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労働組合を知ろう

[シリーズ 労働組合の未来]
パネルディスカッション
労働組合の未来ー理解・共感・参加を広げるー

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RENGO ONLINEでは、連合総研・連合「労働組合の未来」研究会(座長:玄田有史東京大学教授)が今年5月に取りまとめた報告書の成果をもっと知りたいと、「シリーズ 労働組合の未来」を連載。その全体像に迫り、6人の研究者にインタビューを実施してきたが、今回はいよいよその締めくくり。 取材したのは、9月に開かれた連合「労働組合の未来」シンポジウム。新しい運動のヒントを共有して実践につなげようと、研究会の調査に協力した3つの労働組合を交えて行われたパネルディスカッションの議論をお伝えする。

★連合「労働組合の未来」シンポジウム

2024年9月13日、東京都内にてオンライン併用で開催。構成組織や地方連合会、関係団体、企業、研究機関、報道、学生、一般などから300名超が参加。 清水秀行連合事務局長の主催者代表挨拶、玄田有史東京大学教授の基調報告に続いて、玄田教授をコーディネーターに、梅崎修法政大学教授、門ノ沢彩乃イオンリテールワーカーズユニオン中央執行組織局長、山岸勇太全日本ハム労働組合中央執行委員長、景山誠連合島根事務局長をパネリストに迎えパネルディスカッションを行った。

批判されるより怖い「無関心と無力感」

玄田 本日のパネルディスカッションの目的は、「労働組合の未来」研究会の報告をこれからの連合運動や単組、地域の活動にどう活かしていけるのか、そのヒントを見つけることです。研究会の調査に協力いただいた労働組合の皆さん、梅崎修教授とともに、問題意識や実践を共有し学び合いたいと思います。
では、最初に梅崎教授から「コミュニケーション・デザイン」についての課題認識を。

梅崎 私は、3章「批判されるより怖いこと―『勤労者短観調査』の20年の比較―」と、13章「離れた職場に連帯(つながり)を生むコミュニケーション・デザイン」という2つの章を担当しました。

連合総研「勤労者短観調査」で、2003年の第6回調査と同じ質問を2022年の第44回調査に追加したところ、「職場に労働組合があるか」という問いも、「労働組合は必要か」という問いも、「わからない」が多数を占めた。20年前は労働組合に対する怒りや批判が示されましたが、その裏には「期待」があったと思います。しかし、現在の「わからない」は、「無関心」であり、批判しても変わらないという「無力感」。それが労働組合の「ヴォイスの力」を低下させていると考えました。 そして、労働組合のコミュニケーションに見直すべき点があるという課題認識を持ちました。

ユニオンリーダーの多くは、面倒見が良くて対面コミュニケーション力が高いタイプ。でも、労働組合運動は意外と活性化していない。対面コミュニケーション力が高いがゆえに常連だけが盛り上がる「スナック的コミュニケーション」に陥っている。 そんなことを考えている時、日本キャリアデザイン学会のシンポジウム(2019年)で、開かれたまちの拠点「喫茶ランドリー」を展開する田中元子さんから「自分が能動的になるのではなく、他人が思わずやってみようと思えるようにするとうまくいく」という話を聞いて、これは、労働組合にも大きなヒントになると考え、コミュニケーション・デザインを提案しました。今日は、その先進的な実践を共有し、学び合いたいと思います。

玄田 有史(げんだ ゆうじ)

[コーディネーター]
東京大学社会科学研究所教授、「労働組合の未来」研究会座長

島根県生まれ。学習院大学経済学部教授等を経て現職。経済学博士。専門は労働経済学。2005年より「希望学」という共同研究を進める。 著書に『仕事のなかの曖昧な不安』(サントリー学芸賞、日経・経済図書文化賞)、『ジョブ・クリエイション』(エコノミスト賞)、『働く過剰』、『人間に格はない』、『希望のつくり方』、『孤立無業 (SNEP)』、『雇用は契約』等、共著に『ニート』、編著に『危機対応の社会科学 (上・下)』、『希望学 (全4巻)』、『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』など。

