特集記事

共生社会を考えるー支えあい・助け合い・ゆにふぁんー

連合結成30年の記念プロジェクトとして、2019年10月にスタートした「ゆにふぁん―支え合い・助け合い運動」。ゆにふぁんマップには、公開から2年で約400件の社会貢献活動が掲載され、クラウドファンディングによる支援活動では6件のプロジェクトが成立。新型コロナウイルス対策にも迅速に対応し、特設ページを開設してマスクの寄付やエッセンシャルワーカーへの支援を広く呼びかけた。この支え合い・助け合いの輪をもっと広げようと、連合は6月を「ゆにふぁん月間」に設定。スタート企画として、村木厚子若草プロジェクト代表呼びかけ人(元厚生労働事務次官)、芳野友子会長、山根木晴久副事務局長による特別鼎談を開催。
ゆにふぁんがめざす「共生社会」とはどのようなものか、その実現に向けた労働組合、NPO、企業、行政の役割とは何か、それぞれの経験を踏まえて語り合った。(月刊連合2022年6月号転載)

困難を抱える若者や女性を支える活動

山根木:ゆにふぁんは、2年半前に社会貢献活動の新たな仕組みとしてスタートしました。職場や地域の「支え合い・助け合い」の運動を「ゆにふぁんマップ」として見える化し、組合員一人ひとりの思いをダイレクトに支援活動につなげるとともに、ユニオンのファンを増やしていこうというのがコンセプトです。
村木さんは、2015年に厚労省を退官されて以降、児童養護施設出身の若者や生きづらさを抱える若い女性の支援などに精力的に取り組まれています。連合とは、厚労省時代からの長いおつきあいですが、ゆにふぁんにも多大なご理解とご協力をいただいており、顧問をされている「首都圏若者サポートネットワーク」の「若者おうえん基金」プロジェクトでは、ゆにふぁんのクラウドファンディングを活用していただきました。

村木:ゆにふぁんで呼びかけた「若者おうえん基金」は、目標の300万円を大きく上回る784万円もの寄付をいただき、感謝しています。
日本には貧困や虐待など様々な理由から親元で暮らすことができず、児童養護施設や里親家庭で育つ子どもが約4万5000人もいますが、18歳になると多くの場合、何の支援もないまま自立を求められてきました。しかし、厳しい環境で育った子どもが大人のサポートなしに自立することは困難です。施設の職員や支援団体が「持ち出し」の資金で伴走してきましたが、その活動を支え、制度化していくために「若者おうえん基金」を設立しました。ゆにふぁんを通じて得た支援が大きな力になり、18歳以降の継続的なサポートを可能とする「児童福祉法改正」の見通しも立ちました。

山根木:2016年には「若草プロジェクト」を設立されましたが、そのきっかけは?

村木:2009年6月に身に覚えのない郵便不正事件で逮捕され、拘置所で164日間を過ごすという経験をしましたが、勾留中に気づかされたことが、今の活動のベースにあるんです。
拘置所で聞くラジオのニュースでいちばん心が痛んだのが、子どもの虐待のニュースでした。また、拘置所内で配膳などの刑務作業を行う受刑者の多くが、あどけなさの残る若い女性であることに驚かされました。ほとんどが薬物や売春による服役で虐待や性暴力被害を受けたことが背景にあるケースも多いと…。家庭にも学校にも「居場所」 を失った少女たちを結果的に受け止めているのが「夜の街」であり、生きるために犯罪に手を染めてしまう子もいる。その手前で、誰かが手助けしていればと思わずにはいられませんでした。世間から不良少女だと言われ、本人も自分は悪い子だと思っている。でも、本当は「悪い子」ではなく「一人で闘っている子」なんです。「若者おうえん基金」も「若草プロジェクト」も、制度の狭間で手付かずになっている課題です。これは大人の責任だと思い、活動を始めました。

