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フリーランスも加入できる!
「労災保険特別加入制度」が対象拡大
制度加入のメリットとは?

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2024年11月、業務中のけがや病気の際に補償を受けられる「労災保険特別加入制度」の対象が拡大され、業務を問わず多くのフリーランスの働き手が加入できるようになる。東洋大学准教授であり、特定社会保険労務士の北岡大介さんに、制度拡大の内容や、でフリーランスが制度加入で受けられるメリットなどについて聞いた。

北岡 大介 東洋大学准教授・特定社会保険労務士
労働基準監督官として監督指導業務に従事。退官後、北海道大学大学院で労働法・社会保障法を専攻(博士課程単位取得退学)。民間企業を経て、2009年に北岡社会保険労務士事務所開業。2022年4月から東洋大学法学部准教授(労働法)。著書に『フリーランスの働き方と法』(共著、日本法令)『「同一労働同一賃金」はやわかり』『「働き方改革」まるわかり』(いずれも日本経済新聞出版社)など。

多様なフリーランスを労働災害から守れ! 仕組み見直す動き

同制度の対象が拡大されることになったのは、けがや病気などで働けなくなった時のセーフティネットを必要とするフリーランスが増えているためだ。

かつての「雇用されない」働き方は自営業者のほか、弁護士や税理士のような専門資格のある「士業」など、自前でセーフティネットを構築できる働き方が想定されてきたが、政府の試算によると、フリーランスで働く人の数は2020年、462万人に上るとされ、副業・兼業やウーバーの配達員のように単発・短期の仕事を担うギグエコノミーなど、その姿も多様化している。

「中には就業形態があいまいで、トラブルや事故に巻き込まれた時、労働者なら当然受けられる法的救済を何ら得られず苦境に陥る人も増えています。このため社会的にも、フリーランスへの労災保険や社会保険の適用を検討すべきだという声が高まっています」

連合「フリーランスとして働く人の意識・実態調査2021」より

労災保険は原則として雇用された労働者を対象としているが、従来から建設業や漁業、林業の一人親方、アニメ制作者、中小の事業主などを対象に特別加入の枠組みが設けられている。しかし「フリーランスが外勤中に交通事故に被災したり、デスクワークのフリーランスも腰痛のような、労働者と共通の職業性疾病のリスクがあります。業種を制限せず、幅広いフリーランスを労災から守る仕組みが必要なのは明白です」。

さらに2021年5月の建設アスベスト訴訟最高裁判決で、労働安全衛生法が保護対象とするのは、労働者だけでなく条文ごとの趣旨・目的に照らし、「労働者以外の者」も含まれうるとの司法判断が示されたことも、労災保険の保護対象拡大の追い風となった。

その翌年に設置された「フリーランスの保護のあり方などについての有識者会議」の調査結果なども踏まえ、2024年11月に施行される「フリーランス新法」の附帯決議に「労災保険の特別加入制度について、希望する全ての特定受託事業者が加入できるよう対象範囲を拡大する」との項目が盛り込まれた。それを受けて特別加入制度の対象拡大が決定された。

厚生労働省の資料より作成

業務や職種に関わらず加入可能に 
BtoBの仕事をしようと考える人も対象! 

対象拡大によって、法人と契約を結ぶ「BtoB」のフリーランスは全員、労災保険に加入できるようになる。フリーランス462万人の4割超に当たる228万人が該当すると試算されており、北岡さんは「フリーランスが業務に関わらず加入できる点は画期的です」と評価した。

フリーランス新法がBtoBの取引を念頭に置いているため、一般消費者を顧客とする「BtoC」のフリーランスは原則対象外だが、「対象が狭すぎる」として連合が対象拡大を求めたことにより、「将来的にBtoBを予定しているフリーランス」も対象となった。

