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第11回 少子化についての一考察

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2023年に日本で生まれた赤ちゃんの数は、統計史上最少の75万人だった。
家庭内Z世代女子&男子(以下、Z女子&Z男子)が生まれた2000年前後はすでに少子化が進行して120万人を割り込んでいたが、さらに40万人の減。合計特殊出生率は1.20前後で、このままいけば、2100年の日本の総人口は6000万人台に半減する見通しだという。

人口動態は、最も確実性の高い将来予測だと言われる。「人口減少・超少子高齢社会」の到来は30年も前から指摘されていたが、今、その現実を突きつけられると、もっと危機感を持つべきだったと悔やまれる。

「人口政策」ではなく人権として

「少子化」が問題視されたきっかけは、1990年の「1.57ショック」だったと思う。1989年の合計特殊出生率が1.57と戦後最低を記録。背景には女性の高学歴化や社会進出があると言われ、政府は1994年に「エンゼルプラン」を策定して、保育サービスの充実などの子育て支援策に乗り出した。 

「月刊連合」が、初めて少子化問題の大特集を組んだのは1998年1月号だった。
タイトルは「『少子社会』はゆとり・ゆたかさのリニューアル・チャンス!?」。
当時、日本の総人口は10年後をピークに減少に転じると予測され(実際に2008年から人口減少が始まった)、経営者団体から「少子化対策」が提言され、政府も「新エンゼルプラン」の検討を進めているというタイミングだった。

当時、編集部では「産めよ殖やせよ」の人口政策への忌避感が強く、「団塊世代」の先輩たちは「人口なんて少し減ったほうがいいんだよ」と言っていた。
だから、出生率をいかに上げるかではなく、働き方や意識の変化に対応して社会全体のシステムを見直し、結果として出生率が回復していくというアプローチが必要ではないかと考え、「リニューアル・チャンス」という言葉を使ったように思う。

労働組合の女性リーダーのスタンスは当時から明確だった。
山口洋子全松屋労働組合委員長(のちに連合副事務局長)は、「『労働力人口が減少して女性も高齢者も働かなくては日本はやっていけないから、女性や高齢者の働ける環境をつくろう』ということではない。求めてきたのは、男性も女性も基本的人権・労働権として平等に働くということ。それが少子社会対策という観点だけから整備されるとしたら、不本意なことだ」と述べた。

熊崎清子連合副事務局長(当時)は、厚生省「人口問題審議会」の委員として保育サービスの充実や母性保護の強化、育児休業の整備、さらに「単身赴任」のあり方や選択的夫婦別姓などについて問題提起するとともに、「子どもを産む女性」をやっかいもの扱いする企業や社会のシステム・構造を「労働組合として」問題にしていかなければいけないと訴えた。

私はといえば、当時35歳。子どもはほしいけれど、編集部に迷惑をかけずに仕事を続けられるのか、高齢出産で大丈夫なのか、不安しかなかった。

多大な困難なしに両立できる社会

その後、何とかZ女子とZ男子が誕生。私は雇用労働者ではないので働き方の規制はない。産前・産後も、連載企画を中心に担当させてもらいながら仕事を継続した。
そんな企画の1つが、2002年の「NEXT STREAM 女性の居場所はどこにある?」というシリーズだった。12人の女性識者にインタビューさせていただいたが、厚生労働省「少子化問題懇談会」のメンバーであった慶應義塾大学の津谷典子教授は、「結婚・出産は女性にとって『必然』ではなく、『個人の選択の対象』になった」と指摘し、少子化の要因をこう説明してくれた。

経済的自立が進めば進むほど、結婚・出産・子育てをめぐる女性の機会コストは高くなる。それを社会が何らかの形で軽減しなければ、そして家族をめぐるジェンダー役割が変わらなければ、女性たちが結婚や出産をためらうのは当然のことだといえるでしょう。

そして、子育て支援は労働政策と結びつけなければ効果は上がらないんです。いま、就学前の子どもを持ちフルタイムで働く女性の総労働時間(就業時間+家事・育児時間)は、専業主婦の2倍以上。若い未婚の女性が見た時に、とても仕事と子育てを両立したいなんて思えない。だから、両立を望む人をサポートして、それが多大な困難なしにできるような社会にすることこそが、日本で必要な「対策」だと思っています。

「人口オーナス」への対応

労働組合も少子化問題に正面から取り組み始めた。2004年、連合総研に「人口減・少子化社会における経済・労働・社会保障政策の課題に関する研究委員会」(主査:小峰隆夫法政大学教授)が設置され、2007年にはその報告書が刊行された。

