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航空会社の労働組合がカスハラ対策要求
ユニオンエア・ドゥ「地上職員に深刻な被害」

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顧客による過剰な要求や暴言などの「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が社会問題となる中、北海道に本拠地を置く航空会社AIRDOの労働組合「ユニオンエア・ドゥ」が、2024春季生活闘争で経営側に対してカスハラ対策を要求した。三輪谷樹委員長は「お客様とサービス提供者という立場の違いはあっても、互いに尊重しながらコミュニケーションできる社会になってほしい」と訴える。

三輪谷 樹 委員長

欠航や遅延、乗り遅れが引き金に カウンターに長時間居座る人も

ユニオンエア・ドゥのカスハラに関する要求は①チェックインカウンターに監視カメラとボイスレコーダーを設置し、利用客へカスハラを注意喚起する、②名札の廃止、③人員計画書の開示の3点だ。背景には、「グランドスタッフ」と呼ばれる地上職員の被害の深刻化がある。

航空会社で起きるカスハラというと、キャビンアテンダントに対するハラスメントなど機内で起きるイメージが強い。しかし機内では航空法が適用され、乗客が暴れて運航に支障をきたす場合は拘束するなど、運航者がある程度、乗客の行動を制限することが可能だ。またAIRDOのような国内線主体の事業は、移動時間が短いためカスハラも起こりにくい。

一方、天候不良による遅延や欠航などの際に、利用客の怒りや不満を一身に受けるのが、地上で接客するグランドスタッフたちだ。振り替え輸送の案内や、待機場所への誘導などに追われるスタッフに、利用客が何時間も文句を言い続けたり、「死ね」「SNSに名指しで投稿するぞ」といった暴言を浴びせたりする。苛立ちのあまり車いすやベビーカーを蹴飛ばすなど、示威的な行動を取る人もいる。

「飛行機に乗り慣れないお客様が、保安検査などに時間を取られて予定の便に間に合わず『何とかしてくれるまで動かない』とカウンターに居座ることもあります。ひとりのお客様にずっと拘束されて、他のお客様の対応ができなくなることもあります」

一方、飛行機を使い慣れた利用者の中にも、欠航の際に「他社はもっと出してくれた」などと補償額の引き上げを求めたり、公共交通機関が動いているのに、タクシー代を請求したりする人がいる。「何とか目的地まで送り届けろ」とごり押しするケースもあったという。

春季生活闘争における労使交渉

人手不足でカスハラ通報できない SNS拡散リスクも

ユニオンエア・ドゥは組合員の声をもとに、監視カメラやレコーダーの設置や、カスハラ行為やカスハラ行為に対する対応方法等を表示することなどが、未然防止につながると訴える。これに対しては経営側も前向きに検討する姿勢を示しており、関連する法律や施設面の調査・確認をした上で、回答するとしている。

ただ名札の廃止については、SNSで名前をさらされることへの懸念などを訴える組合側に対し、経営側からは「お客様から名指しでお褒めの言葉を頂くこともあり、名札がインセンティブを高める効果もある」との意見も出ており、労使で時間をかけて検討することになった。

「確かに褒められることもありますが、『名指しでクレームを入れる』といった脅しの方が多い。また名札のそばにつけた空港内立ち入り制限エリアへの通行パスがSNSに映り込むと、偽造されて制限エリアに不法侵入されるといった保安リスクにもつながりかねません」

人員計画の開示については、組合側は2022年から、人手不足の状況を把握したいとして要求項目に掲げてきた。今年は「人手不足がカスハラを引き起こす要因にもなっている」という理由を新たに追加したが、経営側から満足のいく計画は提示されていない。

「現場では人が足りず、カスハラを受けている職員のヘルプにも行けない。経営側に情報を開示してもらい、労使で対策を協議する必要があります」

AIRDOでは、カスハラによる警察対応の件数が前年に比べて減少した。しかしこれは通報や警察対応に必要な職員すら確保できないため、泣き寝入りすることが増えたためだった。

「経営側は当初、トラブル自体が減ったと捉えていました。組合が認識の誤りを指摘したことで、カスハラに対する経営側の危機感が高まったと思います」

職場では数人が、カスハラのためにメンタルヘルス不調に陥り休職している。組合員に限らず管理職に当たる現場マネジャーの中にも、出社後オフィスから現場に出られない、うつぎみで笑顔が見られない、といったメンタルの問題を抱える人が出ているという。

春闘合宿にてカスハラ対策などを議論

旅客需要回復で人手ひっ迫 安全性に懸念も

航空業界では、コロナ禍による経営悪化で人材が流出し、グランドスタッフだけでなく航空機の誘導などで運航をサポートする「グランドハンドリング」のスタッフも含めて人手不足感が強まっている。そこへインバウンド需要に伴う旅客数の急回復が重なり、人手不足に拍車が掛かってしまった。

「航空業界は『あこがれ』が応募の原動力になってきました。しかし若者が、空港でカスハラされる職員の姿を目の当りにしたら『あこがれ』は潰れてしまいます。良い人材を採用し定着させるためにも、カスハラをなくし働きやすい職場を実現することが不可欠です」

AIRDOでも、語学の堪能なベテランが外国人旅行客に対応している間、経験の浅い職員に搭乗案内を任せざるを得ない、といったこともある。接客スキル不足をきっかけにクレームが発生して他の旅客の搭乗手続きが停滞し、不満が高まってさらなるカスハラを招く…といった悪循環が、いつ起きてもおかしくないのが実状だ。

さらに懸念されるのが、輸送の安全性に関わる「不安全事象」の発生だという。

「スタッフがカスハラを受けて本来の業務に戻れない場合、3人で担うべき仕事を2人で、さらには1人でやらざるを得ないという事態も起こり得ます。飛行機を定刻に出発させなければいけないというプレッシャーもある中、運航の安全性も揺らぎかねません」

スタッフも人間 怒り覚えたら思い出して

AIRDOはカスハラ対策のガイドラインを策定し、職場に共有している。しかし従業員への周知や教育は十分ではないと、三輪谷さんは話す。

「カスハラは多種多様なので、ガイドラインを一律に適用できるとは限りません。経営側には従業員への周知・教育とともに、注意喚起の表示によって利用者側のマインドを変えることなどにも併せて取り組んでほしい」

またカスハラ対策を要求した思いについて、三輪谷さんは以下のように語る。

「これまで組合員の多くは、非常時に多くのお客様に対応する中で、ある程度カスハラへの耐性を身につけざるを得ませんでした。しかし今日カスハラを受け流せた人が、明日も無事でいられるとは限らない。労働組合として、正面から対策を求めるべきだと考えました」

組合員からも「フロントラインにいる組合員を、しっかり見てくれていることが分かった」といった声が寄せられている。今後は要求実現に向けた活動を続けるとともに、カスハラに対応するための「基本方針」の策定なども、経営側へ働き掛けたいという。

「1社で取り組むのは限界もあるので、産別(航空連合)にも航空業界全体でガイドラインを作ったり、情報を発信したりするよう呼びかけていきます。連合も、各産業のカスハラ対策を広く発信するとともに、政府に対して労働者を守る目線で、法制化を働きかけてほしい」

さらに、利用する顧客の側にも、こんなお願いをした。

「従業員は精一杯努力していますが、それでも遅延、欠航は起きてしまうので、お客様が怒りを覚える場面もあるかもしれません。ただ何か言う前に一度立ち止まり、従業員も皆さんと同じ人間、尊重されるべき存在であることを、思い出していただければと思います」

三輪谷委員長(航空連合 定期大会 レセプションにて)

(執筆:有馬知子)

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