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エッセイ・イラスト

今どきネタ、時々昔話
第3回 あの時実現していれば〈選択的夫婦別姓〉

●全国から聖地巡りの若者が

「東海オンエア」をご存知だろうか。愛知県岡崎市を拠点に活動する6人組の人気YouTuberグループで、登録者数は、連合組合員数よりやや少ない690万人。若い世代に絶大な人気だという。
今年1月中旬、家庭内Z世代男子(以下、Z男子)にテレビ番組の録画予約を頼まれた。NHKの『鶴瓶の家族に乾杯』で、大河ドラマ『どうする 家康』の主演・松本潤さんがドラマの舞台となる岡崎市を訪れるという。タイトルは「松本潤が家康ゆかりの愛知県岡崎市の旅でまさかの対面実現!?」。小学生の頃は「嵐」の大ファンだったが、録画してまで観ようというのは、なぜなのか。
「一緒に観る?」と誘われて謎が解けた。岡崎のまちで鶴瓶さんや松本潤さんが道行く人に声をかけると、必ずといっていいほど「東海オンエア」という名前が出てくる。全国から聖地巡りに来た若者があちこちに出没し、地元の人たちも「ここに行けば会えるかも」という情報をよく知っているのだ。
去年の夏頃、Z男子から「面白いから聴いてみて」とイヤホンを渡されたのが、東海オンエア(リサイタルズ)の『888月 〜夏にも程がある〜』。二毛作とかテトラポットとか、意味不明の歌詞が心に残る不思議な曲だったが、以来すっかりハマって再生回数アップに貢献してきたらしい。
番組では、東海オンエア行きつけの店で、松本潤さんがメンバーと感動の対面。Z男子は、「ホントにキター!」とそのシーンを何度も再生していた。私はといえば、この聖地巡礼者たちの「松潤」に対する塩対応に時の流れを感じ、その後やや年配の女性がやっと「松潤」に「キャー!」と歓喜してくれたことに心底ホッとした。

●珍しい名字かっこよ~

前置きが長くなったが、その東海オンエアのメンバーの一人、虫眼鏡こと「金澤太紀(かなざわ たいき)」さんが、今年4月に結婚し、名前が「河合(かわあい)太紀」に変わったというニュースが目にとまった。
日本で日本国籍の人同士が結婚する場合、新たに戸籍を作成し、「夫または妻の氏を称する」とされている。現状では、約96%が夫の姓を選択しているが、虫眼鏡さんは、妻の姓を選んだという。その理由がさらっとしていて、とても今どきな感じで、Z男子がハマる理由がちょっとわかった気がした。
結婚を報告する動画(虫眼鏡の放送部)で「シンプルに男として珍しい名字かっこよ~と思って変えただけなんで、あまり政治的な意味はないです」と説明。旧姓を捨てたかったのかという問いには、「今はそんな時代じゃないじゃないですか。お家制度もないじゃないですか。長男がどうとか」と語る。ただ、改姓の手続きには戸惑ったようだ。「第2の人生が始まるぜ感を味わわせてもらった一方で、名字変わっていろいろクッソ面倒くさかったのでイーブンですね…市役所と警察署行ったらほぼ終わりやろ。あとはネットで順繰りに変えていけばいいと考えてたんですけど、僕一応、会社の社長だったんですよ。それがめんどくさくて。登記を変えないといけないとか…」とこぼしている。
日本は、世界で唯一「夫婦別姓」を認めていない国だ。改姓に伴う手続きは煩雑で身分証明に関わる名義はすべて戸籍名に変更しなければいけない。職場でもIDカードや名刺、アドレスなどの変更が必要であり、旧姓を通称として使用すると、二重に面倒が増える。現状では、圧倒的に妻の側がその負担を引き受けているが、あの時、選択的夫婦別姓が実現していれば、と思わずにはいられなかった。

●改正法案は国会に提出されなかった

月刊連合1996年1月号

私が「月刊連合」に初めて原稿を書いたのは、1996年1月号の「夫婦別姓の時代がやってきた 妻が『昔の名前』に戻るとき…」というお正月特集企画だった。今読み返すと、トレンディードラマ風の構成に気恥ずかしくなるが、なぜ「夫婦別姓」を取り上げたのか。
それは、法制審議会民法部会における改正審議が最終段階に入ろうというタイミングだったからだ。政府は、国連女性差別撤廃条約にもとづき、1991年、新国内行動計画に「男女平等の見地から、夫婦の氏や待婚期間※(再婚禁止期間)のあり方を含めた婚姻及び離婚に関する法制の見直しを行う」と明記。これを受けて、法制審議会で民法の見直し作業が始まった。1986年に均等法が施行され、働き続ける女性が増える中で、「結婚による改姓」は職業生活や実績のハンディになるとの認識が広がり、「旧姓の通称使用」を認める会社も出てきていた。連合も「1994-95年度政策・制度 要求と提言」に「夫婦別姓を望む人が増えてきており、夫婦の同氏の定め(民法750条)を改正し、夫婦が別氏を称することができるようにすること」を盛り込んだ。

