シリーズ第15回は、サービス連合副会長であった2021年10月に連合副会長に就任した櫻田あすか副会長にインタビュー。食材偽装問題やコロナ禍への対応に奔走し、専従役員として初の育児休業を取得した経験も糧に、2023年7月、サービス連合会長に就任。産別トップとして「魅力ある産業」の実現を掲げ、組織拡大やジェンダー平等に精力的に取り組むリーダーの素顔に迫ります。
櫻田 あすか(さくらだ あすか) 連合副会長・サービス連合会長
1996年株式会社帝国ホテル入社。帝国ホテル労働組合東京支部執行委員、中央執行委員を経て、 2013 年よりサービス連合(サービス・ツーリズム産業労働組合連合会)派遣。中央執行委員(政策局次長/2016年育児休職取得)、副事務局長(労働条件局長)等を務め、2021年7月サービス副会長、同年10月連合副会長に就任。2023年7月、サービス連合会長に就任。
労働組合は、身近で頼れる存在
—労働運動を始めたきっかけは?
1996年、「総合職」として帝国ホテルに入社しました。帝国ホテル労働組合は、1946年の結成以来、職場活動がしっかり行われていて、身近で頼れる存在でした。
私自身は役員になろうなんて考えたこともありませんでしたが、フロントに異動になった時、配属された班のチーフが本部中央執行委員でした。夜勤の待機時間に、組合の取り組みについて話を聞き、全体的な活動が少し理解できるようになりました。
それからしばらくして、支部執行委員(非専従)にと声をかけられました。
当時、私は入社11年目でオーバー30。結婚したばかりで「子どももほしいと思っているので難しい」と丁重にお断りしました。そしたら「子どもは授かりものだから、その時に考えればいいんじゃない」と…。それが労働運動を始めたきっかけです。
—帝国ホテル労組で担当された仕事は?
最初は教宣部でビラの原稿作成を担当しました。団体交渉などの内容について録音を聞きながら文章を起こす作業です。組合員には即時性をもって情報を届けたいと思いながらも、非専従なので時間が取れず、夜勤明けに作業することも多かったですね。
でも、文章をまとめることは好きで苦になりませんでした。労働組合が何を重視して交渉に臨んでいるのか、組合員にわかりやすく伝えたいと勉強を重ね、手応えも感じるようになりました。
その後、調査部に移り賃金データの入力を担当しました。当時は、職場委員が組合員一人ひとりから給与明細書のコピーを手渡しで集め、入力していました。労力を要する作業でしたが、これが賃金要求の根拠になると思うとやりがいがありました。
2009年に本部執行委員になり、サービス連合の会議に参加する機会が増えました。「女性課題」担当ですが、他の加盟組合女性役員のみなさんが堂々と発言される姿をみて刺激を受けましたし、情報を共有できて視野が広がりました。
育休明けだからこそ柔軟に働ける専従に
—そしてサービス連合へ…。
2012年に第一子を出産。産休前に退任を申し出たのですが、「出産は退任の理由にしなくていい。職場に復帰したら役員にも復帰してほしい」と言われ、そのまま育児休業へ。1年後、保育園は決まったのですが、仕事と育児に加え組合活動を続けられるのかと不安になっていました。復職を控えて、委員長と面談したときに「サービス連合の専従役員にならないか」と…。
思いも寄らない提案でした。経験不足の上に育休明けの私に専従役員が務まるとは思えません。でも、委員長は「職場に復帰したら夜勤もある。育休明けだからこそ、柔軟な働き方が可能な専従役員をやってみてはどうか」と…。
産業を揺るがした2013年の食材偽装問題
—2013年7月にサービス連合へ。担当されたのは?
ホテルで宿泊予約やチェックインの端末操作はしていましたが、パソコンでの文書作成は未経験。肩書きは政策局次長でしたが、何もできず、短時間勤務の上に息子は毎週のように体調を崩してしまう。このまま続けていいのかと葛藤する日々でした。
でも、その年の秋、観光関連産業を揺るがす食材偽装問題が起きたんです。
ホテルのレストランなどが、メニューの表示とは異なる食材を使用していたことが相次いで発覚。サービス連合としても問題を重く受け止め、原因究明と再発防止に向けて加盟組合へのヒアリングを実施しました。私はその調査の報告書作成を担当し、それをもとに「食品表示対策チーム」による原因の検証が行われました。
この仕事が少し評価されたことが励みになり、ここで頑張ろうと思えました。それから10年、サービス連合では問題を風化させないために、「ホテルの日」1がある11月を「メニュー表示適正強化月間」と定め点検活動を継続しています。
コロナ禍で貴重な人材が流出
—その後、副事務局長に…。
2016年に第二子を出産。退任を考えたのですが、内規を改定して育児休業を取得できるようにしていただき、現在に至ります。
育休が明けた2017年に副事務局長に就任し、仕事と子育てのリズムもとれてきたと思った矢先の2020年3月、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起きました。
当初、職場はどこも東京オリンピック・パラリンピックの準備に追われていて、行動制限は短期間で収束すると楽観していました。ところが、感染拡大は止まらず、オリ・パラは延期になり、様々なイベントも中止に。人流を止めることが感染防止対策だとされ、ホテル・旅館・ レジャー施設・旅行・国際航空貨物・人材派遣(添乗員)という観光関連産業は為す術がなかった。産業全体が静まり返った空気に包まれました。
サービス連合は、組合員を守り産業を持続させるために政策要請に奔走しました。感染防止対策を徹底した上で社会経済をまわす環境を整えてほしい、エビデンスに基づいた情報発信をしてほしいと訴え、雇用調整助成金の延長も重ねて要望しました。「延命」への厳しい声もありましたが、組合員を守るには必要なことでした。
職場では、通常の仕事ができないことへの悲しさや苦しさが広がり、賃金も抑制され、将来に不安を感じて辞めていく組合員が後を絶ちませんでした。コロナ禍前に4万8000人いた組合員は、2023年調査では3万9000人にまで減少していました。
組合員のために、この産業のために
—そして昨年7月、サービス連合会長に就任されました。
専従役員になって10年。後藤前会長から「組合員のために、この産業のために、という思いを常に忘れなければ大丈夫」と言われ、バトンを受け取りました。
責任の重さを実感する日々ですが、まわりは頼りなさも感じるんでしょう。自分たちがしっかりしなければと以前にも増して頑張ってくれています(笑)。
私が会長に就任するタイミングで女性役員は3人に増え、女性役員比率は27.3%に。この流れを継続することが使命だと考え、発信に力を入れています。
機関紙の『サービス連合』を毎月定期発行とし、「ジェンダー平等推進NEWS」を連載。育休復職前後の女性組合員の集まりやイクメン座談会など、現場での様々な取り組みを共有しています。また、組織支援局を設置して、担当者が単組の活動全般を支援する取り組みや対話活動もスタートさせました。
観光関連産業は、24時間365日稼働のシフト制。土日や夜間の保育サービスは限られるので、保育時間の拡充を求める声もあるのですが、そこには必ず働く人が必要になる。短時間勤務やシフト調整などマネジメントの工夫でいかに対応するか、知恵を集めていきたいと思っています。
—連合副会長としての思いは?
