リーダーズボイス

連合リーダーの素顔に迫る! ~第2回 松浦 昭彦 連合会長代行・UAゼンセン会長~

シリーズ第2回は、松浦昭彦連合会長代行にインタビュー。繊維・衣料、医療・化粧品、化学・エネルギー、食品、流通、レジャー・サービス、外食など生活関連産業の労働者が結集するUAゼンセンの会長として、組織化や短時間労働者の処遇改善を進め、コロナ禍では雇用維持に全力を挙げてきたリーダーの素顔に迫る。

松浦 昭彦 連合会長代行・UAゼンセン会長
1984年帝人株式会社入社。 帝人労働組合執行委員(調査部長)を経て、UIゼンセン同盟化学部会副事務局長・事務局長、UIゼンセン同盟書記長を歴任。2012年11月 UAゼンセン書記長、 2016年よりUAゼンセン会長、2021年より連合会長代行。

労使交渉の極意は、相手の立場にたつこと 相手の立場を理解すると見えてくるものがある

肩まで髪を伸ばしてバンド活動

—趣味は音楽でサックスを演奏されていると…。

新聞の記事にそう書かれましたが、ちょっと違うんです。
子どもの頃から中学3年までピアノを習っていました。高校は京都の男子校でしたが、ちょうどバンドブームの全盛期。ギターの弾き手はいっぱいいるけど、キーボードがいない。私が「ピアノなら弾けるよ」と言ったら即採用でした。
大学は大阪でしたが、高校のバンドメンバーの1人から「また一緒にやろう」と誘われて、『ギターマガジン』でメンバーを募集してバンドを組みました。ベースに入った人がセミプロ級で、音楽について深く教えてもらいました。この頃は、髪を肩まで伸ばしていて、1度だけライブハウスで演奏したこともありました。

1984年に帝人に入社したら「軽音楽部」があったんです。1年上の先輩たちが4人でバンドを組んでいて、入部させてもらいました。ドラム担当はテレビのバンド勝ち抜き大会で最終ステージまで進み、キーボード担当はヤマハのポプコン関東大会の決勝で「アラジン※1」に敗れたという経歴の持ち主。主にジャズフュージョンの曲を演奏していて、その時に少しサックスも吹いたりしていたんです。

最近は楽器を演奏する機会もなかったんですが、コロナ禍でひとり休日を過ごす日々が続きました。それで、大阪からサックスを持ってきて、気晴らしにカラオケボックスで吹いていたんです。新聞のインタビューで「楽器を演奏するって気持ちいいもんですよ」と言ったら、その言葉が「快感に身を委ねている」と表現されて…。会社のバンド仲間に大笑いされました。

—好きなアーティストは?

「神様」と崇めているのは、アメリカの黒人ジャズ・ピアニスト、アート・テイタムです。ものすごい早弾きで、その超絶な技巧に圧倒されます。

10ヵ月間、ひたすら労働協約に目を通す

—帝人に入社されたのは?
軽音楽部があったからではありません(笑)。最終選考に残った2社のうち、帝人が1日早く内定を出してくれた。時の運だと思います。

—組合活動に携わるきっかけは?
営業部に配属され、職場委員を3年ほど経験し、入社7年目に賃金・労働条件交渉担当の本部専従にスカウトされました。帝人は、戦前からの歴史ある会社で、処遇制度には学歴主義的要素が強く残っていました。工場勤務から営業職になった先輩は、私より営業成績がいいのに大卒の私のほうが早く昇進する。組合専従になるなら、この問題を何とかしたいと引き受けました。

1991年1月付で本部専従になりましたが、大会は10月。「労働協約を読んでおけ」と言われて、10ヵ月間、ひたすら労働協約と労働政策資料に目を通しました。賃金・処遇制度は、労使交渉を通じてつくられてきたこと、時代の変化に合わせた見直しが必要であることが、よく分かりました。
執行委員に選出され、9年間、調査部長を務めました。いわゆる「賃金屋」です。労使交渉は、真剣勝負。組合員が納得できる結果でなければいけない。指標となる綿密なデータを作成し交渉に臨みました。学歴主義的な処遇制度の見直しも実現しました。

—労使交渉の極意とは?

基本的に相手に喋らせること。会社側から提案があったら、それを批判するのではなく、徹底的に質問を重ねていく。そうすると不十分な点を認めざるを得なくなる。その時に大切なのは、相手の立場にたつこと。相手の立場にたって、その立場を理解した時、初めて相手側もこちらの話を聞いてくれるんです。

—そして、ゼンセン同盟へ

2000年にゼンセン同盟化繊部会の事務局長から、部会の役員にと声がかかりました。当時、化繊部会は大阪にあったのですが、2002年にCSG連合(日本化学・サービス・一般労働組合連合)と統合してUIゼンセン同盟が結成された時に、部会も再編され、すべて東京に置かれることになりました。化繊部会は化学部会になり、私は、東京に単身赴任して部会の副事務局長、事務局長を務めました。労働組合の役員をやる以上、何か目的を持って臨みたいという思いがあり、その目的に全力で取り組みながらここまで来ました。

ITGLWF(国際繊維被服皮革労働組合同盟)世界大会(於 トルコ・イスタンブール)に出席(2004年10月)

ITGLWF(国際繊維被服皮革労働組合同盟)世界大会(於 トルコ・イスタンブール)に出席(2004年10月)

—産別に来て感じたことは?

