TAG LIST

特集記事

「SOSを出せば、助けてくれる」信頼感を持てる社会へ
労働組合がすべきことは

image_print印刷用ページ

連合総合政策推進局の佐保昌一総合局長と東京都立大学の阿部彩教授、大阪府豊中市社会福祉協議会の勝部麗子事務局長が、子どもの貧困対策と子育て支援のあり方を話し合う対談の2回目。後半は政府や労働組合、そして市民社会が、どのような姿勢で子どもの貧困に向き合うべきかを議論した。

阿部 彩 東京都立大学人文社会学部人間社会学科社会福祉学教室 教授・子ども・若者貧困研究センター  センター長
国際連合、海外経済協力基金を経て、1999年より国立社会保障・人口問題研究所に勤務。2015年4月より現職。

              

勝部 麗子 豊中市社会福祉協議会事務局長
豊中市社会福祉協議会に入職。
2004年に地域福祉計画を市と共同で作成、全国で第1号のコミュニティソーシャルワーカーになる。地域住民の力を集めながら数々の先進的な取り組みに挑戦。その活動は府や国の地域福祉のモデルとして拡大展開されてきた。

佐保 昌一 連合総合政策推進局長

賃上げが子どもの貧困解消の「一丁目一番地」

出所:厚生労働省「2022年 国民生活基礎調査」

佐保 子どもの貧困に対する、最も効果的な処方箋は何でしょうか。

阿部 日本の子どもの貧困の根底にあるのは、親の失業ではなく親が必死に働いているのに子どもを十分食べさせるだけの賃金を得られないことです。ですから最も効果的な対策は、賃上げによって正社員だけでなくギグワーカーを含めた非正規の働き手、自営業の人などすべての労働者が相応の対価を得られるという当たり前の環境を実現することに尽きます。

また近年、子どもの貧困率が低下したのは、母親の就労率が上昇し所得が増えたためです。ただ両親が夜遅くまで働くことが、子どもの生活や学力、健康にネガティブな影響を及ぼすリスクもあります。両親が子どもと夕食を取れる時間に帰宅できるよう、働き方も同時に改善する必要があります。この2点については、連合にもお力添えをいただききたいと思います

勝部 賃金が最優先課題というお話は、その通りだと思います。生活のためダブルワークで働かざるを得ず、夜も子どもに留守番させて仕事に出る親が世間から責められ、孤立していく悪循環を防がなければなりません。

また昨年、私たちの職場に実習に来たスウェーデンの大学生は、日本の子どもたちが朝早くから夜遅くまで保育園で過ごしていることに驚いていました。スウェーデンでは、親が夕方には仕事を終え、子どもと一緒に過ごせるそうです。また困ったらSOSを出すことの大切さも教育によって浸透しており、確実に支援を受けられるという政府への信頼もあるとのことでした。日本では、人に迷惑を掛けてはいけないという教育があってSOSを出しづらい上、困ったら助けてくれるという信頼もない。それゆえに多くの人が安心感を持てず、つらい思いをしていると気づかされました。

不安解消に向け、政府はビジョンを示して

佐保 政府は国民が安心できる社会保障のビジョンを提示できていないと感じます。子ども・子育てに関しても、将来の日本社会のあるべき姿から逆算して今どんな施策を打つべきかという視点を持つべきなのに、それがない。一方で目先では給付拡充などばらまきとも指摘されている政策を推し進め、財政赤字をさらに膨らませています。

阿部 子どもの貧困を解消する最大の手立ては、究極的には国民が税金を負担し、必要な財源を確保することです。しかしほとんどの人は自分も生活は苦しいと感じており、増税には猛反発します。将来への不安があまりに大きく、子どもの教育や自分の老後に投資せずにはいられない社会を、私たち自身がつくってしまったからです。

どんなに困窮しても、食べることや医療、住まいは保障されるという安心感を、政府がビジョンとして示せば、国民もセーフティネットの構築に必要な税金を負担しよう、と考えるようになるでしょう。財政赤字のつけを子どもたちに払わせるくらいなら、目先のばらまきに反対しようとも思うのではないでしょうか。

また貧困問題は、生活困窮者自立支援法や子ども・子育て支援法の枠組みに留まらず、国家のあらゆる政策に関連します。例えば、下町を再開発して高級マンションを乱立させたら、低所得層を都市部から排除することになる。一見関係ないように見える国土政策にすら、密接に関わっているのです。

勝部 教育政策も重要です。今は教育費が高騰し、子どもが社会に出る時、返済する奨学金ですでに大きな借金を背負う事態も起きています。

私たちの社協には毎年卒業・入学シーズンに、親と一緒に、制服姿の中高生が教育福祉資金という進学のお金を借りに来ます。嬉しいはずの合格通知が、お金を出してもらえるだろうか、という不安につながることに、毎年胸を突かれます。

