能になった場合」とまではいえないと考えられます。地震の影響があったからといって、解雇予告や解雇予告手当が自動的に不要になるわけではありません。
 なお、労働基準法第20条のただし書きは、あくまでも解雇予告や解雇予告手当の問題であり、解雇が法的に有効なのか無効なのかとは、必ずしも直結しません。「地震だから」ということだけで解雇が有効になるものではありません(Q11・A11参照)。