医療・介護の働き手が集まるイベント「医療・介護フェス2024~安心と信頼の医療と介護 中央集会~」が5月18日、リアルとオンラインのハイブリッドで開かれる。病気や家族の介護などで、誰もがお世話になる可能性のある医療・介護だが、人手不足が深刻化し、受け入れ体制がひっ迫するケースも。今現場で何が起きているのか、働き手のホンネを聴いてみてはいかがだろうか。
「看護師は好待遇」? 世間のイメージとギャップ
フェスは主に医療・介護に関わる労働組合の組合員が参加し、1997年から開かれている。コロナ禍で2020年は一時休止されたが、2021年にはオンラインで再開され、今年は5年ぶりに対面の開催が復活。同時にYouTubeでのライブ配信も行う。
2022年に行われたオンラインのフェスでは、現場の第一線で働く人がインタビュー動画やパネリストとして登場し、コロナ禍での苦労を語った。中には「医療従事者というだけで偏見を持たれる」「感染すると患者さんにもうつってしまう恐れがあるので、ちょっとした買い物にも行きづらく、私生活が制限されるのがつらい」といった声もあった。
そして現在、最大の課題となっているのは人手不足だ。民間の病院や介護施設で働く看護師・介護士らが加盟するUAゼンセンの総合サービス部門医療・介護・福祉部会事務局長、山﨑茂治さんは「民間の小売業や流通・サービス業で5%以上の賃上げも広がる中、公定価格である医療・介護業界は完全に置いていかれている。現場からは『給料が上がらずモノだけが値上がりしている』という嘆きの声が上がり、人材の獲得も難しくなっています」と訴える。
専門職で比較的収入が高いと見られてきた看護師の待遇も「社会のイメージとはだいぶギャップがあります」。
医療サービスの利用に関わる診療報酬は2年に1回、介護報酬は3年に1回、それぞれ改定される。2024年6月に実施される報酬改定では医療・介護従事者の賃上げに向けて、2024年度は2.5%、2025年度は2.0%のベースアップ対応分が加味されたがが、物価上昇分も吸収できない計算だ。現場からは「命を預かるプレッシャーを日々感じながら働いているのに、給料は見合っていないと感じる」(看護師)といった声も上がっているという。
2022年のフェスでは、病院に勤める管理栄養士の女性がリモートで登壇し「人手不足で余裕が失われ、残された人の使命感、正義感に頼る中、その人たちも耐えられなくなり離職する負のスパイラルを生んでいる」と訴えた。コロナ禍で医療従事者に対する差別や偏見が広がって以降、医療現場で働く人たちが、患者・家族から暴言や威嚇的な言葉をぶつけられるなどのハラスメントも増えているという。
介護を「子どもに勧められる仕事」にしたい カギは処遇改善
医療と同様に人手不足が深刻化しているのが、介護の現場だ。高齢化で要介護者は増える一方だが、介護施設を新設しても働き手が集まらず、やむなく一部のフロアを閉鎖したままで運営したり、予定していたショートステイのサービスを始められなかったりするケースが頻発していると、山﨑さんは指摘する。
「専門資格を持たない働き手は、求人時給が最低賃金と同水準ということも珍しくありません。一方、流通や小売業は人を集めるため時給を引き上げており、あえて介護を選ぶ働き手は減っているのが現状です」
「介護=きつい職場」というイメージも、採用難に拍車を掛けている。介護ロボットやデジタルツールの活用による負担軽減も少しずつ広がってはいるが、介護は小規模事業者によって運営されるケースも多く、設備投資の余地が限られてしまう。現場に長く勤務するベテラン職員が、新しい機器の導入に不安を覚えたりうまく使いこなせなかったりすることもあり、思うようには進んでいないという。
ただ2022年のフェスでは、登壇したケアマネジャーが「介護は確かに大変なこともあるけれど、嬉しいこと、楽しいこともあるのを、もっと多くの人に分かってほしい」と語った。
介護施設の職員だった山﨑さんも「介護は、利用者さんが人生の最後のステージを笑顔で過ごすためのお手伝いをする仕事。それができたと思えた時には、『この業界で働いてよかった』と思えます」と語った。
ただ厚生労働省の調査によると、介護職員の平均給与(賞与込み)は月29万3000円で、全産業平均の36万1000円とは大きな差がある。「今の処遇では、自分の子どもが『介護業界に進みたい』と言っても、勧めるのをためらってしまいます」(山﨑さん)。
介護の担い手がいなくなり、高齢者の受け皿がなくなった時困るのは本人と、介護を担う家族に他ならない。「介護の仕事を次世代の子どもたちに担ってもらうにも、処遇改善は不可欠。引き続き他産業との格差解消に取り組まなければいけません」
医療・介護の現場を知るチャンス 多くの人に見てほしい
今年のフェスでも、各労働組合から職場の悩みや課題、処遇改善の取り組み事例などが発表される。こうした現場の声をもとに、厚生労働省へも処遇改善に向けた要請を行う予定だ。
フェスを主催する連合の本多一哉生活福祉局部長は「今年度は医療、介護、障害福祉という3分野の報酬改定が同時に行われる『トリプル定改定』の年。改定された数字を着実に、実際の賃上げに結び付ける必要があります」と強調する。
そもそも診療・介護報酬は制度が非常に複雑で分かりづらく、事業者からは手続きの負担が大きいという声も上がっている。
「連合としても手続きの簡素化やデジタル化など、改定内容を反映させやすくする環境整備を訴え続けています。賃上げの必要性がクローズアップされた今年度の報酬改定を活かして、各労働組合も労使交渉を通じて着実な賃上げを勝ち取ってほしい」
また本多さんは「YouTube配信の視聴を通じて、介護・医療の業界や組合活動に直接関わりのない人にも参加してほしい」とも話した。
「私自身も病気になれば病院に行きますし、祖父母は介護施設に入所していました。誰もが患者・利用者になる可能性がある業界ですが、そこで働く人の実態を知る機会は、あまりありません。フェスは最前線で働く人の生の声を聴ける貴重な機会になるはずです」
医療・介護業界を志す学生などにとっても、現場を知る良い機会になるはずだ。
「医療・介護従事者たちが、人々の健康や幸せを支えるという自負を持って働いていることを多くの人に知ってもらいたい。それによって患者・利用者にも、仕事に見合った賃金や処遇を実現すべきだという気運を高め、処遇改善の流れを強める必要があります」
厚生労働省の労働組合基礎調査によると、2023年の医療・福祉の労働組合員数は約50万人、推定組織率は5.6%となっている。全産業の推定組織率(16.2%)に比べて低い水準だ。
「待遇改善をはじめ、働き手の求める政策を実現するにはより多くの仲間が集まって声をあげることが不可欠です。ライブ視聴を通じて、組織化されていない労働者にも連帯を呼び掛け、組合への加入も促していければと思います」
(執筆:有馬知子)