直前まで「総選挙2024」の記事を書いていたので、脳内が政治化している。少しだけ吐き出させてもらいたい。
新内閣の女性比率は5.4%
9月27日の自民党総裁選で、「党内野党」とも言われた石破茂氏が選出された。
9人の候補の中ではいちばんジェンダー平等に前向きで「選択的夫婦別姓は反対する理由がない」と言っていたので、どんな組閣や党人事をされるのかちょっと期待した。
ところが、その顔ぶれは衝撃的だった。夕方のニュース番組『Nスタ』(TBS・9月30日)の井上貴博キャスターが「それにしても高齢の男性ばかり。高齢の男性が政治を決めていくのかなと…。女性や若い男性をもっと政策決定に入れないと、この国の未来はない。私はクオータ制には賛成です」という趣旨のコメントをしていたのだが、本当によくぞ言ってくれたと思う。
結局、石破内閣の女性大臣はわずか2人、副大臣・政務官は各1人。政務三役74人のうち女性は4人で、割算すると5.4%。家庭内Z世代女子(以下、Z女子)は集合写真を見て「わー、これで何か変わるの? 変えるつもりないってこと?」
はたして、石破首相は前言を覆し「選択的夫婦別姓は慎重に検討する」と言い出した。
60代以下では賛成が7割超
今回の衆議院の争点は、裏金事件への対応をはじめとする「政治改革」と言われている。それは大事。ただ、「なぜ、選択的夫婦別姓が先送りされるのか」も争点にしてほしいと思う。
選択的夫婦別姓の賛否を聞いた「NHK 憲法に関する意識調査」(2024)によれば、60代以下では賛成が7割超、70代以上でも賛成48%・反対40%。今年6月には、日本経団連が「旧姓の通称使用はビジネス上のリスク」だとして早期実現を提言し、日本弁護士連合会も選択的夫婦別姓制度の導入を求める決議を発した。連合は、30年も前から導入を求めている。世界で夫婦同姓を法律で義務付けているのは日本だけ。すでに法律案要綱もできている。
この期に及んで、なぜ慎重に検討する必要があるのだろうか。
その理由はおそらく自民党の党内事情にあると、私は思う。裏金事件と並んで自民党を揺るがした「旧統一教会」問題との関わりだ。
旧統一教会については、高額献金強要や霊感商法が社会問題化したが、根幹にある教義の特徴は「子どもを産み育てるための結婚と家庭」の重視だ。同性婚や性的マイノリティーの存在を強く否定し、教団のマッチングによる合同結婚式を一大イベントに位置付けている。
その教義は、戦前の家制度復活を掲げるウルトラ保守の主張と重なり合う部分があったのだろう。1999年に男女共同参画社会基本法が成立すると、ジェンダー平等政策への激しい批判(バックラッシュ)が始まったが、ウルトラ保守グループと共にその運動の一翼を担ったのが、旧統一教会だ。
旧統一教会は、ロビー活動や選挙運動に注力して政治家との関係を深め、2005年には自民党に「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」が設置されるに至った。その座長は安倍晋三元首相であり、旧統一教会との関係が深い議員は旧安倍派に多いことは、報道されている通りだ。
議員の中には、その教義や信者の実態を知らないまま取り込まれた人もいるかもしれない。でも、選挙で応援を受けた以上、ジェンダー平等課題には「慎重に」という態度を取らざるを得ないだろう。いまだ、「選択的夫婦別姓」が実現しないのは、自民党内に関係を断ち切れない議員が残存するからではないか、というのが、私のきわめて個人的な意見・感想である。
自治会の重要な役職は男性が向いているの?
