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第14回 「子持ち様」と「マッチョな職場」 

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働き続けていれば

朝の家事タイム。洗濯物を干したり、洗い物をしたりしながら、テレビの情報番組をつけっぱなしにしているが、5月初め、「衝撃 妻の働き方で世帯年収2億円の差 都が試算」という『モーニングショー』(テレビ朝日)の特集に目が釘付けになった。

東京都の有識者会議「東京くらし方会議」が今年3月、女性の出産後の働き方の違いによる生涯世帯年収(年金含む)の試算を公表。①育児休業取得後に同じ職場に復帰する継続就労型、②退職して10年後に年収300万円で働く再就職型、③退職して10年後に年収100万円で働くパート再就職型、④退職してずっと専業主婦となる出産退職型の4つの類型について、①約5億1000万円、②約3億8000万円、③約3億5000万円、④約3億2000万円という数字を示した。①と②の差は確かに大きいが、②③④の差が小さいことにもちょっと驚いた。


おそらく「年収の壁」を超えて働こうという動きが広がらない中で、女性の「継続就労」を後押ししようという意図があってのことだと思う。「年収の壁」を超えないことで夫が得られる税の控除や手当などの総額が約670万円であることも示されていた。

10年ほど前は第一子出産後に仕事を辞める女性は5割を超えていた。②や③を選んだミドル世代は、「働き続けていれば」と「辞めるしかなかった」という思いが交錯して、ちょっとモヤッとしてしまいそうな数字だ。

男性の4割が就労継続=両立コースを希望

でも、若い世代はとっくに「継続就労型」を望んでいる。

国立社会保障・人口問題研究所は、数年に一度、「18歳〜34歳の独身男女」を対象に「夫婦の理想の働き方」について調査している。
こちらは、
「両立コース」…結婚や出産後も仕事を続ける
「再就職コース」…結婚や出産などで退職した後、子育てが落ち着いてから再び働く
「専業主婦コース」
「DINKsコース」…子どもを持たないで働く
という選択肢になっているが、直近の調査では男女ともに継続就労型である「両立」が1位。

驚かされるのは、男性の急激な意識の変化だ。
1990年前後は、男性が女性に期待する働き方として「両立コース」を望む独身男性は10%ほどで、「専業主婦」と「再就職」が40%前後で拮抗していた。ところが、2000年代初めには「両立」が「専業主婦」を逆転して急伸。直近の調査では「再就職」も抜いて約4割に達している。女性は、30年前に3割を超えていた「専業主婦」が15%程に低下し、「再就職」が25%、「両立」が34%。男性の方が変化の振れ幅が大きいのだ。

家庭内Z世代女子(以下、Z女子)に聞いても、「継続就労型(両立)」一択らしい。同じ会社で一生働くことはないだろうけど、専業主婦とか再就職パートという選択肢はないそうだ。結婚にはリスクがつきもの。経済的自立はマストだという。
家庭内Z世代男子にも「男は大黒柱」という発想はない。生涯世帯年収の試算を見たら「絶対、継続就労型がいい!」と言うだろう。だったら、家事スキルをもっと身につけたほうがいいよとアドバイスしたが、Z世代に「結婚=永久就職」という世界観はもはやないのである。

両立が困難で退職することは、本人にとっても、職場にとっても、大きな経済的損失だ。若い世代の意識も変化している。そこで、この間、両立支援制度の拡充(育児・介護休業法改正など)が急ピッチで進められてきた。育児休業を取得しやすい雇用環境の整備や育児休業の周知が義務化され、男性の取得促進策として産後パパ育休の創設や分割取得などの制度もできた。

でも、それでも、職場には「継続就労=両立」を阻む見えない壁が存在する。

職場のマネジメントをする立場にいるのは?

