盛れてない、リアルな日常を共有
年末といえば、新語・流行語大賞の季節。今年は、家庭内Z世代女子&男子(以下、Z女子&Z男子)から初めて聞いた言葉もノミネートされていた。
春の頃、Z男子が「ビーリアルって知ってる?」と聞いてきた。
以前、「エアビー行ってくる」と言われて、「エアロビ?」と思ったら民泊施設を利用した集まりのことだったのだが、今回もまったくわからない。
「何なの?」と聞くと、毎日1回ランダムな時間にチャリリンと通知が来て、2分以内に写真を撮って投稿すると友だちとシェアできる新しいSNS「BeReal」だという。アプリにインとアウトのカメラで同時撮影できる機能があって、シャッターを押すと今いる場所と自撮りの2枚の写真が投稿される。ポイントは写真の加工ができないこと。「盛れないところがいいんだよ」とZ男子。後で調べたら「リアルな日常の共有」が学生に人気だと書かれていた。
Z女子から聞いた不思議な言葉は、「あー、仕事終わらない…。風呂キャンセル界隈になろうかな…」。「何それ?」って尋ねると、「お風呂が面倒で入らなくなる人たちのことを言うんだよ」とのこと。「風呂キャンセル」だけでなく、いろいろな言葉を「界隈」につなげて使っているのだという。若い世代から学ぶことは本当に多い。
編集部に懐かしい先輩からのお手紙が!
さて、そんな他愛のないネタでつないできた当コラムも今回で20回。毎月配信できたのは、ひとえに担当編集の皆さんの励ましがあってのこと。感謝申し上げたい。
振り返れば、ひっそりと静かなスタートだったが、半年くらいして、「月刊連合」担当だったHさんにばったり会った時、「RENGO ONLINE読んでますよ。歴史シリーズも勉強になります」と声をかけていただいた。連載スタートの経緯は初回に書いたが、初めての「読者の言葉」は小躍りしたくなるほど嬉しかった。
この夏には、もう1つ嬉しい出来事があった。
「H・Hさんという方ご存知ですか? 編集部宛てにお手紙が届いてます」との連絡。H・Hさん! 忘れるはずもない。このコラムにも書いた大学時代の「婦人問題研究会」(以下、「婦問研」)の先輩である。自筆で書かれた封筒の文字を見ただけで、H・Hさんの切れ長の美しい目元や鈴をころがすような心地よい声が蘇る。
手紙にはこう書かれてあった。
RENGO ONLINEの「今どきネタ、時々昔話」 読みました。記事を見つけたのは最近のことです。 親の遺品整理で自宅を片付けしていたら自分が持っていた古い資料なども出てきて、そういえば落合さんは本の一冊でも出しているのでは、と思いネットで検索したら RENGOにヒットしました。 私は昨年仕事も辞めた昭和の隠居婆ですが、子や孫世代の労働環境が今後どうなっていくのかと思うと、今時の労働問題にも無関心ではいられません。
私たちが学生だった1980年代前半は「国際婦人の10年」に重なり、女性差別撤廃条約批准に向けた課題が山のようにあった。婦問研では、「人権」としての女性の権利について学びつつ、雇用平等法などの政策課題についても議論し、その内容をニュースレターやら文集やらにせっせと綴っていた。当時はワープロもパソコンも普及していなくて、方眼用紙に手書きで原稿を書き、輪転機を借りて印刷していたのだ。
H・Hさんは、「彼女なくして今の私はない」という人生の恩師だ。それなのに、携帯電話もメールもLINEもSNSもない時代、筆無精の私は、連絡できないまま40年余が経過してしまった。その断絶をRENGO ONLINEが埋めてくれた。本当に嬉しく、また私の氏名が学生時代と変わっていなくて良かったと思った。
女性の低賃金とケア労働への低評価がセットに
H・Hさんは北海道在住なので、まだ直接再会はできていないが、メールでコラムの感想を送ってくれる。「子持ち様」については、自身の経験を伝えてくれた。
私が出産した際に働いていた職場では、産休後は朝夕30分ずつの育児時間が取れて、残業なしで助かったのですが、第二子が1歳を迎えて育児時間がなくなった際に両立は困難となり退職しました。
子どもの病気で急に休んだり早退したり、職場には随分と迷惑(という言葉も疑問ですが)をかけました。一方で、子どもの就学まで育児時間があれば辞めずにすんだかも、と思いました。(中略)…退職を伝えた際の上長の「(やっと辞めてくれたと)ほっとして、心の中で万歳三唱をしているような笑顔」と「子どもさんにとっても良いことです」とかけてくれた言葉、一生忘れません。
