エッセイ・イラスト

「不安と身体」こころにホットタイム【7】

(月刊連合2020年10月号転載)

皆さま、こんにちは。新型コロナウイルス問題が続く中、なかなか落ち着かない日々をお過ごしと思います。今回は、不安と関連して身体に症状が出る病気のことをお話ししたいと思います。まずはモデルケースを見てみましょう。

Cさんは入社して5年目の女性です。仕事も軌道に乗り、部内での責任も増してきて、最近は特に忙しい状態です。そんなある日の明け方、Cさんは激しい動悸で目が覚めました。心臓の鼓動が激しく、冷や汗が出て身震いが止まりません。息苦しく、窒息するのではないか、死ぬのではないかという恐怖の中、家族に救急車を呼んでもらいました。しかし、症状は次第に落ち着いていき、病院に着く頃にはすっかり治まっていました。病院で心電図などの検査を受けましたが、特に異常はありませんでした。一体何だったのだろうと思って2週間位たった頃、今度は通勤途中の電車の中で突然激しい動悸と息苦しさ、めまい、震えが出現しました。やっとのことで途中下車して救急車で病院に行きましたが、病院に着く頃にはまた症状は治まっていました。しかしその後しばしば同様の症状が出現するようになり、電車に乗るのが怖くなって、会社にも行けなくなってしまいました。

パニック症は、動悸や発汗、身震い、息切れや窒息感、胸の痛み、あるいは嘔気・めまい・寒気などの多彩な身体症状から成るパニック発作が繰り返し起こる病気です。死ぬのではないか、という恐怖が起こるほどの症状ですので、救急車を呼ぶことも多いものです。しかし大抵は病院に着く頃には治まっています。突然予期しない状況でパニック発作が起こるのですが、発作が起こることが心配で、以前起こった状況や、発作が起こったら困ると思うような場所・場面に出られなくなることがよくあります。Cさんのように電車など公共交通機関に乗れなくなることは稀ではありません。結果的に仕事に行けない、あるいは外出できない、という事態にもなり得ます。

パニック症で出現する症状は、内科的な病気でもよくあるものですので、まずはきちんと内科を受診して診察や検査を受ける必要があります。そこで異常が無く、心療内科や精神科を受診してパニック症と診断されれば、有効な治療方法があります。薬物療法(薬による治療)と認知行動療法(心理療法の一種)が代表的な治療法です。パニック発作は苦しくても時間の経過で治まるもので、決して死なないということを知ることは安心の材料になります。認知行動療法では、不安に伴う認知を扱いながら行動練習をします。リラックス練習も有用です。

パニック症は発症の数か月前に、身近な人が亡くなったなどの大きなストレス要因がある場合が多いことが研究されています。ここ数か月、コロナ禍で大きなストレスは珍しくありません。もしもこのような症状が出た場合は、まずは内科受診が必須ですが、心の病気もありうることは知っておかれると良いでしょう。

矢吹弘子 やぶき・ひろこ
矢吹女性心身クリニック院長
東邦大学医学部卒業。東邦大学心療内科、東海大学精神科国内留学を経て、米国メニンガークリニック留学。総合病院医長を経て1999年心理療法室開設。2009年人間総合科学大学教授、2010年同大学院教授、2016年矢吹女性心身クリニック開設、2017年東邦大学心療内科客員講師。日本心身医学会専門医・同指導医、日本精神神経学会専門医、日本精神分析学会認定精神療法医、日本医師会認定産業医。
主な著書:『内的対象喪失-見えない悲しみをみつめて-』(新興医学出版社2019)、『心身症臨床のまなざし』(同2014)など。

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