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ジェンダー問題解決の最終目的は、社会を良くすること。男女ともに知恵を出し合える関係へ

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日本のジェンダーギャップ指数は2024年、146ヵ国中118位と、前年に比べてやや改善したが先進諸国の中では後れを取っている。働く現場と政治、スポーツ、地方という4つの領域でジェンダー平等に取り組む人々が、それぞれの抱える課題と必要な対策について話し合った。


※この記事は2024年7月27日に、連合宮城が開いたシンポジウムのパネルディスカッションの内容を再構成したものです。

登壇者:
ILO駐日事務所代表 高﨑真一氏(コーディネーター)
元プロマラソンランナー 有森裕子氏
衆議院議員 岡本あき子氏
連合副事務局長 井上久美枝氏
連合宮城会長 大黒雅弘氏

労働界の女性トップ比率3.2% 「自分にはできない」と思い込む女性

高﨑:ジェンダー平等の実現は世界共通の目標であり、政労使の三者構成で国際的な労働問題解決に取り組むILOでも、目標達成に向けた活動を続けています。日本政府も2022年、一部事業主に対して男女の賃金格差を開示する義務を設けるなどの施策を進めてきましたが、それでも先進国の中で後れを取っています。皆さんのいる現場では、ジェンダー平等に関してどのような課題があるのでしょうか。

井上:連合は、2030年までに意思決定の場の男女比率を半々にする「203050」の実現をめざしており、その過程で少数派の意思を組織に反映するのに不可欠な「クリティカル・マス」の30%を、目標数値の一つに据えています。しかし加盟組織の女性トップは、芳野友子会長を含めわずか3人、全体の3.2%とクリティカル・マスの「ク」の字にも届きません。女性がほとんど意思決定の場にいない状況を、組合民主主義と言えるでしょうか。

構成組織を調べると、女性執行役員は男性に比べて在職年数が短く「経験の浅い自分にはできない」と思い込んで、要職を引き受けることに消極的になりがちな実態がうかがえました。女性の部門長も、男女平等参画などのジェンダー関連部門に偏っており、組織に性的役割分担の意識が根強くあることも見て取れます。女性が長く執行役員を務められる環境を整えるとともに、バイアスに囚われない配置を進める必要があります。

有森:私が理事を務めるワールドアスレティックス(通称「世界陸連」)は、2027年までに理事の男女比率を半々にするという目標を、昨年の理事選でかなり前倒しで達成し、話題になりました。一方日本国内に目を向けると、陸連本部こそ女性が増えましたが、地方の協会は取り組みが遅れています。長い間男性主体で運営され、現場のすべてが「男性基準」になっているので女性は参加しづらいし、たとえ参加しても活躍しづらい環境になっているのです。女性が何人、何%という数合わせの前に、現場を変えなければいけません。

ILO駐日事務所代表 高﨑真一氏(コーディネーター)

井上 久美枝 連合副事務局長 

有森 裕子氏 元プロマラソンランナー 

「うちの組織に格差はない」は本当か 配属や昇進スピードで差がつく

岡本:政治分野のジェンダーギャップ指数は146カ国中113位と、まだまだ先進諸国の中で遅れを取っています。女性議員の比率は衆議院10.4%、参議院26.7%でクリティカル・マスに達していません。夜の懇談の席で意思決定が行われるといった政治的慣習が、女性の活躍を妨げる一因だと感じます。

私が仙台市の市議時代に子育て支援施設(のびすく仙台)の設立を訴えた時、ベテラン男性議員から「自宅で子育てしている専業主婦のために、税金を使った外の施設は必要ない」と反対されました。しかし作ってみると大人気で、今は各区に設けられています。このようにさまざまな当事者が関わってこそ、政治は変わります。政治に参加する女性が増えれば、夜の意思決定といった慣習も薄れ、昼間にオープンの場で政策が決まるようになるはずです。

大黒:連合宮城の組合員は7万4252人で、非正規雇用で働く労働者の組織化が進んだことから女性比率は30%を超えています。しかし女性の執行役員はゼロで、管理職に占める女性割合も、前年度に比べて微減となりました。女性職員の絶対数が少ないことや人材育成の機会不足、キャリアパスの不透明さなどが課題と考えています。

また連合宮城は組合員の女性比率の把握しようとしていますが、30%という数字も政府のデータに頼っています。今後は、組合活動と家庭を両立する環境を整えることなどに加え、女性に関するデータの把握と目標設定にも取り組もうと考えています。

井上:宮城に限らず、女性比率を把握できていない地方連合会は他にもあります。また先ほど政治のお話しがありましたが、労働組合にも飲み会の席で物事が決まる慣習や「女性は管理職になりたがらない」という先入観が残っています。