2021年10月、連合初の女性会長として芳野友子会長が選出され、私はその後任で連合副会長(女性枠)になりました。構成組織のトップとして三役に就いた方たちとは経験値の差を感じる場面もありましたが、女性枠は1人から最大4人に増員され、構成組織のトップを務める女性も出てきました。芳野会長の「連合運動のすべてにジェンダー平等を」という呼びかけのインパクトは本当に大きかった。三役会の景色もこれから大きく変わっていくと期待しています。
言葉で世界を変えるスピーチライターに感動
—趣味や休日の過ごし方は?
気分転換は「料理」です。夫はレバーペーストを絶賛し、最期に食べるなら「春雨と挽肉の炒め物」がいいと。息子たちには豚汁やシュウマイをリクエストされます。「美味しい?」って聞くと「おなか空いてるから美味しいよ!」って(笑)。
休日は、子どもの部活動や習い事のサポートで忙しくしていますが、慌ただしい毎日だからこそ自分を見つめ直す時間も必要。家族が起きてくる前に「瞑想」して心を落ち着かせたりしています。
—好きな映画や本は?
スタジオジブリの映画です。特に『風の谷のナウシカ』(1984年公開)は、勇気がほしい時に繰り返し観ています。
本は、原田マハさんの『本日は、お日柄もよく』(徳間書店)。OLの女性がスピーチライターと出会い、自分もその世界へ飛び込んでいく物語ですが、言葉の持つ力に心打たれます。ドラマ化(WOWOW)もされていてオススメです。
—尊敬している人は?
亡くなった父も労働組合の役員をしていました。子どもの頃は、いつも帰りが遅くて、たまに早く帰ってきたかと思うと組合の仲間を連れてくる。でも、働く人たちに対しても、家族に対しても、本当に愛に溢れた人でした。人の役に立ちたいという人生をまっとうした父を尊敬しています。
もう1人は学生時代にアルバイトで出会った方で、私に人生を楽しむことの大切さを教えてくれました。誰とでも打ち解け、その人の特性を見出し、それを活かす方法を考えることができる人でした。私も勧められて「料理サークル」を立ち上げましたが、その経験が今につながっています。
神様は越えられない壁は与えない
—座右の銘は?
自分の能力以上のことにチャレンジするたびに「神様は越えられない壁は与えない」と言い聞かせてきました。同時に「足るを知る」という言葉も大事にしています。身の丈に合った現状に満足し感謝できる人間でありたいと…。
—誰にも負けないことは?
寝つきの良さです。子どもの頃は眠れなくてよく100まで数えていたのに不思議です。
—ご自分を動物に例えると?
猫かな。表情がくるくる変わるところや、心を許した人にぴったり懐いてしまうところがちょっと似ています。
—身近に感じる話題は?
「子どもの貧困」です。なぜ日本でここまで貧困率が高くなっているのか、子どもを持つ親として真剣に考えなければと思っています。また、世界に目を向けると連日報道される紛争にも心を痛めています。犠牲になるのは、いつも弱い立場にある人たち。平和的解決を強く訴えたいです。
—読者へのメッセージを。
今、女性活躍やダイバーシティは重要な経営課題になっていますが、労働組合はその後を追いかけている感があります。時代の先を行くには女性役員をもっと増やすことが必要ですが、そのための環境整備は、実は難しいことではありません。緊急事態を除いて、通常の会議や活動に「終わりの時間」を設定する。それだけで育児や介護を担う人たちも参画できる。また女性組合員からは、仕事と家庭と組合活動の3つは無理という声をたくさん聞いてきましたが、ならば「専従役員」という選択もぜひ考えてみてほしいと思います。
※関連記事
◆サービス連合初の社会貢献活動 実現までの道のりとこれからの展望
◆「辞める気マックス」だった若手社員が、組合で見つけた「楽しみ」「出会い」とは?
- ホテルの日:11月20日。1890年に帝国ホテルが開業したことを記念して制定。 ↩︎