芳野:刑務官をしている友人に、刑期を終えて社会に復帰しても、十分なサポートを受けられず、また戻ってくる人が多いと聞きました。
働いて自立するための支援は本当に重要だと思います。私は、連合東京の女性委員会で長く活動してきたのですが、その中心的テーマは、女性が働くこと、働き続けることの大切さでした。働いてお金を稼いで経済的に自立する。納税し、社会の支え手になる。働くことを通じて自己の成長を実現し、社会に貢献する。働いていれば、自分で自分の生き方を選択していくことができる。だから、女性が働き続けることは大切であり、「働くこと」を支え、働き続けられる環境を整備していくことが労働組合の役割だと思って活動してきました。
とはいえ、今も女性が働き続けることには様々な困難があります。特に労働組合のない職場や非正規雇用で働く女性は、第一子出産や夫の転勤をきっかけに辞めざるを得ない人が多い。女性の勤続年数は短く、管理職の女性比率も低い。各国の男女格差を示すジェンダーギャップ指数は156ヵ国中120位という状況です。

村木:私も、経済的に自立して働き続けたいと公務員の仕事を選びました。この四半世紀、雇用平等や女性活躍の政策が推進される一方で、非正規雇用の女性は弱い立場に置かれてきました。さらにコロナ禍が長期化する中、家庭内暴力は1・5倍に増え、女性の自殺率が上昇しています。特に自殺率が増えているのは主婦と女子高生。いずれも経済的に誰かに頼らざるを得ない立場にあり、家庭内でのストレスが高まる中で追い詰められている。女性が働き、経済的に自立して生きていく。そのことが、いまだに実現できていなかったことが影響を深刻化させている。すでに崖の傍に立っていた人たちが、コロナ禍でより崖っぷちに追いやられているのだと思います。

女性が自立し、働き続けることができる支援を

芳野:おっしゃるように非正規雇用問題は、コロナの前からあった問題です。でも、圧倒的に女性が多かったゆえに、労働組合活動の主流には乗らなかった。課題として認識されたのは、1990年代後半からのリストラの嵐の中で男性正社員がクビを切られ、非正規雇用が「男性問題」になってからです。
そういう経験をしてきましたので、連合会長に就任した時、「連合運動すべてにジェンダー平等の視点を!」と呼びかけました。女性が自立し、働き続けることの支援は、今こそ労働組合が本気で取り組まなければいけない課題です。

山根木:私はかつて非正規労働センターを担当していました。非正規労働センターができたのが、2007年10月。翌年にリーマンショックが起きて、生産現場を中心に、いわゆる「派遣切り・非正規切り」で、仕事を失うと同時に住まいを失い、困窮する労働者の問題が大きくクローズアップされていました。連合は、就労・住宅・生活トータルの緊急支援対策をまとめ、政策要請や就労支援のための事業を支援するためのカンパ活動を行いましたが、直撃を受けたのは主に男性労働者でした。一方で、今回のコロナ禍の影響は「女性不況(She-Cession)」と言われるように、女性に集中しています。非正規雇用の約7割が女性であり、また女性が多く働く医療、介護の職場や、飲食・宿泊、旅客などの産業が深刻な影響を受けています。休園・休校や在宅勤務の拡大で女性の家事・育児負担が増え、就労が困難になるケースや、旧来の家庭における男女の役割分担の問題が、女性のリモートワークを困難にしているケースも出ています。

芳野:連合は、2020年に設置した有識者による「コロナ禍におけるジェンダー平等課題に関する意見交換会」から、「連合には、ジェンダーの視点を徹底し、正社員だけでなく、非正規雇用やフリーランスで働く人、働きたくても働けない人にまで視野を広げて行動してほしい」という提言を受けました。
非正規雇用やフリーランスの課題解決への取り組みはすでに始めていますが、ひとり親家庭への具体的支援も重要です。親が経済的にも精神的にも追い詰められていると、子どもも大きなストレスを抱えてしまう。労働運動の基本は職場であり、労使関係を通じた労働条件改善の重要性は変わりませんが、ナショナルセンター連合は、職場を超えて社会全体に視野を広げていかなければ、課題を解決できないと感じています。

