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第13回 天使はどこに? 

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久しぶりのファミレスで

春先、ある「ミッション」のため、夫と映画を観に行った。2人で映画館に行ったのはたぶん初めてだ。観終わって外に出ると、交差点の向こうにファミレスがあった。
周辺にはおしゃれなカフェもあったけれど、久しぶりにファミレスに行きたくなった。

懐かしい気持ちでドアを開けると、そこは私の知らない世界。
「いらっしゃいませ!」という弾む声も聞こえてこない。
入口付近には自動精算機が数台ならんでいた。フロアで料理を運んでいるのは、光るロボットだ。ファミレスにロボットが導入されているという話は知っていたが、店内で忙しく立ち働く「人間」の姿は消えていて、ロボットと厨房を取り持つ人影が遠くに見えるくらい。

席に座ってもお水は出てこない。セルフだ。注文もタブレットで自ら入力する。すると、ロボットがけっこうなスピードで料理を運んできてくれる。それをロボットの棚から取り出して自分でテーブルに配置する。食べ終わったら、自動精算機で支払いを済ませる。「人間」とひと言も言葉を交わさず利用できるのだ。

料理は美味しくいただいたけれど、なんだか落ち着かなかった。
そしてふと「天使はどこに?」とつぶやいてしまった。

ロボットに接客されたほうが気楽?

季刊RENGOの人気コラム「パソコンの前でひとりごと」の執筆者、朝比奈あすか先生の『天使はここに』(朝日新聞出版)という本を思い出したのだ。
初版は2015年4月。主人公は「エンジェルズ・ダイニング」(天使たちのレストラン)というファミレスの契約社員として働く22歳の真由子。

高校生の時にアルバイトとして働き始め、そこで尊敬する先輩に出会い、彼女が店長を任された店舗に移って働き続けてきた。ところが店長は異動になり、新しくやってきた店長は彼女を都合よくこき使う。
本棚から引っ張り出して読み返すと、こんな記述があった。

ファミレスの常連客の中には、店員に自分を認識されていると気づいたとたん、ぴたりと来なくなる人がいる。そういう人は、ファミレスで働く店員を、精巧なロボットのように思っていて、人間よりもロボットに接客されたほうが気楽なのかもしれなかった。

小説の舞台は今から10年ほど前のファミレス。「人間」が水を出し、注文を取り、料理を運び、空いた食器を下げていた。今で言う「カスタマー・ハラスメント」に遭遇することもあったが、真由子は、ファミレスが好きで、ファミレスの仕事を切り盛りすることに働く喜びを感じていた。その姿勢は「Integrity(誠実さ)」と表現されていて、なるほどと思った。

「エンジェルズ」でも、人手不足が深刻化していく様子は描かれている。アルバイトやパートを確保するのが大変で、その穴埋めは契約社員の真由子が引き受けている。終盤では、外国人留学生も登場するが、変化のスピードは想像以上に速く、気づいたらロボットが穴埋めをする時代になっていたのだ。

ワーキングピュア—地道にマジメに働く25歳世代

『天使はここに』が出版された年の秋、連合は結成25年を記念して『ワーキングピュア白書—地道にマジメに働く25歳世代』という本を出版した。

バブル崩壊後のリストラで新卒採用を抑制する企業は少なくなかった。「就職氷河期」世代の就活は本当に厳しく、若者の非正規雇用化が進んだ。2015年当時、「初職非正規雇用率」は、全体で4割、女性では5割という状況だった。ブラック企業やブラックバイトという言葉が生まれたのも、この頃だ。

そこで、連合は「悩みや不安を抱えながらも、地道にマジメにやりがいを求めて仕事をする25歳世代の若者」を、「ワーキングプア」ならぬ「ワーキングピュア」と名付け、未来あるワーキングピュアを使い潰してはいけないと問題提起したのだった。

この『ワーキングピュア白書』に映画監督の周防正行さん、元プロ野球選手・監督の古田敦也さん、朝比奈あすかさんの鼎談が収録されていて、「月刊連合」2016年1・2月合併号では、朝比奈先生と神津里季生連合会長(当時)との対談が組まれた。

『天使はここに』の主人公・真由子は、まさに「ワーキングピュア」。朝比奈先生は対談の中でこう語っている。

今、非正規雇用で働く若い人が、ものすごい勢いで増えています。真由子のように、いつか正社員になれることを夢見て、真面目に仕事に向き合い、仕事を通じて社会とつながることにやりがいを感じている。でも、それがきちんと評価される処遇になっていない。
これは、非正規で働いている人たちだけの問題じゃない、社会全体の問題だと思って、この本を書きました。

