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はたらくを考える

「働きたい」ワーママの切実な願いを叶える
企業内保育園、年休の細切れ取得を実現

待機児童が多い地域でも子どもを預けて仕事に復帰したい、子どもの病気や学校行事の時に1時間単位で小刻みに年休を消化したい―。ワーキングマザーの切実な願いを労働組合主導で実現してきたのが、日立製作所労働組合だ。2020年に女性として初めて中央執行委員長に就任した半沢美幸さんは、労働組合が運営する企業内保育園の立ち上げなど、ワークライフバランスを進める取り組みに関わってきた。半沢さんのこれまでの活動や今直面している課題などについて聞いた。

半沢美幸 日立グループ連合会長(日立労組中央執行委員長)
1990年(株)日立製作所入社、ソフトウェア事業部 テクニカルインフォメーション部配属。1998年ソフト支部の執行委員、2000年に同支部の書記長に。2004年から日立労組本部の中央執行委員を4期務め、2012年から電機連合の中央執行委員に。2016年日立労組本部の書記長を経て、2020年から日立グループ連合会長(日立労組中央執行委員長)に就任、現在に至る。

園長さんは委員長 組合運営の託児所

日立労組ソフト支部が、横浜市戸塚区の事業所内に保育園「ゲン木くらぶ」を立ち上げたのは2003年。半沢さんは当時、同支部の書記長を務めていた。

同区は日立グループの会社が集まる「企業城下町」で、子育てしながら働く社員が多く住んでいる。さらに当時、横浜市は待機児童数が非常に多く、出産を控えた女性たちは「産後に職場復帰したいが、預ける場所がないかもしれない」という不安を抱えていた。

「当時は会社側も一時の経営難から脱し、社員が元気になれる取り組みを模索していました。そこで、労働組合が保育園を運営し、会社にその運営費の一部を負担してもらう、という案が持ち上がったのです」

労働組合が組合員にアンケートを取ると、保育園の利用ニーズもあることが分かり、本格的に開園準備が始まった。しかし全く畑違いの電機メーカーの組合が、保育園を作るとあって「何もかも初めてのこと、分からないことばかりで手探りでした」と半沢さんは当時を振り返る。単に設備を整えるだけでなく、保育の質や子どもたちの安全性を確保し、親の不安を解消する必要もある。本部や会社側の志ある人たちと役割分担し、分からないことを一つひとつ確認しながら、運営スキームを作っていった。

園児数14人でスタートした保育園は、現在、40人以上の子どもたちが通う。園長は代々、ソフト支部の委員長が就任し、入園・卒園式の挨拶のほか、節分の鬼やクリスマスのサンタクロースなどを務めることもある。事業所内には消防隊や音楽隊もあり、子どもたちは隊員との交流も楽しんでいるという。

園長(ソフト支部の委員長)がサンタさん役で子どもたちを笑顔に

「ゲン木くらぶ」は、認可保育園に入れなかった場合の「保険」となることを想定している。「『認可に落ちても預け先はある』と思えることは、ワーキングマザーにとって大きな安心材料です」と、半沢さん。認可保育園の多くは年度初めに定員がほぼ埋まるため途中入園は極めて難しいが、「ゲン木くらぶ」は定員に余裕があるので年度途中から預けることもできる。自分のペースで職場に復帰できることも、社員にとっては大きなメリットだ。

企業内保育「ゲン木くらぶ」の様子

要望にきめ細かく対応することが、働き手のエンゲージメントを高める

半沢さんは1990年に入社し、ソフトウェア事業部でマニュアルを制作していた。組合活動に関わったきっかけは、ソフト支部が毎月1回開く『女性専門委員会』に参加したことだ。
「ランチタイムに女性組合員が集まって話す場であり、別の職場の先輩から育児の経験談などを聞けるのがとても楽しかったんです。それで活動にはまり、専門委員会の委員長まで務めてしまいました」

入社8年目に同支部の執行委員となり、2年後に支部書記長、その後、女性として初めて日立労組本部の中央執行委員長に就任した。
「女性組合員の中には、介護や育児の体験に根差した切実な要望や意見を持つ人が多い。それを労使交渉の場に持っていきました」

