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身近な労働組合への道 Vol.1

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TUCのリブランディング 「古臭さ」脱却へリブランディング実施
若い労働者にアプローチ

連合は、すべての働く人にとって「必ずそばにいる存在」をめざして活動を進めている。しかし、働く人たちは連合や労働組合をどう思っているのだろうか。連合が実施した「連合および労働組合のイメージ調査」(2023)では、「伝統的」「保守的」という、距離感のあるイメージが上位にあがった。そこで、連合は今、もっと「身近な存在」に感じてもらえるよう「労働組合のブランディング」というべきイメージアップ戦略をスタート。その第一歩が「はたらくのそばで、ともに歩む」という統一ワードがデザインされた新しいタグラインロゴだ。ちなみに「ブランディング」とは、その存在・活動(ブランド)について、働く人たちが身近で魅力的であると感じてくれるようにイメージアップをはかり、自分たちが伝えたいメッセージをより効果的に発信していくことという意味だが、実は海外の労働組合も同じ課題に直面し、様々なチャレンジを始めている。そこで、本シリーズでは、海外を含めた先進的な取り組みを追いかけ、「身近な労働組合への道」をさぐることとした。
(季刊RENGO2024年春号転載)

Nisha Sachdev-Patel(ニーシャ・シャクデブ・パテル)
イギリス労働組合会議(Trades Union Congress)
プロジェクト・マネージャー

TUCにてプロジェクト・マネジャーとして6年間勤務。第3セクターおよび商業セクターにおける、例えばブランド、CRM(組合員とのコミュニケーション)、法令ガバナンス、技術、通信などの改革プロジェクトを統括した経験を持つ。

25歳以下をターゲットに 
活動ではなく「伝え方」を変える

1868年設立と世界で最も歴史の長いナショナルセンターであるTUCは、48の加盟組合で構成され、組合員数は550万人に上る。リブランディングのきっかけは、2018年に設立150周年を迎えたことだ。
「経済構造が変わる中、労働組合を必要としている人はかつてないほど増えています。150周年の節目に、現代社会にフィットしたモダンな姿へと組合の見せ方を変え、必要とする人にリーチできるようにしたいと考えました」
TUCが調査した結果、50代以上の人は4割程度が組合に加入しているが、21~30歳の加入率は16%にすぎなかった。さらに18~24歳の人の8割は、TUCの存在自体を知らず、特に民間セクターでの認知度が低かった。
「若い世代は組合に関する知識が乏しく、TUCを知っていても『オールドファッション』というイメージを持つ人が多かった。そこで25歳以下にターゲットを絞って組合の方からアプローチし、どういう組織なのかを伝えようとしました」
TUCのブランド刷新は23年ぶり。
新ブランドは新しさをアピールしつつも、経済構造の変化に耐えうる普遍性を備え、10数年にわたってTUCの社会的意義を伝え続けられる内容にする必要があった。
ただリブランディングの狙いはTUCの活動を変容させることではなく、あくまでコミュニケーションのあり方を見直すことだった。
「TUCの価値は変えず、文章表現や視覚的なロゴなど『伝え方』を変えることで、若者に私たちの存在意義や社会的な役割を伝えなければいけない。ただそのために私たち自身も『TUCとは何か』を改めて見つめ直すことになり、活動も深化しました」
調査を通じて、TUCの組織内で女性の存在感が高まっていることも見えてきた。このためリブランディングに当たっては、若い層をメインターゲットに据えつつ、女性や非組合員の働き手といった、多様な人々へ組合の必要性を訴えかけることも重視したという。

1年半かけ新ブランド構築 
関係者の意見聞きブラッシュアップ

TUCがリブランディングにかけた期間は18ヵ月に及び、組合幹部も初期のプロセスから関わってきた。
まず取り組んだのが、調査を通じた実態の把握だ。前述した意識調査に加えてスタッフへのヒアリングを行い、さらに加盟組合や外部の関係者30人にもインタビューを実施。組織内で、TUCが社会的な価値を発揮するためには何が必要かを考えるワークショップなども開いた。専門家であるブランディング会社の力も借りた。
「リブランディングは単に見た目を変えるのではなく、私たちがなぜ存在し、何をする組織なのかを理解してもらうことが目的。このため内容については様々なステークホルダーからフィードバックをもらい、幹部とも時間をかけて議論しました」
その結果、視覚的には「若者がロゴなどをパッと見て、TUCの姿をイメージできる」ことを重視。どことなく古臭かった従来のロゴをモダンな色味へと変え、文字も矢印をイメージしたデザインにして、活動のスピード感と「労働者と同じ方向へ動き続ける」という理念を表した。また組織のスローガンである「タグライン」も、最初に提案されたものを約3ヵ月かけてブラッシュアップし、最終的に「Changing the worldof work for good(良い方向に仕事の世界を変えていく)」に決定した。
こうして具体的なブランドデザインを決定し、テスト導入なども経て2017年9月、TUCの定期大会で新ブランドを正式に導入した。

