エッセイ・イラスト

「ストレスから病気?」こころにホットタイム【3】

(月刊連合2020年4月号転載)

皆さま、こんにちは。前回と前々回、厳しい仕事状況と高齢の親御さんの問題が重なった中で、うつ病を発症したAさんのお話をしました。厳しい仕事状況も、高齢の親の問題も、いわゆるストレスになる出来事ですね。ストレスはどのように病気と関わるのでしょうか? これはかなり大きなテーマなのですが、今回は仕事のストレスが病気にどうつながるのか、ひとつ代表的な理論を紹介しながらお話ししたいと思います。

仕事のストレスと病気との関わりについて、米国の国立職業安全衛生研究所(NIOSH)は、「職業性ストレスモデル」というモデルを提示しました。このモデルには、大きく分けて6つの項目が登場します。わかりやすいように、こ
れに番号をつけて説明しましょう。①仕事のストレス、②仕事以外の要因、③個人要因、④緩衝要因(ストレスを和らげる要因)、そして⑤急性のストレス反応、⑥病気、です。

簡単に言うと、①の仕事のストレスから、一気に⑥の病気に至るわけではなく、他にもいろいろな要因が関わってくるということです。Aさんは、会社の業績不振に対して、早急な改善を進める責任者という、ストレスとなる、仕事上の大きな役割を背負ったわけですが、だからうつ病になった、というのは話が飛びすぎです。①の仕事のストレスの次に目を向けるべきは、②の仕事以外の要因です。Aさんの場合は、仕事が大変である同じ時期に、高齢の父親が倒れ、残された母親は認知症であることがわかり、こちらも早急な対応が必要になりました。親が倒れたこと・認知症とわかったことのショックに加え、対応にあたっては、意見の違う兄弟との度重なる話し合いが必要でした。そういった事柄は、仕事以外の大きなストレスとなりました。

それでは、仕事と仕事以外のストレスで病気になることが決まってくるかというと、それも違います。次の要因に、③個人要因というものがあります。これには様々なものがありますが、たとえば年齢による違いです。若ければ体力的には中高年より余裕があるかもしれません。しかし、もしかしたら年齢が上の方が、経験に基づいて様々な角度から考えられるかもしれません。未婚か既婚か、子どもはいるのか、によっても状況は違いますね。個人要因には性格も入ってきます。たとえばうつ病の病前性格(病気になる前の性格)として、「真面目で几帳面」というのは典型的といわれてきました。また病気には、個人の体質も関係があります。血縁にうつ病の人がいる人はいない人よりうつ病になりやすいですし、高血圧や糖尿病など生活習慣病といわれる内科の病気も、遺伝的な要因が関与しています。

仕事のストレス、仕事以外のストレス、個人要因、と続いたら病気になるしかないのでしょうか?そんなことはありません。ここで登場するのが④緩衝要因、ストレスを和らげる要因です。

この続きは次回お話ししましょう。

矢吹弘子 やぶき・ひろこ
矢吹女性心身クリニック院長
東邦大学医学部卒業。東邦大学心療内科、東海大学精神科国内留学を経て、米国メニンガークリニック留学。総合病院医長を経て1999年心理療法室開設。2009年人間総合科学大学教授、2010年同大学院教授、2016年矢吹女性心身クリニック開設、2017年東邦大学心療内科客員講師。日本心身医学会専門医・同指導医、日本精神神経学会専門医、日本精神分析学会認定精神療法医、日本医師会認定産業医。
主な著書:『内的対象喪失-見えない悲しみをみつめて-』(新興医学出版社2019)、『心身症臨床のまなざし』(同2014)など。

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