特集記事

連合島根・島根県立大学共同研究発表会
どう活かす? 学生目線の地域活性化提案

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RENGO ONLINEで、連合島根・島根県立大学共同研究について紹介するのは、今回が3回目だ。初回は『あなたのまちの「連合」②連合島根』(2024.3.20)、2回目は『パネルディスカッション労働組合の未来ー理解・共感・参加を広げるー』(2024.11.20)。そこでも立ち上げの経緯などが紹介しているが、今年2月、共同研究の締めくくりとなる発表会が開催されると聞いて、一路島根へ。4年間の成果を改めて振り返り、広く共有できる学生目線のアイデアを一挙ご紹介する。

キーワードは「サバイバルゲーム」「サバイバル教育」「おてつたび」

「連合島根・島根県立大学共同研究」は、連合島根結成30周年事業の一環として発案された。春季生活闘争の「地域フォーラム」を通じて、島根県立大学の久保田典男地域政策学部教授(現・立命館大学経営学部教授)との接点が生まれ、構想が具体化した。
連合島根の成相善朗会長は「島根県は、高齢化・人口減少が進み、若い人は進学や就職で県外に出てしまう。どうしたら島根で働いてもらえるのか、定住してもらえるのか、働く者の立場からアプローチしたいという問題意識を共有してスタートした」と語る。

初年度は「雇用(採用、定着)」、2年目は「起業」、3年目は「インバウンド(観光振興)」に焦点を当てた研究が行われ、最終年となる2024年度は総まとめとなる「若者の定住・就職促進」にチャレンジ。今年2月12日、その成果発表会が開催された。
さて、学生目線でどんな雇用・定着促進の提案が出されたのか。最終年度の3つの班のキーワードは、「サバイバルゲーム」「サバイバルキャンプ」「おてつたび」。インパクトのある提案のポイントを紹介しよう。

久保田典男 立命館大学経営学部教授
(前・島根県立大学地域政策学部教授)
連合島根 成相善朗会長

[発表1]島根の夏を盛り上げる、スキー場で作る未来のカタチ

研究目的は「島根県に興味を持ってくれる人を増やすこと」。背景として着目したのは、旅行先として「島根に行ってみたいと思わない」理由に「島根に何があるのかよくわからない」(35.5%)、「島根に興味のある観光地がない」(27.4%)が挙げられていたこと(「しまねの観光認知度調査」2023年)。

そこで「琴引フォレストパークスキー場の夏場の活用を通じて島根に魅力を感じてくれる人を増やそう」と考え、白馬岩岳マウンテンリゾート(長野県)やアライスノーリゾート(新潟県)の先行事例を調査。さらに琴引フォレストパークにもヒアリングを行った上で考案したのが、サバイバルゲーム(サバゲー)イベントだ。サバゲーとは、エアガンなどを使用し、敵・味方に分かれて戦うゲームだが、ゼミ生は全員未経験だったことから、松江市の「宍道サバゲーPARKDANDAN」でソフトサバゲーの体験調査も実施。「プレイヤーは20〜30代が多く、県外来場者も多いため、周辺施設と観光客を繋ぐハブになっていた。ソフトサバゲーのBB弾は土に還る素材を使用し、当たっても痛くない。子ども向けに水鉄砲もあって、誰でも楽しめる」ことがわかったという。

こうした調査結果を踏まえ、①サバゲーを通じて交流が生まれ、リピーターが多いこと、②琴引フォレストパークの斜面はサバゲーフィールドに適していることから、サバゲーイベントを提案。周辺の観光施設と組み合わせた2泊3日ツアーも考案した。発信方法は、琴引フォレストパークのSNSの公式アカウントで告知を行い、それを見て来場した人に特典や割引券を提供する形で投稿を促す提案も盛り込んだ。

[発表2]サバイバル教育導入による雇用創出

研究目的は県内の雇用創出。島根県では、15歳〜24歳の若年層の就学・就労による転出が多い。この打開案として考案したのが「サバイバル教育」だ。サバイバル教育とは、困難な状況下で生き抜くことだが、そのための知識やスキルを身につけるという意味でも使われている。その先行的な取り組みとして「72時間サバイバル教育協会」の事例を調査。同協会では薪や水・食べ物の確保など災害時に生き抜く力を学ぶ多様なプログラムを提供するとともに、指導者の育成も行っている。同協会のプログラムを導入した千葉商科大学では、キャンパスのある市川市と連携して「サバイバルキャンプinいちかわ」を開催。学生や教職員を指導者として育成し、地域の小学生に防災教育を行っているが、小学生が積極的に参加し、その体験を家族に話すことで地域全体の防災意識が向上したという。

