エッセイ・イラスト

今どきネタ、時々昔話
第8回 80s政治と被選挙権年齢

●1周まわってロックンロール!

この秋、初回で心を鷲づかみにされたドラマがあった。金曜夜9時の『うちの弁護士は手がかかる』(フジテレビ系)である。いつものように「ながら視聴」だったが、テンポよく進むプロローグが突然オープニング映像に切り替わると、流れてきたのは往年のミック・ジャガー様が歌っているかのようなロックミュージック。
主演のムロツヨシさんはじめ個性派ぞろいのキャストがノリノリでリズムに身を委ねている画面を注視すると、なんと本物のローリング・ストーンズが巨大広告板の中で歌う姿がサブリミナル映像のように差し込まれてくるではないか。

「えっ? えっ? 本当にローリング・ストーンズなの?」
即刻ネットで調べると、なんとストーンズが18年ぶりに新しいアルバム『Hackney Diamonds(ハックニー・ダイアモンズ)』〔2023年10月〕をリリースし、そこに収録された『Angry(アングリー)』という新譜がこのドラマの主題歌になっているという。

近くにいた家庭内Z世代男子(以下、Z男子)に「ねえねえ、すごくない? ストーンズの新曲だって!新曲だよ!」と話しかけると、「ふーん」のひと言。
「ミック・ジャガー、知ってるよね?」
「何? 肉じゃが?」
もはや「断絶」という言葉しか浮かばない。

夏頃、一緒に出かけたショッピングモールで、Z男子は「バンTが欲しいんだよね」とつぶやいた。「何それ?」ときくと、ロックバンドのロゴなどをプリントしたTシャツで、古着も、古着じゃないものもあって、今流行っているという。
本人はバンドには特に興味はなく、ただデザインがカッコイイからということらしいが、その店に並ぶバンTの中に「KISS」があって驚いた。

KISSは1973年に結成されたアメリカのハードロックバンドだ。
中学の時、体育祭の「仮装行列」で、わが3年3組は担任の先生に「KISS」風の白塗りフェイスペイントを施し、ド派手な衣装を着せて、「KISS」の曲を流しながら行進した。今も仲良くしてくれている友人の発案で、大喝采だったのだが、Z男子はそんな昔話にはまったく興味を示さず、AC/DC(オーストラリアのロックバンド)のバンTを購入した。

私は、ローリング・ストーンズがデビューした1962年に生まれた。物心ついた頃は、バンド音楽の全盛期。田舎町の楽器店ではギターが飛ぶように売れていた。中高時代、ストーンズやビートルズが大好きで完コピしているうちに英語がペラペラになった友人をはじめ、洋楽好きの友人はみんなものすごい「蘊蓄(うんちく)」を持っていて、私にいろんなレコードをすすめてくれた。クイーン、レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、エリック・クラプトン、ピンク・フロイド、ジャニス・ジョプリンetc…。名前を打ち込むだけでなんだか胸がキュンとする。

楽曲はクイーンやジャニス・ジョプリンが好きだったが、ビジュアルなら断然ミック・ジャガー様だった。80歳になった今もカッコよすぎて奇跡だ。早速、ドラマの主題歌が入った新アルバムのCDを購入。Z男子に「配信でよくね?」と言われたが、どうしても歌詞カードのついているCDを購入したかったのである。

「私を怒らないで!(Don’t get angry with me!)」というミック様のお茶目な歌声を聴きながら夕刊を開いたら、「80s(エイティーズ)政権」という言葉が眼に飛び込んできた。

●世代交代が進まない政界

いつも興味深いインタビュー記事が掲載されている毎日新聞夕刊の特集ワイド(2023年10月25日)である。私が信頼する政治ジャーナリストの後藤謙次さんが、岸田政権をどう見ているかと問われて、「80s(エイティーズ)政権ですよね」と答えていた。意味するところは、「森喜朗元首相(86)、麻生太郎副総裁(83)、二階俊博元幹事長(84)の80代の長老が持つ存在感が大きすぎる」という指摘。
政治部記者だった約40年前に永田町で耳にしたという戯れ歌も紹介されている。
(以下、引用)

  五十、六十、ハナタレ小僧
  七十、八十、働き盛り
  九十になって迎えが来たら
  百まで待てと追い返せ

 「今の政治状況を見ると、当時と変わっていません。安倍政権が長く続き、自民党内の議論が封じられたことで人材発掘や育成の芽を摘んでしまった。そのツケが回り、『我こそは』という若い政治家が出てこなくなりました」
 世代交代が進まない政界を憂え、こう続けた。
 「令和時代の政治は、前時代をまだ克服できずに引きずったままだと言えるのではないでしょうか」

