エッセイ・イラスト

年を重ねるーライフサイクルと中年期ー 
こころにホットタイム【20】

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(月刊連合2022年1月号転載)

皆さま、こんにちは。年が明けました。
日本ではかつては数え年で、年が明けると皆、一斉に年を取っていました。現代は、誕生日を境に満年齢が上がりますので、自分の誕生日を忘れていると知らないうちに一歳上がっていた、ということになりかねませんね。誰でも皆、年を重ねていきます。

年をとるということについて、精神医学でも臨床心理学でも、「ライフサイクル」という概念を大事にします。人生には生まれた時から、成長し老いていく段階があるということです。乳幼児期・学童期・青年期・若い成人期・中年期・老年期といった段階です。この記事の読者は若い成人期から中年期の方が多いと思います。今回は中年期を取り上げます。

「中年の危機」という言葉を聞いたことがありますか? 中年期は大人で心理的に安定している時期と思われるかもしれませんが、実は難しい時期であることが知られています。年齢的には40歳頃から50歳代頃までを指すことが多いこの時期は、職場ではベテラン、家庭では親は老年期、子どもがいれば子どもは思春期、ということが多いでしょう。仕事で責任が増す中で、親の病気や認知症など心身の衰えや死に直面し、子どもの思春期の難しさにも向き合わなければいけない時期になります。

身体の方は、若い頃と違って不摂生が即、不健康につながるようになります。体力の衰えも自覚するでしょうし、生活習慣病といわれる糖尿病や脂質異常症(高コレステロール血症や高中性脂肪血症)を始めとして病気が身近になってきます。女性では閉経前後の10年間の更年期とも時期が一致し、ホルモンバランスの崩れから、のぼせ・多汗・動悸・めまいなど、多彩な自律神経症状が出現しやすくなります。これによって日常生活に支障を来すほどになるのが更年期障害です。忙しい中ですが、若い頃以上に休養をしっかりとって規則的な生活を意識したいものです。

そして心も揺らぎやすい時期です。中年男性の研究をしたレビンソンは、40〜45歳頃を「人生半ばの過渡期」と呼びました。人は何かを選択しながら人生を歩んでいきますが、中年期は人生の有限性が見えてくる中で、それまでの選択に対して「これで良かったのか」と疑問を持ちやすい時期です。選択しなかった人生のことが気になったり、焦ったりしがちです。これはもちろん男性に限りません。

仕事上の問題に加えて、親の衰え・子どもの問題、さらには自分のあり方への疑問など多くのストレスが重なると、心身に不調を来しやすくなります。しかし、中年期はもともと危機をはらんだ時期なのだと知っていると、落ち着いて対処することも可能です。その時期はずっとは続きません。もしも眠れない・食欲がないなど、体調が悪いなら、遠慮せず医療を受診しましょう。内科・婦人科・精神科・心療内科など、症状に応じた科を受診してください。じっくり自分の心と向き合う必要を感じたら、精神療法・心理療法(カウンセリング)もあります。ひとりで抱え込まず、人に話し相談をしながら、解決を探していきましょう。

矢吹弘子 やぶき・ひろこ
矢吹女性心身クリニック院長
東邦大学医学部卒業。東邦大学心療内科、東海大学精神科国内留学を経て、米国メニンガークリニック留学。総合病院医長を経て1999年心理療法室開設。2009年人間総合科学大学教授、2010年同大学院教授、2016年矢吹女性心身クリニック開設、2017年東邦大学心療内科客員講師。日本心身医学会専門医・同指導医、日本精神神経学会専門医、日本精神分析学会認定精神療法医、日本医師会認定産業医。
主な著書:『内的対象喪失-見えない悲しみをみつめて-』(新興医学出版社2019)、『心身症臨床のまなざし』(同2014)など。

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