梅崎 修(うめざき おさむ)

[パネリスト]
法政大学キャリアデザイン学部教授、「労働組合の未来」研究会委員

法政大学キャリアデザイン学部准教授などを経て、2015年から現職。 経済学博士。専門は労働経済学、労働史。連合総研・連合「労働組合の未来」 研究会委員。 著書に『日本のキャリア形成と労使関係: 調査の労働経済学』 (日本労務学会賞(学術賞)、労働関係図書優秀賞)、『日本的雇用システムをつくる 1945-1995: オーラルヒストリーによる接近』 (沖永賞) など。

個人にどれだけ寄り添えるのか

玄田 では、先進事例として取材させていただいたイオンリテールワーカーズユニオンの門ノ沢局長、お願いします。

門ノ沢 イオンリテールワーカーズユニオンは組合員数約10万人。その約8割が短時間・時間給社員で、圧倒的に女性が多いのが特徴です。 会社には「誰もが挑戦できる」組織風土があり、短時間社員の正社員登用制度は早い時期に導入しましたし、短時間社員のまま店長や部長に昇格できる「同一労働同一賃金」の新制度も整備しました。報告書では、「Fun Act Club(趣味サークル)」「ままぱぱ会」「フードアルチザン(食の匠)」を取り上げていただきましたが、今日は、私自身が運営に関わる「ままぱぱ会」を中心にお話しします。

私は、組合役員として「個人にどれだけ寄り添えるのか」を常に考えてきましたが、10万人を超える組織であり、マイノリティの課題を俎上にのせることは難しいとも感じていました。 そんな中、2021年3月から約1年間産休・育休を取得。休職中、孤独感を感じ不安も募りました。それで職場復帰時に「復職スタート座談会」を開催し、そこに参加した組合員有志でコミュニティ(LINEオープンチャット)を開設、「ままぱぱ会」として運営をスタートさせました。

「ままぱぱ会」での情報交換は、小さな問題の解決にもつながりました。
休職中は住民税の「特別徴収」の対象外ですが、会社が立替で支払い、後日、その分を社員が会社に振り込んでいました。でも、その取り扱いがゆうちょ銀行の窓口限定で、赤ちゃん連れで行くのは想像以上に大変。「ままぱぱ会」でその話をしたら、みんな大変だと思っていたけど、どこに言えばいいのか分からなかったと…。
そこで、ユニオンの政策局に伝えたら、労使ミーティングの検討課題になり、ネットバンキングで振り込みができるようになった。「30年変わらなかったことが、1ヵ月で解決できた!」「労働組合があって良かった!」と、オープンチャットは歓喜のメッセージで溢れました。

なぜ、30年変えられなかったのかといえば、育休中の組合員が声を上げる場がなかったから。「ままぱぱ会」ができたことで、その埋もれていた声を拾い上げることができた。情報交換のテーマは、料理や防災、近くの病院など多岐にわたりますが、そこからまた埋もれた問題を見つけていきたいと思っています。

門ノ沢 彩乃(かどのさわ あやの)

[パネリスト]
UAゼンセン イオンリテールワーカーズユニオン中央執行組織局長

2009年イオンリテール(株)入社、2013年労働組合専従者(北陸信越グループ副事務局長)、2015年本部中央執行委員(政策局担当)。中央執行グループ事務局長、中央執行グループ議長、専従職員 (組織・総務財務局担当) を経て、中央執行専門局長 (組織局)。2021年3月~2022年4月まで産休・育休を取得。
愛知県出身、家族は夫と娘3歳。趣味は、トップバリュの新商品を試すこと。
※イオンリテールワーカーズユニオンの取り組みは、報告書9章、13章に掲載。

従業員の声を聞きたくないんですか?