地方格差も大きく、通学可能な圏内に大学も高校も、中学すらないといった地域の人は、学費以外の出費もかさみます。低所得の家庭で育つと人生の選択肢が狭まり、希望も持てなくなってしまう社会で、子どもを持とうと思えるでしょうか。国として子どもをどう育てるべきか本気で考えないと、所得格差、地方格差が広がり少子化も加速してしまう気がしてなりません。

「プッシュ型」で情報発信を 
対面で「困りごと」を引き出す

佐保 学費そのものについては、最近になってようやく給付型奨学金なども増えてきましたが、確かに地方出身者は、学費以外の出費もかさみます。また、たとえ奨学金などの情報があっても、親がアクセスできないという情報リテラシーの問題もあると思います。

阿部 確かに公的な情報発信の多くは、ウェブサイトを通じて行われますが、自治体のサイトを検索しても必要な情報に到達できないこともよくありますね。「市民だより」のような印刷物もありますが、読まない人も多いのではないでしょうか。

実際は、滞納した税金の相談や児童扶養手当の申請など、困窮当事者と行政職員が接するチャンスはたくさんあるのです。掲載情報にそちらからアクセスしてください、という情報発信のモードを変え、あらゆるチャンスを捉えてプッシュ型で情報を伝える姿勢が重要です。ただ情報を得て窓口に行っても、対象外だと断られたり、職員の対応に嫌な思いしたりすることも非常に多い。情報を得てもどうにもならない事態があることも、大きな問題です。

勝部 特に若者は、住居確保給付金や失業手当など、生活が苦しくなった時のサポートに関する知識に乏しい。困りごとを言語化できず、検索が難しいこともよくあります。だから短絡的にお金でいろんなことを解決しようとして、ネットに表示される闇バイトなどに流れてしまうケースもあるのです。

私たちは、コロナ禍の特別貸付時も大変であっても必ず対面で1人ひとりの話を聞き、つながりをつくって困りごとを引き出すようにしています。しかし支援現場の大半は、こうした時間と労力をかけられず、外部に委託せざるを得ない場合も担当者が派遣に置き換わり、ダイヤルインで何々の相談は1を、何々は2を押すといった仕組みを導入している自治体もあるそうです。

本来は、当事者の話を聴き、政策やサービスに反映させることが自治体職員の仕事のはずです。労働組合にも、支援の最前線の現場に正規職員を充てられる体制づくりに尽力していただきたいです。

子どもは将来の労働力でなく、幸せになるべき存在

佐保 財政難で自治体職員が削減され、オーダーメイド型のサポートに人を割けない。さらに会計年度任用職員制度が始まり、非正規の公務員が低賃金で働いて子どもを育て、貧困に陥るという悪循環も生まれています。連合としても、自治体職員の人数のあり方について、社会へ問題提起を続けていきます。

また連合には多数の構成組織があり、47都道府県に地方連合会もあります。こうした組織も含めた連合の組合員に対して、要望がありましたらお聞かせください。

阿部 子どもの問題は、将来の労働力不足の面からクローズアップされることが多いですが、労働力不足を考える前に、子どもは子どもであり人間です。国内最大級の組織力を生かして、すべての子どもが幸せでいられる社会こそ大事であり、そのためには貧困の解消が不可欠だ、というメッセージを社会に届けていただきたい。政策決定過程においても、子どものウェルビーイングを高める施策の旗振り役を務めてほしいと願っています。

勝部 労働組合の人たちと話すと、子どもの不登校など家庭に問題を抱えていても、労働運動とは別物だと捉えている人が少なくありません。転勤や単身赴任は子育てに大きな負担をかけています。地域共生社会というなら大企業の組合員の皆さんにもボランティア休暇、地域活動休暇、PTA休暇などを導入して地域活動に参加し、生活者の視点と労働者の視点、両方を持てるような環境づくりをしてほしいです。

私たちは今、企業の海外赴任経験者などを多文化ボランティアに育成し、外国人の子どもたちを支援してもらうなどして、働く人の地域参加を促そうとしています。これからもこうした仕掛けをつくり、リタイアした人なども含め、子どもについて本気で考える大人を、地域に増やしていきたいと考えています。

佐保 地域に根ざした活動を通じて社会に貢献することが、我々の重要な役割の一つだと改めて思いました。労働組合として何ができるかを見つめ直し、具体的に行動していければと思います。

(執筆:有馬知子)

RANKING

DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3

RECOMMEND

RELATED

PAGE TOP