物流業界の人手不足が社会問題となる中、国土交通省は「トラガール促進プロジェクト」を立ち上げ、女性のトラックドライバーを増やそうとしている。まだまだ女性の少ない職業、どんな苦労ややりがいがあるのだろうか。実際に夜間、長距離輸送のドライバーとして20トントラックを操る愛知陸運労組の小島優芽さんに、仕事の実態を聞いた。

両親、親戚もトラックドライバー 子どものころからあこがれた
小島さんの家族は両親だけでなく母方のおじ、おばとその子どもたちもトラックドライバーで、まさに物流の「サラブレッド」。両親も、今も現役でハンドルを握っている。子どものころは、父が主に昼の勤務に、母が夜間便に入っていた。母は夕方出勤し朝方帰宅するため、食事の支度や子どもの世話はもっぱら父の役目。最近、友人と話している中で「うちの家族、ちょっと変わってた」と気づいたのだという。
たまに母が保育園のお迎えに来ると、大らかな時代だったこともあり会社のトラックで園に乗り付けて、小島さんと妹を乗せて連れ帰った。その姿は「かっこいいしかなかった」。
小島さんは高校を卒業する時「この道しか考えられない」とドライバーを志した。しかし母は「事故を起こして加害者になるかもしれないし、逆に巻き込まれて被害者になるかもしれない」と大反対。担任に一緒に説得してもらい、やっとのことで許してもらった。
「今思えば、お母さんが反対したのは、私の覚悟を確認したかったからかもしれません。半端な気持ちでは運転手はできない、反対しても『やる』というなら応援しようと思っていたのでしょう」
実際、母は小島さんがこの道に入ったことを、今はとても喜んでおり、一番の理解者でもある。「毎日のように電話して、愚痴を言ったり相談したりしています」
2016年に入社すると、トラックの免許を取れる年齢に達するまで倉庫作業などを担当。その後は2トン、4トンと順調に免許を取り、2019年には大型免許も取得した。愛知陸運は、社内にドライバーの教育センターがあり、そこで一定期間訓練を受けた後、単独乗務の許可を得て初めて1人で運転できる。小島さんは、運転の技術は最初から確かだったが実は方向音痴で、乗り始めた当初はカーナビがあっても、道を間違えたとか。
20トントラックに初めて乗った時は「めちゃめちゃ怖かった」と振り返る。大型トラックの車高は2.5~3メートルに達し、運転席に座った時の目線は大人の身長よりはるかに高い。さらに車長は10メートル近く、最初はバックモニターを見ても、車の最後部が把握しづらかった。「分からないなら降りて確認する」という会社のルールに従い、降りては動かすことを繰り返して、少しずつ車幅と長さの感覚をつかんでいった。
夜間定期便、休憩場所の確保に苦労、荷積みの重労働も
ここ1年ほどは夜間定期便を担当している。午後4時ごろ営業所を出て荷主の倉庫で荷物を積み込み、午後11時ごろに静岡県内のサービスエリアに到着。そこで群馬県から荷物を運んできた同僚と落ち合ってトラックを交換し、愛知県に戻る。つまり荷物だけが群馬-愛知間を行き来し、運転手は静岡で、それぞれの営業所へUターンするわけだ。全行程を1人で運転すると、運転手は行き先の営業所内で仮眠を取らざるを得ないが、日帰りできれば自宅でゆっくり眠れる。負担を軽減するためのやり方だ。
愛知に戻って2~3カ所の倉庫で荷を下ろし、営業所に帰るのは早朝4時ごろ。夜の乗務は昼夜逆転にならざるを得ないが「昼夜交互の勤務よりは、夜固定の方が負担感は少ない。また夜は昼間よりも交通量が少ないので、精神的に楽な面もあります」。
ただ困るのは、トイレなどの休憩のため、SAやPAの駐車スペースを確保するのが難しいことだ。大型車の駐車スペースは少なく、すでに埋まっていることが多い。また1台分のスペースはたいてい、車を停めると運転手がぎりぎり通り抜けられる程度の広さしかない。夜で感覚もつかみづらい中、1台分のスペースがあいていても「事故のリスクを取るくらいなら、このまま進んでしまおう」と思ってしまうという。
「比較的空いているパーキングは頭に入っていますが、そこがいっぱいだと、もう全部駄目だろう、と諦めモードになります」
運輸労連も行政に対して、SA、PAの駐車スペース拡大を要求してはいるが、敷地に限りがあるため、台数を増やすのは難しい。さらに1台当たりのスペースを広く取ると駐車台数が減ることになりかねず、痛しかゆしの面もある。国土交通省はETC2.0搭載車を対象に、高速道路を降りて道の駅などで休憩を取っても、一定時間内に戻れば料金を加算しないという実証実験を始めているが、まだ数は限られている。
荷物の積み込みも、女性には重労働だ。荷物をトラック内に配置し、崩れないようラップやひもを巻いて固定するが「あと5センチ背が高ければ」と思うこともしばしばだという。夏の暑い中、2~3時間の屋外作業は過酷でもあるが「夏場はサウナよりも汗をかくので、いいダイエットになりますよ」とも。