玄田 全日本ハム労働組合は、非正規雇用従業員の組織化やグループ内企業の組織拡大にエネルギッシュに取り組んできました。その経緯を山岸委員長からお願いします。

山岸 全日本ハム労働組合は、ビジョンとして「従業員の真の幸せ実現」と「企業の健全な発展」のために活動することを掲げています。

パートナー社員(勤務地・職務限定のフルタイム契約社員)の処遇改善・組織化に取り組むきっかけは、2002年にグループ内企業で起きた牛肉偽装事件でした。 当時、日本ハムユニオンは正社員だけの労働組合。企業の存続に関わる衝撃的な事件が起きたのに、現場の状況をまったく把握できていなかった。自分たちはグループを代表する組織になり得ているのかという反省とグループ内で問題が起きれば共倒れになるという危機感から、「現場の声を伝える力」の強化が必要だと考え、現場を支えるパートナー社員の組織化を決断しました。

ユニオンにおいて、正社員とパートナー社員は対等で組合費も同じ。組合役員登用も進めていて、パートナー社員の組合員比率約4割に対し役員比率は2割弱ですが、支部長や支部書記長も出ています。春季生活闘争における賃上げ要求額は、正社員よりパートナー社員のほうが高く、処遇改善が進んでいます。 現場で何が起きているのか、労働組合が把握しなければ、経営にものが言えない。労使の交渉に向けた意見集約では、現場の問題を語るパートナー社員出身役員の言葉からは、本当に熱が伝わってくるんです。

グループ内企業の非正規雇用労働者の組織化では、加入説明会のツール(Q&A集)を提供して、必要に応じて本部役員がサポートに入ります。また、フード連合でも、産業全体の発展のために開催される「組織化事例共有セミナー」で事例共有をしています。

山岸 勇太(やまぎし ゆうた)

[パネリスト]
フード連合 全日本ハム労働組合中央執行委員長

2002年日本ハム株式会社入社(食肉事業本部国内ポーク部配属)、2009年日本ハムユニオン本社支部中央執行委員、本社支部支部長を経て、2013年日本ハムユニオン 副中央執行委員長 (本部専従)、2020年同中央執行委員長(本部専従)、日本ハムグループユニオン会長、フード連合食肉部会部会長を兼任。
東京都出身、家族は妻と三男一女。趣味は、野球・ジョギング。
※全日本ハム労働組合の取り組みは、報告書9章に掲載。

学生とコミュニケーションできる貴重な場にも

玄田 続いて連合島根の景山事務局長、お願いします。

景山 島根県は、1970年代には80万人を超えていた人口が、現在は65万人を割る状況。人口減少・人口流出は深刻で、特に若い人は、進学や就職で島根を出ると地元に帰ってこない、地元に就職しても3年以内に離職する率が非常に高い。 そこで、連合島根結成30周年記念事業として、島根大学と共同で取り組んだのが「島根県における雇用創出及び県内企業の雇用・定着促進に関係する研究」です。

きっかけは、2015春季生活闘争で連合が呼びかけた「地域フォーラム」。経営者団体、行政、福祉団体、NPO、教育関係者など地域の人々と地域の課題について意見を交換し、そこで得られたネットワークや知見を活かして実現したのが共同研究です。

2021年度に島根県立大学と研究事業委託業務の契約(4年間)を締結し、島根県における雇用創出、県内企業の雇用・定着促進を研究テーマとする学生主体の研究会(ゼミ)を設立して、年間150万円の研究費(用途自由)を支援。
初年度は、企業と学生にアンケート調査を実施したのですが、企業が求める学生像と学生が求める就労感に大きな違いがあった。企業は、経営理念を重んじているのに、学生は企業の社会貢献を重視している。また、県内企業は自社PRができていないことや、ハローワークの利用率が10%台ということも分かりました。2年目は「起業」、3年目は「インバウンド」をテーマに研究を行い、最終年の今年は、「若者の定住・就職促進」に向けた最終提案をいただくことになっています。
また、年1回の研究発表フォーラムには、地方自治体、議員、労働局、マスコミのほか、構成組織の組合役員も、学生とコミュニケーションできる貴重な機会だと多数参加してくれるようになりました。島根県での就職を決めたゼミ生もいて、この取り組みには意味があったのだと思っています。