UAゼンセンの活動は中小目線です。「大手組合は、金出して、人出して、口出すな」なんて言われていました。私は単組にいた時、そのことに少し割り切れない思いを持っていました。でも、産別に来て、自分の認識が間違っていたことが分かりました。同じ産業の中に、労働条件の低い中小・未組織の労働者がいれば、産別として労働組合をつくり、交渉をサポートし、その労働条件の向上に取り組まなければいけない。この活動は絶対に必要であり、大手の組合員のためでもあると納得しました。

ただ、私は長く単組の役員をやっていたのに、産別が何をやっているのかを知らなかった。私の認識不足ではあるけれど、産別として単組に活動の意義を伝える努力も足りていなかったと思ったんです。だから、書記長になってからは、単組への発信を強化し、現場で奮闘する役員には、徹底的にサポートするというメッセージを伝えてきました。

誠心誠意説明を尽くしても

—これまでの組合活動で印象に残っていることは?

単組では、様々なジェンダー不平等の制度がありました。女性だけ結婚退職時の退職金を増額する制度は、「優遇」ではなく女性が働くことを阻害する制度。人事部長が「現場の上長は、女性は若いほうがいいと言っている」というので、「その発言を機関紙に載せますよ」と返し、制度を廃止させました。
女性の組合員から「配偶者が学生なのに家族手当が支給されない」という相談があった時は、会社と交渉して世帯主条項を外しました。しばらくして、その女性が東京本社の執行委員に立候補してくれた時は嬉しかったですね。

つらかったこともあります。退職金は賃金改定を受けて係数の調整が必要になりますが、全員の退職金が上がるわけではなくて、一部下がる人も出てきます。それで工場勤務の組合員から「私の退職金がこの改定で下がったのは何かの間違いではないか」という手紙が来た。私は制度の説明をして「ご理解いただきたい」と返信しました。しかし、「なぜ組合が退職金を下げるのか」と納得してもらえなくて、5回、6回とやり取りを重ねました。それで「納得はしないけど、あなたが丁寧に応じてくれたから、これ以上文句を言うのはやめます」という返事が来たんですが、「最後に一言言わせてくれるか。戦争に行ったものをなめるなよ」と記されていた。昭和ヒトケタ生まれの方だったと思います。申し訳なくて、今でも思い出すと涙が出ます。

—音楽以外の趣味は?

関西人なので、お笑いは好きですね。集会で挨拶する時も、つい「笑い」を取りたいと…。私は「ツッコミ」ですが、UIゼンセン同盟の落合清四会長にはなかなかツッコむのが難しかった。6月の中執では、毎度、大まじめな顔をして「今年も我々の季節がやってきた。ゼンセン(前線)が活発化する時期がやってきた」なんて言うんです(笑)。99%まじめな話の中にこんな冗談が入るので、ツッコむ準備が間に合わないんですよね。

—誰にも負けないことは?

忍耐力、鈍感力でしょうか。私は、怒りの回路が繋がっていなくて、めったに怒らないんです。人生で怒ったことは数回しかありません。会社側にウソをつかれた時、労働条件委員会で他の部会が約束した議論をしてこなかった時だけです。

—ご自分を動物に例えると。

猫って自由でいいなって、あこがれます。暖かいところで昼寝して、塀をぴょんと乗り越えて行きたいところにいく。私も、血液型がB型で、マイペースで人のことはあまり気にしないから、やっぱり猫かな。

—読者へのメッセージを。

2023春季生活闘争では、連合が「賃上げ実現・くらし支援 あしたを変える連合緊急アクション」を全国で展開したことが、賃上げの流れにつながったと思います。
職場では理不尽なことが起きています。でも、労働組合があれば、労働組合をつくれば、その多くが解決できる。そういう労働組合の本質に関心をもち、理解・共感してもらえるよう、連合を通じてもっと発信していきたい。同時に、署名やSNSでの発信など、連合組合員の一人ひとりが参加できる活動をもっと広げていけたらと思っています。

※1 名古屋商科大学フォークソング研究会のメンバーを中心に結成され、1981年に「完全無欠のロックンローラー」でヒットを飛ばした。」1983年に解散。

RANKING

DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3

RECOMMEND

RELATED

PAGE TOP