2011年、東日本大震災の時も、女性たちの声が大きな役割を果たした。電力需給のひっ迫に伴い、多くの地域で「計画停電」が実施され、日立も含め企業は平日の操業停止を余儀なくされた。こうした企業は平日休んだ分、保育園や学童保育が閉所する土日に稼働することになり、母親たちは子どもを預けられなくなってしまった。
日立は彼女たちが稼働日となった土日も休めるよう、有休を増やした。しかし計画停電で2日休んだ上に週末も有休を取ったら、働けるのは1週間にたった3日。女性たちから「仕事が回らなくなってしまう」「休む支援ではなく、働く支援をしてほしい」と声が上がった。
そこで組合は、「ゲン木くらぶ」のノウハウを活かして全国12カ所で土日に臨時託児所を開設。組合の要請で会社側が運営費を負担した。小学校低学年の児童も含め、3カ月でのべ3,320名の子供たちを預かったという。

またワーキングマザーには、退勤まであと1~2時間という時に子どもの発熱などで早退せざるを得ない時、「半休を使うのはもったいない、時間単位で年休を取りたい」という要望もあった。
会社側、特に男性陣からは「フレックスタイムがあるじゃないか」という意見も出された。しかし半沢さんは「子どもの発熱や行事に備えて、有休をなるべく細切れに使いたい」という母親の事情には、短く働いた分、他の日に長く働かないといけないフレックスでは対応しきれないことを根気強く会社に説明し、時間単位で年休を取れる仕組みの導入にこぎつけた。

「企業内保育園や時間単位年休は、企業から女性への『出産後も職場で活躍してほしい』というメッセージでもあります。直接利用する場面はなくとも、施策があることで女性たちは会社に認められていると感じ、働き手のエンゲージメントを高めるのです」

意思決定の場に女性を 課題は女性の後継者不足

日立は役員の女性と外国人の比率を、2030年度までにそれぞれ30%に引き上げるという目標を掲げる。半沢さんは組合活動でも「意思決定の場に、女性がいることが大事」と強調するが、組合の中核を担う後継者を育てることには頭を悩ませているという。

「労使交渉を通じて、両立のしやすい環境など女性の働き方を改善し、組合の仕事ぶりをきちんと見せることが女性の参加を促す一番の近道。とはいえ組合専従となれば、たとえ本人にやる気があっても職場の事情でかなわない事もあり、タイミングも難しいのです」

労使交渉に挑む半沢委員長

コロナ禍でオンラインが普及したものの、組合活動が基本的に就業時間外となることも、参加の壁となっている。打ち合わせはランチタイムに、短時間で済ませるといった取り組みはしているものの「まだまだ工夫の余地があります」と、半沢さんは指摘する。

組合は社会課題解決の場を提供 ぜひ気軽に参加を

男女を問わず若者の参加を促すことも、労働組合全体の課題となっている。しかし半沢さんの子どもが中学生だったころ、授業で組合が「圧力団体」のひとつと紹介され、「お母さんは圧力団体なの?」とからかわれたことも…。

「政治を通じて政策決定にも関わることが、こうしたイメージを抱かせるのかもしれません。でも、政治や社会へ意見を表明するルートを持ち、国の仕組みを変えられることは、本当は大きなメリットなのです」

若い世代には、組合の社会的な役割をアピールする必要があると、半沢さんは考えている。
「10~20代は学校でSDGsを学び、エシカル消費[i]や環境問題などへの関心も高い。組合は地域活動や環境保護など、働き手自身の問題意識を解決する場も提供していることを伝えれば、関心を持ってもらえるのでは」

春季生活闘争も、かつては組合員に向けた「賃上げ額」が最も重要なアピールポイントだった。しかし現在は、大企業の賃上げが産業別や都道府県の最低賃金に影響を及ぼし、中小企業や非正規で働く人たちの賃金底上げにつながる、と説明することが大事だという。

2023春季生活闘争 手交の様子

半沢さんは、組合が働き手にもたらす恩恵について次のように語った。
「組合でさまざまな社会課題の解決に取り組んだ経験は、必ずその後の人生やキャリアのプラスになります。組織の性格上、柔軟な働き方が認められやすいので、プライベートを大事にする若手やワーキングマザーも活動しやすいはず。ぜひ気軽に参加してみてください」

(執筆:有馬知子)


[i] 消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決に貢献するため、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと。

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