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「変化とストレス」こころにホットタイム【12】

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(月刊連合2021年4月号転載)

皆さま、こんにちは。4月、新年度です。昨年からのコロナ禍で多くのことがイレギュラーな中、新入社員の入社や、異動・役職変化も多い季節になりました。今回は、「変化」をテーマにお話をしたいと思います。

コロナ問題で、すべての人がさまざまな変化に直面することになりました。その大変さは身をもって感じられているところだと思います。部署異動、初めての仕事、経済状態の変化、これらは人生の中での大きな出来事、「ライフイベント」とよぶことができます。

初期のストレス研究で、ホームズとレイによる「社会的再適応評価尺度」という有名なものがあります。これは1960年代の米国において、結婚から日常の生活に適応するまでに要するエネルギーを50点とした時に、他のさまざまなライフイベントが何点にあたるか調査したものです。配偶者の死100点から、食習慣の変化等まで、大小の項目が点数化されています。仕事関係も失業や退職、新しい仕事への再適応や仕事上の責任変化等多くの項目が入っています。さらに、1年間のライフイベントの点数を合計した時に、300点以上の場合はその後1年の間に8割、200点台で約半数の人に健康上の問題が生じたという研究結果が出されました。ライフイベントが重なることは健康リスクを高めることを示し、ストレスを数値化して病気との関係を明らかにしたという点で歴史的な研究となりました。

今回これを紹介してお伝えしたいことのひとつは、そのライフイベントには結婚や就職などおめでたいことも入っているということ、つまりおめでたいことでも変化に適応するには相当なエネルギーを要するということです。そしてもうひとつは、何か変化がある時は複数の変化を伴っていることが多いということです。

新年度に多い就職・転勤・部署異動・役職変化等は、「新しい仕事への適応」です。就職や昇進はおめでたい、しかしとても大きな変化です。学生から新入社員となった人は、慣れ親しんだ学生生活と別れて、社会人という責任ある世界に足を踏み入れることになります。就職を機に親元から離れる人もいます。これは、「就職」の他に「引越」「親に保護される生活から一人で何でもする生活」等、多種類の変化に適応する必要があるということです。昇進も、「元の立場との別れ」「新しい役割への適応」の他、もし部署異動や転勤を伴っていれば「元の部署との別れ」「新しい部署への適応」に加え引越や、家族と共にする生活との別れも伴っているかもしれません。

先の研究は50 年以上前の米国のもので、項目や点数をそのまま現代の日本人にあてはめることはできません。その後のストレス研究で、人は何か出来事があったからといって皆同じようにストレスを受けるわけではないことも知られています。ストレスにはストレス対処という対抗が可能であることはこれまでお話ししてきた通りです。変化はストレスになりうることを忘れずに、知らないうちにストレスをためこんでメンタルヘルス不調や心身症にならないよう、しっかり休養も取りながら焦らず長い目で見て適応する、あるいは適応をサポートしたいものです。

矢吹弘子 やぶき・ひろこ
矢吹女性心身クリニック院長
東邦大学医学部卒業。東邦大学心療内科、東海大学精神科国内留学を経て、米国メニンガークリニック留学。総合病院医長を経て1999年心理療法室開設。2009年人間総合科学大学教授、2010年同大学院教授、2016年矢吹女性心身クリニック開設、2017年東邦大学心療内科客員講師。日本心身医学会専門医・同指導医、日本精神神経学会専門医、日本精神分析学会認定精神療法医、日本医師会認定産業医。
主な著書:『内的対象喪失-見えない悲しみをみつめて-』(新興医学出版社2019)、『心身症臨床のまなざし』(同2014)など。

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