はたらくを考える

学校の働き方改革の実現に向けたシンポジウム

~教職員の労働環境を改善し、子どもと向き合う時間を確保するために~

連合は、「学校の働き方改革の実現に向けたシンポジウム」を、本年5月25日に開催した。文部科学省「教員勤務実態調査」の結果から、依然として教員が長時間労働にある状況を踏まえて、学校現場の負担軽減や教職員の勤務時間の大幅削減に向けた施策を話し合った。そのダイジェストをRENGO ONLINEでお伝えする。

開会・主催者挨拶「真なる学校の働き方改革の実現に向けた取り組みを」

清水秀行 連合事務局長

連合は、「就学前教育から中等教育までの教職員の配置増や定数改善」、「学校の部活動の地域クラブ活動への着実な移行」、「外部人材の活用も含めた負担軽減」、そして、「給特法*1の抜本的な見直し」により、学校の働き方改革実現を求めている。本日のシンポジウムを踏まえ、文部科学省の中央教育審議会(以下、中教審)における議論に参画し、真なる学校の働き方改革の実現に向けた取り組みを精力的に行っていく。

基調講演「学校の働き方改革の進捗状況と今後の取組み課題」

小川正人 東京大学名誉教授

2019年の中教審の討議では、現在の給特法のもとで可能な改善と取り組みの基本方針がまとめられた。そのポイントは、「時間外勤務の上限設定」と「勤務時間を客観的で適切な方法で管理し、勤務実態を把握することの義務付け」。また、勤務時間を「在校等時間*2」という外形で把握して時間外の上限を設定し、その削減に取り組むこととしている。

出所:教員勤務実態調査(令和4年度)【速報値】

しかし、前回の調査結果と比較すると、在校等時間は平日で30分程度減少したものの、依然として長時間勤務となっている。ICTやサポートスタッフの導入による効果が一定程度あるものの、授業や学習指導の高度化により授業準備などの本来業務は確実に増えている。そのため、授業内容の大幅な精選、教員の大幅増員をはかり、担当授業時数を減らすなど、教員1人が担う本来業務自体の縮減をはかる方策が不可欠ではないか。

先日、自民党の「令和の教育人材確保に関する特命委員会」が、将来的に時間外勤務を月20時間まで削減するという提言を行った。その実現は、本来的業務以外の業務(学校行事や事務、保護者・地域対応など)の全廃、あるいは委託・移行といった抜本的見直しなくしては不可能である。

私の共同調査でも、キャップ(上限設定)、カット・縮小、効率化の取り組みは効果が薄く、業務委託・移行にかかる取り組みは効果があると現場から評価されている。ただ、委託・移行には費用や代替人材の確保が必要なため、国や県の支援策の有無や、その規模に左右され、取り組みが制約されている。

次に、時間外の在校等時間をどう措置するか。1つは給特法の廃止により時間外勤務を手当化し、長時間勤務を抑制するという選択肢が考えられる。こちらについては、時間外勤務と自発的な仕事の線引きが難しい教職の特殊性や、財源の確保などの問題が指摘されているが、私立学校や国立附属学校では労働基準法のもとで労務管理を行っている。公立学校において給特法を廃止しようとした場合、どんな勤務管理上の問題があるのかをより詳細に吟味して、その是非を検討すべきではないか。仮に、給特法を継続し時間外在校等時間の一定基準まで教職調整額を増額するという政策判断をする場合には、一定基準以上の時間外在校等時間には時間外勤務手当の支払いや、あるいはまた、金銭的な措置以外に、振替休暇や勤務間インターバルによって健康確保の措置をはかることも重要な選択肢の1つであろう。

問題提起「教員の業務量は増加、今求められる方策について議論を」

冨田珠代 連合総合政策推進局長

連合は、「教員の時間外労働には、労基法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)にもとづく割増賃金を支払うことが本来的なあり方だ」という考え方のもと、長時間労働の是正を求めてきたが、2019年1月の中教審の答申では時間外手当の導入が見送られた。しかし、今回の調査結果を見ると、依然として学校現場は長時間労働の状況にある。教職員の業務負担の削減や時間外勤務を改善し、学校の働き方を改革していくには、給特法の抜本見直し、外部人材の活用、教員定数の改善が必要だが、いずれも予算措置が必要である。日本の未来を支える子どもたちの学びの機会を守ることは社会全体の責務であるという認識のもと、教職員が本来の業務に専念できる環境整備が必要である。

パネルディスカッション「教職員の労働環境を改善し、子どもと向き合う時間を確保するために」

(コーディネーター)
小川 正人(おがわ まさひと) 東京大学名誉教授
(パネリスト)
村尾 崇(むらお たかし) 文部科学省初等中等教育局財務課長
佐藤 博之(さとう ひろゆき) 公益社団法人日本PTA全国協議会常務理事
重藤 恵(しげとう めぐみ) 茨城県公立中学校教員
岩埜 理恵子(いわの りえこ) 木更津市立高柳小学校教頭

