エッセイ・イラスト

今どきネタ、時々昔話
第4回 アンペイドワーク

●ジェンダーギャップ指数は過去最低の125位

6月、世界経済フォーラムの「2023年版ジェンダーギャップ指数」が公表された。日本の順位は、前年の116位からさらに後退して過去最低の125位(146カ国中)。
「政治参加・経済活動・教育機会・健康」の4分野における平等度のうち、特に低いのが政治参加と経済活動の分野だ。

今年の統一地方選では、女性候補が大健闘。杉並区議会で女性比率が52.1%となったのをはじめ5割達成の地方議会が複数誕生したし、東京23区の女性区長も過去最多の6人に増えた。確実に新しい動きが生まれているようでうれしいが、ジェンダーギャップ指数の指標は、衆議院議員、閣僚、大統領・首相の男女比。日本の衆議院議員の女性比率は11%、閣僚は9%、女性の首相はいまだ誕生していない。

経済分野はどうか。厚生労働省の調査(2022年10月実施)では、企業の課長級以上の管理職に占める女性の割合は12.7%。過去最高ではあるが、調査を始めた13年前から2.5ポイントの上昇にとどまっている。

世界経済フォーラム「Global Gender Gap Report2023」

●子育て中の新人候補者に100万円を支給

そんなニュースをパソコン上の〈ネタフォルダ〉に投げ込んでいたら、私的に「えっ?!」と驚くニュースが飛び込んできた。いくつかの記事をまとめて要約すると下記の通り。

8月1日、自民党改革実行本部「女性議員の育成、登用に関する基本計画実行プロジェクトチーム」は、今後10年間で女性議員の割合を3割に引き上げる目標達成に向け、女性新人候補者らへの支援策として、支援金制度やハラスメント相談窓口の設置などを決めた。支援金は一律100万円を給付するほか、子育て中の新人候補(男女)にベビーシッター代や一時保育の費用として100万円を支給する。

自民党が行った女性議員へのアンケート調査で「特に未就学児を抱える候補者から育児支援の必要性を訴える声が多く上がった」ことから打ち出されたという。

すでに日本維新の会が同様の育児支援策(最大20万円まで)を実施しているが、確かに自民党の支援策は「ケタが違う」。遅すぎる感はあるが、女性議員を増やすためにできることは何でもやってほしいと思う。ただ、なぜ女性新人候補だけなのか、なぜ100万円なのか、ちょっとモヤモヤもする。

安藤優子著『自民党の女性認識—「イエ中心主義」の政治指向』(明石書店、2022年)を引っ張り出して読んでみた。
2018年に「政治分野における男女共同参画推進法」が施行されたが、翌2019年の参院選の自民党女性候補者比率は15%にとどまった。自民党選対本部関係者にその理由を聞くと、「均等に候補者を立てるのはまず無理…ダンナの世話をしながら選挙戦を戦える女性がどの程度いるのか? 選挙は自己責任、つまり選挙資金と一定の支持者がいないと難しい」と答えたと書かれている。
本書は、安藤さんが報道番組のMCを務めながら上智大学大学院で学び、その博士論文をベースに書籍化されたもの。女性が「家庭長(主婦)」として家庭責任を担うことで、男性たちは安心して仕事に打ち込み「オトコだけの政治」を築いてきたこと、それが日本型福祉としてシステム化されたことなどを分析していて興味深い。
今回の自民党の支援策は、選挙資金のない女性候補も応援するという方向に舵を切ったもので画期的だが、「家事・育児は女性の仕事」という「女性認識」も変わっていくことを願いたい。

●仕事と家庭の両立はますます切実に

さて、仕事と家庭の両立は、女性候補だけの問題ではまったくない。
総務省「就業構造基本調査(2022年)」によると、25~39歳の女性の有業者比率が81.5%となり、初めて8割を超えた。かつて女性の就業率は子育て期に下がるM字型と言われたが、子育てしながら働く女性が増えてM字の底が上がっている。つまり仕事と家庭の両立はますます切実になっているということだ。

知り合いのZ世代女子(独身)は、「夫に殺意しかない」というような物騒なサイトを閲覧するのが趣味。妻が風邪をひいて寝こんだら「夕飯は外で済ませるから」と言われたという定番ネタをはじめ、ここには書けないような壮絶な実態が綴られているという。

