社会貢献の取り組み

他人事じゃない!マンション投資にロマンス詐欺…
年代・個性に合わせた悪徳商法が「あなた」を狙う

悪徳商法の被害相談件数はここ数年、年間90万件前後で高止まりしており、マルチ商法、ロマンス詐欺にマンション投資と手口も多様化・複雑化している。被害を防ぐ上で重要なのは、自分もターゲットの一人だと自覚すること。ここでは年代別に、比較的被害者が多い手口を紹介するが、実際には年齢を問わず、どの商法も「あなた」の身に起こりうるのだと肝に銘じてほしい。

(この記事は連合が9月29日に開催した「消費者政策シンポジウム―悪質商法の実態を知り、今後の対策を考える―」の内容を再構成しました)

マッチングアプリでマルチ被害、脱毛エステも~10~20代

全国の消費生活センターなどに寄せられた相談件数は2022年、計87万件。被害者の約3割は65歳以上だが、10~20代も12.3%に上る。

若い世代に目立つのがマルチ取引だ。特に近年は、健康食品や化粧品といった物品の取引ではなく、儲け話などの情報を商材とした「モノなしマルチ」の割合が高まっており、全国消費生活相談員協会の増田悦子理事長は「かつては先輩や友人など知り合いの紹介が主流でしたが、最近はマッチングアプリを通じた勧誘が増えています」と指摘する。

ある20代男性は、マッチングアプリで知り合った女性から「スキマ時間で稼げる方法がある」とアフィリエイト[i]を紹介され、消費者金融で50万円借りて「入会料」を支払った。他の人を勧誘すると1人当たり2万円のマージンが入るとのことだったが、アフィリエイト収入もマージンも得られず、借金も返済できなくなってしまった。

脱毛エステの「無料カウンセリング」「月額数千円」などの広告を見て店に行ったら、数十万円もの契約を結ばされたという被害も、男女を問わず目立つ。小中学生もゲームで無料サービスから課金サービスへ移行してしまい、保護者に請求が入ったというトラブルが多い。

無知につけこみマンション販売 新入社員が狙われる

消費者問題に詳しい大迫惠美子弁護士(日弁連消費者問題対策委員長)の元には、若手会社員から投資用マンションに関する相談が相次いでいる。中堅企業に勤める新入社員の男性は、会社支給の携帯に保険加入の勧誘電話が入り、会社に出入りする保険外交員と思いこんで契約した。しかし実際は保険ではなくマンションを購入しており、「積み立て」と称する1万5千円の支払いは、借り手の賃料が毎月のローン返済額に満たないため、穴埋めに充てられていた。

この手口の特徴は、若者の知識不足につけこむ点だ。被害者は「不動産を通じた保険」といった説明をうやむやのうちに受け入れ、契約書をあまり読まずに判を押してしまう。金融機関のローン審査も、販売担当者のタブレットを通じて金融機関の担当者と面接するため、ローン審査だとすら気づかないこともある。その結果、社会人1年目、2年目で何も知らないうちに、35年~45年ものローンを背負ってしまう。

「築年数が経過する程賃料は下がり、ローン返済の穴埋め額は増えていきます。ましてローン完済時点で築35年を超える物件が、どれだけの利益を生むでしょうか。こうしたリスクに関する説明は一切なく、経験の乏しい若者に売られているのです」と、大迫弁護士は強調した。

被害に気付いたら、まず、販売会社に買い戻しを求める。応じない場合は訴訟を通じて販売業者が説明責任を果たしていないことを立証し、解決をめざすケースが多いという。

2023年9月29日(金)に開催したシンポジウムの様子

「ロマンス詐欺」「ネット通販」は、幅広い年齢層がターゲットに

また大迫弁護士は、「花盛りというくらい猛威を振るっている上、被害に遭う年齢も幅広い」手法として国際ロマンス詐欺を挙げる。日本だけでなく、中国や米国などでも被害が多発しているという。

ある60代男性は、Facebookを通じて30代のアジア人女性と知り合った。男性の投稿に感じの良いコメントをつけてくれて好印象を持っていたが、ある時「まもなく定年で老後が心配」と話すと「私は叔母にFXで資産運用してもらっている。あなたも頼んだら」と誘われた。警戒しつつも数万円の運用を依頼すると、みるみる金額が増えたため、ついつい送金額が膨らんだ。預金をほぼ全額FX口座に移し、お金を引き出そうとすると「マネーロンダリングの疑いで口座凍結する」と表示され、叔母や女性の助けも得られなくなった…。