小川:まずはお一人ずつご意見を。

村尾:教職はリスペクトされるべき職であることを明確にしたい。また給特法の話だけに焦点が当たりがちだが、処遇だけではなく、働き方改革のさらなる推進とマンパワーの充実を含めた立体的な対策を進めることをしっかりとやっていきたい。国、任命権者(職員の人事権を有する者)・給与負担者である都道府県、設置者の市町村、学校がそれぞれ責任を果たし、社会の理解を得ていくことが重要だ。勤務実態調査を見ると一定程度取り組みが進んでいるが、依然として長時間勤務が多く、引き続き業務の見直しを加速していく必要があるだろう。

佐藤:先生が何でもやってくれるのが当たり前になってはいないか。もっと教員が自分の時間を確保するためには保護者の理解・協力が必要不可欠である。教員が本来あるべき業務に集中し、子どもたちにとって憧れの存在、魅力ある職業と認知されるよう保護者も関与していかなければならない。教員のためだけでなく、子どもたちの教育環境をよくするためという視点も必要。家庭・学校・地域のトライアングルが機能することによって様々な問題も解決できるのではないか。PTAとしてこれからも取り組みを行っていきたい。

重藤:教員の1日を紹介したい。毎朝7時半に出勤し、授業間の10分休憩も教室移動や子どもの見守りに費やしてしまう。職員室にいても電話対応や来客対応、突発的な生徒対応が多い。給食時間や昼休みも一切休憩は取れない。18時頃生徒が全員帰宅してから保護者対応や生徒指導報告などを行うと、あっという間に20時になり、それから翌日の授業準備をする。こうした時間の多くは現行法上で「教員が勝手にやっている仕事」と処理されており、少々やりきれない思いを抱えながら日々仕事をしている。

表の黄色部分は、現行法上で「教員の自発的行為」と整理されている

岩埜:小学校の働き方改革では、タイムカードによる勤怠管理システムの導入、留守録電話対応、スクールサポートスタッフ配置、校務支援システムによるデータ管理などの行政発信による取り組みや、校務の見直し、部活動の朝練中止、Web・アプリの活用などの学校の工夫により、改善された点はある。しかしタイムカードの打刻忘れ、子育て中の持ち帰り仕事、コロナ後の教育活動の復活、増えすぎた教育内容などの理由から、超過勤務はなくなっていない。ワークライフバランスの実現、空き時間の確保、子どもと向き合う時間の確保が不可欠である。

小川:自民党・特命委が提言する時間外在校時間を月20時間程度に抑えるためには、従来とは異なるアプローチが必要である。どんなアプローチが考えられるか。

岩埜教員のやることが多すぎて、減っていない状況が問題である。教員の理想は勤務時間内にその日の仕事が終わること。専科教員の確保により授業時間に1時間、学校行事の精選により放課後に1時間、計2時間が確保できればと思う。そのためには各校に1人ないし2人の専科教員が必要である。

重藤:私個人は、学校現場だけでこれ以上業務を減らすのは限界があると感じている。理想は現場の人を増やし、教員1人当たりの業務負担を削減すること。たとえば部活動の完全地域移行など、思い切った施策を行わないと教員の働き方は変わらない。

佐藤:山形県でも部活動の地域移行に向けた取り組みを行っており、決して無理なことではないと思っている。国の予算の問題はあるが、保護者は理解を示していると思う。また、中教審答申において分類された「必ずしも教員が担う必要のない業務」をどこにどう委ねるかが重要だ。

村尾:ICTの活用により、45分の授業を40分で効率的にできるようになるかもしれない。また、国が設定する標準授業時数を上回り、各学校が念のために設定しているいわゆる余剰時数は本当に必要なのかという観点での見直しも必要。働き方改革に向けては教職員だけでなく支援スタッフなどマンパワーの拡充とともに、コロナで見直した行事に対する教育的効果の観点からの見直しも考えていくべきである。

小川:学校現場の負担軽減・勤務時間の大幅削減には、今までとは違った新たな取り組みや切り口が必要だということは確認できた。たとえば小学校では20コマ、中学校では17コマなど、上限コマ数(教員が受け持つ授業数“持ちコマ数”の上限)を設定するくらいの発想でないと、時間外勤務の大幅削減は難しいのではないか。中教審にはそうした思い切ったアイデアや施策を促す提言を期待したい。文科省には、ぜひとも時間外勤務の大幅削減と業務負担軽減に直接結びつく施策の実施、教育委員会・学校への支援を期待したい。


*1 給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)/教職の特殊性にもとづき、時間外勤務手当や休日勤務手当を支給しない代わりに、勤務時間の内外を問わず包括的に評価した処遇として教職調整額(給料月額の4%に相当する額)を支給するなどの内容を定めた法律。また教員に時間外勤務を命ずる場合は、政令で定められている基準(超勤4項目:①実習、②学校行事、 ③職員会議、④非常災害などに必要な業務)に従う。

*2 在校等時間/在校している時間を基本とし、以下に掲げる①及び②の時間を加え、③及び④の時間を除いた時間。
① 校外において職務として行う研修への参加や児童生徒等の引率等の職務に従事している時間として服務監督教育委員会が外形的に把握する時間
② 各地方公共団体が定める方法によるテレワーク(情報通信技術を利用して行う事業場外勤務)等の時間
③ 正規の勤務時間外に自らの判断に基づいて自らの力量を高めるために行う自己研鑽の時間その他業務外の時間
④ 休憩時間

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