「紙」の新聞がやめられない。
捨てがたくて山積みになる雑誌系は電子版にした。書籍も、新書や文庫は文字がかすんで読みづらくなったので、基本、電子版に切り替えた。もちろん新聞の電子版も、サービスが始まった当初からおおいに利用させてもらっている。検索はもちろんスクラップ機能もあって本当に便利だ。
家庭内Z世代女子&男子(以下、Z女子&Z男子)は「新聞も電子版だけにすれば、部屋がスッキリするのに…」と言うが、やっぱり「紙」がやめられない。
朝、新聞受けから取り出した時、一面をさっと見れば世の中の動きがわかる気がする。紙面を開けば、広告を含めて複数の情報を瞬時にキャッチでき、興味のある情報はその場で吸収できる。
そんな新聞「紙」の中で、吸い寄せられるように目を通してしまうのが「人生相談」や「人生案内」、「悩みのるつぼ」などの読者相談コーナーだ。
今どき、みんなどんな悩みを抱えているのか知りたい。個人的な悩みゴトは世相を映し、普遍的で社会問題化しそうな問題がちりばめられているし、悩んでいるのは自分だけではなかったとホッとできたりもするからだ。
「人として軽蔑する」
最近、まさに「ジブンゴト」だと身につまされたのは、「17歳の息子に軽蔑された」という相談だった。毎日新聞「人生相談」(2023年9月3日朝刊)に掲載されていたもので、回答者は作家の高橋源一郎さん。少し引用させていただく。
17歳の息子に「人として軽蔑し嫌悪する」「自活したら縁を切りたい」と手紙を渡されました。私が差別発言をしたり、彼の友人の悪口を言ったりしたことや高学歴、高身長に育てようとしたことが理由です。「大人は全く変わらない。絶望した」と言われ、途方に暮れています。どうしたらよいでしょうか。(52歳・女性)
相談を読んで、私はZ女子の「恋バナ」を思い出した。学生時代、Z女子は、女子会の後、時々不機嫌になって帰ってきた。「国際」という名がつく学部で、留学生男子とおつきあいしている友人も複数いた。
「でもね、親がひどいの。アジア人のカレシはダメだって猛反対されてるの。カレシ個人に問題があるならしょうがないけど、日本こそが経済大国で、他の東アジアの国は後進国だと思ってるんだって。日本のGDPはとっくに中国に抜かれてるのに…。AちゃんもBちゃんも、親のこと人として軽蔑するって」とZ女子。
「恋バナ」が親の差別発言にウンザリするという話で盛り上がると聞いて驚いた。
私は30年以上前、外国人夫との結婚を親に反対された経験があるが、「親御さんも、いざとなったら子どもの幸せをいちばんに考えるよ〜」なんて的外れなことを言ってしまった。
「人として軽蔑する」という言葉をちゃんと受けとめることができず、痛い目にあったのは、Z女子が就職してすぐのことだった。
Z女子の就活は、ばっちりコロナ禍と重なった。興味があった職種の募集はほぼストップし、就活アドバイザーの勧めで今の職種に応募し内定を得た。
そして2年前の春、同期全員で新人研修を受けていた時のこと。
クタクタで帰宅したZ女子は「同期、みんな優秀なの。なんで私、内定もらえたんだろ…」と弱気の発言。
私は「小論文ほめられたんでしょ。あとはカオ採用かもネ」と返した。
Z女子は、いちおうハーフなので印象に残る顔立ちだ。ほめ言葉のつもりで言った私の発言にZ女子は激高した。
「私がどんなに就活頑張ったか知ってるでしょ!そんなこと言うなんて信じられない。人としてサイテイ!」と言われ、1ヵ月ほど口を聞いてもらえなかった。
だから、人生相談の「17歳の息子に軽蔑された」という見出しに釘付けになり、高橋源一郎先生の「まずは『おめでとうございます』といいたいです。あなたの息子が「差別発言」をしたり、他人の悪口ばかりいうような、あるいは高学歴や高身長を誇るような人間に育っていたなら、あなたは落胆しなければならなかった。ところが、あなたの息子は、正反対の立派な人間に育った。ブラヴォー! 親の責務は果たしました。自慢していいですよ」という温かい回答に涙したのだ。
「昭和のオバサン」にも古い価値観が
2024冬ドラマでは「昭和のオジサン」が主人公のドラマが注目された。
阿部サダヲ主演・宮藤官九郎脚本の『不適切にもほどがある』(TBS系)は、ミュージカルシーンも楽しくて、毎週放送が待ち遠しかった。1986年といえば、私は24歳。懐かしくも、こんなに女性差別がまかり通っていたのかとがく然とした。