家事・育児のシェアは簡単ではなさそうだが、負担軽減策はほかにもある。

第1に、時短家電や便利グッズの導入。洗濯乾燥機やロボット掃除機、食洗機は、共働き家庭の必需品だし、ほったらかしの調理器具やミールキットもある。ただ、それを使いこなすにはそれなりの労力が必要だ。
第2は、家事代行サービスという外注化。最近では、週2回くらいの契約で掃除や作り置きなどをお願いできる。ただ、事前に受け入れ準備が必要だし、1時間2000〜4000円ほどの費用がかかる。
第3は、親や地域の援助。特に子育てにおいて「じじ・ばば」は強力な助っ人だが、いつまでも健康で経済的に自立し、近くに住んでくれる親は多くはない。

100万円とはいわない。せめて5万円くらい家事・育児支援金をもらえたら、思い切って代行サービスを頼んでみたい。そんなことを考えていたら、「アンペイドワーク(無報酬の仕事)」という言葉を思い出した。

●女性はアンペイドワークを通じても発展に貢献

『月刊連合』1997年12月号は「いま注目されている アンペイドワークとは?」という特集を組んでいる。1995年に開催された第4回世界女性会議(北京会議)の行動綱領に「女性は有給の仕事のみならず、多くの無償労働を通じても発展に貢献している」と提起。それを受けて1997年、経済企画庁に「アンペイドワーク研究会」が設置され、「無償労働の貨幣評価総額は98兆円、専業主婦の平均年間評価額は276万円」などの試算が示された。

アンペイドワークは、「無償労働」とも訳されるが、家庭内での家事や育児、介護、地域におけるボランティア活動など、労働の対価が支払われない労働をいう。
「労働には、生産労働と再生産(家事・育児・介護)労働の2つがある。前者は対価として賃金が支払われるが、後者は主に家庭内の無償労働(アンペイドワーク)として行われている。どちらも、日々の生活を支え社会を持続させていく上で、なくてはならない労働だが、再生産労働は無償であるがゆえに社会的評価は低く、主にそれを担う女性は、そのことを理由に生産労働において低い地位に置かれている。それは、家事労働の延長と見なされる保育や介護労働者の低い処遇にもつながっている」という問題提起であったと記憶している。

連合は、1993年にフルタイムで働く男女労働者を対象に「労働・生活時間実態調査」を実施。家事・育児・介護などに費やす時間は、男性が35分に対し、女性は3時間10分。この結果について、高島順子連合総合局長(当時)は「家事労働は、人間の生活に不可欠な営み。しかし、社会化・市場化されない部分は国民総生産の中に計算されていない。しかも、この女性の家事労働時間の長さが、職場ではマイナスに評価されてしまう」と指摘している。

また、記事は各国の対応も紹介している。
北欧諸国では、労働時間を短縮して男女が家事・育児を行う生活時間を確保し、育児費用を社会全体で分担する仕組みを構築。
ヨーロッパやアジアの一部の国では、外国人家事労働者を受け入れて家事・育児を外注し、男性と同じ環境で女性がビジネスや政治の世界で活躍できるようにした。
日本では、男性が長時間働き、家事・育児・地域活動は「主婦(女性)」が担うという分業システム(日本型福祉)を採用した。ただし、主婦の労働は、まったくの無報酬ということではなかった。配偶者手当や配偶者控除などの形で夫に支払われ、年金の第3号被保険者制度も作られた。さらには「年収の壁」の手前で働く「パート主婦」が基幹労働力化してくことになる。

この記事が出てから30年。働く女性はもっと増え、共働き世帯が専業主婦世帯を上回っているが、男性の家事・育児時間は女性の4分の1にとどまり、性別役割分業システムの基本的構造は維持されている。そして超少子化も深刻なままだ。
連合が掲げてきた「男も女も 家庭も仕事も」。それは、便利グッズを投入しても家庭内のシェア努力だけでは解決できそうにない。ニーズに合った子育て支援、「年収の壁」問題など性別役割分業を前提とする現行の政策・制度の見直しが、今本気で求められているのだと思う。

★落合けい(おちあい けい)
元「月刊連合」編集者、現「季刊RENGO」編集者
大学卒業後、会社勤めを経て地域ユニオンの相談員に。担当した倒産争議を支援してくれたベテランオルガナイザーと、当時の月刊連合編集長が知り合いだったというご縁で編集スタッフとなる。

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