内部の説得に苦労も
研修などを通じ職員の理解促す

リブランディングはウェブサイトや出版物、さらに本部内の表示に至るまで多くのアイテムを変える大掛かりなプロジェクトだ。予算やマンパワーも含めて多くのリソースを掛けるだけに、組織としてリブランディングの意思決定を下すには、かなり苦労もあったようだ。執行部や加盟組合の幹部などの理解を得るため、多くの会議を重ねたという。
「まず調査結果などのデータを示して、TUCを必要とする人はいるのに組織拡大にうまく結び付いていない現状を説明しました。そして現代社会に対応したブランドに変えなければ、TUCの将来の存続が危うくなると説得したのです」
またロゴなどの視覚的なデザインだけでなく、話し言葉、書き言葉など伝え方もフレッシュで親しみやすいイメージへ変える必要があった。このためガイドラインを定めて全スタッフに通達し、研修なども行った。
労働組合で使われる文章には、政策提言などを前提とした硬い表現や、組織内だけで通用する単語が多用されがちだ。ガイドラインではこれを見直し、英国の大衆紙「デイリー・ミラー」のように、多くの人に分かりやすい言葉をモデルとして設定した。無味乾燥な文章を避け、労働者の一員として共感を持ってもらえるような言い回しを心掛ける。一方で、メディア向けのキャンペーンの告知なら『取材したい』と思わせ、政策提言は行政担当者を説得できる表現を使うなど、文書ごとにターゲットを明確化し、対象者に適した言葉を使うことも必要だとした。スタッフにガイドラインに適した表現を使ってもらうためのトレーニングに、約2週間を費やしたという。
「プレスリリースを書く、プレゼンテーションするといった様々な演習を通じて、理解を深めていきました。ブランドに合ったトーンで書いたり話したりすることは非常に重要であり、定期的に研修を続けています」

若者との対話が生まれ、ブランドの微修正にも着手

リブランディングして6年。予算不足で大きな意識調査が難しいこともあって、イメージアップを示す数値的なエビデンスは得られていない。ただ、かつてアクセスしづらかった若者層や、若い活動家とのコミュニケーションは着実に生まれているという。
Instagramのフォロワーが増加するなど、SNSを通じたアプローチも効果を上げ始めた。
「SNSのような新しい手段を使ったことで若い人たちとコミュニケーションができるようになりました。フォロワー増加のペースが鈍いなど課題もありますが、遅々とした歩みでも続けることに意味があると思っています」
今後もテクノロジーの活用など様々な方法に挑戦したいという。またSNSでの訴求だけでなく、教育研修を担うTUCの関連組織などを介しても、若い世代との接点を増やそうとしている。
一方、6年間運用を重ねる中で、細かい修正点も目につき始めた。このためリサーチや加盟組合との意見交換を通じて、新ブランドの使い勝手などについてフィードバックを得て、ロゴなどの微修正にも取り組むという。
「ブランドは、一度作って終わりではありません。ペーパーレス化が進む中、ロゴをデジタルフォーマットに適した形へ修正したり、黒人やマイノリティなど白人系以外の人たちへの包摂性を意識し、色遣いを少し変更したりする必要もあります。
若い労働者、といった特定の層に絞ってリソースを投じるのは、すべての労働者を支える立場のTUCにとっても、また加盟組合にとっても、合意形成を得るのが難しい面もある。「ブランディングでは、若者だけでなく様々な層に違和感なく受け入れてもらうことも大事です。ただTUCとして若い世代のサポートは、活動を持続させる上で重要な柱の一つと考えており、今後も活動を理解してもらうためのアプローチを続けます」

Paul Nowak(ポール・ノアック)TUC書記長

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