景山 誠(かげやま まこと) 

[パネリスト]連合島根事務局長

1985年松江松下電器株式会社(現・パナソニックインダストリー 株式会社)入社。単組の書記長、執行委員長を経て、2010年連合島根副事務局長、2019年連合島根事務局長に就任。
島根県生まれ。家族は、両親、妻、三男。孫は5人。趣味は、ゴルフ・釣り。
※連合島根の取り組みは、報告書16章に掲載

「労働組合の未来」は学び合いの中にある

玄田 研究会報告についてコメントをいただけますか。

山岸 経営側に労働組合との向き合い方を見直すよう働きかけるべきという提言に勇気をいただきました。組合の課題は会社の課題です。私は、経営者に「なぜ、労働組合をもっと使わないのか?」とよく言うんですが、労使の連携をもっと求めていきたいと思っています。

景山 私も「労使協調」に着目した提言に興味を持ちました。コロナ禍が始まった2020年春、雇用不安が高まる中、連合島根は島根県経営者協会とタッグを組んで、「雇用を守る」共同声明を発しましたが、研究会報告にはそういう実践を後押ししていただいたと感じます。

門ノ沢 「組合役員のなり手不足は社会全体の課題」という指摘が印象に残りました。 「フードアルチザン」も、労使で地域の方々と対等なパートナーシップのもとで、食文化の保護・保存のお手伝いを進めていますが、働くことだけでなく地域や暮らしに関わる労働組合は、より地域全体を盛り上げていく視点が重要だと改めて思いました。

梅崎 読書会で二村一夫先生の「日本労働史研究」を読んでいたら、「大河内一男先生(元東大総長)の労働組合への時論的提言は首尾一貫していない」と指摘されていた。つまり、ある組合には「もう少し経営の知識を持って経営側に意見できるように」と言い、別の組合には「企業のことだけではなく、産業や地域のことも考えなさい」と。実は、これは、相手を見ての発言や提案であり、相手の課題に合わせてメッセージを変えているんです。二村先生もその点を評価していました。 私も、論文とは別にメッセージ性を考えた場では、言っていることがコロコロ変わるんですが(笑)。要するに、両方大切なんです。だからこそ、連合、構成組織、単組、地方連合会の強みや弱点をどうつないでいくか、これからしっかり考えていきたいと思います。

玄田 最後に、労働組合の役員になって良かったことをお聞かせください。

景山 長く労働組合の役員を務めてきましたが、やはり自分の成長はそこにあったのだと思います。今、心配しているのは、「助けて!」と声を上げる人が少なくなっていること。私がやるべきことは、昨日と違う今日の自分を築いていける感性を磨いて、その隠れている声を見つけていくことだと感じています。

門ノ沢 組合専従者として「声に出す」ことは大切だと実感します。小さなことでも同じ思いの人がいると分かれば、うれしい。声を出せる、その場所こそ労働組合だということを、もっと発信していかなければと改めて感じました。

山岸 労働組合は、自分たちの働く場である会社を良くするために活動する組織であり、そのためにはおかしいことをおかしいと言える組織でなければならない。役員になって良かったのは、そのことに気づけたことです。
また、グループ全体の役員やフード連合の役員を務めることで、自分の視野の狭さを自覚できました。「従業員の真の幸せ」とは、みんなが幸せになる最適解を探すという意味。報告書からヒントをもらって取り組みたいと考えているのは、人材活用です。

玄田 私と景山事務局長の出身地である島根県は山陰と呼ばれていますが、陰と陽の両方があってはじめて、人は生きることに喜びを持てる。働くこともそうですね。陰と陽の両方に耳を傾ける優しさが労働組合の原点でしょう。未来は、学び合いの中にあります。研究会報告をきっかけに学び合う機会を広げてほしいと思います。
(執筆:落合けい)

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