特集記事

クミジョ!!
労働組合の未来をつくる

6月は、連合「男女平等月間」。1985年6月の男女雇用機会均等法公布を記念して設定されたもので、毎年、男女平等参画社会実現に向けた取り組みを展開してきた。
しかしながら、日本のジェンダー·ギャップ指数は146ヵ国中116位と最下位グループ。労働組合の女性参画も道半ば。国際労働運動をはじめ世界では「男女同数」が実現しつつあるのに、なぜ日本では遅々として進まないのか。あらゆるジェンダー差別をなくし、一人ひとりが尊重される社会にするためにはどうすればいいのか。
巻頭対談のゲストは、本田一成武庫川女子大学教授。チェーンストアや主婦パート研究の第一人者であり、最近は労働組合の女性「クミジョ」の懐に深く飛び込んだ研究でも注目を集めている。本田教授と芳野会長が、ジェンダー平等実現のカギを握る「クミジョ」と「労働組合の未来」について語り合った。

「クミジョ」の発見

本田一成 (ほんだ·かずなり)
武庫川女子大学経営学部教授
法政大学大学院社会科学研究科修士課程修了。博士(経営学)。労使関係論、人的資源管理論。
近著に『写真記録·三島由紀夫が書かなかった近江絹糸人権争議』(新評論)、『オルグ!オルグ!オルグ! 労働組合はいかにしてつくられたか』(新評論)、『メンバーシップ型雇用とは何か』(旬報社)など。「漂流者たち·クミジョの肖像」(『労働の科学』にて連載中)などクミジョ·クミダン問題の論考多数。

井上 季刊RENGO2号目の夏号の巻頭対談をお受けいただき、ありがとうございます。
本田 光栄です。創刊号の対談は古田敦也さんだったでしょう。次は大谷翔平選手に違いないと思っていたので、驚きました(笑)。
芳野 私が、ぜひ本田先生にとお願いしたんです。
本田 えっ、それはまたなぜですか?
芳野 「クミジョ」の話がしたくて。2022連合中央女性集会のパネルトーク「オッサンの壁とクミジョの壁·崖」にご登壇いただきましたが、改めてじっくりお話ししたいと。
本田 そうでしたか。でも、労働組合の中からは「『クミジョ』という呼び方はけしからん」と言われることがあります。
井上 実は今回、季刊RENGO夏号で「クミジョ」をテーマに本田教授との対談を企画していることを連合の機関会議で報告したら、女性役員から「『クミジョ』という言葉は『組合役員=男性』というステレオタイプから生まれた言葉だ。確かに組合役員の多くを男性が占めているが、現役の女性役員としては、リケジョやイクメンと同じようにクミジョと呼ばれることに違和感がある。企画案の表題は仮のものとのことなので、引き続き議論いただけないか」という意見をいただきました。

クミジョの間には不満が渦巻いている

本田 「クミジョ」とは、「女性役員」ではなく、労働組合の職員や関係団体、組織内議員などを含めて広く労働界で頑張る女性のことですが、「クミジョ」と呼ぶなというのは、労働組合の男性たち、「クミダン」の心の叫びでもあるんです。隠しておきたいのに「見える化」されちゃうから。
 連合は、数値目標を掲げて女性参画推進計画に取り組んでおり、女性役員は着実に増えています。私は、そうしたクミジョに話を聞いてきました。そしてクミジョには不満が渦巻いているのに、まったく理解できていないか、無視しているクミダンが多い。そこで「クミジョ」「クミダン」と名前を付けて、両者のすれ違いがもたらす深刻な危機について発信を始めたんです。
芳野 「クミジョ」に注目していただいて、うれしく思っています。
 私が労働組合活動を始めた頃は、本当に女性役員が少なかったんですが、均等法第一世代でもあり、社会が大きく変わろうとする時代でした。男女雇用機会均等法が制定され、募集·採用、配置·昇進は「均等取り扱い」が努力義務になり、教育訓練、福利厚生、定年·退職·解雇では「差別的取り扱い」が禁止され、女性の職域は拡大しました。育児休業法などの両立支援制度もできて、女性が働き続けられる環境整備が進みました。当時、企業も変わろうとしていたし、労働組合もその流れに乗ろうとしていたはずですが、女性の課題が優先にはならなかったんです。
本田 やはりそうだったんですね。
芳野 はい。単組の書記をしていた時、執行部は、女性組合員からの相談を「それは女性の中で解決して」と取り合わなかった。抗議したら「君が執行部になればいい」と言われて執行委員になりましたが、「組合には課題がたくさんあって優先順位がある」と女性の課題は目を背けられる。そんな経験もしました。