では、なぜジェンダー平等を進めることが必要なのか。日本のジェンダーギャップ指数が低すぎて国際的に恥ずかしいからというだけではない。これ以上、中高齢の男性中心で物事を決めていくと社会は衰退へと向かうと確信するからだ。
もちろん女性の役職者をただ増やせばいいということではないのだが、最近、身近なところで女性参画の効果を実感している。
自宅マンションの管理組合だ。常任理事のほかに各フロア持ち回りで理事を出すことになっていて、私は昨年2巡目の理事を引き受けた。理事は原則「世帯主」なので、男性中心だったのだが、今は女性が3名。理事長を務めていた方の娘で頼りになる常任理事のTさんと、夫が外国人のMさんと私である。
シニア世代の男性理事は、地域とのつながりも深く良い人たちなのだけれども、コストダウンや自己責任の発想が染みついている。管理業務に関する値上げ話が出ると「他にもっと安くやるところはいくらでもあるだろう」と言う。それを聡明な理事長が「今はいろんなものが値上がりしているし、人手不足だからね」とやんわり抑えたりしている。ミドル世代の男性理事は「仕事優先」オーラがすごくてダンマリ状態だ。
そんな中、女性理事のMさんは、小さいお子さんもいるのに防火管理者に手をあげて消防署に研修に行き、テキパキと申請手続きを進めてくれた。私も何かしなければと、広報担当に。理事会は不定期でニュースレターを発行していたが、内容が事務的で「上から目線」。それを月刊にして「住民目線」で理事会の議事や小ネタを伝えるようにしたら好評で、「管理組合の役割がよく分かった」なんて言われるようになった。
「東京とどまるマンション」(マンション住民は在宅避難を推奨する東京都の新地域防災計画)の話を掲載した時も、女性理事2人が反応してくれて、集会所に避難所機能を持たせたいね、なんて話ができるようになっている。
こんな身近なところでも、女性参画は活動の活性化につながっていると思うのだが、それでもなお理事長・副理事長は男性という暗黙の了解がある。そんな話をしていたら、私の担当編集者のEさんが分かりやすい器材を見つけてくれた。
山形県しあわせ子育て応援部女性・若者活躍推進課が作成したもので、マンガ入りのチラシには「地域における性別役割分担意識〜自治会や町内会の重要な役職は男性が向いている?」という投げかけのあとにこう書かれている。
「地域の慣習やしきたりの中には、明治時代に作られた家父長的家族制度の影響などを受け『重要なことを決めるのは男性で女性はそれに従うべき』という性別による固定的な役割分担意識が反映されている場合があります。(中略)若年女性にとっては、こうした慣習や、地域の狭い人間関係における生きづらさやわずらわしさが、地元を離れる要因となっているという指摘もあります」。
前回、地方創生の10年を振り返って、地方から若い女性が流出しているのは、その声を政策に反映させていないからだと書いた。
石破首相は、地方創生を最も重視し予算も倍増するというが、地方議会にはいまだ女性議員ゼロのところもある。政策決定がまたもや「オールド・ボーイズ・クラブ」に委ねられるとしたら、大変な税金の無駄使いになりかねない。今度こそ、地域社会の役割分担を見直し、若い世代が政策決定に参画できる仕組みをきちんとつくって進めてほしいと切に願う。
恋愛至上主義のアラ還バブル世代
さて、選挙が始まると、報道情報番組は一気につまらなくなる。放送法で「政治的に中立で、各党に公平な報道」が求められているからだ。
そこで、秋の新ドラマをせっせと観ることにした。今季は豊作だと思うが、冒頭から引き込まれたのは『若草物語 恋する姉妹と恋せぬ私』(日本テレビ)だった。
主人公は「恋愛至上主義の風潮に抗いながら生きる」という四姉妹の次女。ドラマ制作会社で助監督をしているが、「オンナの幸せは結婚」といわんばかりのセリフに違和感を感じて大御所の男性脚本家とバトルになるという展開。
私の妹は、恋愛至上主義全盛期を生き抜いたアラ還バブル世代。Z女子&男子に会うと、挨拶代わりに「カレシ(カノジョ)できた?」とか「結婚はまだ?」と聞いたり、「ピチピチじゃん」とか「ヒューヒュー」なんて冷やかしを入れるのですごく嫌がられている。
季刊RENGOの校正作業をしていた時、「生涯未婚率が急激に高まっている」という表現があって、その裏付けを取ろうと過去の数字を調べてみたら、1950年は男女ともに1.5%、1985年は約5%。それが直近では20%前後に上昇していた。一昔前は「結婚するのが当然」だったのだと理解し、ふいに『22歳の別れ』という歌を思い出した。
『22歳の別れ』(伊勢正三作詞・作曲)は1975年リリース。なぜ22歳で別れるのかといえば、その時点でカレシには安定した職がなく結婚できないから、「目の前にあった幸せ(=安定した職業を持つ男性との見合い結婚)にすがりついてしまった」という話だ。国際婦人年の年で私は中学生だったが、確かに当時の結婚圧力は強く、女性の適齢期は23歳と言われていた。Z男子は今22歳だが、この歌の意味はまったく理解できないだろう。
さて、たった今、同期会から帰ってきたZ女子は「大変!これから3回も結婚式に出なきゃいけないの。9万円だよ。しかも、渋沢栄一は結婚式に使っちゃダメだって」とタメ息。大実業家・渋沢は、結婚後も複数の女性と交際していたからだという。
これにもびっくりだが、とにかく若い世代の恋愛・結婚観が大きく変化していることだけは間違いないと思う。
★落合けい(おちあい けい)
元「月刊連合」編集者、現「季刊RENGO」編集者
大学卒業後、会社勤めを経て地域ユニオンの相談員に。担当した倒産争議を支援してくれたベテランオルガナイザーと、当時の月刊連合編集長が知り合いだったというご縁で編集スタッフとなる。