特集記事

「これだから女は使えない」
女性を直撃するハラスメント

連合は6月を「男女平等月間」と定め、毎年女性を対象とした労働相談を実施している。女性の相談はコロナ禍を機に増加し、2020年以降は男性を上回り続けている。特に目立つのが、パワハラやセクハラ、いじめなどに関する相談だ。連合フェアワーク推進センターの久保啓子局長は「特に立場の弱い非正規女性が、ハラスメントの直撃を受けている」と警鐘を鳴らす。

「これだから女は使えない」 身バレ恐れて泣き寝入りも

「生理休暇を申請したら『うちの奥さんはそんな申請したことがない。これだから女は使えない』と言われた。しかし派遣切りを恐れて何も言えない」(30代・派遣社員)

「職場に意見すると正社員から『パートはいつでもクビにできる』『ごちゃごちゃ言わず働いて』と言われる」(30代・パートタイマー)

「介護現場で働いているが、事務長が罵声を上げながらドアをたたく、暴れる、気に入らない部下を面会室に閉じ込めて説教するなど問題行動が多く、職員が数人辞めた」(50代・正社員)

「妊娠したら『子どもがいると正社員の働きができないだろう』と言われてパートタイマーに変更になり、育休取得後復帰したら『子どもがいたら働けないだろう』と契約更新されず解雇を伝えられた」(パートタイマー)

連合「なんでも労働相談ホットライン」

電話やメール、SNSなどを通じて連合に寄せられた2022年の相談件数は約2万件に上る。最も多かったのがハラスメントなど「差別」に関する内容で、全体の17.7%を占める。また相談者の半数以上が女性で、うち約6割はパート・アルバイトなど非正規雇用で働く人だ。民間企業だけでなく、行政機関や学校などで公務につく「非正規公務員」からの相談も多いという。
冒頭の派遣社員のように、非正規雇用で働く人には「正社員の心証を損ねると、雇用契約を更新してもらえないかもしれない」という懸念が常に付きまとう。このため職場に被害を訴えられないだけでなく、外部の相談窓口を頼って職場に話が伝わることも恐れ、多くの人が「泣き寝入り」を強いられているのが現状だ。

多くの人が「泣き寝入り」を強いられている

パワハラの背景に職場のコミュニケーション不全

久保さんは「ハラスメントの背景に、被害者が自ら退職するように仕向けよう、という管理職・経営者の思惑がうかがえるケースも相当数ある」と話す。特にコロナ禍では、休業や業績不振などに陥る職場が増えたことで、暗に解雇を狙った嫌がらせが目立った。
一方、コロナ禍の混乱が収束し人手不足感が強まると「どんどんシフトを入れられてしまい、約束と違う」「退職させてもらえない」といった悩みも聞かれるように。中には「退職するなら損害賠償を請求する」と、脅迫まがいの引き留めを受けるケースもあるという。

「事情によっては、契約期間中の退職は損害賠償の対象になりえます。しかしハラスメントを受けている場合、メンタルを損なう恐れもあるため『やむを得ない事情』として法的にも退職を認められる可能性が高いでしょう」

またハラスメントの横行する職場は、労働時間管理ができていなかったり職場環境が悪かったりと、他にも複数の問題を抱えるケースが多いという。これらの問題の根本にあるのが、従業員と管理職・経営者とのコミュニケーション不全だ。

「従業員は『たとえハラスメント被害や職場改善を訴えても取り合ってもらえないだろう』と思うからこそ、外部の相談窓口を頼らざるを得ないとも言えます」

ハラスメントの横行する職場は他にも問題を抱えているケースが多い

怒りに任せず冷静に まずは証拠集めを

相談者の職場が連合加盟組織の場合、本人の了解を得た上で連合に加盟する構成組織を通じて相談内容を加盟組合に伝え、組合として解決を模索するケースもある。しかし、組合に入っていない非正規雇用で働く人が相談者の大半を占めていることもあり、まずは「誰かに何とかしてもらう」のではなく、相談者が「自ら行動する」という意識を持つことが解決の出発点だ。

「いつ誰に被害を受けたか分かるよう、可能な限り記録しましょう。メモは客観性が低いと判断されることもあるので録音やメール・LINEなどでのやり取りなどが望ましいですが、難しければ最低限メモを残すか、第三者に相談し、その記録を保存するなどして、客観的な証拠を残してください」

