2024年11月、労災保険に加入できる対象者が全業種のフリーランスへと拡大される。対象拡大に伴い、連合は窓口となる団体を設立して加入や補償金支給などの諸手続きをサポートすることになった。
組織に所属する労働者の集まり、というイメージが強い連合だが、非正規雇用で働く労働者の処遇改善や組織化に向けた取り組み、フリーランスのネットワークやセーフティネットの構築にも力を入れている。フリーランスの安心・安全を自己責任に帰さず、労働組合の立場から支えようとしているのだ。
コロナ禍で苦境が明らかに 本格的なサポートを開始
9月5日の配信記事でも紹介した通り、建設業の一人親方など一部のフリーランスに限られていた労災保険の特別加入制度の対象者が、11月に全業種へと拡大される。これを受けて連合は8月末、加入の窓口となる新団体「連合フリーランス労災保険センター」を立ち上げた。団体設立の理由について、フェアワーク推進局の小林妙局長は次のように説明する。
「連合として、より多くの人が労災保険というセーフティネットの恩恵を受けられるようサポートし、すべての働く仲間に寄り添うという社会的役割を果たすべきだと考えたからです」
連合は従来からフリーランス支援に取り組んできたが、活動を加速させるきっかけになったのが、2020年からのコロナ禍だ。雇用されて働く人だけでなく、個人事業主からも「ヨガのインストラクターとして働いていたが、受け持ちクラスが全部なくなり、何の保障もなく収入が途絶えた」といった苦境を訴える相談が相次いだ。フリーランスの働き方が普及するのに伴い、業務請負契約を結んでいるにもかかわらず、実態としては発注者の指揮命令の下で働く「名ばかりフリーランス」の存在も問題視されるようになった。
「多くのフリーランスが、労働関連法の保護対象になっていないというセーフティネットの脆弱性が、コロナ禍で改めて浮き彫りになったのです」
こうした問題を受けて連合は、「名ばかりフリーランス」のようなケースをなくすために労働関係法令を厳格に適用することや契約関係を明確化することの重要性を訴え、「労働者」概念も見直すよう政策的な働き掛けを強めてきた。さらにフリーランスと連合が連携するためのプラットホーム「Wor-Q(ワーク)」や「連合ネットワーク会員」といった仕組みを設け、当事者と「緩やかなつながり」を作ることにも取り組んだ。「受け皿団体」である同センターの設立も、一連の活動と地続きになっている。
「私たちはWor-Qや各都道府県の地方連合会などを通じて、特別加入制度の情報を発信し加入を促すこともできますし、加入者を対象とした災害防止研修や労働安全衛生教育に、労働組合として培ったノウハウを活かせるとも考えました」
労災保険特別加入制度 多くのフリーランスに加入してほしい
労災保険特別加入制度は、仕事や通勤中のけがや病気の際、必要な治療を無料で受けられたり、休業4日目以降は休業日数に応じて給付が受けられたりする仕組みだ。治療後に障がいが残った場合も給付を受けられるほか、亡くなった時には遺族に給付が支払われる。加入者は自分の報酬に見合った額に応じて、毎年の労災保険料を16段階(3831円~27375円)から選ぶことができ、段階に応じて給付額も変わる。
同センターは加入希望者が手軽に手続きできるよう、主にウェブサイトで申し込みを受け付ける予定だ。ただ「必要な場合は、スタッフが当事者にきめ細かくヒアリングしながらサポートしていきます」と、フェアワーク推進局の若月利之局局長。
例えば、すでに労災特別加入ができる建設業の一人親方やアニメ制作などは、既存の特別加入団体から加入することになり、こうした時には該当する窓口を紹介することになる。また「名ばかりフリーランス」や不当な搾取が疑われる場合、管轄の労働基準監督署などと連携する必要もある。このため窓口には労働の専門家を配置し、加入や支給の手続きだけでなく、問い合わせや相談にも応じる。
若月さんは「新しい制度はまだ社会にあまり知られておらず、今後いかに周知し、加入を促していくかが大きな課題です」とも語る。このためWor-Qのようなネットを介した情報提供に加え、地方連合会にもチラシを置き、地域の働き手が相談できる窓口としての体制を整える予定だ。
また雇用される人の場合、労災保険料は企業側が全額負担しているが、フリーランスは全額自己負担になる点が、加入のネックになる恐れもある。小林さんは「フリーランスと業務委託契約を結ぶ際、労災保険料分を報酬に上乗せするよう発注側企業に求めてはどうかといった意見もあり、今後どんな対策を取るべきか検討を進めていきます」と話した。
ちなみに小林さんにはフリーランスで働く家族がおり、適正な対価を得られない状況などを目の当たりにしてきた。セーフティネットの必要性を痛感させられる場面も多いという。
「特別加入制度の対象拡大は、国がフリーランスの労働災害に対して、きちんと補償する意思を示した、という大きな意味があります。より多くの人に加入してもらい、国の支えを実感してもらいたいと考えています」
フリーランスはすべて自己責任? セーフティネットは必要
フリーランスは自分の意思で雇用されない働き方を選んだのだから、セーフティネットも自己責任で賄うべきだという意見も、一部にはある。しかし実態は、仕事を請け負う立場から発注者に対する交渉力が弱くなりがちで、労災だけでなく育休・産休といった、雇用される労働者なら制度として整えられている休暇なども、思うように取れない人がいるのが実態だ。
11月に施行されるいわゆる「フリーランス法」は発注者に対して、フリーランスと契約を結ぶ際に報酬の支払い期日を設定することや取引条件を明示すること、契約期間が6カ月以上のフリーランスについては、育児・介護等と仕事を両立できるよう配慮することなどを義務付けている。若月さんは「社会がフリーランスの労働安全衛生の向上や、育休取得促進などの方向に向かいつつあることは評価できますが、実効性を担保できるかが課題。労働者の育休取得に雇い主の理解が不可欠なのと同様、発注者側の意識も変える必要があります」と述べる。
一方でフリーランス側も、労災や医療、介護、年金など社会の諸制度に関する知識が少なく、煩雑な手続きを敬遠することも想定されるため「フリーランスで働く人たちの理解を深めることも大事」とも話した。
Wor-Qはこうした情報提供のプラットホームとして、特別加入制度のほか「Wor-Q共済」など、フリーランスにとって「お役立ち」のサービスを提供している。Wor-Q共済は18~64歳の人なら健康状態に関係なく加入できて、年会費3000円でけがや病気、入院、死亡の際に共済金が支給される制度だ。業務で賠償事故が発生した際の補償なども、オプションで付けられる。
さらに連合は、フリーランスの実態を知る当事者や有識者らを集めて意見を聴き連携を深めようと、2022年11月に「Wor-Qアドバイザリーボード」も立ち上げた。2023年には全国各地で「フリーランスサミット」というイベントも開き、オンラインとリアルの双方で、当事者が交流する場を設けている。
「労災保険の特別加入制度をきっかけに、労災以外の社会的なセーフティネットにも関心を寄せ、理解を深めてほしい。そのために私たちも、当事者にわかりやすい制度となるよう国に働きかけると同時に、必要な情報を発信していきます」(若月さん)
(執筆:有馬知子)