2ヵ月前の記事だが、現下の大混乱の根っこにあるのは、まさに「80s政治」なのだと深く納得。

ミック様も80歳だが、その「長寿」の秘訣は若い才能とのコラボにある。今回の新作アルバムにもレディー・ガガが参加しているが、ローリング・ストーンズの名の通り、時代とともに新しい感覚を取り入れて走り続けてきたからこそ、今がある。

しかし、日本の政治に君臨する「長老(80s)」は、私には「重石」にしか見えない。そもそも、日本の選挙制度自体が若い才能を阻んでいる。
2016年に選挙権年齢が18歳になったが、被選挙権年齢は据え置かれた。衆議院議員、地方議員、首長は25歳、参議院議員、知事は30歳だ。
「80s政治」を変えるには、何よりまず被選挙権年齢引き下げが必要ではないか。そう思っていたら、すでにプロジェクトが動き出していた。

●立候補年齢引き下げプロジェクト

月刊連合2022年5月号

「月刊連合」によく登場していただいた能條桃子NOYOUTH NOJAPAN代表。最近、テレビのコメンテーターとしても活躍されていて、まっとうな発言にいつも感服する。
そのNOYOUTH NOJAPANのInstagramに、最近、「神奈川県選挙に立候補しようとしてみたら」というタイトルの動画がアップされた。
https://www.instagram.com/p/C0JW6l3B7-c/

現在25歳である能條代表が、神奈川県知事選挙の選挙管理委員会に供託金300万円を添えて立候補届出書を提出するも、届けは不受理。理由は「被選挙権年齢の30歳に達していないから」。

なぜ、こんなことをしたのだろうか。これは、NOYOUTH NOJAPANが始めた「立候補年齢を引き下げるためのプロジェクト」活動の一環だという。現在の立候補年齢に合理的な理由はないのではないかと国を提訴しようとしたが、「不受理になる」という手続きを踏まないと提訴できない。そこで動画の通り、「不受理」になり、その事実をもって、7月に違憲訴訟を起こしたという。

「同世代の顔がない選挙に、若い世代の政治家がいない政治に関心を持つのは難しい。だから、18歳から政治家になれる社会をめざす」という主張は本当にもっともだ。

NOYOUTH NOJAPANでは、日本総研とコラボで「被選挙権年齢引き下げに関するレポート」(https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=106296)もまとめている。
海外では、被選挙権年齢の引き下げが相次いで行われており、OECD加盟38カ国では、すでに過半数が、選挙権と被選挙権を満18歳以上で統一しているという。

被選挙権年齢引き下げによって期待される効果としては下記の3点を挙げている。
◇自分と同世代が選挙に出るようになり、若者の関心事が選挙の争点になることで、若者の選挙に対する関心が高まり、若者の投票率が高まる。
◇選挙に出る若者が増え、若い政治家が増える。
◇以上の結果として、若者の声に対する関心が高まり、若者の声が政治に反映されやすくなると共に、世代間の対話が増え、民主主義が成熟する。

「若者の声を聴く」「女性の声を聴く」という政治家はいるが、もう聴いてもらうだけではダメだと思う。バックに「80s政治」がある限り、いくら声を聴いてもらっても、長老の力のほうが圧倒的に強い。「少子化対策」をはじめ、いろんな政策が迷走しているのも、そのせいだ。

「80s政治」を変え、必要な政策を実現するには、被選挙権年齢を引き下げ、Z世代の政治家を増やす。これしかないと思う。

さて、あっという間に年末だが、NHK紅白歌合戦に「クイーン+アダム・ランバート」が特別企画で出場するとのニュースが…。2018年に大ヒットした映画『ボヘミアン・ラプソディ』は同世代のママ友の間で話題になったばかり。楽しみだ。
予習しておこうと音楽配信サービスに加入すると、ちゃんと「クラシック・ロック」というカテゴリーがあって、懐かしい曲も新しい曲も聴き放題。スマホの画面に歌詞が出てくるし、トレビアな情報も流れてくる。

1周まわってロックンロール。年末年始はロックを聴きながら大掃除を頑張ろう。
どうぞみなさまよいお年を!

★落合けい(おちあい けい)
元「月刊連合」編集者、現「季刊RENGO」編集者
大学卒業後、会社勤めを経て地域ユニオンの相談員に。担当した倒産争議を支援してくれたベテランオルガナイザーと、当時の月刊連合編集長が知り合いだったというご縁で編集スタッフとなる。

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