フルタイムで育児もしていたのは4年間くらいですが、当時はアクセルを踏みっぱなしで走っているような毎日で、ドリンク剤のCMじゃないけど「24時間戦っているのはこっちだぜ」と心中つぶやいていたものです。(中略)夫は家事育児についてはかなり担っていましたが、二人で頑張っても限界がありました。
その後は、短時間(パートタイム)の契約社員として働いてきたという。
何度か職場は変わりましたが、年金保険料は支払い続け、第3号被保険者だったのは2か月くらいです。第3号被保険者制度は女性に「ケア労働を担い、低賃金の家計補助で働いてくれれば年金ももらえますよ」と囁きかけてくる。バカにされているようで抵抗がありました。「女性の低賃金とケア労働への低評価」がセットになって社会が回っていた時代を表すような3号制度、遠からず廃止に向かうでしょうが…。
クリアな思考は昔のままだ。H・Hさんが指摘するように、3号制度の本質的問題を棚上げしたまま「年収の壁」に対処しようとすると、社会保障制度全体がどんどん歪んでしまうような気がする。
「クミジョ応援係長」との面談で
さて、大トリは「クミジョ応援係長」の本田一成先生(武庫川女子大学教授)に登場していただこう。本田先生には、季刊RENGO・2023年夏号で「クミジョ!!労働組合の未来をつくる」をテーマに芳野会長と対談していただいた。「クミダンの『ケケケ行動』」など共感できるネタが満載でRENGO ONLINEでも公開されている。
その後、このコラムで、次のノーベル賞には本田先生の「主婦パートの研究」を推したいと書いた。「基幹労働化した主婦パートの不当な低賃金・低待遇」について鋭い問題提起をされてきたからだ。
そんなご縁があって、本田先生から「面談」のオファーをいただいた。クミジョ・クミダン問題の研究のためのヒアリング調査をされていて、私にもクミジョに関する印象的な出来事を聞きたいという。
ちなみに「クミジョ」とは、労働組合の役員や職員、関係団体、組織内議員などを含め広く労働界で頑張る女性のこと。本田先生は今年6月、労働界のジェンダー平等実現と組織変革のために産学連携の「クミジョ・クミダン パートナーシッププロジェクト®(K2P2)」を始動させ、その共同代表として東奔西走されているという。
これまでたくさんの方にインタビューをさせていただいたが、インタビューされるのは初体験。でも、本田先生は手練れのインタビュアーで、私は「昔話をこんなに熱心に聞いてもらえるなんて」と嬉しくなり、気づいたら弾丸のように喋っていた。
「どうしてクミジョは増えないんでしょう?」と聞かれて、10年くらい前に制作のお手伝いをした小冊子をお渡しした。『労働組合を強くするには女性が必要です』というタイトルで、カナダ労働組合会議(CLC)の女性活動家44人の証言を翻訳・編集したものだ。当時、連合副事務局長を退任された高島順子さん主宰のクミジョ有志勉強会で翻訳作業をしていて、そのリライトと冊子制作を頼まれたのだ。
証言を少しだけ紹介する。
問題から目を背ける:労働組合が連邦政府予算を分析した報告を読んだけど、まったく泣きたくなったわ。人目がなければ泣いていたかも…。だって女性の問題には一言もふれていなかったんだもの。
無難な言葉に言い換えてしまう:私たちは『均衡(equity)』という言葉を使えなくて、『公正(fairness)』を使っていたの。だから、男女の賃金格差の問題に本気で取り組めなかったんだと思うわ。
前書きには「彼女らが語っている内容は、日本の労働組合の中で活動に取り組んでいる女性たちにも共感できる部分がたくさんあるのではないでしょうか」とある。
130人を超えるクミジョにインタビューをしてきた本田先生は、冊子に目を通し「変わってないよね」とおっしゃった。クミジョが増えない要因は、たぶん今も労働組合の中にある。そこを変えるには今が最後のチャンス、ということで意見が一致した。せっかくのクミジョ・クミダン研究。RENGO ONLINEでその成果を紹介してもらえるような企画につなげられないか、考え中である。
さて、当日は記念撮影までしていただいた。H・Hさんのメールには「Mさん、おぼえてる?」とか「Tさんにも伝えたよ」と、懐かしい名前が登場するのだが、不思議なくらい学生時代の姿や笑顔が鮮やかに目に浮かぶ。本当は私も昔のままでいたかったのだが、本田先生に敬意を表して「40年後の、リアルの私」を掲載させていただいた。盛れてなくてごめんなさい。どうぞ良いお年を!
関連記事