(月刊連合2021年6月号転載)
皆さま、こんにちは。6月は連合の男女平等月間ということです。1985年6月に男女雇用機会均等法が公布されたわけですが、それ以前に子ども時代を過ごした者としては、女性の社会参画やジェンダー平等に大きな変化を感じます。一方で根本的なところはあまり変わっていないのかなと思うこともあります。
私が子どもの頃は、お母さん方の大半は専業主婦でしたが、今は多くのお母さんが外で働いています。昔は男性の仕事・あるいは女性の仕事、と思われていた領域で男女双方が働くようになっています。
私はメンタルヘルス不調という形で人生につまずいた女性が、そこを乗り越えてより良い人生を歩むお手伝いをしています。精神療法・心理療法では、さまざまな人生の在りようを聴くことになりますが、人の生き方に大きな制約を課すものとして、「固定観念」があることがわかります。それは大抵、その人が育った場所に根付いていた価値観に大きく影響を受けています。仕事でリーダーシップをとるのは男性で、子育てや介護、家事全般は基本的に女性の役割だという価値観は、未だ男女双方に大きな力を持っているようです。リーダーシップに関しては、平等教育を受けた子どもたちは変わってきています。昔は生徒会長など、長と名の付くものは男子生徒がするのが通常でしたが、今や共学校の生徒会長として活躍している女子生徒は珍しくありません。
子どもを育てる責任は父母双方にあります。昔は「3歳児神話」といわれる、3歳までは母親が子育てに専従しないと子どもによくない、という概念が信じられていましたが、これはすでに研究で否定されています。しかし、夫婦で子育ての責任を共有し、女性が社会に参画しようとすると現実的な壁にぶち当たります。私自身の体験でも、子どもが熱を出して保育園に預けられない時、夫が仕事を休む場合には職場から「奥さんは何してるんだ」という反応をされることが少なくなかったようです。どうして男のお前が休むんだ、子どものことは母親だろう、という世間一般の反応です。世の中では、夫は何事もなかったかのように仕事をし、子どものことは妻が一手に引き受けているという話は珍しくありません。なぜ夫も同等に分担して妻のキャリアを援助しないのでしょうか。
社会において男女共同参画が成り立つためには、家庭でも男女共同参画が成立していることが必要です。つまり、家庭のことで必要なら、男性も仕事を休むということです。仕事の中核を担っている男性方は、自分がそうすること、あるいは部下がそうすることを許容できますか? 支える制度が必要でしょうが、それ以前に、価値観としてどうでしょうか?
社会は手のかからない大人だけで構成されていません。誰もが赤ん坊からスタートして成長し、病気になることもあれば、必ず老いて、いずれは死する存在です。社会の生産部分も、そうではない部分も、男女双方が支え合う成熟した社会になりたいものです。
矢吹弘子 やぶき・ひろこ
矢吹女性心身クリニック院長
東邦大学医学部卒業。東邦大学心療内科、東海大学精神科国内留学を経て、米国メニンガークリニック留学。総合病院医長を経て1999年心理療法室開設。2009年人間総合科学大学教授、2010年同大学院教授、2016年矢吹女性心身クリニック開設、2017年東邦大学心療内科客員講師。日本心身医学会専門医・同指導医、日本精神神経学会専門医、日本精神分析学会認定精神療法医、日本医師会認定産業医。
主な著書:『内的対象喪失-見えない悲しみをみつめて-』(新興医学出版社2019)、『心身症臨床のまなざし』(同2014)など。