原田泰造主演・練馬ジム原作・藤井清美脚本の『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(東海テレビ・フジテレビ系)も最後まで観た。「男は男らしく」と信じてきた主人公が、部下や家族に「軽蔑」されながらも、古い常識をアップデートしていく姿がすごくリアルで、私自身も学ぶことも多かった。
「昭和」に生まれた女性たちは、「男社会」でひどい目にあってきた。「女性の価値は若さや可愛さにある」とされた時代、不当な扱いに声を上げるとともに、それを逆手にとったり、かわしたりする術も身につけてきた。
いまだ古い価値観を振りかざす「昭和のオジサン」とは違うのだ。
でも、待てよ、と思う。「昭和のオバサン」も、どこかに古い価値観がしみ込んでいるのではないか。「男社会」を批判しながらも、時々「オジサン」のような発想や言動が無意識に出てしまうのではないか。Z女子に軽蔑された私は、ドラマを観ながら、そう思ったのである。
Z男子にも、別の形で内なる昭和の価値観を揺さぶられている。前に高校球児だったと書いたが、大学生になって、顔にシートパックをして部屋から出てきた時はギョッとした。洗顔には泡立てネットを使い、眉を細く整え、ニキビ跡を隠すコンシーラーも使っている。髪のセットには最低15分はかかる。
「男のくせに」という言葉がのどから出そうになったが、ぐっと飲み込んだ。
本人はいたって自然体なのだ。コスメ男子動画をよく見ていて、「化粧品は男性用より女性用のほうが質がいい」というので、最近は、私の“高級”美容液を貸してあげたりもしている。
昭和の頃は、あたりまえのようにいろんな差別や偏見があった。だから、空気を吸い込むように吸収してしまった内なる差別意識を克服しなければと思っていた。
でも、Z世代は違う。差別意識や偏見がまったく染みついていない世代が出現してきているのだと思う。
最近、労働組合の若手女性役員の話を聞く機会があって、これは家庭内だけの話ではないと確信した。「平成生まれで、男女という区別をつけられずに育ってきたのに、社会に出たら男女をすごく意識させられた」という彼女は「今の若い世代は差別意識や偏見を持たない。ジェネレーションという視点でのアンコンシャス・バイアスをもっと考えていくべきではないか」と投げかけていたのだ。
Z世代の約9割が社会課題に関心あり!
「Z世代」という存在に気づかせてくれたのは、連合の「多様な社会運動と労働組合に関する意識調査2021」だった。「月刊連合」2021年5月号の特集「#多様な社会運動」は「結果から見えてきたのは、これまでとはまったく違う風景だ。若い世代が社会運動や労働組合に高い参加意欲を持っている」と書いている。
それまで「若者は保守的」というイメージがあったのだが、「社会を良くするために社会運動は必要だと思うか」という問いには、10代の62.5%が「必要」と回答。この結果を受けて、連合は「Z世代が考える社会を良くするための社会運動調査」を実施。ここでも「Z世代の約9割が社会課題に関心あり!」という結果に。私自身も、これはちゃんと向き合わなければと思ったのだった。
さて、このコラムもスタートから1年。初回タイトルは「春は別れと出会いの季節」としたが、今年の春も「まさかの別れ」を経験することになった。
コラムの担当編集者役を務めてくれていたMさんが他局に異動されたのだ。
「若者」や「多様性」や「AI」というテーマに着目し、「月刊連合」の新境地を拓いてくれたのも、「月刊連合」の終刊と「季刊RENGO」の創刊、「RENGO ONLINE」の立ち上げという難仕事を牽引してくれたのも、Mさんだ。
その励ましがなければ、この連載を始めることも続けることもできなかった。
この場を借りて心から感謝を捧げたい。ありがとうございました!
★落合けい(おちあい けい)
元「月刊連合」編集者、現「季刊RENGO」編集者
大学卒業後、会社勤めを経て地域ユニオンの相談員に。担当した倒産争議を支援してくれたベテランオルガナイザーと、当時の月刊連合編集長が知り合いだったというご縁で編集スタッフとなる。