日本のジェンダー平等が進まない大きな原因は、長時間労働と固定化した性別役割分担意識です。単組の男性役員が「うちの職場に男女間の賃金格差はない」と話すのもしばしば聞きますが、採用の際に差があれば、男女雇用機会均等法違反になるので当たり前です。しかし賃金制度は同じでも仕事の配分や育休取得などで、賃金や昇進・昇格に差がついてしまうケースも多いのです。課題を正しく把握するためにも、女性の関与は不可欠です。

連合は、単組や産別労働組合のジェンダー平等の進捗を評価・検証するツールとして、連合版「ジェンダー監査」を設けています。男女の賃金実態や教育機会などの項目にチェックを入れると、レーダーチャートで達成度合いが示されます。ぜひ各組織で活用し、足りない点を把握していただきたいです。

岡本 あき子 衆議院議員 

大黒 雅弘 連合宮城会長 

男性は「敵」ではない 発想の転換とコミュニケーションが重要

岡本:日本でも同一価値労働同一賃金とはいうものの、男性100に対して女性は74.3%の賃金しか得られていません。またある調査では、年収が300万円を下回る人は、過去に経験した経済的、精神的困難からの回復力が弱いという結果が出たそうです。

賃金の低さは自己肯定感を低下させ、困難から回復する力をも奪います。非正規から正規への転換促進やエッセンシャルワーカーの処遇改善を通じて、少なくとも年収300万円以下で働く、という状況は解消しなければなりません。選択的夫婦別姓の実現も重要ですし、妊娠・出産や生理、更年期といった女性の体と健康に関わる分野にも光を当てるべきです。

有森:女性の健康については学校教育で教わる機会が乏しく、社会に出てから更年期や不妊治療というワードを聞いても、当事者以外の人は受け入れづらいと思います。バイアスが強化されていない大学教育などの段階で、ジェンダーの問題を伝えておくことも大事です。

また女性が男性を「仮想敵」であるかのように見なして一方的に意識変革を求めても、課題は解決しません。現役時代、記録が伸びないと「指導が悪い」と監督を責めるアスリートの姿も見てきましたが、アスリート側が「自分にも改める点がある」と認め、指導者とコミュニケーションを取ることで、記録が伸びるケースもありました。女性たちも「経験が浅いから上には行けない」と自分の限界を決めてしまうといった意識は変える必要があります。自分の見方を変えるよう発想を転換すれば、男女双方から知恵が生まれるのではないでしょうか。

誰もが活躍できる社会の実現へ 一人ひとりが今、行動を

大黒:連合宮城は「世界に誇れるジェンダー平等社会を宮城から」という大きなテーマを掲げ、誰もが生きがいを感じられる社会を作って発信したいと考えています。そのために学習会の実施や活動の見直し、デジタルツールの活用などに取り組んでいます。

また誰もが活躍できる社会のキーワードはジェンダー平等です。一人ひとりが自分の役割を果たせる社会に向け、外国人や高齢者を含めた人たちを組織化し、個性と多様性を尊重し合える社会をサポートしていきたい。連合宮城はこうした人たちと共感しあい、課題だと思うことについては、声を上げられる組織をめざします。

岡本:日本が競争力を高める上でも、長時間労働に依存しがちな従来の働き方を変え、国際基準に合わせる必要があります。それによって男性の生きづらさも解消し、自殺率の高さなども解消に向かうと期待できます。

そのためには女性の政治参画が不可欠です。若い女性政治家を支えるメンター制度やハラスメント研修など、各党が支援メニューを整えることで、候補者に占める女性割合を30%に引き上げられればと考えています。

井上:岡本さんもご指摘の通り、ジェンダー平等の真の目的は女性の待遇改善ではなく、男性も含めた社会全体を良い方向へ変えることです。連合はそれを理解してもらうため、リーフレットなども作成しています。

問題解決のためには、ある程度強制的に女性を参画させクリティカル・マスをつくり出すことも必要です。ただこうした取り組みを「逆差別だ」と考え不満を抱く人も多いでしょう。こうした異議はぜひ言葉に出してほしい。その上で議論することも、お互いを認め合い社会を変える第一歩だと思います。

高﨑:日本の人口は、2100年には6300万人に減ると推計され、長時間労働を強いたり、ジェンダーで社員を差別したりする企業が生き残れるとは到底思えません。誰もが活躍できる社会を作らなければ、この国は沈没してしまうのです。一人ひとりがその危機感を自分ごととして、今この瞬間になすべきことを一つでも決め、行動を起こしてほしいと願っています。

(執筆:有馬知子)

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