リーダーズボイス

連合リーダーの素顔に迫る!
~第8回 石川幸德  連合副会長・JP労組中央執行委員長~連合リーダーの素顔に迫る!

シリーズ第8回は、石川幸德連合副会長にインタビュー。JP労組への組織統合に尽力し、郵政民営化への対応に奔走した経験を糧に、非正規雇用の処遇改善に取り組み、郵政事業再生に向けた提言を積極的に発信しています。毎朝、5キロのランニングを欠かさないというリーダーの素顔に迫ります。

石川 幸德(いしかわ ゆきのり)  連合副会長・JP労組(日本郵政グループ労働組合)中央執行委員長
1983年名古屋中郵便局入局。労働組合の青年部活動に参加し、支部執行委員、支部書記長を経て、全逓愛知地方本部、全逓東海地方本部で専従役員を務める。支部長を経て、 2004年、全逓東海地方本部書記長に就任し、その後、全逓本部へ。郵政民営化反対闘争、全逓・全郵政の組織統合に取り組み、2015年JP労組中央本部書記次長に就任。同書記長を経て、2021年6月中央執行委員長に就任。同年10月、連合副会長に就任。

経営の失敗は組合員の生活を直撃する
持続性のある事業の創造を提案していきたい

―労働運動を始めたきっかけは?

1983年に中途採用の試験を受けて名古屋中郵便局に入局しました。市内で最大規模の普通郵便局で、そこで初めて労働組合に出会いました。

最初の記憶は昼休みの職場集会。組合役員が声を張り上げ、それを職場の人たちが真剣な表情で聞いている。昼休みはのんびりおしゃべりするものだと思っていた私には、カルチャーショックでした。話の内容は覚えていませんが、その不思議な光景だけは強烈に印象に残っています。

その後は「勧誘合戦」。当時、全逓と全郵政という2つの労働組合があり、両方から熱烈な勧誘を受けました。出勤時は門で待ち構え、退勤後は家庭訪問に来る。勧誘から逃れたいと多数派の全逓に加入しました。青年部でレクリエーション企画などに関わるうちに職場の課題にも関心を持つようになり、2年目には青年部の常任委員に。それが組合活動のスタートです。

理不尽な対応を朝ビラに綴って

ーなぜ、郵便局に?

高校卒業後、名古屋中央卸売市場の荷受(元卸)会社に就職しましたが、積み下ろし作業で椎間板ヘルニアを発症。療養を終えて退職し、運送のアルバイトなどで食いつないでいたんですが、22歳になる年に高校の同級生であった妻から「結婚、どうするの?」と…。当時、女性の結婚適齢期は23歳。今のままではご両親に結婚を認めてもらえないと一念発起し、公務員試験を受けたんです。不純な動機ではありましたが、郵便局員として無事結婚式を挙げることができました。

でも、自転車で1日2回、担当区域をまわる郵便配達の仕事は、想像以上に重労働でしたね。

ー職場で印象に残っている組合活動は?

当時、「要求貫徹」の意味から組合名の入ったワッペンを業務中に着用する「ワッペン闘争」がありました。お客様の目にも触れるので、管理者が「被服の正常着用違反」だと指導にきて、外さない組合員は処分の対象になりました。

日本で郵便事業が始まったのは1871年(明治4年)4月20日ですが、それにちなんだ逓信記念日に優秀者の表彰&特別昇給が行われていました。ところが、優秀な先輩たちがワッペン闘争での処分を理由に外されてしまう。理不尽だと思いました。

繁忙期である年末年始の補食費切り下げも納得できませんでした。

そんな思いをビラに書き綴り、朝ビラとして配布した時、自分も組合活動の一翼を担う立場になったのだと自覚しました。

青年部長、支部執行委員を経て、管理者から「選抜試験」の受験を勧められ、数ヵ月間の研修を経て、別の局に異動し昇任する予定でしたが、支部長に強く引き止められ、全逓愛知地方本部(のちに東海地方本部)の専従役員になる道を選びました。

「郵政民営化」の真っ只中に投げ込まれて

ー他局での昇任ではなく労働組合を選んだのは?

やはり労働組合の良さを実感できていたからでしょうね。労働組合の本質は仲間のためにという「助け合い」。職場には互いに助け合う風土がありました。

公務員の離籍には7年の期限があるので、地方本部の専従役員を5年務めた後、支部に戻り支部長(非専従)を4年務めました。そして、2004年に東海地方本部の書記長に就任したのですが、「郵政民営化」の真っ只中に投げ込まれることになりました。

郵政民営化の源流は橋本政権下の「行政改革会議中間報告」(1997年9月)です。「郵政省を解体し、簡保は即民営化、郵貯は将来民営化、郵便事業はワンストップ行政サービスの拠点とする」ことが提案されましたが、この時は郵政三事業一体として新たな公社(郵政公社)を設立し、職員は「国家公務員」としての身分を付与することで決着しました。