「生涯世帯年収」を取り上げたその日の『モーニングショー』には第2のテーマがあった。「大論争 “子持ち様”仕事の負担 広がる分断」だ。

3月配信の当コラム「少子化についての一考察」で、出生率が0.72まで低下した韓国では、子どもを持つ女性が『ママ虫』と呼ばれ蔑まれていると書いたが、その後、日本でも、子どもを持つ女性が「子持ち様」や「子連れ様」と呼ばれ、SNSなどでバッシングされていると知った。

番組によれば、「子持ち様が『お子が高熱』とか言って、また急に仕事休んでる。部署全員の仕事がきょう1.3倍ぐらいになった」 という投稿は3000万回以上表示されたという。批判の核心は「子持ち女性の穴を埋めるために独身女性が過剰に働くことになる」という問題。背景として、子育て世帯の減少(1986年の46.2%から2022年には18.3%に減少)や、男女の賃金格差、女性への家事・育児の負担の偏りなどの要因が挙げられていたが、やはりいちばんの問題は、職場のマネジメントだ。両立支援制度が整備され、出産後も働き続ける女性が増えているのに、それを前提に職場を回す体制ができていない。だから、不満や不公平感が生じてしまうのだと…。

その通りだ。そして、そのマネジメントをする立場にいるのは、主にどんな人だろうと考えてみた。1990年代、妻には専業主婦や再就職でパートという働き方を希望し、家事・育児は妻に任せて仕事にまい進してきたオジサンたちではないだろうか。
ワーキングママへの「配慮」はするけど、それが職場全体の問題だとは理解できない。そんなことを考えていたら、面白い記事を見つけた。

弱みや悩みを共有するのは恥

「男らしさ競う『マッチョな職場』はつらいよ」(日経新聞電子版 2023年4月25日)。「男女ともにマッチョな企業文化を苦痛に感じる人が増えている」と指摘するのは、リクルートワークス研究所の筒井健太郎研究員。

「海外の研究によると、職場でのマッチョイズムは4つに分けられる。まずは『弱みを見せてはならない』。弱みや悩みなどを共有するのは恥という文化だ。2つ目は『強さと強靱(きょうじん)さ』。ホワイトカラーであっても肉体的に強い人が評価される傾向。3つ目は『仕事最優先』。休暇を取らず、仕事に全力を尽くすべきだという考え方。最後は『弱肉強食』。出世など競争を重視し、競争に負けたものには冷たい視線を送る風潮だ」

「仕事を最優先することが評価される職場では育児や介護をしながら働くことは難しい。長時間労働に耐えられる画一的な人材しか職場に残らず、多様性が失われる」

なるほど「子持ち様」問題の背景には、マッチョな職場があったのだ。

検索すると、こんな記事もあった。「育児のしにくさ、男性の転職促す『家庭が回らない』」(日経新聞電子版 2023年11月6日)。「就労継続型」を実践する男性の中には、長時間労働が常態化し柔軟な働き方ができない企業から転職・退職を選ぶ人も出ているというのだ。

子どもが産まれたら、暮らしは一変する。育児の時間が必要だし、家事の絶対量も増える。働き方を変えたり、保育サービスや祖父母などあらゆる支援を総動員しないと、仕事を継続するのは困難だが、私が若い頃は、結婚しても子どもが産まれても「自分の生活は変えない・変えられない」というオトコがいっぱいいて絶望したものだ。

時代は変わった。「継続就労=両立」は、女性だけの問題じゃなくて、男女の問題になってきている。非正規雇用の処遇問題は、主に女性の問題だった時は関心がもたれなかったが、男性非正規雇用労働者が増えると一気に社会問題化した。
男性の育児離職・転職が増えたら、企業はもっと真剣に職場のマネジメントを考えることを迫られるだろう。

職場が変わるには、マッチョな企業文化にどっぷり浸ってきた世代が変わる必要があるが、本当にそれができるのかと心配でもある。

最近の職場では、若手社員と上司との面談がよく行われている。Z女子も先日面談があったそうだが「結婚の予定は? 結婚した相手がオレについてこいというタイプだったらどうするの?」と聞かれて絶句したそうだ。別途、「昔はアッシー、メッシー、ミツグ君として頑張ったよ」と自慢する上司もいるという。
「笑い話」のようだが、実はこの世代間ギャップは深刻な問題かも…。次の機会にそのへんをもう少し掘り下げてみたい。

★落合けい(おちあい けい)
元「月刊連合」編集者、現「季刊RENGO」編集者
大学卒業後、会社勤めを経て地域ユニオンの相談員に。担当した倒産争議を支援してくれたベテランオルガナイザーと、当時の月刊連合編集長が知り合いだったというご縁で編集スタッフとなる。

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