誰もが「支える人」になり「支えられる人」となる

「居場所」と「仕事」があり、「誇り」を取り戻すこと

山根木:ゆにふぁんは「支え合い・助け合い」をテーマとしていますが、支援のあり方についてはどうお考えですか。

村木:これも拘置所で気づかされたのですが、「支える側」と「支えられる側」の2種類の人がいるわけではないんですね。ひとりの人間が支える時もあるし、支えてもらわなければいけない時もある。私は、無意識のうちに自分は「支える側」だと思っていたのですが、逮捕の翌日、人は一夜にして立場が変わるのだと痛感しました。拘置所には冷暖房がなく、11月に入ると寒さがこたえるようになりました。でも、検事さんは「正月前は忙しくなる」と言う。三度の食事が出て雨露をしのげるから、特別メニューも出る年末年始を拘置所で過ごそうと逆算して万引きや無銭飲食をする人がいると…。保釈されてから調べてみると、受刑者は、高齢者、知的障がいや精神疾患の人、外国人の比率が高く、再犯率も高いことが分かりました。
無罪が確定し、職場に復帰して担当したのは、生活困窮者自立支援制度でした。そこで、関係者から「困窮者には、①複数の困難が重なっている、②社会とのつながりが切れている、という2つの共通点がある。生活保護は、万策尽きた人にお金を渡す制度だが、それだけでは人は回復できない。人とのつながりの中に戻ることができて初めて本当の回復がある」と教えられた。拘置所で出会ったのは、支援が足りていない人たちだったんです。

山根木:特に足りていない支援とは?

村木:「居場所」と「出番」への支援です。帰る場所があり、自立できる仕事、誇りを持てる仕事に就けたかどうかで再犯率はまったく違う。そこを支えようと、郵便不正事件の賠償金で累犯障がい者の社会復帰を支援する「共生社会を創る愛の基金」も設立しました。

共生社会の実現と労働組合の役割

ともにこの社会を支える仲間

山根木:村木さんの近著のタイトルは『働くことを通して考える共生社会』。そこに込めた意味をお聞かせいただけますか。

村木:「働くこと」の大切さを再認識する2つの出来事がありました。1つは、2011年に成立した障害者基本法の改正です。2006年に採択された国連障害者権利条約は「私たちのことを私たち抜きで決めないで(Nothing About Us Without Us)」を合言葉に各国の障がい当事者が参画して策定されました。その批准に向けた国内法整備においても当事者の参画が不可欠だと考え、「障がい者制度改革推進会議」を設置したのですが、そこで基本法の目的や各項にある「障害者の福祉の増進」という文言をすべて削除してほしいという意見が出たんです。理由を聞くと「福祉は増進してほしい。でも、何度もその言葉が繰り返されることで、障がい者とは福祉のお世話になって生きる人というイメージが固定化される。障がい者も、ともにこの社会を支える仲間であることが忘れ去られる」と。「ともにこの社会を支える仲間」という言葉に強く心を動かされました。全省庁をまわってその理念を説明し、改正法では目的を「障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため…」と書き換えることができました。
また、日本が条約を批准した2014年の秋、事務次官として出席した第5回G20労働雇用大臣会合では、ホスト国のオーストラリアが「包摂的成長」をスローガンに掲げました。リーマンショックからの回復について各国の状況を研究・分析した結果、女性や障がい者、長期失業者が働ける雇用環境を整備し、社会の支え手を増やしていった国が成長を持続させているという。働くことを支援し、支え手を拡大していくことこそ、私たちがめざすべき共生社会なのだと改めて思いました。

「働くこと」でつながり支え合う社会

山根木:それは、まさに連合がめざす「働くことを軸とする安心社会」の姿です。連合は結成20周年の節目に、「働くこと」を軸にしながら人々がつながり支え合う社会ビジョンをまとめ、その実現に向けて「働くこと」につなぐ5つの安心の橋をかけていくことを提起しました。結成30周年には「まもる・つなぐ・創り出す」をキーワードにバージョンアップしましたが、基本的な考え方は変わっていません。

芳野:当時の議論が思い出されますが、連合は「働くことに最も重要な価値を置き、年齢や性、国籍の違い、障がいの有無などにかかわらず、誰もが誇りを持って働けるようにすること」が労働組合の役割だと考えてきました。

