地域で働く人を支える「縁の下の力持ち」地方連合会の取り組みを紹介する本シリーズ。第2回は、大学との共同研究や地産地消のお祭りを通じて、非組合員も含め幅広い人を巻き込んで活動する島根県連合会(連合島根)に話を聞きました。ちなみに連合島根の事務局長、景山誠さんは「中国ブロックに景山あり」と言われる名物事務局長だとか(連合本部談)。どんな思いで活動に取り組んでいるのでしょうか。
景山誠 連合島根事務局長
大学との共同研究で、企業と学生のギャップに気付く
連合島根は2021年、県内への就職・定住者を増やす方法を探るため、島根県立大学と共同研究を始めました。景山さんは「特に若い世代に、県内企業に魅力を感じて『働きたい』と思ってもらうには、当事者である若者の目線が不可欠だと考えました」と説明します。研究を通じて、若者にとってなじみの薄い労働運動や連合について、理解を深めてもらいたいとの狙いもありました。
1年目はアンケート調査を通じて、企業と学生の意識のギャップを調べました。その結果、企業側は島根県内で働くメリットとして「自然豊かな環境」「生活のしやすさ」を挙げる声が多かったのに対し、学生は「地域活性化への貢献」など社会へのインパクトを重視していることが浮かび上がりました。さらに企業の74.9%が、ハローワークを情報発信の主なツールと考えているのに対し、ハローワークで情報収集する学生は2.4%にすぎませんでした。
「県内企業が魅力をPRする時の方向性も、情報発信のツールやタイミングも、学生のニーズとはかけ離れていることが分かり、目からウロコが落ちる思いでした」
2年目は島根県が全国一起業率の低い県であることに着目し、理由を考えました。その結果、ワンストップの行政支援や伴走型のサポートがないため、若者が起業を志しても途中で課題に直面し、断念するケースが多いという分析に至りました。
3年目は島根県のインバウンドを研究。最終年度の今年度は、定住・就職促進に向けた提言を出すことを目指しています。共同研究は、同じ人が4年間続けて取り組んでいるため、学生側の思い入れも深いそう。連合島根のスタッフとも、定期的に意見交換などの場を設けて交流しているそうです。
「研究に参加した学生が就活で、組合の有無を意識してくれるかもしれないし、就職して連合の加盟組合に加入してくれるかもしれない。直接関わったのは20人ほどですが、同僚や友人に労働運動の大事さを伝えてくれれば、広がりも出てくると期待しています」
本部の方針に独自の「プラスワン」を加え、活動を盛り上げる
2023年には4年ぶりに、地産地消を進めるための大規模なイベント「地SUN地SHOW祭り」も復活しました。「連合が日々取り組んでいる食の安全や地産地消の、集大成的なイベント」であるこのお祭りには、加盟組合やNPOなど約30団体が、産地直送野菜の販売や地元食材を使った料理の屋台を出店。また島根県のブランド卵「こめたまご」の配布や伝統芸能「岩見神楽」のステージなどもあり、2000人以上の市民が訪れました。
持ち込まれた後は、キズや傷み等がきれいに整えられ、再販売される
古本の寄付を集めて修復し、ネット通販などで販売する「ReBook」事業も、2014年から続けています。障がい者の就労支援を担う県内のNPOと連携し、本の修復作業を障がい者に任せて売り上げを報酬として還元する仕組みを作っています。
また環境保護活動として植樹を行っている「連合島根の森」に小屋を建て、夏休みに親子を集めて自然観察会を開いています。木工工作や自然観察のほか、子どもたちによるヤマメのつかみ取りも人気で、毎年100人以上の枠がすぐに埋まるそう。取ったヤマメをさばいて焼くのは景山さんら連合スタッフで、何年も焼き続けて今や慣れたものだとか。
「最初は電気もなく携帯も繋がらない場所でしたが、一畑電鉄の枕木やNTTの木造の電柱を頂いて再利用するなどして、小屋を建て設備を整えました。宿泊もできるので、バーベキューをしに来る家族連れも多いです」
お祭りや自然観察会など通じて「連合島根」の名前も少しずつ市民に認知されるようになってきました。
また「連合の森」事業や地産地消、NPOとの連携などは、いずれも元をたどれば連合本部が打ち出した活動です。連合島根はそこに独自の工夫を上乗せし、活動を盛り上げてきました。
「地方連合会は連合本部の方針をおうむ返しにするだけでは、存在価値を発揮できない。地域性や地元の人脈など『プラスワン』を加えて地元にフィットさせるのが、腕の見せ所だと思っています」
景山さんたち執行部が今、最も重視している活動が「社会対話」です。
「連合島根の活動が独りよがりにならず、地域の人に役立つ存在になるには、これまで以上に顔の見える運動を展開し、地域の声を聞く必要があります」