冬は冬で運転中、暖房が効くと眠くなるという別の悩みがある。「窓を全開にしたりせんたくばさみで顔をつまんだり、メンソール系のクリームを目の下に塗ったりと、いろいろ対策しています」
休みの日は乗務後、寝ずに友人と会ったり、趣味のゴルフに行ったりすることも。
「ラウンドの最後の方は、半分意識がないです(笑)」
ただ休日は夜寝るリズムに戻るため、平日夕方の乗務までに昼夜逆転のパターンに戻すのが大変だという。
お酒も好きだが職業柄「平日は絶対に飲みません」。初めて通る場所は、事前にグーグルマップのストリートビューで下見し、ルート上にトラックが通れない低いトンネルがないかを確認するなど「プロ意識」の高さもうかがえた。
職場委員はみんなの「ママ」 死ぬまでドライバーでいたい
小島さんは仕事を覚えるにつれ、職場で業務の効率化も提案するようになった。例えばトラック2台が同じ倉庫に行って荷積みをするのは効率が悪いので、1人が倉庫に行って2人分の荷物を取ってくる、といったことだ。
「私が倉庫に行って2台分の荷物を積み、もう1台は次の倉庫で私の分の荷物も積んで、落ち合ってお互いの荷物を分けた方が乗務時間を減らせる。みんなに話してみると『助かる』といった声をもらったので、言ってみて良かったなと思います」
3年前から組合の職場委員も務めている。組合主催のボウリング大会などに参加しているうちに、誘われたのがきっかけだ。組合員の意見を集めたり、組合員向けの割引サービスの情報を伝えたりしている。
「職場の『ママ』として組合員の面倒を見るのが楽しいし、おせっかいなぐらいがちょうどいいと思って活動しています。みんなが意見を書いてくれたり、割引サービスを喜んでくれたりすると、やりがいも感じます」
組合主催の女性セミナーに参加し、先輩の女性組合員と意見を交換するのも勉強になるという。「ドライバーは少数派ですが、事務職の人や倉庫作業の人などいろんな女性から『子育てしていてもこんな風に働ける』という話を聞けるのが楽しいです」
最近行われた女性セミナーは、組合初の女性執行役員が企画した。女性役員が軽食として、しゃれたケーキを用意したのが「めっちゃテンション上がった」と小島さん。ちなみにその前のセミナーでは男性役員が「味噌カツサンド」を出して、女性参加者からかなり冷たい反応が返ってきたとか…。
小島さんの当面の目標は、ドライバーの指導や管理を担う、運行管理者の資格を取ることだ。結婚して子どもが生まれた時、一時ドライバーを離れざるを得なくなっても、資格があれば内勤で職場に貢献できる。それでも「ピンチヒッターのような形でも、運転は続けたい」という。
小島さんが、これほどまでにドライバーの仕事に惹かれるのは、雄大な自然や美しい夜景など、走行中にさまざまな風景を楽しめるからだ。東名高速道路の富士川サービスエリア付近では快晴の夜、雪を頂いた驚くほど大きな富士山のシルエットが、ほの白く浮かび上がる。春には名古屋駅近くの川沿いの道で、桜が一斉に開花する。桜の時期にはわざわざそのルートを通るほどのお気に入りだ。
「春夏秋冬、いろいろな風景に癒されるのがドライバーのいいところ。母親に負けないよう、死ぬまでドライバーでいたいです」

愛知陸運労働組合 中村寛書記長
当組合では、組合員1000人のうち、女性は内勤などを含めても約100人と少数派です。ただ組織として男性主体の意思決定から脱し、女性の話を聞くべきだという意識はあり、それが女性セミナーの開催などにつながっています。セミナーのおやつの話も出ましたが、女性の視点が必要な場面は、職場の至るところにあると考えています。
ただトラックドライバーの仕事は、交通渋滞などで業務時間が不規則になることも多く、子育てとの両立はハードルが高いと感じます。ただ、短時間勤務制度があり配置転換も可能なので、子どもが小さいうちは内勤に入り、成長した段階でドライバーに戻るという選択肢が、今のところ現実的と言えるでしょう。
運輸労連 入倉裕介中央書記次長(広報部長・業種対策部長)
総務省の調査によると、女性のトラックドライバーは2016年ごろには2.4%程度でしたが、2022年にようやく3.5%に増加し、徐々に業界に入りやすくなっているようには思います。ただ女性の入職者を増やす努力をしても、働き続けられる環境がなければ離職してしまいます。そして今のドライバーの現場は決して女性が働きやすい環境にはなっていないというのが、私たちの問題意識です。荷物の重量規格ひとつとっても男性を基準に作られていますし、中小の業者が多いこともあって、男女別の休憩室なども十分に用意されてはいません。また出産・子育てとの両立についても、職場の理解を広げて子どもの病気など緊急時には助け合いながら、日中の運転業務に就けるような工夫がもっとあっていいと思います。環境を整備することで、潜在的にドライバーを「いいな」と思う女性が、もっと参入してくれるのではないでしょうか。
(執筆:有馬知子)