タダで働かされている気がする

同じ頃、『花咲舞が黙ってない』(原作:池井戸潤、日本テレビ、2014年・2015年)というドラマが放送されていた。メガバンクの優秀なテラー(窓口係)だった花咲舞が、本店の臨店班に異動になり、コンビを組む相馬健とともに支店の様々な問題を解決していくという痛快お仕事ドラマだ。

初回は、テラーのベテラン女子行員を「コスト削減」のために次々退職に追いやった支店の話。マニュアルさえあれば窓口業務なんて誰だってできるという支店長に、舞は「マニュアルに載っていないことや、経験のある先輩に教えてもらわないとわからないこともある」と反論する。「お言葉を返すようですが…」という決めゼリフの言葉の根底にテラーの仕事に対する誇りを感じたものだ。

その2024年版が今年4月から放送されていて、前シリーズで相馬役だった上川隆也さんが、花咲舞の叔父役で出ていてうれしくなる。舞が臨店先の窓口に応援に入るシーンもなくなってはいない。

ただ、銀行もテラーが活躍する現場は縮小している。ATMやネットでできる取り引きが増え、支店の数自体が減っているからだ。

時代とともに「仕事」が変わっていくのは仕方がない。第4次産業革命なのだ。どんなに「仕事」が変わっても、人間はそこで小さな工夫や改良を重ねていくのだと思う。

でも、レストランやスーパーで、昔なら店員さんがやってくれていたことをセルフでやっていると、「これは労働なのか、労働の搾取なのか」と思うことがある。

家庭内Z世代女子(以下、Z女子)に「タダで働かされている気がする」と愚痴ると、「もうそういう時代なの。自分でできることは自分でやればいいんだよ」と叱られた。

10年後もここで暮らしている?

さて、『ワーキングピュア白書』が出た頃、高校生だったZ女子は、今春、25歳になった。日々、マジメに働いているが、夜遅くまで仕事をした翌朝は、「10年後もここ(子ども部屋)で暮らしている未来しか見えない〜」とため息をつく。

冒頭の「ミッション」というのは、実はZ女子の「結婚問題」だ。夫の国パキスタンでは今もお見合い結婚が多く、25歳は適齢期。早く相手を探して結婚させなきゃと言い出した。

Z女子に言わせれば、夫の価値観は「明治男」。いつも誰とどこに出かけるのかと詮索してきてうっとうしい。どうせパパに反対されるから誰とも結婚しないとも言う。ただ、夫は、仕事を辞めて結婚しろと言っているわけではない。仕事も大変そうだし、家事スキルもまったくないから、親が元気で手伝ってあげられるうちに結婚させたほうがいい、という不思議な主張をしてくる。

ややこしいのは、夫の国では結婚が宗教と結びついていることだ。食事や日常生活で夫の宗教は尊重してきたが、結婚となると相手があることなのでハードルは高い。
困っていたら、友人がパキスタン系英国人の結婚を描いたという映画を教えてくれた。

『きっと、それは愛じゃない』(シェカール・カプール監督、リリー・ジェームズ主演、2023年12月15日、日本公開)。紹介文を引用しよう。

ドキュメンタリー監督として活躍するゾーイ(30代独身)は、久しぶりに再会した幼馴染で医師のカズ(パキスタン系移民)から、見合い結婚をすることにしたと聞いて驚く。なぜ、今の時代に親が選んだ相手と? 疑問がたちまち好奇心へと変わったゾーイは、カズの結婚までの軌跡を次回作として追いかけることに。

公開直後、Z女子と観にいったら、ゾーイもカズもその家族もみんな魅力的で、伝統や文化がぶつかりあう中で大事なものが見えてくるような映画だった。それで夫にも観せてみようと映画館に誘ったのだ。

その後、夫は以前のように「早く結婚を」とは言わなくなった。でも問題を先送りしているだけなのかもしれない。
浜の真砂は尽きるとも “子育てに悩みの種は尽きまじ” である。

※『きっと、それは愛じゃない(WHAT’S LOVE GOT TO WITH IT?)』公式サイトhttps://wl-movie.jp

★落合けい(おちあい けい)
元「月刊連合」編集者、現「季刊RENGO」編集者
大学卒業後、会社勤めを経て地域ユニオンの相談員に。担当した倒産争議を支援してくれたベテランオルガナイザーと、当時の月刊連合編集長が知り合いだったというご縁で編集スタッフとなる。

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