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経営側に「人への投資」を求め、
パートの賃上げと基幹化を加速-西友労働組合-

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スーパー大手、西友の労働組合は2023春季生活闘争で、パートタイマーの賃上げ率が正社員のそれを大きく上回った。労働力不足でパートの確保と定着がますます難しくなる中、2024年も昨年と同水準の賃上げをめざす。佐藤明雄中央執行委員長は「2024闘争では賃上げに留まらず、パートの基幹化と正社員登用を加速させる第一歩も踏み出したい」と意気込みを語っている。

UAゼンセン西友労働組合 佐藤 明雄 中央執行委員長
株式会社西友に入社後、東京都・埼玉県の3店舗10年間、無印良品・アパレル部門で勤務。当時セゾングループ野球大会参加をきっかけに、入社11年目で労働組合の専従としてのキャリアがスタート。専従3年目から約2年間、旧産別JSD(サービス・流通連合)へ出向。その後西友労働組合に復帰し、現在は中央執行委員長として9年目。UAゼンセンでは流通部門副部門長、連合東京では西北ブロック地協議長の役割を担う。

時給引き上げても人を採れない パート組合員の減少に危機感

西友労働組合の2023年の賃上げ率は、正社員が4%超、パートタイマーに当たる「メイト社員」が6.89%の高水準となった。労働組合が経営側へ賃上げを強く訴えた背景には、採用難と離職によって正社員・パートともに人数が減っていることへの危機感がある。

流通業はもともと労働者の出入りが激しく、西友でも例年パートを中心に3000人くらいが入れ替わってきたという。しかし「以前は人数が減った分は概ね補充できましたが、コロナ禍以降、空いた穴をすべて埋められるだけの人員を確保するのは難しくなってしまいました」と、佐藤委員長は嘆く。

2021年6月末に2万3700人を超えていた組合員数は、2024年1月時点で約1万8000人に減少。特にパートが2万人超から約1万5千人へと、大幅に減った。

「人材の採用競争に勝ち、かつ定着してもらうという二重の高い壁に直面しているのです」

流通業は現場仕事で土日も営業している上、他産業との賃金格差もあり人が集まりづらい。大卒者の新卒採用も、業界全体で毎年約30万件の求人が出されるのに対し、採用者数は約3万人。つまり10社で1人の学生を奪い合うような構図だという。

「ましてやパートタイマーは、最低賃金に10%上乗せした求人時給を設定しても、採用はかなり厳しいのが現状です」

産業のリーダーとして賃上げをけん引、格差縮小へ

会社側は今後の労働人口減少を見越して、DXやセルフレジへの投資を進め、作業の効率化・省人化を進めている。ただ佐藤委員長は「人口が減る以上、AIへの代替が必要な部分もあります。しかし利益を高めるには従業員がAIを使いこなし、お客様に良質なサービスを提供することが不可欠。経営側にもこうした認識を持ち、従業員の生み出す価値に報いてもらわなければいけません」と訴える。

西友労働組合は加盟している産業別労働組合、UAゼンセンの中でも規模が大きく賃金水準も比較的高い。このため春季生活闘争では例年、早いうちに賃上げを勝ち取り、産別全体の賃金改善をけん引する役割を期待されている。このため今年も、正社員・パートともに昨年並みの賃上げを要求する方針だ。それによって流通業と他産業との賃金格差を縮め、さらに正社員とパートをはじめとする非正規雇用で働く仲間との格差解消も前進させたいという。

「企業としても今期は前期を上回る利益を見込んでおり、従業員の努力によって生産性はかなり改善しています。それに対して応分の配分を求め、粘り強く交渉します」

パート基幹化を加速、人事制度見直しと一時金の水準引き上げを要求

西友も含めたチェーンストア大手は、店舗管理などの基幹的な業務を含めて標準化された部分が大きく、従来は正社員の担ってきた管理業務を、パートが引き受ける場面も増えてきた。このため業界全体で、パートの基幹化とそれに伴う待遇改善が、大きなテーマの一つとなっている。スーパー大手のイオンリテールも2023年、正社員と同じ業務を担うパートの処遇を正社員と同等にし、パートのままでキャリアアップできる人事制度を設けた。

また西友では、2008年にウォルマートの完全子会社となってから約10年間で、パートで入職し正社員へ転換するキャリアパスが定着した。このためパートであっても『正社員予備軍』として、基幹的な仕事を任されるケースは従来から多かったという。

「ウォルマート時代からパートの基幹化は推し進められており、正社員のマネジャーも、約半数がもともとパートで入職した人たちです。人事評価制度や労働時間、福利厚生面も、基幹的役割を担うパートと正社員の差はほぼありません」

ただ一時金については正社員とパートで格差があるため、昨年から人事制度改定に向けた労使協議を始め、根本的な見直しに着手しているという。

「省力化投資も重要ですが、目の前の人手不足を解消するための環境整備も大事です。パートの人事制度見直しと、一時金の水準引き上げを強く求めます」

正社員登用の活性化を求め、パートの定着促す

西友はウォルマートの子会社時代、正社員転換についても「かなりアグレッシブな制度」を運用し、年間約100人程度正社員に転じる従業員がいたという。ただ3年前、株主がファンドなどに代わって運営体制の見直しが始まり、その間、正社員登用は一時的にほぼ凍結される形となっている。

「数年前、いずれ正社員になりたいと思って入社した若年層の多くが、かなりスキルが身についた今もパートに留まっています。彼ら彼女らは、同業他社で正社員の応募があれば転職してしまいかねない。西友が育てた人が他社で活躍するのは大変な損失です」

同業他社も近年、正社員転換などの仕組みを充実させており、賃金だけでなく総合的な労働条件の競争が激しくなっているという。ようやく採用できたパートに定着してもらうには、職場環境や賃金の改善に加えてキャリアアップの道を拓き、将来にわたって会社に貢献してもらう仕組みが不可欠だ。労働組合としても経営側に、正社員転換を活性化させるなど、労働環境の変化にスピーディーに対応するよう訴えているという。

「パートの意欲を高めて基幹的な人材に育て、数年経ったら正社員へ登用することで、定着を促す必要があります。2024闘争は、転換制度を再び活性化させてパートの育成など『人への投資』を加速させる第一歩にしたいと考えています」

組合も育成に取り組む 従業員のエンプロイアビリティ向上

西友労働組合は、労使交渉と同時に組合員の「エンプロイアビリティ(職場で能力を発揮する力)」を高めるためのサポートにも力を入れている。

「組合員には職場への貢献にとどまらず、自分自身の身を守る『武器』も身につけてほしい。極端に言えばどの職場でも通用する人材になれるよう、教育に力を入れています」

接客業という業界特性もあって、組合員からも「対人能力を高めたい」というニーズは多く、労働組合主催でコミュニケーション研修などを開いている。組合がスキルアップの機会を提供することによって、組合員の求心力を高める効果も期待できそうだ。

「経営側にも、従業員が組合の研修などで意欲的にスキルを身につけていることを伝え、頑張りに待遇や賃金で報いるよう促しています」

また西友にはウォルマート時代から、従業員のちょっとした工夫などを褒め、失敗はユーモアに変える、というカルチャーが浸透してきたという。コンプライアンス重視、サービス残業のない働き方など、良い意味で外資的な慣習も定着している。

「『すべての人を尊重すること』は経営ミッションにも盛り込まれ、組織の一体感を高める役割を果たしてきました。2024闘争でも、人への投資を通じてミッションをきちんと体現するよう、経営側へ働きかけていきます」

(執筆:有馬知子)

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