ところが、2001年に小泉純一郎首相が誕生すると、郵政民営化論が再燃。郵便事業は人件費も含めて独立採算制になっていたのに、「公務員バッシング」が展開され、「民営化すればすべてうまくいく」と喧伝(けんでん)された。

乱暴な議論に労働組合はもちろん管理者や特定郵便局長、自民党議員からも反対の声が上がり、2005年8月、郵政民営化関連法案は参院本会議で否決されました。ところが、小泉首相は衆院を解散し総選挙で圧勝。

2007年に郵政事業は分社・民営化され、日本郵政グループ(日本郵政、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命)が発足しました。

民営化反対闘争(2005年8月2日)

―組織統合にも尽力されました。

「郵政民営化」で唯一良かったことは、反対運動での共闘を通じてJP労組への組織統合が実現したことだと思っています。

私は全逓中央本部の役員として全郵政の皆さんと頻繁に話し合い、共同行動の調整に走り回っていました。2つの組合が競合する職場で板挟みに苦しんだ組合員はたくさんいましたから、本当に「悲願の組織統合」でした。当初は、文化や手続きの違いに戸惑う場面もありましたが、17年が経過し、今ではJP労組しか知らない組合員が多くなり、私は、統合前を知る最後の世代なんです。

JP労組結成大会での挨拶(2007年10月22日)

経営の失敗のツケが働く人たちに

-民営化で変わったことは?

労使交渉による労働条件決定の自由度は格段に高まりました。「公務員」に縛られることがないので、労使合意が労働協約となり、全国の郵便局員に適用される。

ただ民営化されて良かったかと言われると、そうとは言えない。

現在、郵政グループ社員の約半数が非正規雇用です。独立採算制のもとで、人件費を抑制するために非正規雇用や転勤なしの「一般職」が拡大。2010年には新規事業の失敗で巨額の負債を抱え、一時金の大幅切り下げを受け入れざるを得ませんでした。

分社化で仕事がスムーズに回らなくなっただけでなく、賃金・労働条件も切り下げられ、職場内で格差が広がっていく。民営化の弊害や経営の失敗のツケが働く人たちに押し付けられる。

また、2019年には「かんぽの不適正営業問題」が発覚しましたが、実は私がいちばん危惧していたのは、モラルの低下でした。郵便局員は、国家公務員として国民に奉仕する存在であると教育され、誇りをもって働いていましたが、販売ノルマや歩合給拡大という環境変化の中で、モラルを失った局員が生じたことは残念でなりません。

-2021年にJP労組の委員長に就任し『JP労組が考える事業ビジョン(案)』を提起されました。

非正規雇用の正社員化や処遇改善、一時金回復を最優先課題に取り組んできましたが、取り巻く環境は厳しさを増しています。人口減少、デジタル化の進展で郵便物は減少の一途をたどり、ゆうちょ銀行は低金利で運用が難しく、かんぽ生命は再建途上。労働組合の役割は雇用と労働条件の維持・向上ですが、従来の取り組みだけでは守れない。そういう強い危機感を持って、「地域に根付いた郵便局だからこそできるサービス」の提供を通じて持続性のある事業を創造していくことを提案しました。

-趣味は?

相撲観戦や観劇です。最近のオペラは字幕が出るし、歌舞伎も解説が付く。非日常の空間に身を置くとリフレッシュできるんです。

映画は、リュ・スンリョンさんやパク・ソジュンさんが出ている韓国映画をよく観ます。本は、最近あまり読んでいませんが、渡辺淳一さんの『無影灯』や『ダブルハート』などの医療小説が好きでしたね。

-尊敬する人は?

宮沢賢治です。「雨ニモマケズ 風ニモマケズ…アラユルコトヲ ジブンヲカンジョウニ入レズ」。こういう私利私欲のない人こそ、労働組合の役員になるべきだと…。

-座右の銘は?

「鶏口牛後(鶏口となるも牛後となるなかれ)」。「大きな集団や組織の末端にいるより、小さくてもよいから長となって重んじられるほうがよい」という意味の故事成語ですが、なぜか若い頃から、そういう思いがあって、それがこの道につながったのかもしれません。

-誰にも負けないことは?

1つのことを継続することでしょうか。朝のルーティンは、上野公園を5キロ走ることと「もずく納豆」を食べること。

東京に単身赴任し、健康対策で徒歩通勤していたのですが、組織統合で事務所が東上野に移転してからは出勤前に走るように。「もずく納豆」もおいしいと思ったことはないのですが、身体に良いというので続けています。

-自分を動物に例えると…

家族には「ニワトリ」だと言われます。高校時代は新聞配達をやっていて、その後就職した荷受会社でも午前2時頃から働いていましたから、朝型なんでしょうね。

名古屋の自宅に帰った時も早朝から動き始めるので家族に迷惑がられています。

-読者にメッセージを

組合役員として困難な状況に直面する中で、経験に勝るものはないと実感します。今は目の前のことに全力で取り組んでください。必ずその経験が活かせる日がきます。


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