忘れられないのは、その翌年、リーマンショックの直後に開催された連合総研フォーラムでの小峰教授の問題提起だ。この時、同じくパネリストだった山田久日本総研ビジネス戦略研究センター所長(現・法政大学教授)は、「非正規の雇用が急激に悪化してくる」と警告、それはほどなく現実となった。小峰教授は「人口オーナス問題」(少子化によって人口に占める生産年齢人口の割合が下がっていくこと)への対応が必要だと熱く語られた。
ところが、私はリーマンショックに気をとられ、誌面でも、その問題を深く掘り下げなかった。自分の感度の鈍さを恥じるばかりだ。

小峰教授は、2010年に『人口負荷社会』(日本経済新聞出版)という本を出され、こう予言している。

日本経済は、将来、長期的には「大労働力不足時代」が続く。
本書執筆時点2010年では、多くの人に信じてもらえないかもしれない。2008年秋のリーマンショック後の落ち込みで、失業率が高水準になっているからだ。人手が余っている。でも、この人余りは、需要の落ち込みによって生じたもの。やがて需要と供給の関係が正常化すれば、労働力不足のほうが顕在化してくるに違いないと私は思う。

本書では「日本と韓国は、男性の家事参加が少なく、男女の役割分担意識が強い社会であり、かつ少子化のスピードが速い……アジア的な価値観が出生率に影響している可能性もある」との指摘もされている。これも慧眼(けいがん)というしかない。
「時代にふさわしい雇用システム、社会システム、家族形態、子育てを実現していけば、少子化も止まる」という小峰教授の言葉を今度こそちゃんと受けとめたい。

結果として後進の人々を追い詰める

子育て支援策は拡充されているのに、なぜ、若い世代は結婚や出産を避けるのか。
その答えは20年以上前に津谷教授が示してくれていたのだが、改めてそのことに気づかせてくれたのは、「月刊連合」でもお馴染みの富永京子立命館大学準教授だ。朝日新聞で「富永京子のモジモジ系時評」というコラムを連載されていたが、「子育てとの両立 『やらかした』私」(朝日新聞夕刊2023年2月4日)という回を読んで「これだ!」と思った。

富永先生は、出産後、できる限り今までと同様に仕事をするために「研究費とポケットマネーで雇ったスタッフ、院生、シッターとともに、過剰装備で復帰した」が、その経験を語る場で「頑張らなければいけない社会、両立しなければならない社会を作っているのは、他ならぬ私だ。産休中も頑張ったという体験談は、その動機が切迫感や恐怖からにせよ、社会復帰への前向きな希望からにせよ、結果として後進の人々を追い詰めることに変わりはない」と思い至ったのだという。

私も似た経験をした。「女性の活躍促進」特集(2013年1月号)で、「ワーク&ライフインターシップ」を取材した時、私の個人的な両立体験を話すハメになった。
実家が遠方だったので、夫のほか、保育ママやシッターさんのお世話になりながらも、産前・産後も仕事は休まなかった。月刊連合の仕事を始めて以来、私が原稿を書かなかった号はZ女子が生まれた直後の1冊しかないことを「誇り」にしていたのだが、私の話を熱心に聴いてくれる学生の顔を見ていたら、自分のやり方は本当に良かったのかという思いが込み上げてきたのだ。

私は富永先生のお母様と同世代だが、働く女性はなぜ頑張ってしまったのか。

背景にあるのは、たぶん「仕事に私事を持ち込むな!」という呪いの言葉だ。
均等法第一世代は、「男並み」に働くことを求められ、職場では家庭の事情を押し隠すことこそ「働く女性の美学」だと考えた。私自身も、Z女子が生まれた時、「子どもを言い訳にしない」と心に決めたりした。

それは、子どもや子育てに冷たい社会と表裏であったと思う。
韓国の出生率が0.72まで低下したと知って、世界的ベストセラーになった『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著、日本語版2018年刊)を思い出した。勉学に励み、仕事も頑張ってきたのに子どもが産まれて仕事を続けられなくなったジヨン。子連れでカフェに行くと、働く男女に「ママ虫」と蔑まれるシーンが忘れられない。

今、日本や韓国で起きている「少子化」は、上の世代のような犠牲を払いたくないという若い世代からの意思表示なのだと思う。それにどうこたえるのか、ちゃんと考えたい。

★落合けい(おちあい けい)
元「月刊連合」編集者、現「季刊RENGO」編集者
大学卒業後、会社勤めを経て地域ユニオンの相談員に。担当した倒産争議を支援してくれたベテランオルガナイザーと、当時の月刊連合編集長が知り合いだったというご縁で編集スタッフとなる。

※合計特殊出生率(Total fertility rate: TFR)
「15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの」で、未婚・既婚を問わず1人の女性が一生の間に産む子どもの数に相当する。人口が維持される水準の合計特殊出生率は2.07とされている。

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