エッセイ・イラスト

更年期の身体と心ー 
こころにホットタイム【21】

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(月刊連合2022年3月号転載)

皆さま、こんにちは。前回はライフサイクルにおける中年期のお話をしました。その中で触れた更年期と更年期障害について、もう少し詳しくお話ししたいと思います。
女性の更年期は、閉経前後の約10年を指します。現在、日本の女性の平均閉経年齢は50・5歳ですので、大体45歳位から55歳位までがその時期になります。この時期は卵巣機能の衰退に伴って、様々な症状が出やすくなります。代表的なのは、いわゆるホットフラッシュと呼ばれる、顔のほてり・のぼせ・急激な発汗を中心とする症状です。手足の冷えやしびれ・息切れ・動悸・めまい、あるいは肩こり・腰痛・頭痛・疲れやすさなど症状は多彩です。不眠、気分の落ち込みなど、精神的な症状も珍しくありません。これらの症状のため、日常生活に支障を来すほどになるのが更年期障害です。更年期には必ず更年期障害になるというイメージもあるようですが、そうではありません。更年期の症状は、重い人からほとんど症状を自覚しないくらい軽い人まで、かなり個人差があります。そして、更年期障害は代表的な心身症でもあります。心身症とは「身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態」(日本心身医学会定義より)です。心理社会的因子、つまりストレスがその発症や経過に影響を及ぼすのです。
女性の更年期障害のベースは女性ホルモンの低下という生物学的な要因ですので、これをターゲットとした治療方法としてホルモン補充療法があります。婦人科で相談すると良いでしょう。なお、男性にも更年期障害と呼ばれるものがあります。専門的には「加齢性腺機能低下症」と言い、40歳代以降、男性ホルモンの減少に伴って性機能不全や心身の不調が起こるものです。
前回お話ししたように、更年期と時期的に重なる中年期は様々なストレスがかかりやすい時期です。更年期障害の発症や経過に影響するような心理社会的要因はたくさんありますので、ストレスのコントロールも重要です。無理はしていませんか? 若い頃のように自分のことが思い通りにならないと焦ったり、家族が思い通りにならないからとイライラしたりしていませんか? 自分のこともなかなか思い通りにならないものですが、人はもっと思い通りにはなりません。特に成長しつつある子どもは思い通りにならなくて当たり前です。いつも親の思い通りになっているなら、むしろ子どもの心理的成長の面で心配です。
規則正しい生活を心がけ、睡眠を十分とりましょう。眠れないからといってアルコールを飲むのは逆効果です。寝る前のアルコールは良質な睡眠を妨げます。
なお、不眠や憂うつはうつ病の症状の場合がありますので注意が必要です。更年期障害かと思っていたらうつ病だった、という場合があります。楽しみだったことが楽しめない、集中力や意欲の低下、眠れない、などが持続する場合は、更年期障害と決めつけず、メンタルクリニックや心療内科で相談してみましょう。
心身の不調は自分を振り返る、生活を見直すチャンスでもあります。今の自分に合った、自分を大事にする生き方をしたいものです。

矢吹弘子 やぶき・ひろこ
矢吹女性心身クリニック院長
東邦大学医学部卒業。東邦大学心療内科、東海大学精神科国内留学を経て、米国メニンガークリニック留学。総合病院医長を経て1999年心理療法室開設。2009年人間総合科学大学教授、2010年同大学院教授、2016年矢吹女性心身クリニック開設、2017年東邦大学心療内科客員講師。日本心身医学会専門医・同指導医、日本精神神経学会専門医、日本精神分析学会認定精神療法医、日本医師会認定産業医。
主な著書:『内的対象喪失-見えない悲しみをみつめて-』(新興医学出版社2019)、『心身症臨床のまなざし』(同2014)など。

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