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「困っている人を助けたい」が組合の原点。延長線上に社会貢献がある。

労働組合には組合員向けの活動に加えて、災害被災地のボランティアや生活困難を抱えた子ども・若者の支援など、社会貢献に取り組むという「別の顔」もある。連合は、全国の労働組合やNPOの社会貢献活動を紹介するサイト「ゆにふぁん」を通じて、各労働組合・団体の情報共有をサポートしている。ゆにふぁんの担当者である連合運動企画局の岡本直也部長に、労働組合が職場の枠組みを超え、社会全体の「支え合い」に取り組む理由を聞いた。

岡本 直也 連合運動企画局部長

東日本大震災からコロナ禍へ 多様化する社会貢献活動

「労働組合は元来、職場のメンバーが集まって、困りごとがある時にみんなで助け合うために作られた組織です。社会貢献活動は、助け合いの範囲を地域住民や困難を抱えた人々へと広げただけで、根本的な考え方は共通しています」

個別企業の組合の中には「地元の理解あっての職場」という思いから会社周辺の清掃活動に取り組んだり、経営側とともに住民を招いての夏祭り、正月の餅つきなどを開いたりする組織も見られる。

さらにナショナルセンターとしての連合や産業別労働組合は、地域の枠組みを超えて活動している。2011年の東日本大震災では、連合傘下の組合員約3万5千人が「救援ボランティア」として被災地に派遣された。岡本さんの出身組織である鉄鋼・造船などの組合が集まる基幹労連は、溶接など復興支援に必要なスキルを持つ人が多い上に、2007年からは「JBUパワーバンク」というボランティアの人材バンクを設けて研修なども実施してきた。このため「家屋の取り壊しなどの作業を効率よく進められると、現地でとても重宝されたそうです」。

連合は2016年の熊本地震、2018年の西日本豪雨災害、2019年の台風19号に伴う災害などでもボランティアを派遣。まとまった人数がチームで動くため、現場の指示が通りやすく活動もスムーズに進むと、多くの現場で歓迎されたという。

東日本大震災 連合ボランティア派遣団出発式の様子

一方、2015年には「持続可能な開発目標(SDGs)」が定められ、社会貢献の領域は環境保護や働き方、教育や貧困など、従来以上に広くなった。さらにコロナ禍では、生活に困窮するひとり親家庭や、アルバイトを失い生活に困る学生も急増した。

「時代の変化に伴い、組合の取り組みも災害支援や地域清掃だけでなく、海洋ごみの除去や食料品を寄付するフードドライブ、ひとり親家庭とその子どもたちや学生への支援など、多様化しています」

組合同士やNPOとの、横のつながりを作りたい

そんな中で連合は2019年10月、30周年記念事業として、労働組合やNPOなどの社会貢献活動を集約したプラットフォーム「ゆにふぁん」を立ち上げた。

ゆにふぁん設立を記念して「ゆにふぁんオープニングカフェ」を実施(2019年10月1日)

掲載内容は、フードパントリーへの物資提供の呼び掛けから、野良猫に去勢・避妊手術をするためのクラウドファンディング(クラファン)まで幅広い。国内だけでなく、ミャンマーの木工品生産者の支援やウクライナ救援カンパなど、海外の人々を支えるためのプロジェクトもある。

元厚生労働事務次官の村木厚子氏らが参画する「ユニバーサル志縁センター」は2019年、児童養護施設や里親家庭などで育った若者の自立を支援するため、ゆにふぁんとタイアップしてクラファンを実施した。その結果、目標の300万円の2倍を超える780万円が集まり、施設を出た若者のアフターケアを担う団体の運営費などを賄うことができた。

同センターの池本修悟専務理事は、ゆにふぁんの活動報告書で「全国の人に活動を知ってもらいたい」という思いから、連合との連携を選択したと述べている。その上で「連合のみなさんには、寄付や写真、メッセージなどいろいろな形で応援してもらい、支援がどんどん広がっていくのを実感しました」と振り返った。