実際にゼミ生もナイフ講習を体験受講。「カッターナイフで木材からお箸を作る実技を学んだが、大人も子どもも安心して取り組める環境・設備が整備されていた」という。

しかし、島根県で講習を行うことが可能な指導者・主催者の資格保持者はわずか1人。雇用創出のきっかけとしてサバイバル教育を活用するには、まず指導者・後継者の育成が必要だと考え、先行事例も調査した上で、次の4つの取り組みを提案した。
①島根県で72時間サバイバルキャンプ講習を開催。開催後、参加者の傾向を調査し、ターゲット層や集客方法について検討し、次の開催につなげていく。
②県内観光地(海浜公園・三瓶山)でサバイバル教育を実施する「観光×サバイバルプラン」を作成する。
③島根県立大学にサバイバル教育を導入。サークルの立ち上げを行うことで継続的に活動し、サークル内で資格の取得をめざし、サバイバル教育人材を増やしていく。
④県内の小・中学校でサバイバル授業を行い、後継者人材の育成につなげる。

ゼミ生は「島根の自然環境を活かし島根の魅力を伝える方法としてサバイバル教育を活用し、県に就職・定住したいという若者を増やしていくきっかけとしたい。今後、必要な予算を算出し、段階的な取り組みも考案していきたい」と投げかけた。

[発表3]おてつたびによる雇用創生と関係人口

研究目的は、島根県の雇用人口増加のきっかけをつくること。同県の労働力人口は減少しており、とりわけ1次産業は27万人(1955年)から2万人(2020年)にまで減少。人手不足や経済規模の縮小が深刻化し、若者の人口流出防止やUIターン者の増加促進が急務となっている。現在、雇用対策計画を策定し、様々な支援を行っているが、その上で課題解決の足がかりとして提案されたのが「おてつたびを活用した地域の魅力発信と関係人口の増加」というアイデアだ。

「おてつたび」(2018年設立)は、「お手伝いをしながら、知らない地域を旅する」というコンセプトの就労マッチングサービス。登録ユーザーは約5万7000人、10〜20代が54%、30代が13%、40代が10%、50代が13%、60歳以上が10%。登録事業者数は約1500で、ホテル・旅館が40%、農業が30%、ゲストハウスが7%。参加希望者はアプリから応募し、マッチングが成功すれば、現地で一定期間働き賃金が得られ、宿泊費無料で空き時間に周辺を観光できることが魅力。知らない地域に行くきっかけができ、地域の人と関係性が生まれる。ゼミ生は「おてつたびを通じて地域に関わりがある関係人口を増やしていけば、移住、定住につながる可能性がある」という。調査では、県や市町村が連携して地域全体で登録を進めている事例があることもわかった。

島根県でも、果樹園やふるさと体験村(浜田市)などで活用が始まっているが、学生目線で最大の課題だと感じているのがSNSの発信不足だ。「これはかなり弱い。特に過疎化の進む地域ほど不得手な印象」とのこと。そこで、「メインの業務+SNS発信で参加者を募集し、SNS世代の力を借りる」という工夫も提案。確かに外部目線で島根の魅力を発信してもらえるメリットは大きいだろう。

4年間の共同研究を振り返って

発表会の第2部では、初年度から2年間指導教員を務めた久保田教授が4年間を振り返ってコメント。「初年度は雇用に関する企業と学生の間のギャップに着目し、大規模な調査を行った結果、両者に大きな認識の違いがあることがわかった。その解消が島根県内企業による若者の雇用促進につながると考え、学生目線で県内企業の魅力発信について提言した」。
その具体的な提案の1つである「長期有償型インターンシップ」に応募し、インターンシップ先である島根電工株式会社に昨年就職した卒業生の吉野雅玄さんは「社員の方たちと接する機会をいただいて、将来のイメージが明確になり入社を決めた」と語る。

2年目は雇用創出×起業をテーマに。久保田教授は「調査では約6割の学生が起業に関心があると回答したが、その理由はワークライフバランスや社会貢献。そこで、小中高での出前事業や起業家との交流会、行政機関・大学との連携による伴走型支援などを提案した」と振り返る。
卒業生の秦華乃さんは「共同研究を通じて、島根に誇りを持ち行動している方の存在を知り、私もそんなふうに働きたいと地元島根に就職した。ゼミで得た学びは現在の仕事にも活かされている」と語る。

卒業生の吉野雅玄さん
卒業生の秦華乃さん
立命館大学経営学部4回生の加藤羽琉さん

久保田教授は、2023年度に立命館大学に移ったが、そこで「産官学連携事業継承教育プログラム」を担当。「島根での共同研究で得た企業経営者とのネットワークが、現在の研究に活かされている」という。大阪府中小企業家同友会の寄付講座のほか、課外教育プログラム「事業継承塾」では、「中小企業課解決コンテスト」「自分史コンテスト」「社史コンテスト」を開催。
上記のプログラムを受講した加藤羽琉さん(立命館大学経営学部4回生)は、「教科書で学べない実践的な学びを得ることができた。春からは日本の素晴らしい中小企業・ベンチャー企業の魅力を海外に発信する仕事に就く予定だ」と力強く報告した。

連合島根の景山誠事務局長は「提案内容は毎年ブラッシュアップされ、県内に1人でも多くの若い人が就職・定住してほしいという目的に向けて前進した4年間だった」と総括。「新しい発想や気づきのある提案をこれからの連合運動に結びつけていきたい。今後の展開については、乞うご期待!」と締めくくった。

連合島根 景山誠事務局長
会場の様子

(執筆:落合けい)

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