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エッセイ・イラスト

「相談できない理由ーうつ病の場合ー」こころにホットタイム【2】

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(月刊連合2020年3月号転載)

皆さま、こんにちは。前回、まじめでできる人「Aさん」が、厳しい仕事状況と高齢の親御さんの問題で、どんどん気持ちが追い詰められていくのに誰にも相談できない中、うつ病を発症したお話をしました。今回は、Aさんはなぜ相談できないのか、そして周囲はどう気付いていったら良いのかをうつ病という病気の側面から考えてみたいと思います。

うつ病は、その名のとおり、気分が落ち込み憂うつになる病気です。元々は好きだったことを含めて何にも興味がわかず楽しくなくなり、意欲がわかずとても疲れやすくなります。うつ病にはさまざまなタイプがあり原因もそれぞれですが、ストレスになる出来事が重なる中で、脳機能の変化がおこって発症したと考えられる場合が多くみられます。

集中力や注意力が落ち、自己評価や自信が低下し、「自分が悪い」という罪責感や「自分は価値がない」という自分に対する無価値感、「もうお先真っ暗だ」という将来に対する希望のない悲観的な見方がよくみられます。その結果、死ぬことばかり考えて、ついには自殺に至る場合があるのが、最も問題なところです。うつ病は、自殺の要因として最も重要であることが知られています。体の症状として、眠れなくなり食欲が低下することは一般的です。他にも痛みや動悸など、人によってさまざまな症状があります。

うつ病では、「認知」が否定的になることが知られています。客観的に見れば、会社の業績が回復しないのは別にAさんが悪いわけではなくてさまざまな状況が関与しているわけですし、高齢の親の対応がうまくいかないのも、Aさんの能力不足ではなく、親自身の病状や、兄弟それぞれの思惑のすれ違いの問題があるからとわかります。でもうつ病になると、脳の機能が落ちている中で、「うまくいかないのは自分が悪い」「もうだめだ」という悲観的な認知になってしまうのです。

こういう状況の人は、相談をしません。自分が危機に陥っているのだと自覚すれば相談という方法も浮かぶでしょうが、「うまくいかないのは自分のせいだ」と思ったら相談すること自体を思いつかなくても不思議はありません。

苦しい時は、苦しいと言いましょう。酒量が増えるのはうつのためかもしれません。周りの人は、いつもできる人の仕事の効率が落ちたら注意しましょう。ミスが目立つ、普段時間厳守の人が遅刻がちになるというのも大事なサインです。家庭では食欲が落ちている、眠れていないという場合は注意しましょう。相談できるためには、周囲が相談できる雰囲気であることはもちろん大切です。まずは話を聞きましょう。ご家族は精神科受診に付き添ってあげてください。自分だけでは診察でうまく説明できない可能性があります。

病気と関係が深いストレス。しかし、同じようなストレスがかかっても、皆が同じに病気になるわけではありませんね。次回はストレスと病気との関係についてお話ししたいと思います。

矢吹弘子 やぶき・ひろこ
矢吹女性心身クリニック院長
東邦大学医学部卒業。東邦大学心療内科、東海大学精神科国内留学を経て、米国メニンガークリニック留学。総合病院医長を経て1999年心理療法室開設。2009年人間総合科学大学教授、2010年同大学院教授、2016年矢吹女性心身クリニック開設、2017年東邦大学心療内科客員講師。日本心身医学会専門医・同指導医、日本精神神経学会専門医、日本精神分析学会認定精神療法医、日本医師会認定産業医。
主な著書:『内的対象喪失-見えない悲しみをみつめて-』(新興医学出版社2019)、『心身症臨床のまなざし』(同2014)など。

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