2020年2月にクラウドファンディングを実施

ユニバーサル志縁センターが、クラファン実施に当たり注目したのが、その少し前に別の案件でクラファンを行っていた、連合の地方組織である連合山口の事例だ。ゆにふぁんへのアプローチの仕方や、連合内部にPRする方法といった情報を得られ、社会貢献を志す団体同士、離れていても学び合えるという「つながりの連鎖」を感じたという。このように各団体のつながりを生み出すことが、ゆにふあんの狙いの一つだ。

2019年10月にクラウドファンディングを実施

岡本さんは「ゆにふぁんが全国の労働組合やNPOの結節点となり、お互いにつながりあって気づきを得たり、協働したりする場になってほしい」と期待を口にする。活動の担い手は、ゆにふぁんに掲載された他組織の事例を参考に「フードバンクへの支援はこんな風に取り組めばいいのか」「次はあの団体がやっていたことにチャレンジしてみよう」と、取り組みに関するヒントを得られる。またコロナ禍では、各地の組合が組合員からマスクを集め、医療機関などに寄付する活動が広まったが、ゆにふぁんでマスク寄付の取り組みが可視化されたことも、横展開に一役買ったという。

参加のハードルを下げ、若者を活動に巻き込む

ゆにふぁんには、組合離れが叫ばれて久しい若年層に、組合の社会貢献活動を伝える役割もある。

「社会課題の解決に関心を持つ若い世代に、ゆにふぁんを通じてボランティアやクラファンなどに参加してもらい、それを入り口に組合にも関わってもらえれば」と岡本さん。ただ、今のところ、サイト閲覧者の多くは組合役員やNPOの関係者で、若者や一般組合員には十分に浸透していないことが課題となっている。

またNPOは、ゆにふぁんをボランティア募集などに活用しているが、組合は、組合員以外の人を活動に巻き込むことに消極的な傾向がある。このためサイトで支援物資やカンパは募っても、ボランティアに関しての事前告知や募集は少なく、活動後の報告記事に留まるケースがほとんどだ。

「組合費をもらっていない人のために活動することに、反発する人もいるでしょうし、素性の分からない部外者を参加させることへの警戒感もあるでしょう。ただ活動内容によっては、組合員への還元から少し視野を広げ、社外の人を巻き込んでもいいのでは」と、岡本さんは提案する。

「例えばその会社に関心を持つ学生が、組合主催の社会貢献活動に参加できるようにすれば、学生に職場の実態を伝えられるだけでなく、会社のイメージアップにもなります。学生が入社して組合に加入してくれれば、組合も恩恵を受けるのではないでしょうか」

ゆにふぁんの活用で「組合DX」も可能に

また岡本さんは、サイトを組合活動のデジタルトランスフォーメーション(DX)にも活用してほしいと願っている。

組合の多くは今も、ボランティア希望者が応募用紙に名前と所属、連絡先を書いて職場委員に渡し、組合役員が用紙を見ながら参加者リストを作成するなど、紙ベースで運営されている。現場作業員には個人PCが貸与されない企業が多いなど、アナログなやり方から脱却しづらい事情もある。

ただこうした職場でも「ボランティア募集のお知らせなどにQRコードを記載し、希望者が個人のスマホからサイトにアクセスして登録できるようにすれば、応募する側もリストを作る側も、だいぶ手間が省けます」。

紙媒体の情報は、印刷物にアクセスできない人に届きづらい点もデメリットだ。従来の地域活動なども、関心のある人すべてには情報が届かず、結局は職場委員が身近な人を勧誘して、頭数をそろえるケースがしばしば見られる。ネットで情報を拡散すれば、より多くの人に参加を促せる可能性がある。

未経験者がボランティアに飛び込むのは、勇気がいるかもしれない。しかし「思いきって始めてみたら、多くの人に出会えてとても楽しかった」と話す人も多い。

「労働組合の社会貢献活動もいろいろな部署、職種の人とコミュニケーションが取れる貴重な機会。組合員、非組合員を問わず参加のハードルを下げ、より多くの人が活動にアクセスできるツールとして、ゆにふぁんを育てたいと考えています」

(執筆:有馬知子)

ゆにふぁんのサイトはこちら

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