ただ新制度に加入する際、注意すべきこともある。例えば、アニメ制作とウェブ制作など既存制度の対象業務と新たに対象となった業務を兼務する場合、すべての仕事をカバーするには、両方に加入しなければいけない可能性もあるのだ。

「今は副業・兼業も普及し、幅広い業種に関わるフリーランスも増えており、加入する際には、自分が加入すべき特別加入制度はどこなのかを正しく理解しておくことが必要です」

フリーランス一人ひとりにベネフィットを説明し加入を促すことが重要 

北岡さんが最も重要と捉えているのが、フリーランスへの対象拡大をより多くの当事者に周知し、制度に加入してもらうことだ。

「加入手続きと保険料負担というハードルを乗り越えるには、手間とお金を掛けるに値するベネフィットがあることを、きちんと説明する必要があります」

制度に加入すれば、業務上のけがや病気については医療費が全額カバーされ、仕事を休んだ場合の休業給付も支給される。また障がいが残れば障害年金が、万が一死亡した場合は遺族年金が、それぞれ要件を満たせば労災補償給付として迅速に支払われる。

既存の制度に加入しているのは2021年度末時点で約194万人だが、業種別でみると建設業の一人親方が約64万人と最も多い。これは発注者であるゼネコンが、一人親方と請負契約を結ぶ際に、制度加入を契約条件に盛り込むなどして、加入を促したためだという。

「新制度も、発注者などに制度加入の大切さを理解してもらい、受注者であるフリーランスに加入を促してもらうことが有効でしょう。監督官庁が所管する業界に対して、制度加入を促すよう指導するといった施策も求められるかもしれません」

連合が社会的役割として受け皿団体を設立!
培った経験をもとに安全衛生教育も担う

既存の特別加入制度の対象業務が限られていたのは、労災リスクが高い業務に限り加入を認めたことに加え、労災保険の運営を担う受け皿団体を業界団体が自発的に設立する必要があり、ハードルが高かったためだ。このため、これまで従事者が少なく業界団体がないような業務は、対象から外れざるを得なかった。

対象拡大に当たって、これまでフリーランスとの連携で実績があり、「すべての働き手のそばに、必ずいる存在」として幅広い産業の労働組合を束ねる連合が、労働組合としての社会的役割を果たす観点から受け皿団体を設立することになった。

受け皿団体の役割には、加入手続きや保険給付だけでなく、制度の周知や労災予防の研修・安全衛生教育なども含まれる。連合はフリーランスがつながるプラットホーム「Wor-Q(ワーク)」を通じた情報提供や、厚生労働省と連携した安全衛生教育を提供する予定だ。

「事故が起きた時のセーフティネットも必要ですが、事故を起こさないための就業災害予防対策と、良好な就業環境を作ることも非常に重要。日頃から労働者の労災予防活動などに取り組む連合なら、必要な知恵が出てくると思います」と、北岡さんは期待する。

また受け皿団体には、必要に応じて窓口でのきめ細かいヒアリングなどの対応が求められることも想定される。人によっては前述したように、既存の特別加入制度とフリーランス特別加入新制度の対象業務を同時に行う、あるいは将来、始めようとしているケースも考えられるからだ。発注者の指揮監督の下で業務を行うなど「労働者性」が認められうる「名ばかりフリーランス」のケースや、権利侵害を受けているケースなどの実態も把握する必要がある。

「右から左にフリーランス特別加入の手続きを進めるだけでなく、仕事内容を聴いて必要な場合は既存の特別加入制度につなぎ、労働者性があると判断しうる場合には労働基準監督署と連携する。連合には労働相談などのスキルを生かし、受け皿団体として必要な役割を果たしてほしいと願っています」

連合は「連合フリーランス労災保険センター」を8月27日に設置。11月1日の制度開始に合わせて加入の受付を始められるよう準備を進めている。

「連合フリーランス労災保険センター」設立に関する記者説明会(2024年8月27日連合会館にて)

(執筆:有馬知子)

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