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「つながり」づくりが最大の備え 災害時、連合・労働組合が果たすべき役割とは

関東大震災が発生した9月1日は「防災の日」。9月は大型台風など気象災害の多い時期でもあり、このタイミングで備蓄食料や防災用具といった「備え」をチェックする家庭も多いのではないだろうか。
災害への備えが大事なのは、家庭も地域も、そして職場も同じだ。連合も地震や水害などの災害が発生した際、ボランティア派遣や支援物資の送付をスピーディーに展開できるよう、平時から備えを進めている。森啓記連帯活動局長に、どのような備えを進めているか、そしていざ災害が起きた時、どんな役割を果たそうとしているかを聞いた。

森啓記(もりひろき)連合連帯活動局長

東日本大震災から12年 知見の蓄積から備え・防災へシフト

地震多発国の日本では、数十年ごとに起きる震災が、災害支援と防災活動の転換点となってきた。1995年の阪神・淡路大震災では、全国からボランティアが被災地入りして「ボランティア元年」と呼ばれるようになった。さらに2011年の東日本大震災では、さまざまな組織・団体や企業が被災地の行政機関や支援組織と連携し、より組織的な活動が展開された。

近年の日本は毎年のように豪雨災害に見舞われ、南海トラフ地震、首都直下地震や富士山噴火の被害も想定される。いつ、どこが被災地になってもおかしくないという認識は、誰もが多かれ少なかれ持っているだろう。

連合は東日本大震災では、延べ約3万5000人のボランティアを派遣し、総額8億2500万円の救援カンパを集めた。その後も大きな災害のたびに、千人単位でボランティアを派遣してきた。また、東日本大震災後10年は支援を通じて得た知見の振り返りと蓄積がメインだったが、近年は今後起こりうる災害への備えや防災へと、軸足を移しつつある。

「大災害から組合員と組織、そして地域を守るには、あらかじめ対応できる道筋をつけておくことが大事。ただ連合という一組織ですべての備えができるわけではもちろんなく、行政や関係団体との協働がカギになります」

自治体の多くは、災害発生時に住民避難や避難所の設置などを円滑に進められるようネットワークづくりを進めており、連合も連携に努めている。一例えば地方組織の一つである連合福島は2022年、災害時の情報共有などについて、福島県社会福祉協議会と連携協定を結んだ。連合静岡も、県内のボランティアネットワーク検討会に加入し、災害時に各団体がとるべき行動をシミュレーションする「図上訓練」などにも参加している。

2011年東日本大震災のボランティアの様子。岩手県の津軽石地区での側溝の泥出しなどを行った。
東日本大震災では、3万5000人のボランティアを派遣した

平日も人を送り込み、組織的に活動

連合のボランティア派遣は、加盟する各労働組合が経営側と話し合い特別休暇を設けてもらうことなどによって、平日にも一定の人数を被災地へ送り込めることが「強み」となっている。

個人参加のボランティアも貴重だが、どうしても人数が休日に集中しがち。また初対面の人同士が組んで活動するので、どうしてもコミュニケーションづくりに時間がかかってしまう。

「連合のボランティアは、平日休日を問わず対応できる上、指揮指示系統が整っているので組織的に、そしてスピーディーに活動を進められる点が重宝されています」

災害ボランティア活動で大事なことは、現地での衣食住をボランティア内で完結させ、被災地に負担を掛けないこと。また、ボランティア側の独自判断で「これが足りないだろう」などと支援・行動するのではなく、現地の指示やニーズに従うことも重要だ。同時に、ボランティア自身の安全も確保しなければならない。

連合では、大きな災害が発生した際、地方組織が被災地のボランティアセンターなどと情報を共有し、得た情報を中央の救援本部に集約して、必要な物資や人的支援を行っている。さまざまな業種によって構成される47の産業別労働組合を通じて、食品や資材、衣料品などさまざまな物資を提供してもらったり、特定のスキルを持つ人材を募ったりすることも可能だ。