経営者や行政機関との対話を重視している点も、連合島根の大きな特長です。2023年の最低賃金の協議でも、日ごろの関係作りが功を奏し、前年比47円増の904円と全国最大の上げ幅を実現しました。コロナ禍でも労使が「雇用を守る」という共同声明を出し、合同で記者会見も開きました。
「共同声明は我々の拠り所にもなりましたし、経営者側と連合との信頼関係を強める効果もありました」
方向性が一致する活動については、公労使がともに取り組むことで、互いに「相手の信頼に応えよう」というインセンティブも生まれるといいます。地方連合会の活動の柱である選挙活動でも、普段の地道な取り組みが、市民のボランティアや投票などの行動を呼び起こすのです。
「お世話になれば当然、返したい気持ちが出てくるもの。連合も、ひとつひとつの活動にしっかり取り組み責任を果たすことで、経営者や行政、市民の皆さんに『お返ししよう』と思ってもらえるようになりたいと考えています」
組合員も説得 公務サービスを組合が担う時代も
社会対話に当たっては、非組合員へ資金やマンパワーを拠出する必要もあります。例えば連合島根は島根県立大との共同研究に、年間150万円を支出しているほか、中国労働金庫を通じてNPOに毎年50万円を提供しています。コロナ禍でも「マスクを買って配るより、子育て支援をしよう」ということになり、子ども・子育て支援に300万円を寄付しました。こうした投資が回り回って、島根への定住者を増やし人口流出に歯止めを掛けるといった、より大きな効果をもたらすと考えているからです。
「共同研究では、人口減で若者一人ひとりの重要性が増していること、県内就職者が1人増えれば費用対効果はとても大きいことを説明しました。活動の意義や地域にもたらす長期的なメリットをきちんと示せば、加盟組合にも必ず理解してもらえます」
島根県では人口減少が大きな課題となっていますが、一方で若い世代は、学校教育で地域社会について学ぶ機会が多く、SNSを通じて地元の友人とのつながりも維持しています。このため首都圏などに出ている人の中には、いずれは帰郷して暮らしたい、と願う人も多いといいます。連合島根も、帰郷者の受け皿となる雇用や生活環境を整備するための取り組みを続けています。
また景山さんは、働き手ひとりひとりが孤立する中、労働者は「助けを求める手」を伸ばしづらくなっていると指摘します。
「『助けを求める手』が見えさえすれば、私たち労働組合も『助ける手』を伸ばせる。労働相談や組織化などの取り組みを通じて、労働者がSOSの声を上げられる社会を作りたいのです」
これがイチ押し!地元の名産・名所
景山さんおススメ!櫻井家住宅(奥出雲町)
江戸時代に建てられたとされる武家住宅で、国の重要文化財、県の有形文化財にも指定されています。島根県は日本古来の製鉄法である「たたら製鉄」が今も残っており、櫻井家も製鉄を振興しました。併設された歴史資料館と美しい日本庭園も魅力。2023年放映の人気ドラマ「VIVAN」の舞台にもなりました。
松江城(と、お抹茶・和菓子)
国宝である松江城は、江戸時代の天守が現存していることで有名。屋根の鯱(しゃちほこ)は、木造の鯱として日本で最大とされます。健脚の持ち主はぜひ、天守に上がってみましょう。 また島根県は、松江藩7 代藩主の松平治郷が茶道を広めたことで、お茶を嗜む文化も浸透しています。松江城山公園では、定期的に日本三大茶会の一つである「松江城大茶会」が開かれ、お茶と和菓子を頂くこともできます。
副事務局長・青木政史さん推薦、金屋子神社(安来市)
製鉄に関わる「金山彦命」と「金山姫命」を祀った神社で、全国に1200社ある金屋子神社の総本山です。御影石造りの大鳥居も見どころの一つです。
島根県は日本古来の製鉄法である「たたら製鉄」が今も残っており、産出される「玉鋼」は強靭な日本刀の原料となっています。「古事記」の主な舞台である島根県には、このほかにも神話にまつわる名所がたくさんあり、歴史好きには見どころ満載です。
島根グルメの代表、「出雲そば」
日本三大そばの一つが出雲そば。そばの実を殻ごと挽くため、粒が残って色が黒いのが特徴です。お店によってネギやもみじおろし、のり、卵、とろろなどさまざまな薬味が用意されているのも魅力となっています。
何だかわかる?宍道湖七珍(しっちん)
宍道湖は海水と淡水が混じった「汽水湖」という特性から、歴史的にさまざまな魚介類の「珍味」が生まれました。代表的な7種類の珍味の頭文字を取ったのが「すもうあしこし」。あなたは何か分かるかな?ぜひ調べて、そして現地で味わってみてくださいね。
(執筆:有馬知子)