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エッセイ・イラスト

「苦しいことに気づかない」こころにホットタイム【11】

(月刊連合2021年3月号転載)

皆さま、こんにちは。新型コロナの問題が長引く中、メンタルヘルスケアの重要性が高まっています。心が弱っている時にはひとりで抱えこまないで相談すること・SOSを出すことが大事であるとお話ししてきました。しかし、SOSを出せないことも少なくありません。

SOSを出せない理由はいろいろありますが、助けを求めるには、まず自分が苦しいと気づいている必要があります。苦しいと気づいていなければ、SOSの出しようがありませんね。うつ病では、うまくいかないのは自分が悪いと思って助けを求められないことがあると、以前お話ししました。今回は心が影響する病気にもかかわらず、必ずしも心が苦しいと気づいていない身体の病気のお話をしましょう。

心身症という言葉を聞いたことがありますか? これは正しく理解されていない場合も多い用語です。日本心身医学会は、1991年に「心身症とは身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態」と定義しました。ストレスをはじめとする心理社会的要因が発症のきっかけになったり、病状悪化に関与していたりする身体疾患、すなわち身体の病気です。

心身症は内科だけでなく各科にあり、多岐にわたります。内科領域の例としては呼吸器系の気管支喘息、循環器系の本態性高血圧、消化器系の過敏性腸症候群、内分泌系の糖尿病など。内科以外では皮膚科の慢性蕁麻疹、眼科の眼精疲労、婦人科の月経困難症や更年期障害など……とてもここにあげきれないくらいさまざまな身体の病気が心身症として考えることができます。

心身症として考えることができるのですが、一方で心身症という観点で取り扱われていないことが多いのも現実です。たとえば仕事のストレス過多の状態で暴飲暴食が続き、元々家系に糖尿病がある(つまり遺伝的素因がある)人が糖尿病を発症しても、心身症という側面を考えずに病気を扱うことはできます。糖尿病治療の基本は通常、まずは食事療法と運動療法です。しかし、ストレスのはけ口が食べることや飲酒になっている人にとって、食事や飲酒の制限はただつらいもので、順調に取り組むのはとても難しいものです。心理社会的要因が関与して暴飲暴食になり、ひいては糖尿病発症につながったという観点、すなわち心身症という観点があれば、そこから治療に取り組む糸口が見える可能性があります。

心身症は決して「気のせい」「気の持ちよう」の病気ではありません。脳と身体は自律神経やホルモンを介して密接につながっていて、心の状態は身体に影響を及ぼします。

心身症の患者さんの多くは、自分の病気とストレスなどの心理社会的要因の関係に気づいていません。ただ単に、病気になったと思っています。ストレスを見ないようにして抑え込んでいるうちに身体が悲鳴をあげていると言える状態が多くあります。身体は悲鳴をあげているのに、それを無視して突き進もうとする人も少なくありません。身体は自分に何と言おうとしているのでしょうか? そんな視点が役立つ時があるはずです。

矢吹弘子 やぶき・ひろこ
矢吹女性心身クリニック院長
東邦大学医学部卒業。東邦大学心療内科、東海大学精神科国内留学を経て、米国メニンガークリニック留学。総合病院医長を経て1999年心理療法室開設。2009年人間総合科学大学教授、2010年同大学院教授、2016年矢吹女性心身クリニック開設、2017年東邦大学心療内科客員講師。日本心身医学会専門医・同指導医、日本精神神経学会専門医、日本精神分析学会認定精神療法医、日本医師会認定産業医。
主な著書:『内的対象喪失-見えない悲しみをみつめて-』(新興医学出版社2019)、『心身症臨床のまなざし』(同2014)など。

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