月刊連合1996年1月号

1994年7月、法制審は「婚姻制度等に関する民法改正要綱試案」として「A案:原則同姓、別姓選択も可、B案:原則別姓、同姓も選択可、C案:夫婦同姓、通称使用可」の3案を提示したが、1995年9月の「中間報告」は、A案を採用した。
私は、「これで選択的夫婦別姓が実現する」と素直に思い、特集の原稿を書いた。掲載誌が発行されてまもなく、1996年2月には「婚姻制度等に関する民法改正要綱案」も答申され、そのまま国会審議につながると信じて疑わなかった。
ところが、改正法案は国会に提出されなかった。法案要綱に盛り込まれた項目の中で、婚姻適齢や再婚禁止期間、婚外子相続分規定※については、その後改正が行われたが、選択的夫婦別姓だけは、答申から27年が経過した今も実現していない。
なぜ、あの時、実現できなかったのか。自民党議員からの強い反対があったからだ。当時、法制審議会事務局を務めた小池信行弁護士は、「私自身は制度導入について婚姻時に夫婦の氏の選択肢が一つ増える、一種の『規制緩和』と認識していた。ところが自民党に説明に行ったら、日本の伝統、家族の絆といった家族論や価値観の次元の問題と捉える意見が多く、これは容易なことではないと痛感した」と語っている(『東京新聞』、2022年4月12日)。
背景には「夫婦別姓に反対し家族の絆を守る国民委員会」を結成して活発なロビー活動を行った反対派の存在があり、それはバックラッシュと呼ばれる激しいジェンダーバッシングへと発展していくことになるのだが、政府は、こうした反対派に配慮して、現在に至るまで「通称使用の拡大」でしのごうとしてきた。
通称を使用する女性は増えているが、2つの姓を使い分ける煩雑さから、なぜそこまでして「同姓」でなければいけないのかという疑問が広がっている。海外で活躍する女性も増えているが、国連などの国際機関では、政府発行の身分証明書に記載された名前でしか働けないし、パスポートに旧姓が併記されていても、海外では効力がないという。同姓の強制は、間違いなく女性活躍の足かせとなっている。
「月刊連合」は、2019年6月号でも「なぜ選択的夫婦別姓が必要なの!?」の特集を掲載。NPO法人mネット・民法改正情報ネットワークの坂本洋子理事長は「『夫婦別姓』とは単なる名前の問題ではなく、国家と家族のあり方が問われる問題であり、選択的夫婦別姓の実現は、日本という国が、男女平等で個人の尊厳や多様性を尊重する成熟した社会であるのかどうかの試金石になる」と訴えている。本当にそうだと思う。

月刊連合2019年6月号

ちなみに私は婚姻しているが、「改姓」はしていない。実は夫婦別姓が合法的に認められる「抜け道」がある。それは国際結婚だ。配偶者が外国籍の場合、戸籍はないので、自分の戸籍に「○○国籍の○○と婚姻」と記載されるだけ。同姓にするには、6ヵ月以内に「外国人との婚姻による氏の変更届」を提出しなければならない(6ヵ月を超えると家庭裁判所への許可申請が必要)。私は、それも面倒で別姓のままきたが、先日こんな経験をした。60歳の誕生月に取引のある銀行から「介護費用保険」(要介護認定されたら一時金が支払われる)の案内が来て、配偶者も一緒に入れるというので夫の分も申し込んだ。ところが、銀行から「姓が違うので、正式な配偶者とは認められません」という文書が届いたのだ。銀行ともあろうところが、法制度を知らないのかと驚いた。制度の説明文と住民票の写しを送付して加入が認められたが、あの時、選択的夫婦別姓が実現していれば、と思わずにはいられなかった。

★落合けい(おちあい けい)
元「月刊連合」編集者、現「季刊RENGO」編集者
大学卒業後、会社勤めを経て地域ユニオンの相談員に。担当した倒産争議を支援してくれたベテランオルガナイザーと、当時の月刊連合編集長が知り合いだったというご縁で編集スタッフとなる。

※実現した民法改正
・婚姻適齢
婚姻開始年齢は、女性が16歳、男性が18歳とされていたが、2018年に民法731条の改正が行われ、2022年4月1日から婚姻可能年齢は男女ともに18歳となった。
・待婚期間(再婚禁止期間)
2016年6月の民法一部改正で女性の再婚禁止期間が6か月から100日(前婚の解消又は取消しの日から起算して100日)に短縮されたが、婚姻の解消等の日から300日以内に生まれた子は前夫の子とされていたため、出生届が出されない「無戸籍」児問題は解消されなかった。そのため2022年12月、再度法改正が行われ、女性の再婚禁止期間を廃止し、婚姻の解消等の日から300日以内に生まれた子でも、母が前夫以外の男性と再婚した後に生まれた子は再婚後の夫の子と推定することとなった(施行は2024年4月1日)。
・婚外子相続分規定
2013年の民法一部改正で、嫡出でない子の法定相続分を嫡出子の2分の1と定めた部分(民法900条4号ただし書前半部分)が削除され、同等となった。

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