「東日本大震災以降、連合内部にもボランティア派遣などの多くの経験が蓄積され、熊本地震などではより効率的な支援を展開できるようになりました」

2019年の台風19号でのボランティアの様子。延べ2100名を派遣し、民家の泥出しなどを行った。

現地の声を中央へ届け、制度を変える

連合は、被災地へ労働力や物資を届けるだけでなく、地元の労働組合を通じて、被災者の声を政策に反映させることにも取り組んでいる。

「被災地で生活する組合員が、どんな困りごとを抱えているか、地元の課題解決には何が必要かを政府や自治体に伝え、政策として実現していくことも重要な役目です」

東日本大震災では、ヒアリングチームが毎年岩手、宮城、福島の3県を回り、現地の意見を吸い上げて復興庁へ予算措置などを要請した。中小企業経営者の「補助金の申請に必要な手続きが煩雑で、書類も多すぎる」といった声を受けて、申請手続きの簡素化や、手続きをサポートする人の設置、書類のデジタル化なども実現してきたという。震災を機に深刻化した過疎化に歯止めをかけるため、関係団体などと連携して、地元の魅力を高めるための取り組みにも協力してきた。

また被災者の多くは、生活者であると同時に労働者でもある。生活の立て直しが一段落すると次は「会社が被災し倒産してしまったが、未払い賃金や退職金はどうなるのだろう」といった、職場の問題が浮上する。特に中小・零細企業の場合、経営者と労働者が親しい関係にあることも多く「事業所が倒壊し休業しているが、社長も大変なのに自分が賃金や休業手当を請求するのは申し訳ない」といった悩みを抱える人もいる。連合は労働に関する疑問に答えるため「ワークルール」に関する情報発信にも力を入れている。

「中小・零細企業は、労使ともにワークルールに関する知識が乏しいケースが多いですが、行政の窓口も、使える制度をすべて教えてくれるとは限りません。災害が起こる前に、備蓄や防災用品と同じ『備え』の一つとして、情報を収集しておくことが求められます」

地域によって危機感に格差も 「ぼうさいこくたい」もネットワーキングの場

日本の防災における課題は「地域差」ではないかと、森局長は指摘する。

「災害対応は経験値がものをいいます。災害の頻発する地域と比較的少ない地域では、行政関係者や組織・団体の危機意識に差があり、防災に対するネットワークづくりが進んでいない地域があるのも事実です」

例えば、南海トラフ地震の被害が大きいと予想される静岡県、広い県域に人口が散在しており災害時の支援が届きづらい長野県などは、危機感が強いという。静岡県は、前述したボランティアネットワーク検討会を通じて各団体がつながっていたことが、2022年9月の豪雨災害の際、迅速な支援を展開することにつながった。

「国や自治体は言うまでもなく『公助』の責任を果たすべきですが、公助は届くまでに時間がかかることが多い。自分と家族の命、そして職場と地域を守るには、被災者本人の『自助』、地域の支え合い・助け合いである『共助』がどうしても必要なのです」

9月17日・18日には、関東大震災から100年の節目として、震源となった神奈川県横浜市で「ぼうさいこくたい2023(第8回防災推進国民大会)」が開かれ、400以上の企業・団体が出展する予定だ。連合も2016年の第1回開催から出展しており、これまでにドローンを使って災害支援に取り組む団体や、トレーラーハウスを活用してボランティアのベースキャンプを作る団体など、災害に対して多様な角度から取り組む出展者と、新たな視点でのつながりを深めている。「災害時、必要に応じてさまざまな団体と連携することで、より効率的・先進的な支援ができるのでは」と、森さんは期待する。

「社会が平和で安定していることが、労働組合活動の大前提です。連合が多くの団体と連携して防災に取り組むことは、700万の組合員とその家族の命を守るだけでなく、地域社会全体を守り、安定をもたらすことにつながると考えています」

「ぼうさいこくたい」連合出展ブースでは、連合災害ボランティアのパネルなどを展示。

(執筆:有馬知子)

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