大迫弁護士は、「国際ロマンス詐欺の発信元は、西アフリカなどが多いと言われています。海外への送金には日本の司法は及ばず、資金回収はほぼ不可能。被害額1億円といった相談もありますが、弁護士にできることも限られ、残念でなりません」と述べている。

また、多くの人が利用するインターネット通販でも、詐欺被害は頻繁に起きている。特に注意したいのが、消費者を焦らせるなどして購入へと誘導する「ダークパターン」だ。広告で「セール●%オフ、終了まで残り何分」と表示されても、実際にはセールは終了しない、といったケースが該当する。「定期購入ではない」との記載を見て安心してクリックしたが、画面を何度も移り変わるうちに、いつの間にか定期購入に切り替わっていた、という相談もある。

高齢者には、ありとあらゆる商法が襲い掛かる

高齢者は、あらゆる商法に狙われていると言っても過言ではない。トイレ修理に50万円請求された、布団を何度も買わされ100万円支払った、自宅にある貴金属を無理やり売らされた、などの被害は後を絶たない。

また損保労連の菅原将伍中央執行副委員長は「自然災害が多発する中、火災保険に絡むトラブルが増えています」と語る。

火災保険は、台風や水害など自然災害による損害も補償の対象となるが、老朽化や経年劣化に伴う建物の傷みは対象外だ。しかし突然訪問して「お宅の雨どい、壊れていますね。(経年劣化でも)我々に任せてくれれば保険で直せますよ」などと持ち掛ける業者がいるという。

「経年劣化を災害と偽って保険金を請求すると、契約者本人が詐欺に問われる可能性もあります」と、損保労連の菅原氏。また本来、保険請求に手数料はかからないが「請求サポート」を謳う業者にだまされ、高額の手数料を支払わされた人もいる。

全国の国民生活センターに寄せられる保険トラブルは年間2000件を超え、このうち約半数が70代以上の高齢者だという。

消費者庁消費者政策課長の尾原知明氏は「2030年には団塊世代が80代に突入します。高齢のため認知機能が低下する人も出てくる中、どのように被害を防止するかが課題となっています」と語る。このため自治体も、民生委員や社会福祉協議会などとともに「消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)をつくっている。高齢者の被害防止と早期発見には、子どもだけでなく地域の隣人や介護・生活支援の担当者ら、日常生活に関わる人のサポートが不可欠なのだ。

「気づく」「断る」「相談する」が3原則 スマホではなくリアルで話す

訪問販売や物品のマルチ商法などは、一定期間内ならクーリングオフが可能だ。うその説明をされたり、家に帰してもらえないなど困惑させられたりして契約を結ばされた時も、解除を求めることができる。

ネット通販はクーリングオフの対象外だが、「返品不可」など「返品特約」の表示がない場合、8日以内なら送料自己負担で返品できる。販売元の住所や連絡先、購入情報などを保存し、届いた商品が注文と違ったら、速やかに返品できるようにしておこう。

また消費者庁の尾原氏は「被害防止のため消費者も『3つの力』をつける必要があります」と強調した。

ひとつは「気づく力」。契約書や規約を読んで内容をきちんと理解し、不審な点はないか、解約は可能かなどをチェックする。

ふたつめは「断る力」。相手が高圧的に出ても、その場では契約しない。全国消費生活相談員協会の増田氏も「最終手段ではありますが、万が一契約してもお金は支払わず、後で弁明する道もあります」と語る。

最も大事なのが、消費者ホットラインの188や家族、友人などに「相談する力」だ。この契約、何かおかしいと思ったら全国の消費生活センター等を案内する消費者ホットライン188に電話してほしい。新入社員が同僚や先輩に「保険ってどうしてる?」と相談できれば、マンション購入には至らなかったかもしれない。定年間近の男性が周りの誰かに「老後資金が心配だよ」と愚痴をこぼせれば、国際ロマンス詐欺も起きなかったかもしれない。大迫弁護士は「コミュニケーションがあれば、防げる被害はとても多い。リアルで話せる人を持つことが第一歩です」と話した。


[i] アフィリエイトはインターネット広告によって収益を生み出すビジネスの一つ

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