クミジョの壁と崖

井上 「クミジョ」の研究で分かったこととは?
本田 研究途上ですが、調査を進めれば進めるほど、クミジョの苦悩や苦境は広くて深いことが分かってきました。
井上 クミジョの「壁と崖」ですね。
本田 クミジョとして活躍するには、家族的責任との両立が求められますが、そんな心配のないクミダンが先回りして「家庭があるから無理でしょ」と配慮したり、「女性にできるわけがない!」と引きずりおろす。そんな「壁」が存在します。さらに壁を乗り越えてみると、スルーされたり、閉じ込められたり、いじめまがいのことまでされる。クミジョは居場所がなくて、崖っぷちに追い込まれてしまう。
芳野 分かります。私も、執行委員会で、文書の表現が差別的ではないかと指摘したら、「そんなことも分からないのか」と一蹴されました。ところが、翌年、男性役員が同じことを指摘したら、懇切丁寧に説明するんです。明らかに女性を低く見ていると感じました。我慢に我慢を重ねているクミジョを、これ以上放っておけないと思っています。
本田 私は、クミダンもクミジョも、働く人たちのために一生懸命活動していることを知っています。それなのに「クミダンはクミジョを知らず、クミジョはクミダンを知らない」。それが労働組合に危機的状況をもたらしている。もはやクミダンを変えないと、労働組合自体が危うくなると考えるに至っています。

労働組合の3つの危機と5つの組織特性

井上 労働組合の危機的状況とは?
本田 労働組合の現在地について、私は「3つの危機」があると考えています。第1は「リアル組織率」の低さ。直近の推定組織率は16·5%ですが、日本はユニオンショップ制の企業別組合が多いので、オープンショップ制になった時に想定されるリアル組織率はおそらく一桁でしょう。要するに「幽霊組合員」が多い。第2は、「競合」相手に押されていること。経営者が先回りして処遇を改善したり、労働組合のない会社が大半だったり、生活上の悩みを相談できる市民団体が活動を広げている。それに対し、労働組合の活動が表面的になっていて存在感が薄れている。第3は、「男性型組織」であること。労働組合の中に大きなジェンダー·バイアスが存在する。
 この3つの危機を反転させるには、クミジョを増やし、クミジョが活躍できる組織にしていくしかありません。
井上 確かに「男性型組織」だと実感します。

クミダンの「ケケケ行動」

本田 労働組合には男性型組織になりやすい「5つの特徴」(組織特性)があります。①つぶれない組織であること、②役員に任期があること、③みんなのための組織であること、④対経営で一枚岩であろうとすること、⑤男性がつくった組織であること。つまり、保守的で前例主義。縦型社会なのでOBの力が強い。「一致団結して闘う」ために組織内の矛盾を克服したがらないので、ジェンダー平等という変革は起きにくい。
芳野 クミジョは「議論してみんなで問題解決しよう」と思っているのに、クミダンは「いやいや、まあまあ、それは」ってなだめようとする。事なかれ主義。
本田 私は、そんなクミダンの言動を「ケケケ行動」と名付けました。
 授業でセクハラの話をすると、男性の学生が「でも、男へのセクハラもある」としつこく言ってくるので、気づいたんです。マタハラの話をしていても、最後はパタハラの話になっちゃう。女性の被害について、男性は最初に加害者への「嫌悪感」を示す。次に「加害者と同一視されているのでは」という「警戒」が始まる。最後に「女性もそういうことをする人がいる」と「牽制」する。この「嫌悪感·警戒·牽制」の3つの「ケ」をとって「ケケケ行動」と…。女子大に転職したら、そんなのは消えたので、男性の悪習ですね。
井上 なぜ、そんなに警戒するんでしょう?
本田 日本のようにジェンダー·ギャップ指数が低い国は、実は男女の対立が激しい国なんです。男性の力が強いから、その対立が見えないようにされているだけ。
 最近、アンコンシャス·バイアス(無意識の思い込み)という言葉が流行りですが、これはクミダンに忖度した言葉。「差別」と言った途端、「ケケケ行動」が始まるからです。「余分なことは言わんとこ」というクミダンは、連合が結成された34年前よりマシではあるけど、そういう認識でいる時点でアウトです。「人権の問題としてどうなのか」という視点を持たなければ、危機は深まるばかりです。クミダンの教育を変えて、「良いクミダン」「マシなクミダン」を増やしていくしかないんです。
芳野 自分に自信があって、客観的に物事が見られるリーダーは、女性の話をちゃんと聞いて運動展開ができる。でも、「これからは女性の時代だよね!」って言いながら、女性のことは女性がやればいいと考えているクミダンも多い。
本田 労働組合からよくクミジョ·クミダン問題の講演の依頼を受けるんですが、クミダンの皆さんは、基本的に私の話を真面目に聞いていない。内職仕事をしたり、時折首をひねったりしている。前から見ると、クミダンは横揺れしている。一方クミジョは、首が取れるのではと思うほどうなずいて、縦揺れしている。その経験から得た法則は、「クミダンが横揺れしている組織ほど、クミジョの縦揺れが激しい」というものです。
井上 連合の構成組織には、女性の会長·委員長や書記長·事務局長が一人もいません(2023年5月現在)。女性の執行委員は増えていますが、「特別枠」という外付けなので本流になかなか進めない。連合は、「ジェンダー平等推進計画」フェーズ1において、特別枠でも執行権がある女性役員を増やすことを掲げていますが、世界の流れを考えると、会長·委員長と書記長·事務局長は「同じ性であってはならない」というくらいの規約をおかないと、変われないのではないかと思い始めています。
芳野 私は、構成組織のトップを経験せずに連合会長に就任しましたが、男性役員はどうしても男性にバトンを渡そうとするんです。「男女同数」が当たり前になっている世界の景色を見てほしいと思います。

