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エッセイ・イラスト

「気持ちは大事」こころにホットタイム【6】

(月刊連合2020年8月号転載)

皆さま、こんにちは。新型コロナウイルスの問題は相変わらず続いています。前回、コロナ禍ではすべての人に大なり小なり何らかの「喪失」がおこっていること、喪は悲しんで良いのだというお話をしました。こういう時こそ身近な人に気持ちを伝えて支え合いたいものですが、今回は、これが必ずしもうまくいかないことについて取りあげたいと思います。

個々の人が直面している問題は様々です。自分の苦しさを誰かに話し始めたとたん、私もね…と相手の話にすり替わる、話のポイントがずれてしまうことはありがちです。相手も話したい気持ちが強い時によくおこります。

一方、大変なのは皆同じ、話しても解決しないのだから自分は話さない、という方もいらっしゃいますね? そういう方は人に大変さを話されたら「とにかく頑張って」とひたすら励ましたり、「愚痴を言っていないで解決策を考えろ」と一蹴したくなりませんか?

相談というのは解決が目的で、何か相談されたら解決策を示さなければならないと思っている方少なからずいます。え、違う!?と思いましたか? そういう方は具体的な解決策を示せないようなことを言われると「愚痴を言うな」「頑張れ」あるいは「自分で考えなさい」という「解決策」を提示したくなるようです。

一口に「相談」といっても、そこには二種類あると考えて下さい。働く人の実務上の相談は、解決を求めての相談でしょう。でも、心を支える相談には、必ずしも解決提示は必要ありません。むしろ解決提示が邪魔になることすらあります。

心のサポートには解決策よりまずはそのまま話を聴いて、「気持ちを受け入れる」ことが大事です。そんな風に感じているんだ、と受け入れてもらえることで助かるのです。

気持ちを受け入れてもらえない体験は、それ自体がひとつの喪失体験です。これが身近な人、たとえば親や夫婦・親しいはずの友人との間で常におこるとなると、かなり「こたえる」ものになります。モデルケースで見てみましょう。

Bさんは20代の女性です。気持ちの不安定さを自覚して心理療法を希望しました。気持ちを家族に話して分かち合いたいが家族にはピンとこないらしく、受け流されるか理詰めで返されるかを繰り返してきたこと。そのうちに自分の気持ちが強すぎる・自分が我が儘なのだと思うようになったこと。同じ頃から気分が不安定になったことがわかりました。心理療法は、自分の気持ちは確かにあるもの、わかってほしいと思うのも自然な気持ち、でも家族にはわからない残念さ、をゆっくり見ていく作業になりました。

身近な人に自分の気持ちが受け入れられないことが続くと、気持ち自体を押し込めて、無かったことにする人がいます。受け入れてもらえないことの方が辛いからです。現実に対処しなければならないことが多い時は、特に気持ちは後回しになりがちです。でも気持ちを無視すると心身に影響が出ます。自分の気持ちも人の気持ちも大事に、今を乗り切っていきたいものです。

矢吹弘子 やぶき・ひろこ
矢吹女性心身クリニック院長
東邦大学医学部卒業。東邦大学心療内科、東海大学精神科国内留学を経て、米国メニンガークリニック留学。総合病院医長を経て1999年心理療法室開設。2009年人間総合科学大学教授、2010年同大学院教授、2016年矢吹女性心身クリニック開設、2017年東邦大学心療内科客員講師。日本心身医学会専門医・同指導医、日本精神神経学会専門医、日本精神分析学会認定精神療法医、日本医師会認定産業医。
主な著書:『内的対象喪失-見えない悲しみをみつめて-』(新興医学出版社2019)、『心身症臨床のまなざし』(同2014)など。

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