証拠をどのように使うかは、相談者が「これからどうしたいか」によって異なる。すでに退職を決めており謝罪や補償を求めるなら、各都道府県労働局の総合労働相談コーナーに事実関係を訴え、紛争調整委員会のあっせんなどで解決を求める方法がある。未払い賃金など労働基準法違反の疑いがある場合、労働基準監督署に通報し指導を求めることもできる。
一方、本人が同じ職場で働き続けたい場合、まずは証拠を管理職や経営者に示し、粘り強く対応を求めるのが得策だ。

「怒りに任せて攻撃的にならず、冷静に話し合いましょう。『私は仕事も職場も好きで働き続けたい。だからハラスメントをなくし、職場を良い方向へ変えたい』というポジティブな言葉が、効果を生むこともあります」

大企業の場合、ほとんどがハラスメント対策を講じており、部署異動によって加害者と被害者を引き離すこともできるため、比較的働き続けやすい。しかし中小企業の多くは全従業員が一ヵ所に集まっており、相談窓口なども不十分だ。従業員数が少ないため、被害を訴え出た人が「身バレ」するリスクも高く、対応が非常に難しいと久保さんは指摘する。
「精神的に大きな苦痛を感じているなら、ひとまず仕事から離れて心身の健康を取り戻すことも考えてほしい」と、久保さん。しかし「仕事が好きで働き続けたい人、地元の求人が少なく年齢的に次の仕事を見つけるのが難しい人などもいるので、どんなにひどい職場にいても安易に『辞めたら』とは言えず、すごく悩みます」とも明かした。

ひとまず仕事から離れて心身の健康を取り戻すことも大切

仲間と一緒に訴える 組合結成で職場と従業員の関係が良好に

ハラスメントは、社内に複数の被害者がいることも珍しくない。仲間と一緒に職場に訴えれば、管理職・経営者への説得力が増すだけでなく、個人の心身の負担も軽くなる。また組合のない職場で働く人などが個人加入できる地域ユニオンに加入し、組合として交渉する方法もある。
さらに一歩踏み込み、職場に労働組合を作って解決に至ったケースもある。山梨県のLPガス関連の中小企業では、2017年、労働相談ダイヤルへの相談をきっかけに従業員16人が組合を結成。同社は親族経営で従業員の賃金が低く、昇給の見通しも立たない状態だったが、3ヵ月間で7回にわたる団体交渉を重ねた結果、諸手当の新設や時間外手当の明確化などを実現させた。さらに経営陣が勤務表を書き換えられないよう、記入方法を鉛筆書きからボールペンにする、といった細かい見直しも実施された。
その結果、組合員からは「休みも増えたし賃金も上がった」「仕事の意欲が高まった」など前向きな声が上がった。労使間の関係も一時は緊張したものの、次第に役員から従業員へ「今日は暑いから外出は気を付けてね」といった声掛けが生まれ、組合結成前よりコミュニケーションが良くなったという。

「こうした取り組みを見ると、鉛筆からボールペン書きへといった小さな取り組みが大事だなと実感します。これらの積み重ねが次第に職場を変え、その結果、経営者も従業員の声が職場改善に役立つと認識するようになるのだと思います」

労働相談にはデモやイベントのような、対外的に社会変革を働きかける派手さはない。しかし「働き手のほうから私たちへとアクセスしてくれて、職場で何が起きているのかリアルに把握できる。とてもありがたい活動」だと、久保さんは言う。

「だからこそ、勇気を出して悩みを打ち明けてくれた人たちを失望させないよう、相談者に寄り添った対応をするよう心がけています」

悩みそのものの解決をサポートするだけでなく、相談内容を政府の審議会などで紹介し、政策に反映させることも重要な役割だ。例えばコロナ禍では「助成金の手続きが煩雑でなかなかお金が下りない」という働き手の声を関係官庁へ伝えたことが、受給手続きの簡略化につながった。

「これからも粛々と相談に応じ、労働者の声を政治や社会へ伝えることで、少しずつ働く環境を良い方向へ変えられればと思っています」

連合は2023年も6月6~7日、電話とLINEによる「女性のための連合全国一斉集中労働相談ホットライン」を実施。また上記以外の期間も、電話やメールによる相談に応じている。

(執筆:有馬知子)

相談連絡先:電話相談 0120-154-052
メール相談 https://www.jtuc-rengo.or.jp/soudan/net_soudan/
LINE相談(期間限定:LINEの労働相談実施日はLINEでお知らせします)

連合公式LINE

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