クミジョ保健室と応援係長

井上 クミジョとクミダンのすれ違いを解消するには?
本田 「ケケケ行動」を指摘しても、クミダンは反発するだけでしょう。クミジョ同士がもっともっとつながって、今出せていない声を出せるようにすることです。
井上 本田先生は、クミジョの悩みを聴いて癒してあげられる「クミジョ保健室」をつくれと提案されています。
本田 全国の多数のクミジョにインタビューしてきました。その後、交流の輪が広がって相談のメールもたくさんいただきます。一番多い悩みは、差別や偏見、男性の作法などで、セクハラやパワハラ案件もあります。これではクミジョがしんどすぎて傷んじゃいます。だからクミジョ保健室を提案しているんです。
芳野 相談は私たちも受けているんです。例えば、女性役員が1人しかいない構成組織の役員合宿で男性と同じ部屋で寝泊まりさせられたという訴えがありました。団結という理由で。セクハラです。女性委員会として抗議すると言ったんですが、「私が言いつけたと攻撃されるからやめてください」と…。あるいは、「女性枠があるなら男性枠もつくれ」と言ってくるクミダンも、いまだにいます。
本田 労働組合の組織特性が生み出すセクハラですね。私は、「クミジョ応援係長」の名刺をつくって配っています。そのうち、課長に昇進したいですね(笑)。クミジョのために一生懸命働きますので、まず連合で認定していただけませんか。
芳野 ぜひお願いしたいです。クミジョ保健室も早くつくりたいです。クミジョのセクハラ·パワハラ調査もやらなければいけませんね。労働組合の「前例踏襲」主義を変えるのは本当に大変なことですが、今、それをやらないと、世の中から、世界から取り残されてしまうと強く思っています。

労働組合の未来に向けて

井上 未来に向けて、労働組合がもっと元気になるためには?
本田 クミジョとクミダンが「片想い」をやめない限り元気にはなれません。同じ目的があるのに、別々の方角を向いている。事なかれ主義を続けたら、組織は死にます。
芳野 今年4月に実施した「連合および労働組合のイメージ調査」でも、若い世代を中心に「保守的」「伝統的」というイメージが上位にきました。本田先生が、指摘された通りですよね。
本田 「Z世代」の若者は、政治や社会課題に無関心ではなくて、むしろ世の中に反抗心を抱いている。「保守的」な組織はイヤなんです。その上で、社会をもっとよくするなどの課題解決型の教育を受けているから、労働組合を通じて課題を解決できると思えば、参加するでしょう。「クミジョ」が声を上げれば、注目し共感するでしょう。
 授業で労働組合の話をすると「クミジョになりたい!」という学生がたくさんいる。「なってどうするの?」と聞くと「先生の話を聞いてると、クミダン、めっちゃハラタツ。それはあかんやろ」って(笑)。私のゼミにはクミジョ予備軍がひしめいています。
芳野 実はそのイメージ調査で20代の女性は、連合が「ジェンダー平等に取り組んでいる」と評価してくれているんです。
本田 芳野会長が就任して「ジェンダー平等」を大きく掲げましたからね。「ユーキャン新語·流行語大賞トップテン」も受賞された。「Z世代」がSNSで「クミジョ」って言い出したら、クミジョも流行語になるでしょう。クミジョが市民権をとったら、今度こそ労働組合は変わるでしょう。
井上 白熱した議論をありがとうございました。

今、若者の間で流行っている片想いポーズ。
片想いを両想いに!!

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