山根木:その共生社会の実現に向けて、労働組合、NPO、企業、行政はどのような役割を担うべきなのでしょう。

村木:『日本型組織の病を考える』という本で「ゼロを1にするのはNPO、1を10にするのは学者、10を50にするのが企業、100にするのが行政」という話を紹介したら、なぜ労働組合は出てこないのかと問われ、改めて考えてみました。
私自身は「ゼロを1にするのが現場の仕事」だと言ってきましたが、労働組合は、まさに現場で問題を発見して行動する組織であるとともに、学習機能や調査機能を持ち、企業内で労使関係を築き、国の政策にプレッシャーをかけられるパワーもある。そういう意味ではゼロから100までのすべてで労働組合が関わっていることに気づきました。さらには、地域の社会貢献活動を支え、自然災害やコロナ禍など、行政、民間、市民団体、労働組合が連携して動かなければいけない場面で、そのパワーをいかんなく発揮して頼れる存在になっています。

芳野:ありがとうございます。連合は全国におよそ330の拠点を持ち、「地域に根ざした顔の見える運動」を掲げてネットワークを広げてきました。労福協やろうきん、こくみん共済coopなどの関係団体と連携して「ライフサポートセンター」を設置し、ワンストップで伴走型支援ができる体制もつくってきました。連合が前面に出ているわけではありませんが、扇の要の役割を果たしているのは地方連合会なんです。
連合のなんでも相談ダイヤルには、年間約2万件の相談が寄せられていますが、DVなどの問題が重なり合うケースも多い。連合の強みを活かして、もっと地域の社会課題の解決に役割を果たしていければと思っています。

村木:若草プロジェクトでも相談活動を始めたのですが、彼女たちは、真剣に話を聞いてくれる、地域の社会資源をよく知る窓口を求めています。連合が、その強みを活かして窓口を担ってくれたら心強いですね。

「ゆにふぁん」に期待すること

山根木:6月は「ゆにふぁん月間」。ゆにふぁんに期待することは?

芳野:コロナ禍で在宅勤務が奨励されましたが、長期化する中で疎外感や孤立感を感じる人が増え、リアルで顔を合わせるコミュニケーションの重要性が改めて認識されつつあります。これはある意味で、ゆにふぁんを通して人々がつながるチャンス。いろいろな仕掛けをして参加を広げていきたいと思います。

村木:「働くこと」につなげる新たな取り組みをどんどん紹介してほしいです。例えば「居住支援法人制度」は、住宅確保が困難な高齢者、子育て世帯、低所得者、障がい者、被災者などが入居可能な住宅を都道府県に登録し、居住支援法人が住宅を紹介して継続的な見守りを行う仕組み。「働くこと」につなぐ前提として重要な支援です。また「農福連携」も注目されます。日本の農業は、担い手が高齢化し後継者もいない。でも、そこで障がいのある人が働き始めたら、大きな化学変化が起きて農業自体が再生し始めた。障がいがある人も働けるように作業環境や作業方法を改善したら、人手が確保できて収穫量が増え収益が上がるという包摂的成長が起きているんです。
今までの支援は、広場を囲んで並ぶ窓口があって、相談に行くと「うちはそれはできない」とたらい回しになった。その形をやめて、それぞれの窓口の人が広場に出てきて、みんなで「うちはこれができるから、ここはあなたがやって」「ここは新しい仕組みをつくろう」という相談をして必要な支援を確実に届ける。私が思い描くその輪の中に、強力なパートナーとしているのが連合です。

芳野:ぜひ、その役割を果たしていきたいです。

山根木:これからも支え合っていければと思います。今日はありがとうございました。

村木厚子 (むらき・あつこ)
若草プロジェクト代表呼びかけ人
津田塾大学客員教授
1955年高知県生まれ。高知大学卒業。1978年労働省に入省し、女性政策や障がい者政策などを担当。2009年「郵便不正事件」で逮捕されるも、2010年に無罪が確定し復職。2013年厚生労働省事務次官に就任。2015年に退官し、困難を抱える若い女性や累犯障がい者の支援に取り組む。「共生社会を創る愛の基金」顧問、「首都圏若者サポートネットワーク」運営委員会顧問、伊藤忠商事社外取締役など。
著書に『あきらめない 働くあなたに贈る真実のメッセージ』(日経BP社)、『日本型組織の病を考える』(角川新書)、『働くことを通して考える共生社会』(大妻ブックレット)など。

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